イナリの奇妙な冒険   作:狐っ娘の幽波紋使い

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エルメェス・コステロ

 ジョンガリ・Aを倒した妾たちだったが、もう一体の幽波紋(スタンド)と戦っているはずの承太郎の姿が見えない。

 

 幸い匂いは追えるし気配も感じるので、そう離れてはいないはずだ。

 

 すぐに彼の援護に向かうが、承太郎は壁を背にして倒れ伏していた。

 直前にディスクのようなモノを、抜き取られているのを目撃する。

 

 その場から逃走したので、詳しくはわからない。

 アレは敵幽波紋(スタンド)で間違いはないだろう。

 

「承太郎! 何があったのじゃ!」

「親父! くそっ! 海岸はもうそこなのに!」

 

 幽波紋(スタンド)使いの中でも上位である星の白金(スタープラチナ)が負けたのだ。

 とても信じられず、徐倫と一緒に驚きの声をあげる。

 

 しかし、別に無敵というわけではない。

 

(妾の直感が外れた? ……違う!

 嫌な予感はしておったが、承太郎なら大丈夫だと楽観視した結果じゃ!)

 

 真っ向勝負なら承太郎が勝つ。

 それでも一瞬の隙を突かれたり不意打ちを受ければ負ければ、負けるのもあり得るのだ。

 

 それなのに妾は戦いの直感に従うよりも、友人を信頼して任せてしまった。

 

(妾としたことが、平和ボケしたものじゃ!)

 

 前世と違って、この世界では戦いに身を置くことはあっても、平和でのんびりした時間もある。

 宇宙からの侵略者に人類が絶滅させるなどという、苛烈な戦いでもない。

 

 幽波紋(スタンド)使いとやり合うのは主で、世界の危機ではあっても脅威度が低いのだ。

 

 そして仲間も頼りになり、妾がいちいち前に出なくてもいい。

 だからこそ楽観視して、このような有り様になってしまったと言える。

 

(とにかく急いで調べねば)

 

 妾は急ぎ、彼の容態を確認する。

 外傷はなくても承太郎は呼吸をしておらず、心臓も止まっていた。

 敵の幽波紋(スタンド)能力にやられたと考えて、間違いなさそうだ。

 

 しかし今はそれ以上調べたり、犯人を追跡する時間はない。

 大勢の看守が、こちらに迫ってきていたのだ。

 

 

 

 一先ず承太郎を嵐の狐(ストーム・フォックス)で持ち上げて、急いで海岸を目指す。

 その途中で徐倫が色々聞いてきたので、妾は隠すことなく答えていく。

 

「イナリ! 親父は助かるのよね!」

「絶対の保証はない! それでも助ける!

 承太郎は肉体はほぼ無傷で、魂が抜けてしまっておる!

 ゆえに、それさえ戻せば復活するはずじゃ!」

 

 これも経験則である。

 敵の幽波紋(スタンド)使いを倒せば、魂が解放されて復活するのだ。

 

 しかしそのためには、肉体が残っていないと駄目だ。

 承太郎はスピードワゴン財団に預けて、壊れないように保存してもらう必要があった。

 

「奪ったディスク的なモノを取り戻しても、承太郎は復活するはずじゃ!

 じゃが完全に蘇るには、一枚ではなく二枚必要じゃろう!」

 

 妾も離れた位置からなので、はっきりとは見えなかった。

 それでも確かに、二枚のディスクを抜き取っていた。

 あれが承太郎の魂に深く関わっているなら、取り戻せば復活できるはずだ。

 

 とにかく話している間に海岸に到着した。

 次に浮上してきた潜水艦に、承太郎を手早く乗せる。

 

 その際に深仙脈疾走(ディーパスオーバードライブ)で生命エネルギーを流し込んだが、心臓は動いていない。

 

 生命エネルギーが漏れ出るのは確定だが、少しでも朽ちる速度を落とさないと駄目だ。

 たとえ長くは保たなくても、やらないよりはマシだろう。

 

 潜水艦は自動操縦なので、スピードワゴン財団との合流地点に向かうだろう。

 その点については、何の心配もない。

 

 あまり時間がないが、近くの岩を風で切り裂いて石板にする。

 伝言を書き込んでいると、徐倫がその場で留まっていることに疑問を抱く。

 

「乗らぬのか?」

 

 承太郎は徐倫を連れて、刑務所から脱出するのが目的だった。

 なので妾は、このまま彼女が潜水艦に乗り込むと思っていた。

 

「乗らないわ! だって、犯人が中に逃げたのよ! 外へではなく中に!

 犯人は牢獄の中にわざわざ戻っていった! 犯人は外にではない!

 刑務所の中に居る、誰かということよ! ……だから! 戻るわ!」

 

 妾はそんな徐倫を見て、やはりジョースター家の血筋だと本能で理解した。

 

 普通なら絶望に飲み込まれて逃げ出すのに、邪悪を倒すために自ら刑務所に戻ろうとしている。

 彼女は間違いなく、黄金の精神を持っていた。

 

「わかった。妾も付き合おう」

「ありがとう。イナリ」

「礼は不要じゃ。一人でもやるつもりじゃったからな」

 

 石板に書き終わったので潜水艦の中に入れる。

 そして自動操縦機能で海の底に潜っていくのを見届けた。

 

 承太郎はこれで大丈夫のはずだ。

 しかし、あまり時間はない。

 なるべく早く、彼のディスクを手に入れて戻すべきだろう。

 

「では、戻るとするか」

「ええ、行きましょうか」

 

 これから徹底的にボディチェックされるだろう。

 ずっと一緒に居るのは不味いと考えた妾は、徐倫の服のポケットから飛び降りる。

 

 しばらく離れ、頃合いを見計らって合流することを告げた。

 そして先程の幽波紋(スタンド)使いを探すために、別ルートから刑務所に再度侵入するのだった。

 

 

 

 

 

 

 徐倫は脱獄の罪が加わり、懲罰房入りになる。

 それはそれとして、妾は幽波紋(スタンド)に目覚めた可能性があるエルメェス・コステロに会いに行く。

 

 今は医療監房で寝込んでいるようだが、間違いなく矢で傷ついたせいだ。

 

 幸いなのはそのまま死に至らなかったことだけど、幽波紋(スタンド)を使えるのが必ずしも良いことではないのが困りものである。

 

 そして隠れて様子を窺っていると、シールを張った物を増やす能力を手に入れていた。

 

 さらに金を盗んだ看守を幽波紋(スタンド)能力を使い、撃退して気絶させる。

 

「テメー! 取った金返してもらうぞ! ゴラァ!」

 

 エルメェスが、牢屋の中から倒れた看守に掴みかかる。

 するとどういう理屈か、彼の頭部からディスクが二枚出てきた。

 

「こっ、コレ……はっ!?」

「それは魂のディスクじゃな。

 精神エネルギーの塊とも言うが、詳しいことは良くわからん」

 

 こっそり見ていた妾は、嵐の狐(ストーム・フォックス)を呼び出して狐っ娘に変身した。

 続けて、エルメェスに話しかける。

 

「こっ、子供だと! いっいや! 何処かで見たことがあるぞ!」

 

 彼女は思いっきり驚いているが、アメリカでは日本国内ほど有名ではないようだ。

 

「妾はイナリじゃ。よろしく頼むぞ。エルメェス・コステロよ」

 

 そう言って微笑みながら挨拶し、倒れている看守からディスクを二枚いただく。

 

「いっ、イナリだと!? 確かに日本の神! いや、現人神だったっけか!

 とにかく! そんな大物が刑務所に居るのは、おかしいだろうがよお!」

 

 もっともな意見ではあるが、これには理由があるのだ。

 

「妾も別に、刑務所にいたくておるわけではないわ。

 用が済んだら、すぐに出ていくつもりじゃ」

 

 しかし外国では妾のことを、現人神だと思っているようだ。

 確かに長生きしているし、不思議な力も使える狐っ娘である。

 そう思われても、おかしくはない。

 

 けれど日本国内では、神社の神主程度の扱いだ。

 政府が意図的に対応を変えていると考えられる。

 

(気軽に外を歩けんようでは、嫌気が差して日本から出ていくと思うておるのじゃろう)

 

 その考えは、あながち間違ってもいない。

 少なくとも気楽に外出できないのは、妾にとってストレスであまりよろしくなかった。

 

 今では国民全員が知ってると言っても過言ではない日本では、程々に緩い雰囲気のほうがありがたい。

 

 それはそれとして、今はエルメェスのほうだ。

 

「じゃあ! そのディスクは何なんだよ! 何で看守から出てきたんだ!」

「妾にもわからぬ。じゃから、それを今から調べてみるのじゃ」

 

 そう言って妾は、二枚のディスクを自分の頭部に入れてみる。

 まるで実体験のように、目の前の看守の記憶が再生されていく。

 

 さらに幽波紋(スタンド)能力についてもわかり、大きく溜息を吐いて頭をかいた。

 

「これは、思ったよりも……何と言ったものか」

 

 面倒なので適当に超速で流し見ていると、やがて再生が終わったようだ。

 もう不要だと判断すると、二枚とも勝手に取り出された。

 

 手に持ったらやけにグニャグニャしていて、生理的にあまり所持していたくはないディスクを、じっと観察する。

 

「なっ、何だったんだよ! そいつは!」

「一枚は記憶、もう一枚は幽波紋(スタンド)を封じたディスクじゃ」

「きっ、記憶? それに幽波紋(スタンド)だって!?」

 

 エルメェス・コステロは困惑しているので、妾は看守に記憶をフリスピーのように彼女に投げた。

 

 すると思いっきり驚きつつ、寸分違わずに頭部に当たるというより、吸い込まれていく。

 

「詳しいことは、そのディスクを再生すればわかる」

「なっ!? こっこの記憶は!?」

 

 やがて適当なところまで再生したディスクを引き抜いて、妾はそれを看守に戻した。

 ちなみに幽波紋(スタンド)は危険極まりないため、自分が預かっておく。

 

「続きは徐倫に会ってから話そう。

 ここは刑務所ゆえ、あまり長々と話すのは難しいからのう」

「おっ、おいっ! ちょっと待って──」

 

 妾は看守が目覚める前に変身を解除し、子狐に戻る。

 

 先程まで心臓が止まっていたのに、今は脈も正常なようだ。

 これなら承太郎もディスクを戻せば復活できると、確信が得られたのは大きい。

 

 とにかく人間のように手を振って、エルメェス・コステロに別れの挨拶をする。

 足取り軽く、のんびり立ち去っていく。

 

 引き留めようとする彼女の前から、もう一枚のディスクを咥えて音も立てずに姿を消すのだった。




黒幕さん「はぁはぁ、承太郎のディスクを奪うぐらい! よっ……余裕っすよ!」(瀕死)
運命力さんってすげー!
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