物部薙の開発記録   作:マキアン

1 / 1
 その二人、天災と被害者。


開発記録#051【セッショウセキボールmk2】

「アマテラス、ミドルレンジ」

〈Got ready,Mode Middle Range〉

 

 鈴の音のような少女の声が指揮を奏で、無機質な音声がそれに応えた。

 近未来的な装いのドローンを思わせる三機の祭具(ギア)が廃ビルの中を縦横無尽に飛び回り、()()を猟犬の如く追い詰める。

 

『■■■ァ!』

 

 獲物は一体の境界異常【虚武辺者】。刃毀れした刀を携えた、ぼろぼろの武者。

 かつて日の本で武を掲げたいずれかの存在の下で武勇を奮ったであろう者の成れの果て。またはそういった存在への畏敬から生じた概念的虚像。

 

 血の臭いの染み付いたソレと対面して、少女───祓魔師の物部薙(もののべナギ)は一切臆することなくその場に立って界異を見つめていた。

 

『■■ッ!』

「あまいわ!」

『■ァ!?』

 

 祭具【アマテラスさんmk6】の内の一機目掛けて刀が振るわれるも、バレルロールを行いながら難なく回避。それとは別の一機が【虚武辺者】へ加護によって強化された衝撃波を撃ち込む。

 意識外からの攻撃によってよろけた【虚武辺者】へと、続け様に三機の祭具が先端のレンズから光を照射した。

 

『■■■■ァッ!?』

「浄化の光だ。お前にはさぞかし効くことだろう」

 

 界異とは穢れによって構成された存在。

 物部薙に宿る加護の力によって浄化という性質を持った【アマテラスさんmk6】の照射光は、普通の人間が浴びようとただの光でしかないが、界異である【虚武辺者】にとっては効果覿面であった。

 

「アオイ、そろそろだぞ」

『わ、わかりました』

 

 しゅうしゅうと音を立て黒い煙を全身から吐き出して悶え苦しむ【虚武辺者】であったが、力を振り絞って光の包囲を抜けると一目散に下の階とを繋ぐ階段の方へと走り出す。

 

 忌々しい少女も空を飛び回る鬱陶しい祭具も追いかけてこない。このまま下の階まで退いて戦を仕切り直さなければ。

 その一心で走る界異の前に、女が立ち塞がった。

 

「う、うぅ……二号級界異の前に立つなんて、自殺行為過ぎる……やめたいぃ……」

『■■ェ!!』

「ひぃっ!? ご、ごめんなさいぃ!」

 

 アオイと呼ばれた女───薙と同じく祓魔師である駒田葵(こまだアオイ)は、何やらぶつぶつと言いながら【虚武辺者】の目の前を塞ぐ。

 【虚武辺者】が退けと目の前の女に吠え立てるが、女は悲鳴を上げながらも動く気配が無い。

 

 早く立て直さなければならないというのに、厄介な。

 しかし幸いなことに目の前の女は全く強そうには見えない。実際、その隙だらけの立ち振る舞いを見るにこの手の刀で命を刈り取ることも容易だろう。

 

【■ッ!】

「【加護防壁・翔】!」

「あうっ!」

 

 葵へと振り下ろされた一太刀がその身体を真っ二つに切り裂くより早く、唐突に半透明の板が現れて葵を弾き飛ばした。

 

「こら、アオイ! 怯えてないで早く【セッショウセキボールmk2】を投げんか!」

「は、はいぃ……!」

 

 薙からの檄に葵は涙目になりながらも立ち上がり、徐に腰のベルトに付けていた球体を取り外して握り締めた。

 そして不恰好なフォームで振りかぶると、その球体を【虚武辺者】に対して投げつけたではないか。

 

「アオイ! 今だ!」

「うぅ……い、いけ、【セッショウセキボール】!」

『■■!?』

 

 【セッショウセキボールmk2】は不恰好なフォームから投球されたとは思えないほどに正確な軌道を描いて【虚武辺者】に直撃、ぽんっと跳ね返される。

 

『■?』

 

 しかし【虚武辺者】には一切効果が無かったようであり、首を傾げながらも再び葵を切り伏せるべく刀を振り上げ────。

 

 

『■■■■ォォ!?!?』

 

 

 ────【虚武辺者】は、ぱかりと開いた【セッショウセキボールmk2】へと吸い込まれていった。

 

 ころり、ころりと地面を転がること数度。抵抗するかのように転がっていたボールであったが少しして観念したのか動かなくなった。

 

「……やった?」

「うむ」

「よ、よかったぁ〜〜」

 

 完全に沈黙したボールを拾い上げた葵は、ほっと一息ついてコンクリの地面にへたり込んだ。

 どうやら極度の緊張状態を脱して腰が抜けてしまったらしい。

 そんな葵の手からひょいとボールを取り上げると、薙はまじまじとボールを見つめてからぽいっとそれを地面に放り投げた。

 

「ダメだな」

「え、ちょっ、ナギさん!?」

「アマテラス、ハイパワー」

〈Accept,Sacred Laser〉

 

 葵の制止の声も虚しく、薙の指示を受けた【アマテラスさんmk6】が浄化の光線にて【セッショウセキボールmk2】を焼滅させてしまう。

 目の前で苦労が水の泡となった瞬間を目にして、ぱくぱくと口を開閉させて呆然とする葵を他所に歩き出した薙は、動かない葵に振り向くと怪訝そうな目で葵を見つめて急かすように口を開いた。

 

「何をしているアオイ。帰って【セッショウセキボールmk3】を作るぞ!」

「うぇぇえっ!? い、今からですか!?」

 

 驚く葵に何を言っているんだという視線を送り、薙は【アマテラスさんmk6】の一機に指示を送って葵の狩衣に機体の突起を引っ掛けて強引に持ち上げる。

 

「当たり前であろう。界共研も待たせておる。さっさと完成させてやらんとな!」

「そ、そんなぁぁぁ……私の日曜日がぁぁぁ……」

 

 今日は日曜日。この調子ではせっかくの日曜日も丸々潰れてしまうだろう。

 葵の悲痛な嘆きは、朝日に照らされる廃墟に響くこともなく掻き消えていった。

 

 




 スペシャルサンクス
 魔剤海豹さん(駒田葵)
 雪山さん(界共研/界異共存研究所)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。