寿命を13年削ればどんな相手も倒せるTS転生者の英雄譚 作:匿名K
「全治2か月ね。後遺障害はほぼなし。流石は魔闘士、頑丈だね」
上級魔獣を倒した後の私は救急車に乗り病院へと運ばれた。そして手術を受けて数日がたった。
今は病室で医者から怪我の様子について解説を受けている。2か月か。割と長いな。
「あと、魔闘省の役人が来てるけど面会します?一応、追い返すこともできるけど」
「面会を希望します」
役人が何の用だろうか?とりあえず断る理由もないので面会することにする。
そうして待っていると病室にパリッとしたスーツを着た、いかにもキャリアウーマンといった身なりの女性が入ってきた。
「おはようございます伊佐さん。そして面会を許可してくれてありがとうございます。私は魔闘省の内田 佳代と申します」
「あ、はい」
「単刀直入に言いましょうか伊佐さん。先の上級魔獣討伐時になにがあったのですか?」
内田佳代さんはそう言って私が寝ている病床に近づく。
あー、そういうことか。確かに疑問に思うだろうな。いいとこ中級レベルの小娘がいきなり上級魔獣を倒したのだから。
寿命を13年削って放つ寿命砲の存在は父と私共に魔闘省に報告していない。寿命砲を編み出した父は
「私が倒しました。周りにたくさんの生徒がいたでしょう。彼らから聞いてないのですか?」
「ええ、それは多数の生徒からの証言を得られました。しかし、その、貴方の魔闘士の強さは中級魔獣を倒すのがやっとだと聞いています。なぜ上級魔獣を単騎で倒せたのですか?」
「それは秘密です」
「秘密ですか…わかりました」
佳代さんはあっさりと食い下がる。これには魔闘士の固有魔術事情が関係している。
固有魔術とは千差万別。秘密にすることによって力を発揮する固有魔術や恥ずかしい言動によって力を発揮する固有魔術があるのだ。そういう事情があるので魔闘省は魔闘士の固有魔術に深入りすることはない。
もっとも私が寿命砲を隠蔽する理由はそういう事情ではない。
私は恐れている。もし寿命砲の存在がバレてしまえば、今まで見殺しにしてきた人達の遺族から恨まれることを。また上級魔獣が現れた時に寿命砲を使えと無理強いされることを。
怖い。怖くてたまらないのだ。だから私は隠蔽する。隠蔽すれば恨まれないし無理強いの恐怖から逃げれる。
「貴方が討伐した上級魔獣の魔結晶についてですが魔闘省から買取の打診が来ています。どうしましょうか?」
「買取でお願いします」
魔結晶、魔獣を倒すと出てくる物。そしてそれは倒した魔獣の等級が高いほど値段も高くなる。上級魔獣の魔結晶だと2か月魔闘士活動が出来なくなってしまう損失を帳消しどころか超越してしまうほどの金が手に入る。学業と魔闘活動で二足の草鞋のせいで収入が低い私には嬉しい話だ。
「ええ、ありがとうございます。ではそのように手続きを致します。…それと何か困ったことはありませんか?」
「特にはないです」
「そうですか。その、これはオフレコなのですか伊佐さんは1人で家を切り盛りしてるのですよね」
「はい、そうですね」
魔闘士というのは一族単位やチーム単位で魔闘活動するものだ。個人で活動する人間は稀だ。なぜ稀なのかというと魔闘活動に関する行政書類やら確定申告やらを1人でやるのは大変だからだ。経験者の私が言うんだから間違いない。
「色々と大変でしょう。これ、私の電話番号です。何か困ったことが起きたらここに電話してください。必ずとは言えませんが出来る限り力になります」
佳代さんは電話番号を渡すと病室を立ち去った。魔闘省の役人が特定の魔闘士に肩入れしすぎるのはよくないことだし、それは彼女自身が良く分かっているだろう。
同情、だろうな。ありがたいことだ。
まだまだ面会希望者はいる。まずは由香達、学校のクラスメート達だ。
彼女達は私のお見舞いに来てくれたようだ。
「大丈夫?奈美」
「うん、大丈夫。そっちこそ大丈夫?魔獣のトラウマとかない?」
「大丈夫だよ。だって奈美が守ってくれたもん」
「ふふ、そうだね。けど守り切れなかった人たちもいる」
あの上級魔獣が出した被害は27名。上級魔獣が殺す平均被害者数からすれば遥かに少ない人数だろう。とはいえ人の死は人の死だ。
「あー、そうだけどそれは仕方ないじゃん。教室にいきなり魔獣が現れるなんて予想できないよ」
「そうだね」
「暗い話しない方がいいよ。ほらこの記事を見て奈美。時の人になってるよ」
奈美がそう言ってスマホの画面を見せてくる。そこには「【若き新星あらわる】上級魔獣を単騎で倒した謎の女魔闘士 伊佐奈美とは何者なのか」というネット記事があった。
え、なにそれは。というか仕事が速いなマスコミ。
「あんまし期待してほしくないんだけどね」
「またまた謙遜してぇ」
由香はそう言って笑う。寿命を削った事実は言わない方がいいな。きっと彼女の傷になってしまうから。彼女の笑顔を奪いたくない。
そう思っていると私のスマホからメールが届いた時の着信音がした。またか。由香はそれに注目した。
「新着メッセージがありますだってさ。誰から?」
「地元の魔闘士仲間。お見合いのお誘いされてる」
元から私は3代続く魔闘士の家系の若当主として割と有名だ。そこにきて上級魔獣を単騎で倒した一件だ。地元での注目は最高潮に高まった。
魔闘士は魔闘士同士を掛け合わせると生まれやすい。そして強い魔闘士は強い魔闘士同士を掛け合わせると生まれやすい。だから強いor強い固有魔術を持ってる女は最高の跡継ぎを産める優秀な母胎と見られているのだ。はっきり言って凄い気持ち悪い価値観だ。優勢思想マックスでナチスだ。
そんな気持ちの悪い話を知らない系乙女の由香はウッキウッキでこちらに絡んでくる。
「えええ!彼氏とかじゃなくてお見合い!?収入は?ルックスは?性格は?お見合いは受けるの?」
「いや条件関係なく全部断るけど」
由香は「えぇー」と不満そうにブー垂れる。私の自認は男だ。絶対にお見合いとかしないし絶対に結婚しない。…いや絶対という言葉を使うのはやめよう。なにせ「絶対」にしないと決めた寿命削る寿命砲を使ったからだ。「絶対」は私的に縁起が悪い。えーと、必ずだ。必ず結婚しない。
◇◆◇
場所は変わり、人通りのない田舎の廃墟。そこには2体の魔獣が話し合いをしていた。
「なんでクゥインクゥインクゥが倒されてんだよ!?作戦の決行はどうするんだよ!」
「落ち着いてくださいブオナパル。仲間が殺されて悔しいのは分かりますが作戦の大局には影響はありません。犠牲なったクゥインの為にも恙なく作戦を決行しましょう」
「ああ、畜生!畜生!誰だよ!伊佐奈美ってやつは!クゥインの奴を殺しやがって!何が若き新星あらわるだ!」
ブオナパルという魔獣はスマホの画面に映るネットニュース、「【若き新星あらわる】上級魔獣を単騎で倒した謎の女魔闘士 伊佐奈美とは何者なのか」を見ながら激昂する。
彼らは伊佐が倒した上級魔獣、クゥインクゥインクゥの仲間である。
「おい!ラングマス!お前言ったよな!あの地域は上級を倒しうる戦力のない穴場だって。殺戮衝動の解消に丁度いい地域だって!それを信じて出向いたクゥインは死んだぞ!どう責任を取るんだ!」
ブオナパルはラングマスと呼ばれる冷静な魔獣に詰め寄る。
ラングマスは気まずそうな表情をする。
「…確かに、あの地域は6号討伐に魔闘士を動員しすぎて魔闘の力の減少が著しい地域だったはずです。それこそ上級を倒せるほどの戦力なんてないほどに。私としても想定外でした」
「言い訳はいいんだよ!ああ!許せねぇ!許せねぇ!おい!ラングマス!倒しに行くぞ!復讐だ!この伊佐とかいう小娘を無残に殺してやる!」
「ダメです。タイミングを考えてください。作戦決行の2か月前ですよ。貴方まで返り討ちにあったら流石に困ります」
「俺がぁ!誰にぃ!負けるってぇ!」
「貴方が伊佐奈美に負ける可能性です。作戦通り、7号討伐にノコノコとやってきた魔闘士のトップ層を殺さなければ。1人だけならまだしも2人も同志がいなくなれば苦しくなります。ここは抑えてください」
「…クソが!」
ブオナパルは悔しそうに地団駄を踏む。そして一呼吸置いた後に
「じゃあ、作戦が終わったら殺していいんだな」
「ええ、その時はクゥインの仇を取りましょう」
そうして彼らは一応の折り合いはつけられた。
伊佐奈美、彼女は人間以外にも狙われている。
よろしければ感想、評価、お気に入り等いただけますと幸いです。