ヤスダです。今回はとあるシスターことアネットさんの回想です。
凄い難産でした。
楽しんで読んでいただけると嬉しいです。
あと、謝りたいことがひとつあります。
感想で、父親視点の話を入れる、と返信させて頂きましたが、コメディ重視になったため、そこはカットさせて頂きました。
無責任なことを書いて、本当にすみません。
それでは、六話です。
「そうですね……頑張ってみます。ありがとうごさいました」
そう言って、元気に走り去っていくあの子が、何故かとても眩しく見えた。
「頑張れよ……レオナルド」
普段は絶対呼ばない名前を呼んでしまうくらいには……。
◇◇◇
私とあの子が初めて出会ったのは少し肌寒い秋のある日だった。
その日の教会は朝からバタバタと騒がしかった。
将来有望な神器所有者、アーシア・アルジェントさんが、この協会に赴任して来ることになっていたからだ。
彼女をもてなすために、皆が各々の仕事についたものの、基本的に、掃除や洗濯といった作業に驚くほどに適正がない私は、他の人たちの邪魔にならないように、教会の入り口でアルジェントさんを待つことにした。
ボーッと空を眺めていること十数分。
待つことに飽き始め、中で子供と遊びながら待っていようかな、と思い始めた時だった。
「すみません!この子が……」
そう私に声をかけたのは、右手をレオナルドと繋いだ、アルジェントさんだった。
一瞬、兄弟に見えた二人だが、すぐに違うとわかった。
アルジェントさんは、腰まで伸ばした絹のような金髪に透き通った碧眼。
少女らしい面影こそ残っているものの、人を魅了するような顔だちの、女の子だった。
汚れなど知らないような綺麗なアルジェントさんと、当時のレオナルドは対称的だった。
金髪に碧眼、という点は同じだが、彼の瞳はおかしかった。
「チッ」
思わず小さく舌打ちをしてしまった。
暗く、濁った瞳。
全てのことに絶望し、諦めきった、私の大嫌いな瞳。
あの子の瞳は親に捨てられた子の瞳だった。
「大体状況は解りました。一旦、中には入ってお話ししましょう」
そう言って、私は二人を案内した。
客間まで来て、少し落ち着いたアルジェントさんに経緯を聞くことになった。
アルジェントさん曰く、ここに来る途中に、道端でうずくまって泣いていた男の子を見つけて連れてきた、というそうだった。
レオナルドに至っては、何を聞いてもずっと放心状態で、上の空だった。
よく見ると、転んだのだろう、膝は擦りむけていて、涙で目は真っ赤に充血していた。
吐いてしまったらしく、口からは刺激臭がしている。ひどい状態だった。
とりあえず、レオナルドをどうにかしなくてはいけないと、風呂場に連れて行こうとしたとき、アルジェントさんが、言ってはいけない言葉をいってしまった。
「ぼく、おとうさんとおかあさんはどうしたの?」
その言葉を聞いたとき、今まで何を聞いても無反応だったレオナルドが、急にビクンッと反応した。
そして、急に体が震わせ、パパ、パパと小さく呟き始めた。
思わず、舌打ちしそうになった。
こういったデリケートな質問をすぐにしてはいけないことぐらい、解ってくれないのだろうか、と心のなかでアルジェントさんに非難の言葉を浴びせ、私はレオナルドを落ち着かせようとした。
「大丈夫…………落ち着いて、もう大丈夫だから」
しかし、あまり効果がなく、レオナルドはより一層体を震わせせて、親を求めた。
私一人ではどうにもできない。そう思って、誰かを呼びに行こうと立ち上がったとき、ふいにアルジェントさんがレオナルドを抱きしめた。
「ごめんね。だけど大丈夫ですよ、ぼく。もう怖くないですからね」
アーシアさんの胸に突然抱かれたレオナルドは、最初こそ戸惑ったようだが、その後すぐに、泣き出し、糸が切れたようにそのまま寝てしまった。
その日の夜、レオナルドについてあらかた調べ終わった私は、これからの対応について考えていた。
家を全焼させるほどの神器の持ち主。
神器による暴走事故は、秘匿されているものの、結構頻繁に起こる。
しかし、原因の大多数が子供である神器の暴走事故は、精神力も、出力も安定しないため、小規模なもので終わる。
家一軒を燃やすなんて、滅多にないことだった。
どうやってその力を安定まで持っていくか計画を練った。
父親に捨てられたレオナルドは深く傷ついているはずだ。
だから、これ以上負担をかけないように、優しく、一緒に力を制御していきたい。
自分の神器の力を恐れたり、力に振り回されないように手伝ってあげよう、と思った。
これまで、あの子のような目をした子は何人もいたが、ほとんどの子は自分の足で立ち上がって、前を向いて生きている。
私も幼い頃に、神器が元でいろいろしてしまった経験があるので、私のように力に溺れた人間なってもらいたくないと思い、念入りに対応を考えた。
翌日、私はレオナルドが寝ている部屋の前にたっていた。
こういった子供は、ファーストコンタクトが大事なので、落ち着いて声をかけたかった。
言葉を選び、シュミレーションをしっかり建てた私は、傷心中の男の子に会うため、部屋の扉を開けた。
ガチャっ
「おはようございます、レオナルド君。いい朝だ…………」
「お!何か美人がいる!! 顔キレーだなぁー。
少し年は食ってそうだけど……おっぱいも……うん!いい形、いい形、素晴らしい!!
お姉さんうちで働かない?
フヒヒヒヒヒヒヒヒ。
まぁ服の上からじゃよくわからないんで…………じゅるり…………いただきまーす!!!」
……私は自分の目と耳を疑った。
傷ついて弱っているはずの男の子が、
視認が不可能なほどの速度でズボンと上着を脱ぎ捨て、いきなりパンツ一丁で私の胸に飛び込んできたのだから。
「え、あ……いやーーー!」
「よいではないか、よいではないか、体は正直だぞ……ウヒヒヒヒヒヒヒ」
思わず悲鳴をあげてしまったのは、仕方がないと思う。
生まれてこのかた、誰にも許していなかった私の胸を、あの子は執拗に、執拗に揉み続けたのだから。
「いやっ、ヤダッ!……………………………やめろっていってんだろうが!!!
クソガキ!!!」
「ボヘェェェェェェェッッ!!」
ぶちギレてしまった私は、思わずあの子をベットの方へ蹴り飛ばしてしまった。
変な悲鳴を上げてぶっ飛ぶ六歳児。
少し頭が冷え、やり過ぎてしまったと思った私は、ベットの上でのたうち回って、痛みに耐えているあの子に話しかけた。
「あのー、何て言うか、大丈夫?」
すると、すぐに復活した
「大丈夫です!!美乳さん!!むしろ我々の業界ではご褒美です。
もっとやっても……いいんだぜ」
そう言って、歯を見せながら、決め顔で笑う変態に私は我慢が出来なかった。
「……………」
ドカッ、メキッ、ボコッ
「あ、イタッ、やめて……悔しい、でも感じちゃう……」
殴るたびに変な声を発したあいつを、気絶させるほどに殴ってしまった私だが、今でも決して反省していない。
あれは仕方がないことだった。
これが私とあの子の出会い。
それ以降もあの変態は、数々の奇行を繰り返し、その度に私は駆り出された。
シスターの胸を揉むは、ブラザーの股間を思いっきり蹴って悶えさせるは、数日にして、この教会随一の問題児となった。
最初こそ、親に捨てられたことによる傷を埋めるための行為だと思ったが、奴は真剣に私の胸をとりにかかってきた。
初日とのあまりの豹変ぶりに、私を含め、大人たちはあの子が心の病にかかっているのかと心配したが、見ている限り、全くそんなことはなかった。
病院に連れていっても結果は異常無し。
若いナースのスカートをめくるという異常はあったが……
先生も、性欲が盛んなんでしょう、と苦笑いしていた。
あの子は無理している様子もなく、自分の身に起きたことを理解し、行動していた。
暴走事故によって親元から引き離された子供たちは、神器の発動を恐れる傾向がある。
当然だ。その力によって、すべてが壊されたのだから。
しかし、あの子は、神器についての講義を受けると、目を輝かせて、話を聞いていた。
自分の力を恐れるわけでも、嫌うわけでもない、それどころか、嬉々として受け入れている。
今までそんな子はいなかった。
もちろん、自暴自棄になって力を行使する昔の私のような子はいたが。
親に捨てられた子は、人を拒絶するか、人を求めるか、大体がこの二つに別れる。しかし、両方ともが、誰かの愛を求めている。
それなのにあの子は、いつも通りといった様子で、一人で寝ることを全く構わず、熟睡していた。
様子を見に行ったら、
「うぅん、おっぱい」
等と寝言をいっている始末。
他にもおかしいことはたくさんあった。
ある日に、
「野菜うめー。あれぇ?アネットさん嫌いなの?ダメでちゅよー。健全なおっぱいは、健康な食事からって言うでしょ?」
なんて言っていたのに翌日には、
「野菜、嫌い……」
と、年相応な発言をしていることもあった。
決して演技しているようにも見えず、訳がわからなかった。
……もちろん人の胸を引き合いに出した馬鹿には説教をしたが。
私は頭が痛くなった。
決して弱味を見せず、言動に一貫性もないあの子を、どうすればいいのかわからなくなったからだ。
揺さぶるために、親の話をしてみても、普通?に会話することができた。
母親の胸はよかっただの、父親の足は臭かっただの言っていた。
途中、母親から抽出されるビタミンとやらの話を延々と語ってきたときは、殴ってしまったが……。
あるいは、あの子はもう壊れてしまったのかもしれない。そんな疑問を持ったこともあった。
基本的に何でもできるあの子だが、神器の制御だけは恐ろしく下手だった。
全焼、倒壊させた建物は十を越え、私の頭痛の種はまた増えた。
しかし、その度に、あの子と一緒に改善案を考えるのは、嫌ではなかった。
セクハラにも慣れてしまって、防御もうまくなったし、普段は大人びていたあの子と話すのも、楽しかった。
私はあの子が羨ましかった。
その小さな身に降りかかるには、大きすぎる重荷を背負ってなお、誰かを恨むことなく、初めから真っ直ぐ進んでいるあの子が。
過去の私は、その重荷に耐えきれず、間違いをおかしてしまった。
あの子は、私のようにならず、このまま真っ直ぐ歩いていけますように。
そう願った。
◇◇◇
気がつくと、あの子が走り去ってから、三十分ほどたっていた。
また何か燃やしては危ないので、様子を見に行こうと、私は訓練所に向かった。
歩きながら、春の訪れを告げる景色に目を奪われた。
空を見上げたら、雲一つないきれいな青空で、とても気分がよくなった。
こんな天気のいい日なら、あの子の神器の制御もうまくいくかもしれない、と適当な期待を抱きながら、私は訓練所に到着した。
しかし、そこで私はあり得ないものを見た。
「………へ?」
周りに目を向けると、とんでもないものが、訓練所にあった。
あの子が来て以来、大抵のことに驚かなくなった私だが、それでも理解が追い付かなかった。
………視界一杯に広がる……お、おっぱい。
そこには、おっぱいの花畑があった。
読んでくださってありがとうございます。