こちらのその後の妄想。曇らせではないです。pixivにも同名で投稿してます。
バンドイベントよかったですよね
「一応ノックはしたんだけど、もしかして今から出かける?」
「先生じゃん、どしたの」
「実はこれ」
先生が片手に下げている紙袋を一番近いカズサに手渡す。ポップな色合いの綺麗な多角形のオブジェクトがプリントされていて、トリニティではよく見かけないシンプルなものだ。
「ちょっとそれってミレニアムの新作のマカロンじゃないの?」
「え」
目を細めて眺めていたヨシミが驚いたように声を上げて駆け寄る。少し前にテレビでも話題になった、ならなくても放課後スイーツ部として一応様々な学校のお菓子の情報は軽く攫っている。
カズサが紙袋から中身を取り出し、恐る恐る蓋に手を添えると、そこには色とりどりに個包装された一口大のマカロンが丁寧に並べられていた。
曰く、その数一日にたった五個しか販売されないという超人気商品。しかもそれぞれ風味を変えた一品物のため、このように全てが揃った状態なんて滅多にお目に掛かれるものではない。
「明日本番でしょ?差し入れに買ってきたんだ。あとティーパーティの子から茶葉貰ったから魔法瓶に入れて持ってきた」
何でもないかのように先生の口からさらりとトリニティ生徒会の名前が出てくるが、それが通じる生徒は残念ながらこの場には少ない。
「ほう、随分とまた、これはロックか…」
「何でもいいけど早く食べよ!」
「そうだね、先生も来たし一旦休憩にしないアイリ?」
「もうヨシミちゃんもカズサちゃんも、まずは先生にお礼言わなきゃでしょ?」
アイリの一声でやっとお菓子から意識を先生に向ける。
「気が利いてるじゃん先生!」「ありがとね先生!」「ふ、礼を言うよ先生。これでロックの魂がより一層燃え上がる…」「有難うございます先生、わざわざお忙しい中…」
各々が好きに感謝の意を述べる中、低く頭を下げようとするアイリに慌てたように先生が手振りする。
「そんなそんな。頑張ってるようだし、私の応援の気持ちだから気にしないでよ。それより皆んなで美味しく食べてくれた方が嬉しいからさ」
「といった手前…その、私まで同伴しちゃっていいの?」
「いいでしょ、先生が買ってきたんだし」
カズサがマカロンの箱を持って皆んなに配っている間に、持ってきた紅茶を紙コップに分け淹れるヨシミが続く。
「貰うもの貰って”はいサヨナラ”なんて流石にしないわよ」
「五個を四人で分けるなんて戦争起きるかねないから、いっそいてくれた方が助かるさ先生」
「それに、皆んなで食べた方が美味しいです!」
「そう…?それならいいんだけど」
紅茶がそれぞれに行き渡り、皆それぞれ選んだマカロンをもって席に付くと、「えへん」と可愛くわざとらしい咳払いをしたアイリが立ち上がる。
「それじゃ、明日のライブ成功の前祝いとして…」
「「「「「いただきまーす!」」」」
「ん、これおいしい」
「ちっさいお菓子ってあんまりチョイスしてこなかったけど味が詰まってる感じする!」
「ナツちゃんのやつ、ちょっとだけシェアしない?」
「いいともさ、アイリのも少し貰うね」
おいしいとは言ってもやはり一口大、数口で味わい終わるといつも通りのおしゃべりが始まる。
そうして暫く雑談に花を咲かせた頃、カズサが話題を切り替えた。
「それで?今日の練習だけど、ほんとに外でやる?」
すでに各々が別のお菓子を机の上に広げて、そのな中から棒状のチョコレート菓子をぱきりと折って食べるナツが答える。
「もちろん。普段と違う場所でこそ己の真の力が発揮されるものだよ」
「やっぱり出かける所だったんだ」
先生が追加の紅茶を配りながら何となしに聞く。魔法瓶一つの中身がちょうど無くなった。
「はい、最後までナツちゃんに振り回された方がらしいよねって思ってて」
「それで、じゃあ機材持って出るわよってところで先生が来たって感じ」
「はは、確かにらしいっちゃらしい。…でもあれ、確かナツの機材って」
目線をナツに向けると、彼女を挟んだ壁際には“でーーん”と存在感を放つドラムがずっしりと腰を落ち着けている。
「いいのよ言い出しっぺなんだから。運搬できないなんて言わないわよねナツ?」
先生の表情を読んだように、紅茶を啜るヨシミがナツへと憐れみにも近い目線を向ける。
「ぐぅ…こんな逆境もロック…」
「ま、自業自得」
「あはは…」
「ふーん」
先生は一瞬だけ考えるそぶりを見せると、閃いたと口を開く。
「ナツの機材は私の車で運ぼうか。後ろの席倒せば入るだろうし」
「別に無理にそこまでしてもらうのも…って先生のことだから無理じゃないんだろうけどさ」
「もっちろん。私は先生であり大人でありシュガーラッシュのマネージャーだからね」
カズサの遠慮気味な言葉尻を吹き飛ばすように胸を叩いて笑う。
「いつからマネになったのよ…」
「おぉーさっすがマネージャー。心強いね」
伏せていたナツの顔がはっと起き上がり、マシュマロを一つ口に放り込んだ。
「本当にありがとうございます。これでナツちゃんも移動できるし、改めてどこにしよっか」
アイリが持ち込んだクッキーに口をつける。
「そういえばどこまで行くの?あまり遠くとか他学園とかだと申請書いるからさ。すぐ用意できるけど」
「決めてないんだよね。いつものナツのテキトーな思いつきが発端だから。てか先生もそこまでしなくていいから」
「無難に公園とか?路上ライブってのも手よね」
すっと手を伸ばしたヨシミがミルフィーユの実を口に運ぶ。
「明日のことを考えると目立つところは控えたいかな。ほら私達…ってかアイリ以外正義実現委員会に目つけられてるって考えた方がいいし」
それに、とカズサの後にアイリが申し訳なさそうに肩をすくめた。
「私のキーボードもそうなんだけど、みんな電源が必要な機材だから道端とか外は難しいかなぁ」
「やっぱそうよねー。かといって他のステージ借りるにも急すぎるし」
「空いてる教室借りられないかな。ほら確か別館の方なら迷惑とかかからないだろうし」
別館は補習授業部と掃除をしてから時間は経っていない。電気も水道もまだ使えるだろう。そう考えていた先生にふるふるとカズサが首を横に振る。
「あそこ今立ち入り禁止なんだ。この間テープで封鎖されてるの私見た」
「え、そうなんだ。じゃあそうだな、うーん…」
思いの外手詰まりな雰囲気が皆んな薄々と感じ取ってきたのか、口が開くよりもお菓子を食べる時間のほうが増えてくる。
「ちょっとナツ、あんたも何か案出しなさいよ。思いつきとはいえ提案者でしょ」
「未来を定めて提案なんてロマンもロックのかけらもないよ。無計画、けれどそれこそが我ら放課後スイーツ部の在り方だろ思わないかい」
ヨシミの圧に屈することもなくナツはまた一つマシュマロを引っ張り出すと、それをヨシミの口に押し付ける。口を結んだヨシミの顔が緩み柔らかなそれを受け入れる。
「要するに何も思い浮かばないってことね…はぁ」
「ナツちゃんらしくはあるけどね。ふふ」
「でもそろそろ決めないと。音合わせだけとはいえセッティングとか、明日のために機材の運び込みもあるしさ」
机の上のデジタル時計は音もなく数字を進めていて、気づけばティータイムも大きくすぎている。先生が冷えた紅茶を一気に喉に流し込む。
「…一箇所思いついた。そこそこ広くて、邪魔が入らなくて、騒がしくしても問題ないところ」
「そこ電源は?」
「もちろんあるよ。何なら照明もあるし音響も用意しようと思えばできる」
「何それ最高じゃん!そこでいいでしょアイリ!」
「うん!じゃあ先生、そこでお願いできますか?」
「任された。じゃあ話通してくるから、アイリ。一緒に来てもらえるかな」
「はい…はい?私ですか…?」
「うん」
「?。よく分かりませんが先生のお願いであれば」
先生とアイリが連れ立って部屋を出て何やら話し合いをしている間に、他メンバーが荷物をまとめ始めた。特にドラムは解体をしないと運搬ができない。そうして10分ほどして二人が帰ってくる。
「オーケー。今から機材は私の車に積んでもらって、移動の足も手配したから15分くらい此処で待機で。詳細はアイリにお願いしたから。アイリ、お願いね」
「はい。任されました」
「随分と手回してるみたいだけど一体どこなのよ。その、お金かかるんだったら先に言ってくれたほうが助かるんだけど…」
「私達のもちぜには少ないよ先生」
「それに、ここまでしてもらって返せるものがないっていうかさ…」
アイリ以外が揃って不安げに顔を沈めているのを見て、アイリと顔を合わせた先生は大きな声で一笑に付した。ヨシミの頭をぽんと叩いて、それからカズサとナツも同じようにしてから、見上げる彼女たちの顔を見てにっと笑う。
「大丈夫大丈夫。お金は必要ないから。そもそも私の提案なんだから生徒からお金なんて貰えないよ!それにお返しもいらないよ。私がやりたいからやってるんだし。それに」
車のキーをポケットから取り出すと力強く先生は答えた。
「こういうのは“先生”の仕事の領分だからね、ドンと任せておきなさい!」
機材の詰め終わったワゴン車は先生を運転手として一足先に出発した。機材も載せて手持ち無沙汰な彼女たちは再びお菓子に手をつけるが、行先不明というのはどこか落ち着かない。
そうして五分十分と時間が進むうちに、外が騒がしくなる。携帯を確認するアイリに促されるままに外に出ると、1機のヘリコプターが爆音に風切り音を乗せて街中をホバリングしている。それはだんだんこちらに近づいてきて、彼女たちの前へと降り立つ。
大きな風のせいで髪が乱れる彼女たちの前で、大きなハッチが開く。
突然のことで呆気にくらう三人をよそにただ一人、アイリだけが落ち着いた様子で
「あれに乗っていくんだよ!…多分…?」
いや任されたアイリがそれじゃ困るんだけど!?
◆
「この開放感、我々はやっと自由を手に入れた…うへ」
ナツの背中をさすりながらカズサは辺りを見渡す。乗ってきたヘリはすでに豆粒サイズになってどこに向ったかわからない。
「しかしなるほどね、確かに此処なら邪魔は入らないし」
「騒音に関しても大丈夫そうね」
「しかもこう快晴だと気持ちいいね」
後ろの方で大きな扉が開く。振り返ると中から機材を乗せた車が出てくる。助手席にも何かを積んでいるようで、もう一杯一杯なワゴン車が一台、皆んなの手前に停車した。
「無事に着いたようでよかった」
運転席側から顔だけを出した先生が正面の彼女たちを一見する。
「先生〜、次からはヘリ使うときは一言言って欲しいんだけど」
「車往復させるより空路のほうが早いと思って…お気に召さなかった?」
先生は苦笑を浮かべた。良かれと思ったけれども、女子高生にヘリコプターの揺れがきついことは想定外だった。
「ナツが酔っちゃってさ。私達も初めてだったけど大丈夫みたい」
先ほどよりも随分と顔色が良くなったナツだが、まだ肩を揺らしてふらついている。
「あそこにベンチあるから休ませておいで。その間に残り二人は機材の準備お願いできないかな。私はケーブルとか音響持ってくるから」
「アイリ、お願いできる?」
「うん、任せて。ナツちゃんあっちで休もっか」
「うん…」
「もう平気なのナツ?」
「ああ、迷惑をかけたね先生。もう大丈夫だ」
「機材の準備はできているから、あとは飛ばされやすいものとかは気をつけてね」
「じゃあ私は仕事に戻るから何かったら呼んで」
「せんせ〜!」
「あれ、まだ何かあったかな」
「何って、今自分で言ったじゃん。用があったら呼んでくれって」
「お礼になるか分からないんですけど…」
「新曲、しかもまだどこにも発表してないやつ聞かせてあげる」
「感謝しなさいよね」
「椅子ヨシ!ペンライトヨシ!ライトヨシ!タオルヨシ!そうだ、mv用にドローンいくつか飛ばして動画撮っておこう」
「思った以上にノリノリだね先生。かっこよく撮っておくれよ」
「任せておいて!私はシュガーラッシュの第一のファンを自称してるからね。新曲…もとい明日のための曲を聞かせてくれるなんてもう嬉しくなっちゃってもう何でもやっちゃう!」
「ファンかマネージャーか先生かどれかに統一しときなさいよね…」
「あ、あぁー、んっんんっーー」
小気味のいいイントロが始まる
ベースの音が重なって、ドラムがテンポを作り、柔らかなキーボードが音を柔らかく包む。
曲の終わり頃
、夕方の屋上で、少女たちの声が響いた。