勇者は目を疑った。
この異世界に来て、もう二週間が経過した。
水を確保してことで日々の生活が潤ったのはいいものの、人里はおろか未だ森を抜けることすらできていない。
そこで勇者は方針を変えることにした。
今まではひたすら同じ方向に進んでいたが、思い切って別の方向に進んでみたのだ。
いつものようにスライムに殺されながら、鬱蒼とした森を進んでいった先に、それはあった。
宝箱。
RPGでの定番中の定番。
プレイヤーにとって必要なアイテムを秘めた魔法の箱。
それが勇者の目の前に鎮座していた。
ずっと長くそこにあったのだろう。
鈍色に輝くその姿は、勇者の到来を長年待ちわびていたかのようだった。
そういえば途中から不自然なくらい魔物がいなくなっていたが、そんなことは些事だろう。
念のために周囲に警戒しつつも、勇者は宝箱の歴史思いを馳せ、しばし感動に浸った。
それにしても、一体何が入っているのか。
何にしろ重要なアイテムが入っているに違いない。
そう思い、勇者は厳かに宝箱を開いた。
瞬間、目の前に黒が広がった。
勇者は圧死した。
箱を閉じた勢いで勇者は真っ二つになり、下半身だけが地面に取り残されていた。
そんな勇者の残骸を、宝箱の側面から飛び出た複数の触手が掴み上げ、一人でに開いた箱の中に放り投げる。そして、再び箱は閉じられた。
しばらくすると、それはまた側面から触手を生やし、それを使って器用にとことこと歩き出した。
後には大量の血だまりだけが残されていた。
魔界におけるミミックは、魔物の中でも最上位に位置する存在である。
宝箱の形をした堅牢な外殻は、大地を両断するゴブリンジェネラルの一撃で傷一つつかず、スライムの消化液ですら溶かすことができない。
そんなミミックは、何もしなければこちらに害を加えてくることはない。というわけでない。
長年の間、食事にありつけなかったミミックは、宝箱の側部から生やした触手を足とし、捕食行動を開始する。
飢餓に駆られたミミックは、一匹や二匹の食事で満足することはなく、往々にして集団で生活する魔物、主にゴブリンがその標的とされる。かつては百人規模のゴブリンの集落が一日にして消え去るということもそう珍しくなかった。
そうした災害の如きミミックの脅威から身を守るべく、ゴブリンの集落ではミミックを安置する祭壇が設置され、定期的にその御前に供物が捧げられていた。
ゴブリン第一王朝成立後も続けられそれは、ミミック文化革命へと発展し、魔界におけるゴブリン台頭の礎となった。
攻略のヒント:
ミミックは極めて強力な魔物であり、未だ勇者による討伐例はありません。
ただし、飢餓状態でない限り、箱を開かなければ基本的に無害な魔物です。
また、スライムの消化液でも溶かせない外殻は、世界最硬の物質といえるでしょう。
そんなミミックの死骸はとても有用です。
極々稀に寿命で死亡している野生のミミックもいるため、宝箱を見つけたときは積極的に開けてみましょう。