小学校から付き合いのあるダウナー系幼馴染ちゃんから、湿度高めな愛情を向けられているのを僕は知っている   作:熱帯雨林

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初ラブコメなんですけど、結構難しい……
何はともあれ4話目です。



病、熱、揺蕩

「ハックシュン!!」

 

 突然だが、僕は風邪を引いた。

 今現在時刻は朝の8時、学校にはすでに連絡済み。

 ちなみに麗にも連絡済みで、絶賛ベッドで布団に包まりながら寝ている所だ。

 

「はぁ〜……久々に風邪ひいたけど、本当しんどいな」

 

 異変は昨晩から始まっていた。

 夜中まで僕は麗と通話していたのだが、いきなり身体がしんどくなったのだ。まさかとは思って大事は取り、早めに通話を切って寝床に入って暫くした後――それは来た。

 

『顔が熱い……あと悪寒がやばい』

 

 体調が悪化して眠れなくなり、そのまま朝へ。

 体温計で測ったら見事に38度越え。

 どうも風邪です、ありがとうございました。

 

「透〜」

「姉さん」

 

 しんどいなぁと思っていると、姉が部屋に入ってきた。

 手には水と氷がたんまり入ったコップと、解熱剤があった。

 

「調子はどう?」

「悪い」

「喉は痛い?」

「……若干? かなぁ……」

 

 多分一般的な風邪だろう。

 かのパンデミックを引き起こした類のものではないと信じたい。

 

「姉さん……大学は大丈夫?」

 

 朧げだが、確か今日は姉の講義がある筈だ。

 普段姉がどれぐらいの成績で、どんな学校生活を送っているかわからないけど、一応気にはかけていた。

 

「病気で弱った弟をほっぽり出せないわよ。父さんも母さんも仕事で居ないのよ? もし何かあったら心配だから……」

 

 ふっ……と笑みを浮かべる姉。

 そこで僕は気づいた。この優しさには裏があると。

 

「まさか合法的にサボる動機出来たとか考えてないよな……愚姉」

「あちゃー!! バレたかー!!」

「この女郎……!! 偽りの優しさなんて要らねえ!」

 

 うきゃーと別に可愛らしくもない叫び声をあげた姉は、僕が眠るベッドの横に居座ると、口を窄めて何やら不満を垂れ流し始めた。

 

「心配してるのは本当なのよー? そんな要らねえとかまでは言わなくていいじゃないのよ」

「……わかったよ、強く言い過ぎてごめん」

「ツンデレ? 男のツンデレは一部界隈にしか需要ないわよ」

「ほざけ」

「またまた〜」

 

 僕はそんな風に、しょぼくれた姉を白い目で見ながら薬を口に含んで飲み干す。姉の言葉は恐らく真実だろう、サボれるやんとは思ってそうだが、献身的に世話する気は満々だった。

 

「今日私は休むから、安心してゆっくりしなさいな」

「……ありがと」

「あ、朝ごはん食べてないよね?」

「うん、食べてない」

「卵粥作ってあげる」

 

 それはマジで嬉しかった。

 僕はすぐに「食べる!」と即答すると、姉は「わんぱく小僧か」と言って笑いながら台所へ向かっていった。

 

(割とマジで嬉しいな)

 

 姉の手料理なんて、いつぶりだろうか。少なくとも小学生の時以来かもしれない。

 

「よーし! 張り切ってうまい奴作るわよ!」

「気合いまで入れてるし……」

 

 下の階から声が聞こえてくるぐらい、姉は気合い充分らしい。普段からそうしていれば良いのにと思いつつ、そのギャップにやられそうになっていた。

 

 ピロン――布団にこもっているとスマホのプッシュ通知が鳴った。僕は枕元に置いていたスマホを手に取ると、麗から連絡が来ている事を知る。

 

「具合はどう? 大丈夫――か」

 

 そういや休みの連絡を入れたとき、結構淡白な内容を入れただけだった。アプリを開いて見てみたら――風邪引いた、休む――としか書いてなかった。

 これじゃひたすら心配するだけになってしまうのも、無理はない。

 

「姉さんが看病してくれてるから大丈夫だよ――と」

 

 とりあえずこう打っておけば、余計な心労をかけずに済むだろう。麗には学校生活に集中して欲しい、ただでさえそんなに成績が良くないのだ。僕なんかが原因で足を引っ張ってしまう事がないようにと、細やかな願いを込めた僕はそのまま卵粥が出来上がるのを心待ちにするのだった。

 

 

    *   *   *

 

 

 一方その頃、学校にいる麗はというと――

 

「……涼風さんが看病してるんだ」

 

 丁度昼休みに差し掛かったタイミングで、麗は友人達と一緒に過ごしていた。周りにいる友人達は今流行りの曲や動画、はたまたドラマの内容を話していて、非常に盛り上がっていた。

 一応麗はちょっと断りを入れて、透からの返信内容を吟味するように見ていた。

 

 看病――いいなぁ。

 麗の心の中はそれしかなかった。

 

「麗っち〜」

「ん……? 何、ヒナちゃん」

「今まさか……例の幼馴染くんに連絡取ってんの?」

 

 ツインテールが特徴的な今どきギャル――倉持ひなは、麗と仲良しの親友の1人だ。目はパッチリとした奥二重、身長は低くマスコット的な可愛さがある子だ。彼女とは割と最近仲良くなったのだが、明るい性格と砕けた口調が心地良くて、すぐに意気投合してしまった。

 

「こら、あんま邪魔とかすんなよな」

「しないよリンリン」

「お前は異性が絡む話になると、異常にテンション高くなって余計な事をしそうなんだよ」

 

 荒っぽい口調で話すのは、笹原凛という大和撫子な髪型をした美人さんだ。身長も高く背筋もピンとしていて、名前通りに凛とした雰囲気を纏う、麗の友人その2だ。

 ただ礼儀正しそうな見た目とは裏腹に、男勝りな口調がギャップになっていて、それが好きだという男子もいたりするとか。

 

 麗と彼女の付き合いは中学始め辺りであり、かなりの古株になる。ちなみに透とも顔馴染みであり、3人でたまに話したりする。

 

「今日風邪で休んでるからさ、ウチは心配なんだよね」

「あー……朝先生が言ってたね。また珍しい時期に風邪引いたもんだ」

 

 今は春だ。

 風邪が流行る時期でもないし、単純に免疫がちょっと弱まった隙を突かれたのだろう。そう麗は考えていたが、気分はめちゃくちゃどん底になっていた。

 

 いつも会える彼に会えない。

 学校なんて煩わしいと、麗は考えていたのだ。

 

「やっぱり心配になるのは、幼馴染くんに恋しちゃってるからかな〜!?」

 

 そんな風に思っているとはつゆ知らず、今どきギャルな倉持ひなはハイテンションでぶっ込んだ。そして麗の事を知る凛は思わず食べていたパンを吹き出してしまった。

 

「バカやめろ……!」

 

 麗は重力使いだぞ――そんなアホなセリフをかまそうとした凛だったが、麗はぷっと軽く笑ってひなの言葉をいなした。

 

「ぷっ、あはは……! ひなちゃん、違うって〜!」

 

 あれ、意外に普通のリアクションだ。

 凛は麗の反応を邪推していたが、至って普通の反応したのを見て考えすぎかと安堵した。

 

「え〜? 本当に〜?? 怪しいなぁ〜」

「恋とか、愛とか、()()()()()()()()()から〜!」

「「そんな程度じゃない??」」

 

 訂正、しっかり地雷だった。

 ひなはあまり理解していないが、凛は戦々恐々としていた。まさかこんなにフランクに、クソデカ感情が顔出しする発言をするとは――と。

 

「あはは! 麗っち、たまに変な日本語になる時あるから面白いわ〜」

(良かった、ひなが鈍くて……)

 

 ひなが全く気付く様子もなく、ケラケラ笑いながら麗の肩をバシバシ叩く――が凛だけは気づいていた。彼女の目やオーラ、一瞬だけめちゃくちゃ澱んだような気がしたのだ。

 付き合いが長いからこそ、分かるものだと言えたが……凛には迂闊に触れたら痛い目を見るとわかっていたため、察してないふりをした。

 

「――はぁ、仕方ないか」

「ん? どした麗っち」

「ウチ、やっぱり心配だからさ……今日の帰りは透の家に行くよ」

「まぁ確かになぁ。幼馴染くんもきっと麗っちの顔見たら安心すると思うぞ」

「……そうだね」

 

 本来なら麗はこの後、彼女たちと一緒に帰って遊ぼうと考えていたのだ。しかし今は命よりも大事な幼馴染の危機、これを前にして他の予定を優先する事など出来る訳が無かった。

 

「そうか、残念だが致し方ないな」

 

 凛も仕方なさそうに、力のない笑みを浮かべた。

 何かと想いが重い彼女だが、悪い事はしないと信じている――一応が付くが。

 

(見舞いに行くんだし、あらかじめ透には連絡しておこ。あと涼風さんにも)

 

 心配は心配だ。

 だけどそれ以上に、この看病というイベントを楽しんでいる自分がいた。麗はメッセージを送った後、薄く笑って友人達との会話へと戻っていった。

 

 

    *   *   *

 

 

「――んぐ……」

 

 あれ、なんか眩しい?

 僕は突如目を奥がツンとなる感覚に襲われて、ゆっくりと目を覚ます。

 

「んあ……? どこだ……ここ」

 

 起きたらそこは自分の部屋――ではなかった。

 学校の保健室……だろうか。ベッドは自宅のよりも狭く、白いカーテンによって仕切れられていた。僕はカーテンを少し開けて改めて今いる場所を確認する。

 

「なぜ……保健室……」

 

 やっぱり保健室だ。

 時間帯は夕方で、窓からは夕焼けの赤い光が差し込んでいた。そのおかげでいつもの保健室が何だかより幻想的に見える。

 

「いつの間に僕は――「具合はいかがですか〜?」……?」

 

 妙に上擦ったような、聞き覚えのある声。

 僕は勢いよく振り向くと、そこにいたのは。

 

「あはっ、もう元気そうですね〜?」

「れ、麗……っ!? 何でナース服なんか着て……」

「お熱測りましょうね〜……」

 

 しかも普段の落ちついた顔付きではなく、明らかに頬は紅潮していて、目には危険な光が宿っていた。僕は悟る――近づかれたら今後の人生が決まってしまい、もう二度と離れられなくなる。

 

「ま、まて! 麗」

「え〜……? 何でですかぁ?」

「今のお前はやばいからだ」

「そんな事言われても〜……それがウチの仕事だよ〜? さ……おいで……透」

 

 蠱惑的な笑みを浮かべながら近づく麗。

 良かったじゃん、ご褒美じゃん――囁く内なる本能を殴り付けて僕は彼女に立ち向かう。

 

「落ちつけ……! 今のお前は冷静じゃない……!」

「もっと冷静じゃ居られなくなるから大丈夫……」

 

 近寄る麗の瞳はうっすらハート型になっているように見えた。もうこの時点で僕はパニックになっており、後退りしながら彼女から逃げようとする。

 だが今の自分は風邪気味だ、せいぜいベッドの上でもがく事しか出来ない。

 

「よっ……と」

「な――」

 

 麗はいきなり馬乗りになった。

 人生フィニッシュ5秒前だ――と、心の中にいる理性がガンガンに警鐘を鳴らす。

 

「じっ……として」

「れ、麗……」

 

 麗の手が僕の胸に触れる。

 場所的には丁度心臓の上であり、バクバクと激しく脈動する心音を彼女に聞かれている状態になった。

 

「心臓の音……すごいね」

「麗……待て、冷静になってくれ……お願いだから」

 

 麗の手はまるで火を纏っているかの如く、熱くて此方の心を焼き尽くそうとしていた。

 

「透……」

 

 そのまま麗の顔が近寄る。

 これ以上は色々と拙い。

 

「麗……!」

 

 もう後戻りは出来ない――と覚悟を決めたその時。

 意識が覚醒した。

 

 

    *   *   *

 

 

「――はぁっ!!?」

「うわ……っ!!」

 

 ガバリと僕は布団を跳ね除けて飛び起きる。

 すると、隣にいた麗が思わず声を上げて驚いているのが見えた。

 

「透……大丈夫? 何か魘されてたよ?」

「……ぁ」

 

 制服姿の麗――服装や今僕の部屋にいるという状況から察するに、彼女は看病しに来ていたと悟る。

 

「麗……」

「大丈夫? 具合はどう?」

 

 暫く僕は呆けていると、麗は身を乗り出して様子を伺おうとしてきた。その瞬間にさっきの淫靡な映像が頭をよぎる。

 

「――っ!」

「わ……!」

 

 さっと僕は勢いよく顔を逸らした。

 間違いなく顔は今赤いし、何ならめちゃくちゃ熱を持っている。だって仕方ないだろ、さっきのが例え夢だとしても、妙に生々しかったし、麗ならそんな行動を取りそうな()()()があるのだから。

 

(僕は幼馴染であんな夢を見たのか……? 欲求不満なのか!? ダメだダメだ! 大事な幼馴染に……そんなドス黒い欲望を向けてしまうなんて……!)

 

「透! そんな暴れたら治り遅くなるから……」

 

 僕は必死に記憶を無かったことにしようと、無駄に力を込めた。ただし今は風邪真っ只中だ、そんなことをしたら熱が悪化するのは当たり前のことだった。

 

「う……ぐ!?」

 

 急な目眩が来て、僕は思わずふらつく。

 思わず上体が勢いよく倒れ込み、ベッドの縁に当たりそうになった僕の頭を、麗が優しく抱き止めた。

 

「もう……透! 大人しくしなって!」

「……っ」

 

 珍しく彼女の叱りつけるような口調に圧倒されたが、それ以上に頭を掻き抱いたような体勢になったせいで、頭に柔らかい感触をダイレクトに感じる羽目になった。

 よりにもよってあんな夢を見た後のこれである。もう僕はすでに精神的に参っていた。

 

「……看病に……来てくれたんだな」

「うん、一応メッセージ送ってるけど……多分見れてないだろうと思って、涼風さんに連絡したんだ」

 

 僕はさっと麗から離れて、枕元にあったスマホを確認する。確かに麗から連絡がきている。学校終わったら看病しに行くからねと。

 

(心配して来てくれたのに……僕って奴は)

 

 何だか自分がとんでもなく最低な奴に見えて来た。

 そう考えると胸に燻る澱んだものは一瞬で晴れて、今は風邪によって齎された不快感だけになった。

 

「ありがとう……来てくれて、麗」

「ふふ……出来た幼馴染でしょ? あ、あと授業内容まとめたノートとかあるから」

「麗が纏めたのか……」

 

 あの勉強嫌いな麗が――と感心したが、彼女のカバンから出て来たノートには「笹原凛」の文字。

 

「……友達が纏めたノート……だと」

「ウチじゃムリだもん」

「……なんか微妙な気持ちになったわ」

 

 一瞬感動した気持ちを返してくれ。

 いつになったらまともに授業を聞いてくれるのかと、気に病んだがありがたく受け取る。一応これでも真面目にやってきた身だし、特別頭が良い訳じゃない僕はこうやって他人に縋ってでも努力しないといけないのだ。

 

 笹原さんには、後日何かを奢ってやろうと思っていると、僕はあることに気づく。

 

「あれ? 姉さんは?」

 

 こんな風に騒いでいたら、姉が飛んで来そうなものだ。

 にも関わらず、家の中では僕と麗以外の声が一切聞こえない。

 

「スーパー行ってくるから、お二人だけでどーぞって」

「……なるほど」

 

 何か妙な気を回してくれたな……と思いつつ、ニコニコ笑う麗を見て僕は安心する。毎日見ている大切な幼馴染が、こうして近くにいてくれるのは嬉しいものだ。

 

「明日は……これそう?」

 

 不安気に麗が言った。

 

「うん、学校に行けるよ」

 

 対する僕は即答した。

 

「なら明日はさ、一緒に登校しよ」

「ああ」

 

 僕はそんな彼女の提案を当たり前だと思って受け入れる。変な夢を見てしまったけど、やはり本物の麗はちゃんと一線を超えないよう、慎みのある子なのだ。

 

「あ、ちょっとだけお花を摘みに……」

「ん、わかった。場所は知ってるよね?」

「うん」

 

 とても和やかな空気が満ちていくタイミングで、麗は思い出したかのように部屋から出ていく。

 

「……ふぅ」

 

 緊張感から汗がドッと出て来た。

 明日までに何とか治さないとなと思った僕は、そのままベッドで彼女が戻るまで、ボーッとしながら時間を過ごした。

 

 

   *   *   *

 

 

「……」

 

 部屋から出てすぐ、麗はトイレではなく洗面所に向かっていった。彼女は勢いよく駆け込むようにして、洗面所のドアを閉めて鏡に写る自分を見る。

 

「顔……真っ赤じゃんウチ」

 

 麗は熱くなった頬を水で冷やす。

 そして特に妙に火照る手をじっと眺める。

 

「うっかり触ってしまった……」

 

 麗の脳裏に過ぎるのは――透が自分の名を呟く姿。

 麗は何となく無意識のうちに、透の胸に触れてしまったのだ。

 

「はぁ……もう……」

 

 何で意識ない時に――と文句を言いたくなる気持ちを胸の内に押し込んで、麗は気持ちが落ち着くまで少しの間洗面所に居続けた。

 

 余談だが、戻った際に顔がびしょ濡れな麗を見た透は彼女が帰るまでの間、じっと不審な視線を送っていたという。




仕事やプライベートがバタバタしてるので、次の更新はちょっと遅めになります
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