ブルーアーカイブ単発小説   作:じーYA

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曇らせです。先生しか登場しません。合わない方はブラウザバック推奨です。色々と気分で書き溜めてたので変なところは飲み込んでください。



先生の日常

 暗闇に目が慣れれば、景色は灰と、瓦礫と、胸を焦がすほどの熱波、それにぐったりと身を伏せる生徒たち。

 耳を塞げば、掌を通して通して聞こえる断末魔、血飛沫、銃声、爆発、耳鳴り、苦痛に震える声、痛み声、声コエこェーーー

 

 

「ッッツ!!」

布団を蹴飛ばして飛び上がる。もう春もすぐそばだというのに、羽毛布団を頭まで被った体には足先から腰のあたりまでびっしょりと汗をかいていた。時刻は朝の4時を超えたあたりを指している。夜というには薄明るく、朝というには暗すぎる。悪夢で起きるには少し早い。

 

 私の知らない私の記憶。私が知らない血の感触。味。それらがぐずぐずの目元にねっとりと絡みついて中々消えてくれない。思い出したくもない不快感に胸のあたりが気持ち悪い。

せり上がる胃液を耐えると乾いた喉が爛れて染みる。早まる鼓動が聞こえてきて、ようやく呼吸を忘れていたことに気づいた。

 

 

 洗面台に吐瀉してようやく鼓動が落ち着いてきた。先程よりいくらかマシになったろうか、目の前の鏡に写る顔をゆっくりと見渡す。水でペタ付いた前髪から除くどす黒い隈。やや痩せた頬。顎の下に伸びてきた髭。メガネやマスクで隠すにはもう限界がある。それとも防塵マスクならアズサに借りればもうしばらくは誤魔化せるか。

 

 いっそ男前に拍車がかかるかも なんて楽観的な私の精神的余裕は、鏡の隙間からうっすらと映りこむ見慣れた影が根こそぎ奪っていった。

 

「うあ!!?」

 

 情けない声を上げて、その場にうずくまる。昼間や電気のついているような時間帯はともかく、深夜といっても差し支えのない時間帯で先生一人。命の危険を感じるには十二分の環境だった。普段の大人ぶった立ち振舞いなぞ関係無い。

 

懐から刺される恐怖を。

弾丸一発の痛みを。

暗闇の恐怖を私は知っている。

 

 情けなく体を縮こませる私に影はなにもしてこなかった。みっともなく震える私の動画でも撮って嘲笑っているのか、それともこんな滑稽な人間が大人なのかと、唖然として声も出ないでいるのか。

 

「,,,」

「うぅ...」

「,,,,,,,,,」

「う...」

「,,,,,,,,,,,,,,」

 

「......?」

 

 しかし影は、待てども待てども私に危害を加えない。いつまでも沈黙が破られない時間に先に限界が来たのは先生からだった。うっすらと目を開けて、腕の隙間から影の方向を恐る恐る覗く。片目くらい潰されると覚悟していた。

 

否だった

怯えた先に人はいない。

 

 扉のそばにはガンラックが鎮座していた。そこに丁寧に整理された銃はキラリと輝いて反射した私の顔が写る。呼吸を荒く今か今かと待ちわびた顔。黒々としたバレルはひどく冷たく、不気味に思えて、気持ち悪かった。

 

「...は、はは。なんだ、ただの銃じゃないか。」

 

 銃。銃だ。コンビニでも買えてしまうほどに日常的な物販だ。彼女たちと一緒に過ごしてきて、銃を携帯しない生徒とは出会ったことがない。それほどに当たり前なもの。さながら私にとってのパソコンに近いのだろう。あると便利で、無いと落ち着かないもの。彼女たちにとって喧嘩や諍いの仲裁に使用されるもので、私にとって命を奪う代物。

 

 震える両足の膝を勢いよく押さえて立ち上がる。そのままガンラックに近づき、力任せに銃を取り上げてグリップに手を掛けて構えてみる。先ほどまでの震えからか、へっぴり腰の私には銃口を前に向けることすら難しかった。構えられたところで撃ち方は知らないけれど。銃を携えたままもう一度鏡と向かい合った。相変わらず頼りない立ち姿だったが、銃があるだけで多少強く見える。

 

こうでもしていれば、私でも抵抗できるだろうか?

 

いやそれはーーー馬鹿馬鹿しい考えを忘れようと頭を振る。本気になった彼女たちにできる抵抗なんてたヵが知れている。手元の銃に目を向ける。グロックを模したハンドガンを見て、頭の中で想像してみる。うん、少なくともこれでは無理だ。

 

 意味のない考えを早めに捨てよう。それよりも意識が覚醒している内に部屋に戻ろう

 そうして床を転げた割には埃一つ無い服を払って、私は一人で寝室に戻った。 

 

 

汗で濡れたベッドはすでに乾いて、足を入れると冷たい感触が足を覆う。ぶるりと身震いを起こすと、布団の上に載せた銃が膝上からずり落ちる。片付けるのを忘れてつい持って帰ってきてしまった。バレルを掴んで拾いあげ、グリップに刻まれたシャーレの刻印を撫でる。

 

私は銃の扱いなんて某映画くらいの知識しかないから、これは渡された時から使ったことが無い。たまに当番の生徒に手入れをお願いしているから、見た目は綺麗でマガジンも確かに挿入されている。再び両手で持ち直してみると案外軽かった。

 

 確かここを引くんだっけか。

 

 銃の上半分、スライドと呼ばれる部分に手をやり後ろに引く。硬い撃鉄まで引ききって手を離すと鉄と鉄の擦れる音が鳴り響き、軽く握っていた手に反動が返る。何かが銃身に移動したのがグリップから伝わった。一応スライドを多少引き直して、金色の弾丸が見えたのを確認できるとマガジンを抜いた。随分と軽くなった銃に残るのは弾丸が1発。

 

「…」

 

なんとなしに顎下に銃口を当てて、くぼみのあたりへと固定する。そしてトリガーガードからトリガーに人差し指を滑らせる。そのまま人差し指に少し力を入れるとトリガーは低反発で返してくる。怖いかというとそうでもなく、ただ指が行ったり来たりを繰り返していた。そのうち明らかな引っ掛かりに気づく。これを超えたら後戻りができないような、缶のプルタブを開ける感覚に近い。

 

このトリガーの重さが私の命の重さと等価なのか。

そう考えると急に現実感が襲ってきて身震いした。しかし、それと同時に安堵する。

 

よかった。私の引き金はまだ、重い。

 

常日頃の喧騒に身をゆだねていると分からなくなる時がある。

この指先にかかる重さ、彼女たちの引き金の軽さ。自分の脆弱さと生徒たちの強靭さ。

責任と経験と選択と、それで蓋した恐怖心。

 

”偽りだとしても、それを演じ続けていけば”

”いつしかそれは本当になる”

 

生徒に言った。自分に言い聞かせるつもりでもあった。

私はみんなほど強くないから、嘘をつき続けていないと狂ってしまうから。

 

だからこそ

時が経てば経つほど、私が私でなくなる。

演じていればいるほど、この指先が軽くなる気がする。

はざまで揺れる倫理観と暴力性。

そのうちあんな夢も見なくなるのだろうか。

 

 

 

いや、今この瞬間が夢なんじゃないだろうか。

であれば今すぐ引き金を引くべきか?

指先に力がこもる

 

 

だってほら

 

 

 

死ぬ夢は吉夢というじゃない?。

 

 

 

いけないいけない!今日はダメな日だったか!

よーし、こういう時はさっさと仕事に没入するのに限る。

この時間から仕事すればアレもコレも…あとあっちのもできるな。

であれば今日の当番の子はあの子だから、じゃあアレも用意しといたほうがスムーズだな。

あっそういえばリンちゃんからお願いされてたBD教材の締め切りって…今日じゃん!

こうしちゃいられない。

手元のハンドガンを一瞥して、枕元に放り投げる。

 

「あっはっは」

 

 

 

 

「じゃあ今日も1日頑張っていこう!」

 

誰もいない部屋で元気のいい独り言を叫んで、ベッドからそろりと抜け出した。




「自分がバットを持っていたとして、無防備な相手の頭にフルスイングすることができるのか」とか考えながら書いてました。いくら生まれた時から銃がそばにあって強靭な肉体があろうとも人間相手に銃をぶっ放すキヴォトスってやっぱり怖いと思うんです。
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