寿命を13年削ればどんな相手も倒せるTS転生者の英雄譚 作:匿名K
2か月が経った。晴れて退院し邸宅に帰ってくることとなった。
私がまず確認しに行ったのは伊佐家の倉庫だ。倉庫の中には魔宝具という魔力を纏った貴重な品々が入っている。そしてなによりアレがある。
「鏡よ鏡、私の寿命は残り何年」
「ろくじゅうぁはちぃ」
私がそう言うと
その鏡に68年後に死ぬと宣告された。やっぱ寿命が13年も削れている。理論上は6回以上寿命砲を使ったら死ぬ計算だ。
寿命砲を使わないと仮定して今が17歳で寿命が68年だから85歳で死ぬのか。まだ許容できるな。むしろ元の寿命の85+13=98歳が寿命なのが生きすぎなくらいだ。いや人生100年時代とか言われてるし実は妥当だったり?
「はぁ、修行しにいくか」
私は外出し市内にある修行場、魔闘道場に出向く。魔闘士というのは得てして危険人物、並みの魔闘士ですら車を超える速さを出せたりする。ゆえに修行するだけでかなり広い空間が必要になってくる。そこで国は魔闘士が自由に修行できるスペースを提供しているのだ。
「あ、伊佐さんとこの娘さん」
「伊佐さん」
「上級殺しの伊佐だ」
修行場に行くと注目を受ける。道場には私の顔見知りが大勢いる。その中には私に縁談を持ちかけてきた一族の人間もいる。彼らはこの機会を見逃さないようにすり寄って来る。
「伊佐殿、ウチの倅との縁談の話ですが…」
「まだ未成年なのでお答えできません。すみません」
「では婚約という話はどうですかな?」
「それもちょっと考えさせてください」
「わかりました。いつでもお待ちしております」
私は孤独だ。つまり守ってくれる後ろ盾がないのだ。だからこそ周りとの関係に気を使って穏当な受け答えをする。彼らも遺恨を残したくないのかやんわりと拒否すれば反応をすればすぐに引き下がる。
縁談婚約を推し進めたい気持ちも分からんくない。大魔獣6号が魔闘士を殺しまくったせいで魔闘士が不足している。そのせいで魔闘活動に悪影響が出ている。それは、この地域も同様だ。
数年前なら上級魔獣が現れても市内の魔闘士を総動員すればどうにかできたはずだ。だが今は出来ない。治安維持という面でも早いとこバカバカ婚約させてバカバカ子供を産んで欲しいのだろう。
私はそんなことしないけどね。魔闘士という命がけの義務を果たしてるんだから女としての義務は果たさなくいいだろう。
「やあ奈美ちゃん!結婚しよう!」
「イヤ」
開口一番に結婚を叫ぶ男の名前は葦原凪。ただの馬鹿だ。そして私の幼馴染である。
年代が近い魔闘士同士かつ
「何が嫌なんだい。」
「生理的にちょっと」
男との結婚なんて生理的に無理だ。何が無理かって誓いのキスもそうだが結婚後に行われる例の儀式、ニャンニャン(死語)だ。考えるだけでもおぞましい。男とニャンニャンは無理だ。
「…そうか。でも僕は諦めないからね。そうだ!ここは道場だ。僕と君が戦って、僕が勝ったら結婚しよう」
「スパーリングするのはいいけど、結婚はしないよ」
「少しくらいならいいだろう」
「結婚に少しもないよ」
「…まあ別に試合だけでもいいさ。所詮、君の強さに興味があるんだ。噂になってるよね。君がどうやって上級魔獣を倒したかがね」
「…オーケー」
そこ試合決定で。ルールは簡単、コンクリート張りの武骨な部屋で固有魔術アリのしばきあいである。勝利条件は気絶させるか相手に参ったと言わせれば勝ちだ。当たり前だが殺人はご法度だ。つまり私の【即死魔術】は絶対に使えない。もっとも同格くらいの強さを持つ凪相手に使っても意味ないけどね。
「試合だ、試合だ」
「葦原の三男坊と伊佐の娘が戦うぞ」
「今までの勝率では凪の方が上だが」
「バカヤロー!上級魔獣を倒したんだぞ伊佐は。強くなってるに決まってるだろう」
「上級を倒したお手並み拝見ですな」
上級魔獣を倒したニュースは市内の噂になっている。そのせいか観戦者が多い。期待されても困るんだけどな、試合で寿命を13年削って相手殺すなんてできるわけないだろ。
まあいいさ。こっちにも考えがある。そうして試合が始まった。
「さて僕の風を突破できるかな」
凪は逆風を起こす。彼は風を操る【轟風魔術】の使い手。私のピーキークソ固有魔術と違ってシンプルに強い。ムカつく。
だがステゴロなら負けてない。私は体を強化し近づく。
「おおっと!」
凪は軽い調子で距離を取る。逆風のせいで速度が遅くなって近づけない。しかも風の刃をこちらに飛ばしてくるせいでジリ貧だ。
昔はステゴロ対策してない凪を一方的にボコってたっけ。今ではそう簡単に近寄らせなくなって厄介になったもんだ。
「フフフ。どうやら君の身体能力は成長してないね。とても上級魔獣を倒せた魔闘士とは思えない。おそらく上級を倒せたのは【即死魔術】に何かしらの成長があったからだろう。そしてそれはルール的に試合では使えない。このまま引き撃ちで倒させて貰うよ」
まあ一部正解だ。固有魔術に何かあるということとかね。
「ちょっと違うね」
だが間違いも多い、別に【即死魔術】は変化してないし、試合でも使える。
私は
「な!?」
凪は驚いて動きを一瞬止めた。それにつられて
私は掌を握りしめた。そして隙だらけの凪の顎に全力のパンチをお見舞いする。顎が揺れれば脳も揺れる。このまま押し倒せば「甘いな!」…なにっ!凪が手のひらから暴風を放つ。私は暴風によって吹き飛ばされ壁に激突した。
「僕だって体は鍛えてるんだ」
畜生め。威力が足りなかったか。魔闘士の素手での攻撃力は掛け算で決まる。元の筋力×魔力=攻撃力ということだ。つまり女の柔い筋力じゃ攻撃力もヘボい。つぐづぐ女に生まれたのはデバフだ。
「状況は五分五分ってとこね」
「強がりはよしなよ奈美ちゃん。受けたダメージは同じくらいだろうけど、有利なのは僕さ」
そう言って凪は私に向けて強風を吹かす。この逆風のせいで動きがトロくなる。そして相手にとっては追い風となるので動きやすい。
さてと、ここからどう勝ってみようか。私は両手からに即死ビームを出そうとする。
「また撃つフリかい?もうその手にはかからないよ」
「フリじゃないよ!」
「なっ!」
即死ビームで凪の全身が覆われる。もちろん凪は私と同格かちょい上くらいなので効かないどころか傷1つない。
即死ビームは緑色の光線だ。光線、光、つまり目くらましに使える。彼の視界は緑で一杯だろう。
そしてその隙に私は近づき、凪の股間を蹴り上げる。
凪は魔力を全身を満遍なく行き渡らせ体を強化していた。一方の私は足に魔力を集中していた。そして凪と私の技量は同じくらい。どうなったかは言うまでもない。女の筋力でもよく効くだろう。
「うごぉっ!」
凪は悶えて転がる。痛そうだ。こればかりは女で良かったと思える。
だがこれも実戦形式の試合、私は容赦はしない。
そのまま馬乗りになって顎・鳩尾に暴行を加える。
「降参する?凪?」
「こ、降参する」
凪は嫌そうに降参を宣言する。
こうして試合は私の勝利で終わった。
「結局、中級クラスの試合だったな」
「互いにあの若さで中級に至れるのは割とやるとはいえなぁ…」
「上級魔獣を単騎で倒せたとは到底思えん試合だ」
観衆は不満な様子だ。凪を当て馬に私の強さを見てみたかったのだろう。まあ私の能力的に無理なんだけどな。
「コラァ!凪、貴様!」
「げっ、父様」
「なんだあの試合は!6号めのせいで悠兄と中兄が死んだ今、葦原家の跡取りはお前なのだぞ。それがキンテキごときで怯んで負けるとは!なんと情けないことか!」
凪の父親が凪のことを叱責する。彼の兄2人は大魔獣6号との戦いで命を落としている。そして三男坊の凪に次期当主のお鉢が回ってきたというわけだ。
というか自分でやっておいてなんだがキンテキ言わないで欲しい。ちょっと恥ずかしい。
そうして凪が一通り怒られた後に私は彼の近くに寄る。流石に負けた上に親から貶されるのは可哀そうだ。友人として飴を与えてやろう。
「凪」
「なんだい奈美ちゃん」
「結婚はできないけどデートくらいならしてもいいよ」
「本当かい!じゃあ明後日でいいかい」
「いいよ」
股間の痛みはどこへやら彼は小躍りしながらどこかへ行った。楽しそうでなによりだ。
その後の私は自主練をしまくって家へと帰ることにした。
そして明日になった。
私は朝の支度をしつつテレビを見ていた。映った画面はまさしく衝撃だった。
「岐阜県南部にて大魔獣と推定される魔獣が現れました。岐阜県並びに愛知県にいる方は今すぐに逃げてください」