イナリの奇妙な冒険 作:狐っ娘の幽波紋使い
仙道の修行を始めてしばらく経ち、スピードワゴンがディオの目撃情報を伝えに来てくれた。
当然のように現地に急行するが、徒歩では遠いので馬車での移動だ。
道中に色々と詳しい話を聞かせてもらう。
現地では最近、行方不明が増えているらしい。
どう考えてもヤバいことが起きているようにしか思えず、修行はまだ途中なのに実戦とは過酷である。
まあ前世ではずっとそんな感じだったし妾は慣れているが、ジョジョは大変そうだなと思いつつ、座席で丸くなってウトウトしていた。
相変わらずマイペースな子狐だが、焦ってもどうにもならないし、これでいいのだ。
やがて馬車はウインドナイツロットの入り口である、薄暗いトンネルに入っていく。
このまま順調に現地に到着するかなと思いきや、妾は何者かの気配を感じ取って飛び起きる。
そして非常事態なので窓を蹴破り、強引に外に飛び出した。
「イナリ!?」
ジョジョは突飛な行動を取る子狐に慣れてはいる。
しかしあまりにも急だったので、何が起きたかは把握できていない。
スピードワゴンとツェペリ男爵は言わずもがなだ。
さらに馬車の運転をしている御者が混乱して悲鳴をあげるが、お構いなしである。
外に出た妾は波紋の呼吸法を整えて、暗闇から次々に飛んでくる刃物を的確に弾いていく。
馬や人を傷つけない方向に飛ばすにはコツがいるので、これが結構大変だ。
だがあまりにも常識外れな光景を見た御者は、驚きすぎて条件反射で馬を止める。
すると乗っていた三人も確認のために扉を開けて、慌てた様子で外に出てくる。
「一体、何があったんだ!」
先に降りてきたスピードワゴンに、ジョジョが警告を発する。
「気をつけろ! ここは太陽が届いていない!」
続いて彼らは飛んできた剣を弾き飛ばし終わって一段落し、馬車の屋根にちょこんと座って毛づくろいしている妾から、話を聞くために視線を向ける。
次に進行方向に異様な気配を感じ取ったのか、暗闇の中で身を潜めていた筋骨隆々の角刈り男を見て驚く。
やはり人間を越えた身体能力を持っているだけはあり、一般人では剣を弾き飛ばそうとしてもパワー負けするため、上手く波紋で工夫する必要がある。
何より体の中に武器を仕込んでいるのか、まだまだ余裕そうな表情でこちらを見ていた。
「ディオは既に! このような仲間を増やしている!」
「二人共下がっていなさい。私が戦う。……イナリも」
「コン!」
取りあえずは、師匠のお手並み拝見である。
妾は怯える馬と御者を守るために、馬車の屋根にちょこんと座ったままで様子を伺う。
その際に狂気性を見せるゾンビを相手を前に、ツェペリ男爵が弟子に様々なアドバイスをする。
今回の戦いでジョナサンを鍛えるつもりのようだ。
しかし次の敵の行動は、力任せに馬車をぶん投げてトンネルを崩すという、とんでもないものだった。
手を出すなと言われているが、御者や馬を見殺しにはできない。
妾は近くに刺さっていた剣を小さな口で咥えて引っこ抜き、波紋を流して大男にぶん投げた。
「ぐおおおおーッ!!?」
とっさに左腕でガードしたが、大男からはシュウシュウと白い煙が出ている。
苦痛で悲鳴をあげていることから、戦闘能力を奪うことはできたようだ。
そして生まれた隙を見逃さずに、ジョナサンは大声で叫ぶ。
「今のうちに逃げてください! できるだけ遠くに!
早く! 僕たちのことは心配しないでください!」
「えっ!? はっ! はい! 貴方がたも、どうかご無事で!」
まだ震えていたが、辛うじて正気に戻ったようだ。
御者は恐怖には勝てずに慌てた様子で馬を操る。
そして妾たちを置いて、一目散にこの場から離脱したのだった。
これで足を手に入れないと、帰りは徒歩になってしまう。
しかし、無駄に犠牲者が増えるよりは良い。
取りあえず少しごたつき、痛みに呻いていた角刈り男は戦闘を続行する気のようだ。
ツェペリ男爵から名言っぽいものが飛び出して、波紋で圧倒している。
しかし形勢不利を悟って逃げ出してしまい、それをジョジョだけに追わせ、倒してくるようにと命じた。
妾が付いて行くと修行にならないらしく、実際その通りなので納得してしまう。
まあ少し不安だが、不意さえ突かれなければ何とかなるだろう。
それに先程の敵が、この先に立ち塞がる相手よりも弱い保証はない。
物差しとして使わせてもらうのは、少々酷だが賛成だ。
何より妾は、ジョジョがあの程度の輩に負けるとは思っていない。
無事に戻って来ると確信しており、適当なところで丸くなって大きくアクビをして、一眠りさせてもらうのだった。
結論から言えば、ジョジョは無事に戻ってきた。
ツェペリ男爵の教えを学び、一回り大きく成長したようだ。
妾は大きく伸びをしてよっこらしょと起き、三人と一匹で暗闇のトンネルを抜けてウインドナイツロットを目指すのだった。
トンネルを抜けると雪国ということはなく、刑務所がある小さな漁村であった。
今はディオが根城にしているのだが、周囲に広がっている麦畑を見ると皆普通に働いている。
しかしその途中で、子供に鞄をひったくられてしまう。
全財産が入っているので逃がすわけにはいかず、波紋で川の上を走って追いかける。
妾は向こう岸まで跳躍すれば良いので、泳いだり走ったりは必要ない。
他の三人も崖を登っている子供に追いつくと、波紋を流して落っことすことになる。
ジョジョがキャッチしたのは良かったのだが、何処か様子がおかしい。
妾たちの鞄を盗んだのに、まるで今始めて会ったような反応なのだ。
つまりこれらは全て、敵の罠ということである。
いつの間にか墓場に誘い込まれ、日が落ちて空には暗闇が広がっていく。
ここでディオが崖の上に立ちって、妾たちを見下ろしていることに気づく。
「日は落ちた! 貴様らの命も没するときだ!」
「ディオ!」
全身の傷が、殆ど治っている。
恐らく他の人間から、精気を吸い取ったのだろう。
どうやらジョジョだけでなく、妾もディオの絶対殺すリストに入っているらしい。
自分は殺られるつもりはないし、ここで倒せば関係ないのでどうでもいい。
しかし守りながら戦うとなると面倒で、周囲の地面が盛り上がってゾンビがわんさか沸いてきた。
「はっ、這い上がってきた!?」
ジョジョが担いでいる子供が、恐怖に震えて大声を出す。
そして川岸で震えているスピードワゴンも、やはり怖いようだ。
「おっ、俺は! この瞬間に対する! 心の準備はしてきた!
だがやはり! ドス黒い気分になるぜ!」
仙道を修得していない一般人なので無理もなく、ガタガタと震えながら叫び声をあげる。
「汗が吹き出す! あの野郎が、あんなにいい気になって!
ピンピンと生きてることによぉ!」
確かに崖の上に立っているディオは、明らかに調子に乗ってそうだ。
凄い力を手に入れたのだから無理もないが、悪人が我が物顔で威張り散らすのは気分が良くない。
「ジョースター卿の愛を! 血染めの裏切りで返した男! アイツだけは!」
ジョースター卿は一命を取り留めたが、長期の入院生活を余儀なくされている。完治には、まだ当分かかりそうだ。
「奴がディオか」
ツェペリ男爵が周囲のゾンビを倒しつつ、崖の上を見上げて冷静に分析していく。
「なるほど、奴とゾンビは太陽の下では行動できない。
だから人間の子供に催眠術をかけ、我々を自分の戦いやすい時と場所に誘き出したか。
こんな狡猾な奴が、あの仮面を被ったとは、何としてもあの男を消滅させねばならん」
妾もそう思っているので、この場の全員がディオを打倒するために決意を新たにするのだった。