スライムと戦う話   作:閻魔蟋蟀

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続きました。


スライムと戦う話続

 勇者の朝は遅い。

 

 女神の加護によって不眠不休で動ける身体になったとはいえ、精神的に疲れないわけではない。

 昨日もスライムに酸で溶かされたり、生きたまま捕食されたり、通りすがりに轢殺されたりと、バラエティに富んだ殺され方をした。

 

 そうした一日の疲れを癒すためにも、極めて睡眠は重要である。

 そういうわけで夜が明けるまで、祠の前でぐっすりと眠るのが勇者の日課になっていた。

 今日も昇る朝日の眩しさから逃れるように寝袋──全長三メートルほどの巨大な葉っぱ──に潜り込んでごろごろとしている。

 厚さも十センチほどあってクッション性ばっちり。その上、お日様の香りがして、寝心地も良い。

 そんなスライムを捕食する葉っぱにくるまりながら、日が真上にのぼるまで、勇者は惰眠を貪った。

 

 そして、朝というよりも昼に近い時間になって、勇者は起床した。

 今日も一日頑張ろう。そんな思いで身体をぐうっーと伸ばし、準備運動を開始する。

 勇者の身体は、女神の加護で身体は常に最高のコンディションを維持されるので意味がなかったりするが、そこは気分的なもの。

 気が済むまで身体を動かした勇者は、意気揚々と探索に出かけた。

 

 

 今日の目標は水の確保だった。

 何といってもかれこれ転生から十日目が経過して、未だ水がほとんど飲めていない。

 食べ物については、そこら辺の草を齧ったりしているのでそうでもないが、水については葉っぱについた水滴を舐めたくらいである。

 飲み食いせずとも死なない身体ではあるものの、勇者の中には何かを飲みたいという飲水欲求が渦巻いていた。

 

 しかし、それも今日までだ。

 スライムに殺され続けながらも探索を続け、ついに昨日川を発見したのだ。

 そのときは川を見つけた感動に浸っている最中に頭上からスライムが落ちてきて死に、その後も辿り着けずに終わったので、今日こそ水を確保したいところだった。

 

 そして、スライムに殺されて祠に戻されること八回、勇者はとうとう川へとたどり着いた。

 勇者は前後左右上下を警戒しつつも、ここまできた達成感と喜びを噛み締める。

 周辺に敵影がないことを確認した勇者は川の傍へと駆け寄った。

 

 川は水色をしていた。

 光の加減でそう見えるとかではなく、水自体が水色だった。

 試しに手で掬ってみると、うすぼんやりとしか手が見えない。

 透明感がないわけではないが、水に絵具を溶かしたような色合いだった。

 

 それに、水にしては随分とねとねとした感触をしていた。

 どろどろとまではいかないものの、片栗粉を溶かしたくらいにとろみがついていた。

 

 水色の、ねとねととした、水のようなもの。

 何か思い浮かぶものがあるような気がしたが、気のせいだろう。

 色々とおかしなところはあるもそこは異世界、そういうこともあると勇者は理解した。

 

 そんなことより十日ぶりの水だった。

 食事としては辺りに生えている野草を食べたりしていたが、水を飲むのは転生してから初めてのこと。

 ごくりと喉をならしながら、勇者は一気に水を呷った。

 そして、むせた。

 

 まずくはない。

 しかし、想像していた味とは随分と異なり、それはスポーツドリンクにも似た、やや酸味のある味をしていた。

 ねっとりしたのど越しが少し気になるものの、飲めないというほどのものではない。

 

 勇者は気を取り直して、再び水を飲んだ。

 あらかじめ味や感触が分かっていれば、そこまで抵抗のあるものでもなく、勇者はお腹がちゃぷちゃぶになるくらいまでその水を飲んだ。

 そして、満足感と共に、背後からスライムに川へと突き落とされた。

 

 川は水深がそれなりに深いようで、足がつく気配はない。

 それに鎧を着ているとか以上に、粘り気ある水は物理的に重く、全く身動きが取れない。

 

 そして、勇者は溺死した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 魔の海域。

 魔界といわれる大陸の周囲にある、人類不可侵の海。

 今まで魔界への進出を目指した人間の全てが、そこで死に絶えたとされている。

 決して霧に視界を覆われていたわけでも、険しい海流に阻まれてでもない。しかし、その海域に侵入して、帰ってきた者は一人もいなかった。

 

 …………そもそもの前提が違うのだ。

 人が魔の海域と呼ぶものは、実のところ海ではなかった。

 それは一匹のスライムだった。

 

 そのスライムは暴食で、自身の上に触れたもの、あるいはその上を横切ったものを悉く捕食する。

 星の防衛機能である真龍すら、それにとっては良質な餌の一つでしかなかった。

 故に魔界を目指したものは誰一人としてその地に辿り着くことなく、水色の消化液の中でその人生を終えることになった。

 

 けれども、それは魔界にいるものも同じであった。

 そうなってしまったのが、一体いつだったのかは分からない。

 気づいたときにはもう、魔界の周囲はスライムの体躯で覆い尽くされていた。

 

 魔界に川なんて存在しない。

 大地を繰り抜いて貫入するスライムが山脈から垂れ流す粘液、それが水色の川の正体だった。

 

 川に擬態したそれは、一定以上の魔力を持つ存在が触れると急速に活性化し、獲物を溶かし尽くす。

 そうして魔物を溶かした栄養満点の粘液は、最終的に海口まで流れ着いて、海と化したスライム本体へと供給される。

 

 結局のところ魔界とは、一匹のスライムによる餌の養殖場でしかなかった。

 




攻略のヒント:魔界には一部例外を除き、自然の水場は存在していません。
       川だけでなく、池でも湖でも、水の塊を見かければ、スライムだと疑いましょう。
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