小学校から付き合いのあるダウナー系幼馴染ちゃんから、湿度高めな愛情を向けられているのを僕は知っている   作:熱帯雨林

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1話辺りの文量どんくらいが良いか、悩み中です……


君との夜①

 決してやましい気持ちがあった訳じゃない。

 暗がりの中、麗を1人で帰すのが心配だっただけで他意はない。

 

 ない……のだが。

 

「お邪魔します」

「……ナ」

 

 玄関にて我が姉は凍りついていた。

 僕は「さっき連絡したじゃん」と困り顔を、麗は花咲くような笑顔で何故かピースしていた。何故ピースするのか、侵入成功したからか? 自宅に来るのは初めてな訳じゃないのに。

 

「貴様お持ち帰りか……!」

「電車が暫く動かなさそうだからだよ! ふざけんな!」

 

 ウェイ系大学生がやりそうな事を僕がやる訳ない。しかも実家に持ち帰るとか、勇気があるというレベルではない。ネジ飛んでてもおかしくない判断だ。

 

「すみません、ご迷惑をおかけして……」

「いやいや! 麗ちゃんが来てむしろ嬉しいぐらいよ! どうする? お風呂にする? ご飯にする? それとも透にする?」

「おい!」

「じゃあ透で」

「おい! 麗も乗るな!」

 

 クスクス笑う麗――だが目は笑っていない――を見て、僕は身の危険を感じながらも、姉に話があると持ちかけてリビングに向かう。

 

「姉さん、あまり麗を刺激しないでくれ」

「なんでよー、可愛い子じゃない麗ちゃん。嫌いじゃないでしょ?」

「だからより問題なんだよ」

 

 麗との関係性はまだこのままで良い。

 自分としてはいきなり関係性が変わることが、ちょっと怖かったりする。麗は何というか……一気に飛躍しかねない。僕らはもう高校生だと言うが、()()高校生でしかない。

 

「頼むから余計な真似はしないで……」

「ちぇー……」

 

 大体複雑な時期に突入した僕と麗を揶揄って、一応うら若き女性である姉は罪悪感は湧かないのだろうか。

 

「――っと、そういや透」

「何? 姉さん」

「晩御飯はどうする?」

 

 そう言えばどうしようか――と僕と姉が思案すると、麗が口を開く。

 

「ウチ、作ろうか?」

「お……まじでぇ?? そりゃありがたいけど……麗ちゃんお客さんだしなぁ〜」

 

 妙におっさん臭い声を出しながら、姉は申し訳なさそうに頭を掻く。確かに麗はお客さん、家まで連れてきて飯を作らせるのは心苦しい。

 

「気にせず、気にせず。ウチ……最後に来た時より料理練習して上手くなったんですよ?」

「おぉ〜……そりゃ気になるなぁ、ならば! 腕前確認する為にも私手伝っちゃうかなー」

 

 すると姉は腕まくりして、普段全く見せることのないやる気を出した。いつもそうやってやる気出してくれたら、ほとんど言うことないのだが、我が姉だからそれはないだろう。

 

「んじゃ愚弟は部屋で待ってな! 私は麗ちゃんを料理するから!」

 

 おい、なんかふしだらな感じになってる。

 

「麗()だろ」

「料理されるなら――」

「先に部屋で待ってる」

 

 麗が何か言おうとした瞬間、僕は危険を察知して階段を駆け上がっていく。今の僕は韋駄天、幼馴染の危険な発言から回避する為に、限界を超えるのだ。

 

「……ったく、透ってばチキンねー」

 

 階段を駆け上がる透を見ながら、姉――涼風はニヤニヤしながら言う。その笑みは近くにいた麗でも悪巧みしてるなぁと感じるほどだった。

 

「じゃあチキンにします?」

「極めて高度な弄りね! よっしゃ余った鶏肉でも使うかぁ!」

 

     *   *   *

 

「はぁ〜……と」

 

 僕は自室に戻るなり、ベッドにダイブした。

 ふわっと柔軟剤の香りがして、ドギマギしていた気分を堕ち――もとい落ち着かせてくれた。

 

「本当に他意はないのに」

 

 揶揄われるのはわかっていた。

 だけどそれ以前に僕は彼女の身を案じたまでだ。1人で帰すわけにはいかない、その一心で言っただけなのだ。

 

「……どうなりたいか……か」

 

 しかしそれでもどうなりたいかどうかという、難しい疑問はついて回る。いやある意味では簡単とも言うべきだろうか。

 

「麗、日に日に距離感がバグってきてるな……これ以上はどうなるんだよ……」

 

 当たり前だが麗は最初から距離を詰めてくるような事はしていない。一目惚れなんていう都合の良い理由もなければ、僕が彼女を助けたりして、そこからより意識する――というのもなかった。本当に親しい友達のように、同じ好きな事を共有し合ったり、また趣向が違っていたりしても否定したりせず、ただありのままの自分達を剥き出しにして仲良くしてきた。

 

 小学校の時なんか彼女はかなり人見知りで、近所付き合いがあった僕でさえ、話す時はやや緊張気味だった。そこから中学になる前に、普通のやり取りをしあうようになった。

 

 打ち解けるのはそれなりに時間がかかった分、枷が外れたように仲を深めていった。だけど明確に変わったのはその瞬間じゃない。

 

 僕らが一時期話さなくなったタイミング――そこで麗は明確に変わった。もっと先へ、もっと深くに、じわじわと体の内側を蝕む猛毒のように、湿度の高い情を毎日浴びせにきたのだ。

 

「……はぁ」

 

 僕だって一端の男である。

 麗はかなり美人だから、あざとい仕草なんてされたらそれなりにドキドキしてしまう。それでも懸命に理性を総動員して、つけ上がらないように我慢している。

 

「流されちゃダメだ、きっと後悔する」

 

 欲求に従ってバカな結果を招いた若者ムーブだけはごめんだ。ちゃんと彼女を思うなら、しっかりと考えた上で接していかねばならない。

 

「……関係性かぁ」

 

 意味なく呟かれた僕の言葉は、静かに部屋の中で溶けていくように響いた。

 

 

      *   *   *

 

 

「よーし、あと数分ぐらいで出来るわね。麗ちゃん手伝ってくれてありがとうね」

「いえいえ、ウチもせっかく色々出来るようになったので……涼風さんに披露したかったんです」

 

 2人はチキン――もとい余った鶏もも肉を使って唐揚げを作っていた。皮肉から晩御飯の内容を決めるなんて、あまりにも予想外な展開だったが、麗も透が最近ヤキモキしているのを実際に見てきているため、何だかおかしくなってつい乗り気になってしまったのだ。

 

 とは言え唐揚げは素直に大好きな料理だ。

 というか涼風も麗も、そして絶賛自室でグータラしている透も「唐揚げ嫌いな奴、この世にいない説」を唱えるぐらいには好きだ。

 

「カロリー高いけど、麗ちゃんあまり気にしないタイプ?」

 

 涼風は眉を八の字にして聞いた。

 年頃の少女たる者、カロリーバランスは気をつけているに違いない。もしかしたら……と思って彼女は聞いたのだ。

 

「多少はって感じです。だけど今みたいに誰かの家に遊びに行ったり、出かけたりする際は気にしないですよ」

「そらそうか、気にしてたら作らないもんね」

「ふふふっ、確かにそうですね」

 

 麗と透の姉、涼風との関係性はかなり長い。

 透と同じ、もしくはちょっと長いまですらある。理由としては麗が自分の抱く感情に気づいた際、ちょくちょく涼風に相談していたというのがあった。

 同じ女子、そして共通の知り合いで……気軽に相談出来る身近な存在。仲良くなるのにそれほど時間はかからなかった。

 

「本当……立派になられて」

「涼風さん? 何故ウチの胸を見ながら……?」

「私も欲しかったナー、パイオツ」

「あら直球」

 

 涼風は貧しい胸元を死んだ目で見ながら、皿を机の上に並べる麗の胸を見る。麗は特別大きい訳じゃないが、一般的には大きい部類に入る。対する涼風は実りが乏しい、何故だ何故だと偶に弟に聞いたりするが、肝心の弟は姉からそんな話題を聞くだけで顔色を悪くして逃げてしまう。

 

 血のつながった家族の生々しい悩みを聞いて、単純に引いてるだけなのだが……涼風からすれば貧相すぎて気持ち悪いってかクソがと思ってしまっている。

 

「涼風さんは彼氏さんいないんですか?」

「1年前に別れたわい……」

 

 より目が死ぬ涼風。

 流石の麗も「しまった」と思った。

 

「なるほど……でも涼風さん綺麗ですし、優しいからもっと大切にしてくれる人現れますよ」

「代わりなんといらねーって思える人がいいんだけどなー」

 

 それはかなり同意する――麗は既に代わりなんて選択肢はこの世にない。何があっても、例え天地がひっくり返り、この世の理が変わろうとも代わりは作る気なかった。

 

「見つけたら世界変わりますよ」

「……麗ちゃんさぁ」

「はい?」

「透とまだ付き合ってないの?」

 

 ピタリと麗は動きを止めた。

 

「……まだ何ですよー」

「えー、さっさと付き合いなよ」

「透がね……ほら」

 

 と麗は哀れみの表情を浮かべた。

 涼風は一瞬で察して「ぷっ……!」と笑ってしまった。

 

「鈍いからって言いたいの?」

「はい……ウチ……めちゃくちゃ攻めてるつもりなんですけど」

「麗ちゃん、一言言っておくわ」

 

 残念そうに眉を下げる麗を見て、涼風はポショリとか細い声で言った。

 

「透にはちゃんと伝わってるよ」

「え……」

「だからゆっくり堤防崩しな、あいつを雄にしてやれ」

「雄……って」

 

 流石にそこまで一気に飛躍は出来ないとは思うが、麗としてはかなり嬉しい内容だった。もしちゃんと気持ちが伝わっていて、あれだけ距離を詰めても仲良くしてくれるのならば、もっと攻めても良いのでは――と。

 

「さて……そろそろチキン――もとい透を呼ぶわね」

「ふふふ……そうですね」

 

 

       *   *   *

 

 

「ご馳走様」

「はーい、流石男子高校生! 良く食べるわね」

「透も男の子なんだね」

「……そうだね」

 

 僕は麗がなんか色々意味深な言葉を言ってるなと、内心で思いながら皿をシンクへ運ぶ。

 

 結論から言うと姉さんと麗が作ってくれた唐揚げは、ひっくり返るぐらい美味かった。唐揚げなら何でも美味いだろと言われそうだが、麗が作るからもっと気持ち的に美味いのだ。

 姉は知らん、透がチキンだから唐揚げにしてみたと言った際は危うく正拳を食らわせたくなった。

 

「あ、そうだ! 透ぅ……こっち来なさい」

「何……姉さん」

 

 洗い物を済ませて、どうしようかと思案していると姉さんが嫌な笑みを浮かべて呼び付ける。麗も興味深そうに寄ってきたが、透に用があるからちょっと借りるよと言って離れる。この時点で嫌な予感がする、姉さんは場を引っ掻き回す事に悦を感じる異常者だからだ。

 

「何、廊下に呼び付けて……僕は」

「透、私からの餞別だ……受け取れい」

 

 そう言って姉は透に何かを握らせる。

 何だこれと思って手を広げると――コンドームの包みだった。

 

「防音じゃないから、声は控えめにな!!」

「っ何渡してんじゃ!!!」

 

 スパァンとコンドームを床に叩きつけた僕は、怒り――ではなく恥じらいで顔を赤くする。僕らはまだ付き合ってないし、例え麗と泊まっていくからとは言え、ここは実家だ。

 

 もう一度言う、実家だ。

 如何に仲が良くなっても実家で致すのは嫌だった。

 

「だって若い男女が夜を共にして、何も起きない訳ないでしょ? 透は高校生だからリビドー有り余ってるだろうし……ね?」

「ね? じゃないわ! しないから! つーか姉さんのだろこれ!?」

「私は別れたから使う予定ないんだよ、うるせーちくしょー……私を殺す気か……誰かいい人いないのか……貧乳だけど」

「面倒な貧乳め……!」

 

 姉さんが血の涙を流しそうになっていたが、僕は無視する。しかし姉さんは僕が戻ろうとしたタイミングでズボンにあったポケットに手を突っ込む。

 

「なにを――」

「それは持っておきなさい、マジだから」

 

 珍しく真剣な声で姉さんはリビングに戻る。

 僕は苦い顔をしながらポケットに手を突っ込む――コンドームは戻されていた。変に意識したせいで、僕の中でますます存在感が大きくなっていく。

 

「はぁ……」

 

 とりあえずどっかに隠すか何かしよう。

 僕は部屋に戻り、貰ってしまったコンドームをデスクの上に置く。とりあえずこいつは後回しにしよう、何も僕自身に彼女をどうこうしようという気持ちはない――のだが。

 

「僕だって男だ……性的欲求がない訳じゃないしな……」

 

 麗みたいな美人に迫られたら、そりゃ理性はグズグズになる。いやいや全く僕、エロ関連興味ないですよなんて高校生になってそんなムーブは出来ない。こちとら普通の男子高校生だ、色香に惑わされる年頃である。

 

「でも不誠実でいたくない……」

 

 まだ迷いがある以上、僕は彼女と深い関係にはならない。

 何故迷っているのかもわからないのだ。そんなフワフワした状態で麗と関係を結べば彼女に失礼だ。自分の命より大事な彼女を傷つける真似は……絶対に出来ない。

 

「……はぁ」

 

 モヤモヤした気分のまま、僕は寛ぐ。

 そういや麗はどこで寝るのだろうか? 多分姉さんの部屋だと思うが、リビングとか言い出したら布団も用意しないといけない。

 

「ちょっと……だけ、休憩しよ」

 

 まぁまだ夜は長い。

 現在時刻は午後9時前、寝るには早すぎるぐらいだ。

 

「すぅ――」

 

 僕はベッドに寝転び、そのまま目を閉じる。

 精神的な疲れから意外と早い段階で僕は意識を無くした。

 

 

        *   *   *

 

 

 ――る?

 

 誰かの声が耳に入る。

 僕は薄っすらと目を開けた。いけないどのぐらい寝てしまったのか――と考える前に、僕は目の前の光景を見て固まった。

 

「あ、透……起きた」

 

 目の前に麗が寝そべっていた。

 姉さんから借りたパジャマ姿で添い寝していた。

 

「な……麗……」

 

 驚く僕、麗は艶やかにニコリと笑うと手を伸ばして、頬に綺麗な手を添えた。心臓がバクバクと激しく脈動し、顔に血液が集まっていく。至近距離で見る麗の顔は僕の心を撃ち抜いて、魂すら虜にしてしまうような魅力があった。

 

「一緒に寝る?」

 

 普通に告げられた言葉が、耳朶に触れて僕は身体を震わせた。

 

 夜はまだ終わらなさそうだった。




想像よりエチチになりそうな予感が
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