青年の異世界珍道中〜ガンダムSEED〜 作:クロイツヴァルト
「ラクスさん、カイトくんは?」
「まだ目を覚ましませんわ。」
病室に移されたカイトを見守るラクスとマリューであるが、カイトとラクスの2人がアークエンジェルと合流してからすでに3日が過ぎていた。
「このままでは時間ばかりが過ぎてしまいますわ。」
「わかっているのだけどね、カイトくんを欠いた状態で戦闘になると正直な話厳しいのもあるのよね。」
しかし、2人もわかっているのだ。この状態でもどうしようもなく自分たちがここに降下したのはザフトも把握していると。
「どうかしたの?」
『艦長!至急、ブリッジへ!現地の反プラントのゲリラから通信が来ています』
モニターの通知音を聞いて応じたマリューの言葉に通信をしているクルーからの言葉にマリューは
「わかったわ、すぐに行くわ。」
そう言ってマリューはモニターの電源を切る。
「ラクスさん、私はブリッジに行くからカイトくんのことをお願いね?」
「わかりましたわ。」
「全く、こんなに想っているのに本人は変わらず無茶してくれるんだから」
ラクスの返事を聞きながらマリューは寝ているカイトの頬に触れる。
「ふふ、起きたらいっぱい文句を言いませんとですね?」
「そうね。」
微笑みながら言うラクスの言葉にマリューも少し笑う。そして
「それじゃ、行ってくるわね。」
そう言ってマリューは医務室から出ていく。
「…カイト、無茶をしないと言ったではないですか。また泣いてしまいますわよ」
「…それ…は…こま…ったな」
「ッカイト」
カイトの手を握りながら細く呟いた言葉にカイトが少し途切れながら答え、それに驚いたラクスがカイトの顔を覗くとうっすらと目を開けてラクスのことを見ていた。
「わる…いな、また…し…んぱ…いさせ…た。」
「ほん…とです…よ。心配する私達の…ことも考えて…下さいな」
目を覚ましたカイトに感極まったラクスは涙腺が決壊したのか大粒の涙を流し、カイトの顔に雨のように降る。
「いまの…じょう…きょうは?」
「今はアフリカに降下が完了してザフトに見つからないように砂丘の間に隠れて迷彩カバーで隠れている状態ですわ。」
「そう…か。」
「カイトは今は安静にしていて下さいな」
ラクスの言葉にカイトは
「そう…も…言って…られん…な」
「ッ!だめです!」
布団を捲り人工呼吸器や電極に点滴の針などを無造作に抜き取り起き上がろうとするカイトに対してラクスが悲鳴を上げる。
「ここで時間を…ろう…ひ…して…たらだめ…だ。」
起き上がったカイトがふらつくもラクスが咄嗟に支えるもカイトは荒い息を吐きながらそう呟く。
「ですが、それではあなたが…カイトが倒れてしまいますわ!」
「わかっている。だから、いま…からここでみ…た…ことは…は、みんなには内緒…だ」
「え?」
「でば…いす…き…どう。こー…る…ナハト…ヴァ…ール」
そう告げたカイトの言葉にラクスが不思議そうな声を上げるのとカイトの呟いた言葉は同時であり、2人の足元には三角錐の魔法陣とその下には太陽と月が描かれた紋様が現れ、その下から金十字が彫金された朱色の本が宙に浮きながら現れ、1人でに開かれる
「これは?」
『お目覚めですか、主よ』
「しゅ…う…へん…まりょ…くをしゅうそく…し、かい…ふくに…まわ…せ」
『主のバイタルが危険域にあるのを検知、緊急として周囲にある微細な魔力を回収します。』
「たの…む」
『収集開始します』
本から凛とした女性の声が聞こえる中、カイトはその声に返事をするまでもなく指示を出す。ナハトヴァールと呼ばれたそれは呼び出した本人を何かしらの方法で検査したのかすぐさま行動に移す。その瞬間、カイトの体が淡く光る。
「カイトッ?!」
『安心して下さい、姫君。今、主の体を魔力循環を持って急ぎ治療しているところです。』
驚くラクスの言葉にナハトヴァールが答える。
「治るの…ですか?」
『その為に主は私を呼んだのです。それにしても、主は無茶をしますね。各種内蔵の損傷具合に筋繊維の断裂、肋骨にも数箇所とはいえ折れかけていますし、よく無事でしたね。普通なら死んでもおかしくは無いですよ?しかもその状態で大気圏突入とか…いくらあのバカデバイスがいるとはいえ無茶がすぎますよ?』
ラクスに答えたナハトヴァールは治療中のカイトに対して早口でそう告げる。
「悪かったっての、ほんとお前は口うるさいな。心配してくれるのはわかっている」
快方してきているのかカイトの言葉が途切れずに聞こえる。
「よかった!本当によかったです!」
そして支えなく立ったカイトに対してラクスはそのカイトの胸にそのまま飛び込むように抱き付きまたしても泣いてしまいカイトはそんなラクスを優しく抱きしめる。
「すまない、心配をかけた。君を泣かせないと言ったのにまた泣かせてしまったな」
「私も、マリュー様も艦の皆さんもみんな心配したのです!」
カイトの胸に顔を埋め、涙声になりながらも怒っていますと示すラクスにカイトは困り
「俺のお姫様はどうしたら機嫌を直してくれるのかな?」
「もっと私を抱きしめて下さい」
「仰せのままに」
『マスター、内蔵の治療は完治しましたが、他の部分に関してはある程度にとどめておきました。』
カイトがラクスを抱きしめている間も治療は進められており、ナハトヴァールの報告を聞く。
「なぜ、全て治さないのですか?」
「それをすれば色々と不思議がる人間もいるって事。内蔵は直しておかないと操縦に支障をきたすが、筋繊維は普通にしていれば治るレベルまで治療できているからあとは自然治癒任せだな。」
ラクスの言葉にカイトはあの重症患者状態から3日も昏睡していた自分が完全治癒でみんなの前に出れば不自然であると言う
「それは…わかりますが」
カイトの言葉にラクスは先ほどの不思議な光景を思い出して不承不承だが理解はするが、納得はしていないようである。
「ラクスには心配ばかりかけるな。」
「そう思うならもう少しご自愛くださいませ。」
苦笑するカイトに胸元から可愛らしくむくれた表情でラクスがカイトを見上げる。
「善処はする。」
「それは約束を守らない人の常套句ですわ」
カイトの言葉にラクスはジト目をする。
「まぁ、俺としてはこのままラクスとイチャつきたいがザフトの勢力圏内だ。」
「そうですわね。以前に言ったと思うが、ラクスには穏健派をまとめ上げてほしい。その為には一度君はプラントに戻らなければならない。」
「…はい。」
「そう悲しそうな顔をしないでくれ。俺だって離れたくは無いんだ。」
「…ごめんなさい」
「ともかく、このアフリカ方面軍をまとめ上げている通称砂漠の虎ことアンドリュー・バルトフェルドも穏健派の1人だ。君を預けるには地球圏の中であれば彼以外には適任がいないと思う。それはラクスもわかるね?」
カイトはそう言ってラクスの長くきめ細やかな桃色の髪を優しく手で梳きながら言い聞かせるように問いかける。
「それは…」
カイトの言葉にラクスは心と感情は別という感じの表情にカイトは苦笑する。
「とりあえずブリッジに起きたことを伝えないとだな。」
「もう少し、貴方を感じたいです」
通信モニターの所へ行こうとするカイトをラクスがカイトの病院着の裾を軽くつまみ、引き止める。
「はは、ラクスは俺といると年相応な女の子になるな。」
「私もこんな自分にびっくりしているのですよ?こんな私にした責任をとって下さいね?」
「言われるまでもない。」
そう言って笑いカイトはラクスを伴い通信モニターを開く。
「ブリッジ、聞こえるか?」
『ミサカ大尉?!艦長!ミサカ大尉が目を覚まして連絡を』
モニターに映ったのはオペレーターを務めることになったキラの学友の1人であるサイはカイトからの通信に驚きながらも現在他とモニター通信をしていた艦長に伝えた途端サイの姿が画面から急に消え、画面外からノイマン曹長のサイの無事を確かめる悲鳴が上がる。
「…マリュー様って意外と」
「ラクス、俺たちは何も見ていない。いいね?」
画面に現れたのは涙を堪えたマリューがいて感動を誘いそうだが、その前の行動でラクスとカイトは多少なりともドン引きしてしまった。
『ミサカ大尉、目が覚めたのね!』
「ご覧の通りです。が、五体満足とは言えませんが」
『貴方の状態を見てみんな心配したの!』
「すみません。」
カイトの戯けた態度が気に入らなかったのかとうとうマリューが怒りながら泣いてしまいカイトも申し訳ないと謝る。
「着替える時間も惜しいのでそのままブリッジに行きます。」
『ちょっと待って、今そっちに人を寄越すから。病み上がりの体で無茶をしないの』
カイトの言葉にマリューが有無を言わさずに反論を許さずに言うだけ言って通信を切る。
「マリュー様、カンカンでしたわね?」
「俺、今から行くのやめようかな?」
ラクスの揶揄うような言葉にカイトは表情を引き攣らせながらそう呟く
「カイトさん!」
医務室の扉が開き現れたのは
「フレイっ?キラやフラガ少佐じゃなくて?」
「何よ、心配して艦長に言って手伝いに来たのに!」
カイトの言葉に現れたフレイがそっぽを剥きながらむくれるが、その後ろから遅れて息を切らせたキラが現れる。君はそれでもコーディネイターか?
「フ、フレイ!そんなに急がなくても」
「少年、大丈夫か?」
「ミサカ大尉!体はもう大丈夫なんですか?!」
フレイの正面に立つカイトを見てキラが慌てて体調を気にするが
「まぁ、大体はな。」
「カイト、嘘を言ってはいけませんわ」
「え、ラクスさん…嘘って?」
「大丈夫そうに見えるのは見た目だけで、歩行にも多少問題もありますし、骨にも異常があるのです。」
「「えっ?!」」
ラクスの言葉に2人が絶句する。
「カイトさん、それって絶対安静じゃないですか!」
「そ、そうですよ!」
「そうも言ってられんよ。」
慌てる2人にカイトが冷静に告げる。
「ここはザフト軍の勢力圏内だ。連合の俺たちがここに留まっていればいずれ発見されて襲われるんだ。それを防ぐ為にも今は早くこのアフリカを抜けなければいけない。だから頼りないがここの反抗勢力であるゲリラやってる連中に協力してもらうしかないな。」
「なんでよ?」
「俺たちは今まで宇宙にいてこのアフリカの地形や特性を知らないんだ。だからそういう諸々を教えてもらわないといけないんだ。敵だってこの砂漠って地形をこっちよりも理解していて最大限利用した戦術を展開してくるだろうからな。」
不思議がるフレイにカイトは諭すように説明するとキラは
「ですが、相手はMSですよ?ゲリラって言っても生身の人間が勝てる相手じゃ」
「心は納得しているが感情は納得できないんだろうな。自分達の住んでいる土地に急に現れて占領されたら面白くないって。気に食わないって思う奴が多数いるってことなんだ。」
キラの言葉にカイトは寂しげな表情で言う。
「俺も元々はオーブに住んでいたからわかるが、自分の住み慣れた土地に知らない奴が急に現れて好き勝手されたら気に食わんだろ?ゲリラの連中はそう言う気持ちなんだ。」
「そうよね、私だってあの時ザフトがヘリオポリスに来た時になんでって思ったもの」
「そうだ、そしてゲリラの連中はその思いがとても強いんだ。」
「だから占領しているザフトに反抗をしてるの?」
「ま、ザフトの連中からしたら少し面倒だって位にしか思われてないだろうがな」
フレイの言葉にカイトはため息混じりにそう答える。
「ミサカ大尉、ブリッジに上がるならせめて上着だけでも」
「どうぞ。」
キラがそう言うと後ろにいたラクスがハンガーに掛けてあったカイトの制服を病院着の上から羽織らせる。
「あぁ、ラクスありがとう。」
「こっちが熱くなるくらいの熱愛っぷりよね?」
「あ、あはは」
カイトとラクスの短いやり取りを見たフレイが呆れ、そのフレイの言葉にキラは引き攣った表情で愛想笑いするしかなかった。
「カイ…んんッ!ミサカ大尉、ここに来て大丈夫なのですか?」
「艦長や他の皆に心配かけさせてすみません。」
カイトはキラに支えられながらブリッジに入り、気が付いたマリューが興奮のあまり通信している中で口調が崩れそうになるが持ち直して聞き直していた。
『ミサカ…ってお前!カイトか!?』
「?あぁッ!あんた、サイーブか!?久しぶりだな!」
モニターに映る緑のバンダナを頭に巻き、髭を蓄えた男性がカイトの名前を大声で叫び、カイトは最初、不審な目で見ていたが何かを思い出したのか自身が怪我人なのも忘れてモニターの前にキラを置いて行き男性の名前を呼ぶ。
『それはこちらのセリフでもあるぞ!勝手に国を飛び出して悪ガキ小僧め』
「止してくれよ、昔の事を言わんでくれよ」
にやりと笑うサイーブに対してカイトは苦笑いをし、周りにはまるで歳の離れた旧知の間柄と思える態度と会話にマリューも含めクルーが唖然としている中で
「か、カイト、お前さんそのゲリラのおっさんと知り合いなのか?」
「そうですよ、ラミアス艦長にはヘリオポリスの時に話したと思いますが元々はオーブに住んでいたんだ。で、一時期だがこのサイーブに世話になっていたんだ。」
『世話なんて言うがオメェほど手のかからねぇ悪ガキはいなかったぜ?』
モニターの向こうでガハハと豪快に笑うサイーブに対して
「今はこんななりしてるけどオーブで大学教授とかしてそれなりに偉い身分の人なんだぞ?」
カイトの追加情報にまたしてもクルーがポカンとする。それはそうだ、見た目は完全にゲリラの親玉に見えるし、穿った見方をすれば盗賊の頭と言われても不思議ではない風貌の者が大学教授の肩書きを持っていると誰が予想できようか。
「それにしてもあんたほどの人がまたなんで…待てよ?なぁ、サイーブ…まさかあのバカのお守りで来てるとか言わんよな?」
「「???」」
カイトの言葉にクルーが疑問を持つがサイーブは苦笑し
『はは、半分正解で半分はずれだ』
カイトの言葉にサイーブは目を見開き、次の瞬間には苦笑しながらそう答える。
「あんの猪娘ぇ!」
その言葉にカイトは一瞬で怒気を露わにし、滅多に怒らないカイトが怒るという珍しい場面をクルーはまたも驚き、呆気に取られる。
「…とにかく、あんたのところにいるのは分かったが、俺がいる事は今の所は伏せておいてくれ」
『そりゃまたどうしてだ?』
「サプライズと仕置きだ。俺がいると知ればあのバカは絶対に隠れるだろうからな」
カイトの言葉に不思議がるサイーブだが、カイトの不穏な言葉と表情に苦笑いし
『可愛い妹分だろうに多少は加減してやれよ?』
そしてそんなカイトを止めないあたりサイーブも思うところがあるのだろう。
「…まぁ、一応善処はする」
サイーブの言葉の裏にある優しさに気付いたカイトは少しバツが悪いのかそっぽを向きながら約束をする。
『艦長さん、さっきの話だが俺たちの拠点に来るか?』
「良いのですか?」
『そっちにカイトがいるんなら話は別だ。よそ者だけなら断っちまうが、カイトがいるなら話は別だ。俺の仲間たちにも話を通しておくし古参の人間で案内できるやつを寄越す。』
「ご協力を感謝致します。」
サイーブの言葉にマリューが腰を折りお礼をする。