青年の異世界珍道中〜ガンダムSEED〜 作:クロイツヴァルト
カイトがアークエンジェルに戻ると、捕虜の話を聞いたマリューが武装した兵士をMSデッキに集めていた。
「さて、とりあえず尋問なんかは後回しで捕虜を入れる独房を頼むわ。後で俺が様子を見に行くから、お前達も変な真似はするなよ?国際法に則って捕虜の扱いは丁重にな?」
「はッ!」
そう兵士は敬礼してミゲルを艦の独房へと連れていく
「さーて、先ずはコロニー崩壊は免れたが…どうなることやら」
そう独り言を呟いたカイトはブリッジに向かう
「カイト・ミサカ少尉、ただいま帰還しました。」
ブリッジに入ったカイトは敬礼をしてマリューに告げ、マリューもそれに倣うように敬礼する。
「無事に戻ってきて何よりだわ。それにアレの装備も問題ないようね」
「ま、ぶっつけ本番でしたが概ね問題なく。」
「彼らは退くでしょうか?」
「や、それは無いな。クルーゼって男は蛇のようにしつこいから間違いなく追って来るだろうね。」
沈痛な表情のマリューの疑問に対してその場にいたムウが即答し沈黙が支配しかけるが
「とりあえず月方面に行ってG計画の発案者のところへ行こうじゃないか。それからの事はその時に話そうじゃないか。」
カイトの言葉に多少救われたのかマリューの顔色も幾分かよくなっていた。
「じゃ、俺はとりあえず捕虜の様子を見てくる。希望的観測だが、引き渡し条件でこの宙域での戦闘を一時的にだが止められるかもしれんしな」
「えぇ、お願いするわ。」
カイトの言葉に同意するようにマリューは同意する。
「ヨゥ、さっきぶりだな?」
「貴様は!」
食堂に寄ってからカイトは独房にいるミゲルの所に訪れていた。
「話すのも良いが先ずは飯だ」
「ふんッ、ナチュラルの施しなどいらねぇよ!」
「なら問題ないな、俺はハーフだからな」
「なッ!?ハーフだと!?」
「理解しろだなんて押し付けねえが、事実俺はナチュラルの母親とコーディネイターの父親がいた」
「いた?」
「俺がガキの時に用事で軍港近くの街にいた所をザフトに襲撃されてな。その余波で亡くなったのさ」
「ッ!?」
激昂しそうなミゲルを他所にカイトの言葉に絶句する。
「今更嘆いた所で何も変わりはしない。なら、俺は俺のやり方でこの戦争を止める。だから今連合にいる」
「ならば、それはザフトでもできるだろ!なぜ俺たちの所に来ない!」
「わかりきっているだろ?今のお前の発言が根底にある物だ。ナチュラルだとかコーディネイターだからと区別し差別する。それがそもそもの争いの根底だ。」
「それは…」
「近々お前さんを向こうに一時停戦のために引き渡す用意をしておくから、それまでは悪いがそこにいてくれ。トレーは後で他の者が取りに来るからな。」
カイトの言葉に詰まるミゲルを見てカイトは持っていたトレーを挿入口から入れ、ミゲルに背を向ける。
「待てッ!」
ミゲルの言葉にカイトは独房の出入り口で止まる
「お前は本当にこの戦争を止める事が出来ると思っているのか!?」
「ミゲル、勘違いするなよ?出来る出来ないじゃない…やるんだよ。俺はそれが茨の道だとしてもそれを覚悟しているんだからな」
顔だけミゲルへと向けたカイトのアメジストの様な瞳に秘めた決意の色を見たのか息を呑む。
「じゃ、また後でな。」
そう言ってカイトはミゲルに背を向けて今度こそカイトは独房から出て行くのであった。
「で、奴さんから応答は?」
「今の所は…でも応じるかしら?」
ブリッジに戻ったカイトは状況をマリューに聞く
「元々、ザフトの成り立ちは義勇兵だからな。仲間が生きているのに攻撃してくるってんならそれはそれでやりようがあるってな。引き渡しになれば俺が行く。」
そう言った時、ブリッジに通信が入る音がなる
「敵、ザフト艦からの通信です!」
「こちら、ザフト軍所属ラウ・ル・クルーゼだ。連合軍応答願う」
「通信開いて!」
オペレーターの声に反応してマリューが指示を出す。
「こちら地球連合軍所属アークエンジェル艦長マリュー・ラミアス大尉です。」
「ほぅ、大天使ね。大層な名前ですな。…して、そちらにこちらの部隊の者がいるとあったが」
「艦長、ここからは自分が」
「分かったわ。」
モニターに映ったのは顔の半分を白い仮面で素顔を隠した金髪の男が出てきてマリューと短い挨拶をするとその場をカイトに譲る
「君は?」
「俺の名前などどうでも良いだろう?単刀直入に言う。貴殿の所の所属パイロット、ミゲル・アイマンと言う男がこちらにいる。国際条約に伴い丁重に扱っているからそこは心配しないでくれ。」
「それはどうも。それで、それを持ち出すと言うことは何かあるのかね?」
「捕虜の解放の条件としてこの宙域での戦闘及び敵対行動の一時中止の提案だ。」
「ふむ」
「こちらとしてもコロニーにこれ以上の被害が出れば民間人が乗る脱出ポッドも少なからず無事では済まない。人道的に考えてこの宙域での戦闘は愚の骨頂だと俺は考える。よってこちらにいるミゲル・アイマンを引き渡してからきっかり20分の間は攻撃を中止していただきたい。無論、追跡まで止めろというには彼だけでは不足だろうからね。」
「それをこちらが呑むと?」
「それならそれで構わない。そうしたならば両軍に伝わるように捕虜の返還に同意せず戦闘行為を続ける暗愚だと知られるだけだ。」
剣呑な雰囲気のクルーゼに対して、カイトは変わらず冷静に言葉を紡ぐ。
「…良いだろう。その提案を呑もうじゃないか。」
クルーゼの言葉にカイトを除いたクルーはホッと胸を撫で下ろす。
「それでは後ほど、引き渡しに行く。真紅の機体で向かうその間にこちらはヘリオポリスを出る。」
「という事は君はあの赤い機体のパイロットという事かね?」
「そういうことだ。とにかく、約束は守ってもらうぞ?」
「了解した。こちらは迎えにブリッツを向かわせる。」
カイトの言葉にクルーゼは淡々と言葉を告げて通信を切る
「ふぅーッ、なんとかなったか。」
モニターが暗転するのと同時にカイトは安堵のため息を漏らす
「ミサカ少尉は凄いですね。あそこまで有利に交渉に応じさせるとは」
CICの席に座っていたナタルが感心するかのような言動をする。
「要はハッタリや化かしあいさ。相手よりより有利になるように進めただけさ。時間稼ぎは出来た。後はここから一時でも早く離れる事だな。ラミアス艦長、クルーへの指示を頼んだ。俺は捕虜返還の準備をする。」
そう言い残してカイトはブリッジを出る。
「あ、あの!」
通路を歩くカイトの後ろから声を掛けてきたのは
「少年、どうした?一応はまだ戦闘中のようなものだ。部屋に戻っていろ」
「僕も…僕にも手伝わせて下さい!」
「…なぜだ?君は理由もなくあれに乗って、もう二度と乗りたくないと」
「確かに僕は戦うのが怖いです。だけど、友達が乗っている…そして僕にしかストライクが動かせないっていうのなら「甘ったれるな!」ッ!?」
「何が僕にしか動かせないだ!少年のいう通りストライク一機だけなら確かに歓迎すべき事だろう。だが、動かせるのは君だけじゃない。俺がいる…半端な気持ちで戦場に立たれちゃ足手纏いにしかならんわ!」
「友達を守りたいんだ!その力が僕にあるのなら僕も戦います!」
カイトの叱責に咄嗟に出たキラの言葉にカイトは一瞬だけ目を見開くが次の瞬間
「ふん、大義名分で宣っていたのならぶん殴っていたが、良いじゃないか。友を護る…か。その気持ち忘れるなよ?ヤマト少年。話は俺の方からしておくから今はしっかり休んでおくんだな」
「えっ、は、はい。」
カイトの言葉に呆気に取られるキラの表情を見てカイトは笑いを噛み殺して通路の奥へと進む
「ほらミゲル、釈放だ。君の所の隊長様が取引に応じてくださるようでな。俺の機体に乗せてザフト艦の近くまで行く。お迎えはブリッツで来るそうだ。」
独房に着いたカイトは看守役をしていた兵士から錠を受け取ると独房の鍵を開けて、座っていたミゲルに手を貸しながらそう告げる。
「クルーゼ隊長が!?それにニコルが来るのか」
「ニコル…つまりブリッツのパイロットか」
「そうだ。」
「ま、お前さんは無事に向こうに帰る事だけ考えてな。一応暴れないでくれると俺も手荒な真似をしないで済むんでね」
そう言ってカイトはミゲルと監視役の兵士を伴ってMSデッキに向かう
「これが」
「そ、俺の愛機にして相棒さ。君らにデータがないのも秘中の秘だからさ。一部の上層部しか知らんから三下の諜報じゃまず発覚すらしないだろうからね」
そう言ってカイトは兵士が持ってきたスーツを手早く着るとヘルメットを被る。
「ほら、これはお前さんのだろ」
ヘルメットを被ったカイトはバイザーを展開し、兵士が持っていたミゲルのヘルメットを手渡す。
「この機体は複座型になっているから後ろに座りな。」
「分かった。」
手錠を外されたミゲルは手首の調子を確かめた後にカイトの後ろの座席に座る。それを確認したカイトはコックピットのハッチを閉める。
「ブリッジ、嬢ちゃん聞こえるか?」
「ミサカ少尉、嬢ちゃんはやめて下さい」
「悪い悪い。ミリアリア、こっちは準備出来たぞ。」
「了解しました、発信シーケンスどうぞ!」
「了解、カイト・ミサカ。ホットスクランブル出撃るぞ!」
電磁射出されたカイトはそのままコロニーの港口玄関から宇宙に出る。それを見届けたマリュー達は
「今の内に反対側から外に出るわ!少尉の努力を無駄にしないように迅速に動くわよ!」
「「了解!」」
マリューの言葉にブリッジにいる面々は力強く返事をする。
「さて、ランデブーポイントは確かこの辺だったな」
「…なぁ、カイト。」
「なんだ?」
目標の宙域に入ったカイトは機体の制動を掛けて慣性でゆっくりと進みながら相手がいないか周囲の観察をする中で今まで静かだったミゲルが声をかける。
「やっぱり、俺たちの所に来る気はないか?」
「愚問だな、俺にも護るものがあるようにお前にも護りたいものがあるんだろ?」
「そう…だよな」
「なんだ、初対面の時みたいな勢いがないじゃないか」
「そ、それは」
「冗談だ。ま、お互い敵同士なんだ、争う事もあるだろう。だが、そこからどうなるのかはお互いの頑張り次第だ。憎しみ合うのか手を取り合うのかは」
「お前は…強いな。色々な意味で」
「はは、捻くれて開き直ってるだけかもしれんぞ?」
考え込むような表情のミゲルを尻目にカイトは短く応える
「おっ、お前さんの迎えがきたようだぞ」
暗い宇宙をモニターする画面にブリッツが遠方より近づいてくるのが見えた。
「こちらブリッツ、そこの機体応答して下さい。」
「聞こえてる、地球連合軍所属カイト・ミサカ少尉だ。ブリッツのパイロットは相対距離100で止まれ」
ブリッツからの通信にカイトが応え、指示を送る。
「ここでお別れだ。今度は会うのは戦場になるかもな」
「そうだな。」
ハッチを開けてミゲルに出るように促し、ミゲルは外へと出る。しかし
「なぁ、カイト!戦争がほんとに終わらせるって言うなら終わった後にまた会おう!俺はお前ともっと」
「ミゲル!…それ以上は止めろ。裏切ったと思われるぞ」
「っ!」
「お互い無事で戦争が終われば飯でも食いに行こう」
「ッ!あぁ、約束だぞ!」
カイトの言葉に応えながらミゲルはブリッツの手に包まれ、ゆっくりとその場から後退する。
「さーて、後はアークエンジェルに戻るだけ…ってアレは?」
眼下に漂うデブリの合間から救難信号の光を見つけたカイトは届いた電文を見て表情が引き攣るのであった。