寿命を13年削ればどんな相手も倒せるTS転生者の英雄譚   作:匿名K

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1話 見殺し

 1974年8月11日、日本国某県某市内にて、後に魔獣と呼ばれる存在が初めて観測された。その魔獣はイノシシに似た形をしてた。当時は山から下りてきた普通の獣だと誤認され警察と地元猟友会が対応を行った。だがその対応は間違いであった。

 

 最初に警察・猟友会・野次馬、合計23名が犠牲になった。

 それを皮切りに魔獣の進撃は始め暴虐の限りをつくした。魔獣が練り歩くごとに家が壊され人が殺される。

 

 市が半壊した時点で当時の県知事は自衛隊に災害派遣を要請。しかしそれも無駄であった。魔獣には銃弾や爆薬の類を無効であり、かえって犠牲者を増やす結果になった。

 

 もはや対処は不可能と思われた時、ある一人の男が死闘の末に討伐した。男の証言によれば急に力が湧いて出たとのこと。

 

 後に高津事変と呼ばれる一連の大惨事の後、魔獣の出現報告も世界各地で多発した。そしてそれと同時に魔獣を討伐した男と同じ力を持つ者も多数確認された。

 

 日本では魔獣と戦える力を持つ者達のことを魔獣と闘う戦士、魔闘士と呼称されるようになった。

 世界各国は魔獣への脅威に対抗するために魔闘士達の管理を行う組織を作り出した。

 

 日本においてそれは魔闘省と呼ばれることとなった。

 

 という現代ファンタジー的な世界に転生してしまったのが伊佐 奈美こと私だ。前世は身寄りのないオジサンで今はTSして女になってしまった。

 そして都合が良い事に今世の私は魔闘士だ。

 

 女になったのは嫌だったが魔闘士になったのは最高だ。なぜなら中二病的な妄想が具現化できる。男はいくつになっても心に中二病を飼っているんだ。…いや今の私は女だけど。

 

 中二病大歓喜なことに魔闘士には固有魔術という概念が存在する。

 私の固有魔術は【即死魔術】。魔力を相手を即死させるビームに変換し放つことができる固有魔術だ。つまりアバタケダブラのようなものだ。実際、ビームの色も緑色だし。

 最強の固有魔術に見えるだろう。だが実際は違う。

 

 欠点は色々とある。

 ①当たり前だがビームを避けられたらどうしようもない。

 ②即死させられる相手は格下のみ。

 ③格上や同格相手にはケガすら負わせることができない。

 

 【即死魔術】は雑魚狩り特化の固有魔術だったのだ。。

 だから私は全ての魔獣よりも格上になろうと鍛錬を重ねた。全てが雑魚扱いできるならば【即死魔術】を十全に使いこなすことができる。

 だが才能は凡庸だった。どれだけ頑張っても中堅程度の魔闘士にしかなれなかった。

 

 しかし私には「切り札」があった。今は亡き父が残してくれた【即死魔術】の取り扱い説明書。そこには寿命を13年を代償にどんな格上ですら倒せる奥義、寿命砲の存在が書いてあった。ちなみに父も【即死魔術】を持っており、「切り札」を何度も放ち早死にしてしまった。…あの時の父は、魔獣に母を殺されたショックでおかしくなっていたのだ。

 

 私は「切り札」を使う気にはなれなかった。私は長生きがしたい。なぜなら前世(中年)で早死にしたから。死にたくないのは誰だって同じだろう。

 しかも、代償となる寿命が13年なのだ。1年とかならまだしも余りにも代償がデカすぎる。365×13=4745日を無駄にするのは絶対に無理だ。

 私は絶対に寿命を消費しない。

 

 ◇◆◇

 

 親から受け継いだバイクに乗り町をドライブ…ではなくパトロールをする。

 私も今や華の高校生。普通二輪免許を取り迅速に縄張りを警邏できる。

 

「ビー!ビー!近くに魔獣が発生しました」

 

「おっ!出た出た。さて座標は」

 

 魔闘省の開発したアプリ、魔獣アラートから報告がアラームを鳴らしながら報告する。こいつは魔獣がどこに出て来たかをいち早く伝えてくれる便利なアプリだ。

 早速、私は座標の場所に向かう。そこでは一般人が小型犬サイズの魔獣に襲われている真っ最中だった。見た感じ相手は自分より格下っぽい、ならば勝てる。

 

「死ねぇ!」

 

 先手必勝、私は即死ビームを放つ。それはそのまま魔獣に直撃した。つまり相手は死ぬ。魔獣は人を襲う前に倒れ煙を出しながら消滅する。そして煙が晴れると宝石のようなものが出てくる。この宝石の名前は魔結晶、これを原材料に色々な物が作れる。

 

「えっ!?あ、貴方は魔闘士ですね。助かりました」

 

 さっきまで魔獣に襲われていた人がお礼を言ってくる。やっぱこういうお礼を言われるとやりがいがっていいよな。

 

「ええ、貴方が通報者ですね」

 

「そうです。けどコイツだけじゃないんです」

 

 え?なにそれは。

 

「GRRRR」

 

 さっき私が倒した魔獣よりも遥かに大きい、車サイズの魔獣が路地裏から出てくる。大量のお供の魔獣を携えて。

 反射的に奴らに向けて即死ビームを乱れ打ちする。お供はそれで倒せた。だが問題は…

 

「GRRRRRRRRR!!!」

 

 親分の魔獣だ。やばい、格下じゃないから即死ビームが効かない。しかもお供を殺されてか親分魔獣はぶち切れている。

 全身に魔力を巡らせて体を強化する。こうなったらステゴロ勝負だ!

 スマホで救援要請をしつつ殴り合いを始める。私の固有魔術はアレだから身体能力は人並み以上に鍛えてる。だが相手も中々に強い。戦局は五分五分だった。…私に守る相手がいなければ。

 

 魔獣は通報者に向けて炎を吐いた。【火炎魔術】だ。コイツ…固有魔術を使えるタイプの魔獣だったか。仕方ない。私は通報者の前に立ちはだかって魔獣の攻撃をモロに受ける。アツッ!魔力を放出してある程度は相殺したがかなり効いた。

 

「GRR!」

 

 嬉しそうに魔獣は叫び声をあげる。私は全く嬉しくないけどな。

 それにしてもこの魔獣、魔闘士が一般人を守る仕事だと気づいてるような動きをしている。知性があるタイプでもあるのか?

 

 さてと、どうしたものか。かなり劣勢になったわけだが。このダメージでは殴り合いはできないだろう。

 逃げるか。逃げるとして通報者はどうする?今の私に彼を背負って逃げる余力はない。つまり見捨てる以外に選択肢はない。いや選択肢はある。切り札、寿命砲だ。

 

 だが私の寿命13年を代償に助かるのは通報者だけ。割に合わない。それになんで赤の他人相手に自己犠牲しなくてはいけないのか。…私は英雄(ヒーロー)じゃない。

 

 全力で後ろに振り返る。そして魔獣から遠ざかった。

 

「え、ちょっ!待っギュブッ!」

 

 通報者が魔獣に捕食される音がする。すまない。私は私の事が大事だ。死にたくない。そして捕食し終わった魔獣は私を追ってくる。私は人通りの少ない場所を選んで逃げる。逃げて逃げて逃げまくる。そうして時間を稼いでいると魔闘士が数人ほどやっていくる。救援要請をしておいてよかった。

 

「伊佐のとこの娘さんか。良く持ちこたえてくれた。後は任せろ」

 

 (伊佐)はお言葉に甘えて休む。彼らの実力は私と同程度、中堅レベルだ。つまり私が複数になった感じだ。私1人相手に五分だった魔獣に勝ちの目はないだろう。魔獣はそのまま普通に討伐された。

 犠牲者は私が見捨てた1人だけだった。

 人を見殺しにしてしまった。助ける力はあった、寿命13年を使用するという枕詞がついてるが。死んだ通報者は若かった。おそらく20年以上は生きていたであろう。13年の犠牲の為に20年以上を見捨てた。最大多数の最大幸福からすると13年の寿命を消費した方が良かったのだろうか?

 

 ああ、無駄に苦しむだけならこんな力なんて無かったらよかったのに。




●用語紹介
・魔獣:なんかいきなり出て来た恐ろしい存在。魔力を纏ってない攻撃をシャットアウトする特性を持つ。死ぬと煙を出して魔結晶が出てくる。

・魔闘士:なんかいきなり出て来た超人。「士」という字は男という意味を持つので女の魔闘士に配慮できてない名称であるとしてフェミニスト団体から名称変更の圧力をかけられている。

・魔力:魔獣や魔闘士に流れている。超常の力を発揮するための燃料。

・固有魔術:魔闘士や一部の魔獣が持つ特殊能力。魔闘士は固有魔術しか使えないわけではなく専用の固有魔術を持っていなくても魔力の放出や身体能力の強化くらいはできる。

・魔結晶:魔獣を倒した時に現れる物体。色々と使い道がある。魔闘士は魔結晶の売買と政府からの補助金で生計を立てている。
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