寿命を13年削ればどんな相手も倒せるTS転生者の英雄譚 作:匿名K
「おはよ!奈美!」
「おはよ。由香」
高校の同級生にして親友、速水 由香に挨拶をする。
今は1限が始まる前の時間帯だ。
「元気ないね。もしかして恋の悩み?」
「いや違うし。彼氏なんて作る気もないし」
「えー、奈美は美人さんなんだから作ればいいのに」
そう言いながら由香はブー垂れる。私の性自認は男だ。そしてゲイでもない。男とニャンニャンするなんて考えるだけで寒気がする。絶対にやだ。
「今は魔闘士の活動に集中したいし」
「ならなおさらじゃない?よく知らないけど政府は魔闘の力を持つ人たちの結婚を推奨してるとかなんとかあるじゃん」
彼女の発言は的を射ている。
事態は5年前に遡る。「大魔獣6号」と呼ばれる魔獣が大分県に出現した。その魔獣は圧倒的な強さを持っていた。県内の魔闘士が総出で討伐に当たるも全く歯が立たず全滅。死者は最終的に14万人を数えるほどに暴れに暴れた。事態を重く見た政府は魔闘士5000人規模での大討伐作戦を敢行。なんとか討伐出来たものの犠牲者は多く出てしまった。
つまりは魔闘士が不足しているのだ。そして魔闘士同士で子作りした方が魔闘士が生まれる確率が高い。だからこそ日本政府は不足を解消するために魔闘士同士の結婚を奨励しているのだ。
冗談じゃない。私は産む機械になる気はない。私は人間だ。
「そんな政府の奨励なんか知らないし」
「彼氏が欲しかったらいつでも言ってね」
「…ありがと」
ありがたくはないけど。
由香は普通に彼氏とか作りまくっているし遊びまくっている系の女子だ。
「話、変わるけどさ。進路、どうしようかなぁ」
今の私は高校2年生。進路のことを本気で気にするほどじゃないが割と。気になるお年頃だ。まあ高卒で魔闘士専業になるというルートが決まっている私には関係のない話だが。
「私はそのまま魔闘士を続ける」
「本当、もったいないよね。こんなに美人で頭もいいのに。固有魔術ってのも?あんましなんでしょ。この際、辞めちゃってもいいんじゃない魔闘士?」
私は遺伝子が良かったのか美人として生を受けた。そして学業も高校の授業は2週目なので余裕だった。
才色兼備の完璧JKなのだ私は。ぶっちゃけ魔闘士を辞めてしまうのも悪くはないとは思う。
だが私には辞めれない理由がある。
「私は伊佐家の当主だし、魔闘士は不足してるし、色々とあるのよ」
魔闘士を続ける理由、3代続く家の当主としての義務感、魔闘士が不足してることへの社会貢献。それらだけが理由じゃない。
私は転生者だ。そして転生者という存在は生まれながら罪を背負った存在だと思っている。だってそうだろう、楽しみにしてた可愛い娘の中身がよくわからん中年男性になるのだ。
だから両親に償いをする必要がある。だから父が望んだように。だから魔獣に殺された母の仇を撃つために。だから魔闘士になるのだ。色々とあるのだこちらにも。
「別に気にしなくてもいいんじゃない?奈美は伊佐であるかもしれないけど奈美は奈美なんだよ」
本当に出来た親友だ。その言葉だけで救われる。けど私は魔闘士であることを続ける。
償い以外にも超人的な身体能力で戦う中二心とか、給料が良いとか、進路に悩まなくて楽というプラスな理由もある。色々とあるのだこちらにも。
そう思った時、魔獣アラートが鳴り出した。
「大変だ!魔獣だ!」
クラスの誰かがそう言うと教室内は恐慌状態になる。
さてと、ここは魔闘士として動かないといけない場面だな。私は息を大きく吸い込んでこう吐き出した。
「安心して!私がいる!」
クラス中に私の声が響き渡る。
魔闘士は魔獣を倒すものだがこういう時に避難を促したり落ち着かせるのも業務の一環なのだ。
「…ああ、そうか伊佐は」
「奈美ちゃんってば魔闘士だ」
「なら安心だ」
よし!これで恐慌状態も緩和されたな。
次は魔獣の場所を特定だ。スマホを起動して魔獣アラートアプリの通報場所を見る。
「伊佐ちゃん。ここで守ってくれるよね」
由香とは別の女子が心配そうにそう尋ねる。
残念ながらこの高校で魔闘士をやっているのは私しかいない。つまり近場で対処できる人間は私だけになる。
「ごめん。通報場所に行かないといけないから。みんなは私が魔獣を食い止めてる間に逃げてね」
私がそう言って場所に向かおうとすると由香がこう言ってきた。
「死なないでね奈美」
「死なないよ由香」
まあ実は一回死んでるんだけどね。
私は脳内でツッコミを入れながら通報場所に直行する。場所は1-3の教室。つまり後輩達がいる場所だ。
「む?なにものだ?」
1-3の教室の教室は阿鼻叫喚の地獄であった。全てが食い荒らされていて血だまりと先程まで人であった物が無造作に散乱している。
そしてそんな地獄の中心にいるのは人型の魔獣であった。紫肌の亜人のような見た目をしている。
魔獣の位階、それは下級魔獣、中級魔獣、上級魔獣、大魔獣の4種類だ。そして固有魔術を持っているか、知性があるか、人語を話せるなどの要素があると位階が上であることが多い。そしてコイツは3つのうち2つを満たしている。つまりヤバそうということだ。
「この学校の人間。良くも後輩達を殺したな!」
私はそう言って敵意が高い演技をする。そして教室一杯に即死ビームを放ち部屋を光で満たしていく。どうせ相手は格上なので効いてないが目くらましにはなるだろう。その間に私は退散だ。私は雑魚狩り特化マン、格上にはとことん弱い。だから全力で逃げる。
「む!?敵意があるのかないのか分からんなキサマ」
回り込まれた。魔獣の爪が私の腹に炸裂する。これは格上の攻撃だ。そのまま吹き飛んで校舎外、校庭にまで出てしまった。
かなりのダメージを受けてしまったが吹き飛ばされたことで相手と距離を取れた。このまま逃げればいい。
「奈美?」
「由香?」
偶然にも由香が校庭にいた。逃げてる途中にかち合ってしまった。まずいな魔獣が来てしまう。逃げれない。
「早く逃げて!」
「え、うん」
「逃がすとでも思うたか?」
魔獣が私達の前に立ちはだかる。由香は余りの恐怖からか立つすくんでいる。
2mはあるであろう巨漢が此方を見下してくる。だがこちらに攻撃はしようとはしてこない。どういうことだ?
「ふむ、貴様ら魔闘士とやらは魔の力を持たぬ人間を守るのが使命、いや矜持だったな」
「それがどうした魔獣」
「取引をしてやろう。魔闘士の女。そこの女を殺せ。さすれば貴様の命を助けてやろう」
「信じられるかそんなもの」
魔獣というのは本能のレベルで人類に対する悪意しかない存在だ。こんな取引なんて信用できるわけがない。
「ふむ、ならば縋らせるまで追い詰めてやろうか」
そう言うと魔獣の姿が消える。いや違う。速すぎて見えてないだけだ。私の顔に容赦なく攻撃が浴びせられる。テメェ。こちとら自認は男だけど見た目は女の子だぞ。
「奈美!」
「ククク、どこまで追い詰めたら貴様の素が出てくるのだろうな」
まずいな。この強さ、コイツは間違いなく上級魔獣だ。そしてこの地域に上級魔獣を単騎で倒せる魔闘士は存在しない。つまり応援は期待できない。…打開の目はないことはない。「切り札」寿命13年を消費して放つ寿命砲だ。
他には由香を殺せば見逃してくれる…いやそれは信じちゃだめだろう。どうせ私が由香を殺した後に私も殺されるだけだ。
このままでは魔獣に皆殺しにされてしまう。ならば選択肢は1つ、放ってやる。寿命砲を。
奴は勝ちを確信し油断している。放つなら今!
私は寿命砲を放った。
「喰らえ!」
「む?さっきのと同じではない…ガ八ッ!」
寿命砲が直撃した上級魔獣は言葉を言い終わる前に倒れ込んだ。そして煙を出して魔結晶だけを残した。倒せた。倒せたんだ。…初めて使ったけど本当に父の言う通り格上もきっちり殺せるんだな、これ。正直半信半疑だった。
「ありがとう奈美!」
由香が涙を流しながら感謝をしながら抱き着いてきた。
けど13年を消費した。私が生きれたはずの13年を消費した。寒気が全身を襲う。いやこれは私が生き延びる為に必要だった、使わなければ死んでいたと考えよう。実質チャラだと考えよう。
「ちょ…傷が痛む」
「あ!ご、ごめん」
しかし、やるなら初手で撃っといた方が良かった。
まあいい、反省会はなしにしよう。
後輩の仇は取れた、親友と自分の命を守れた。それでいいじゃないか。
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