闇鍋の具   作:凍星 奏雨

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プレイヤーネーム「凍星奏雨」Lv96
ビーストテイマー/ウェアウルフ♂

プレイヤーネーム「Sera」Lv19
拳士/ウェアタイガー♀

プレイヤーネーム「アギ」Lv22
戦士/ヒューマン♂

プレイヤーネーム「ライリー・ホーン」Lv42
呪詛使い/妖精♀

プレイヤーネーム「full川(ふるかわ)氾濫(はんらん)」Lv64
魔法使い/エルフ♂

『ヴォルガスト・ヴァッサーロード』
有効属性:雷・毒・打撃
抵抗属性:火・水・斬撃
残存HPゲージ:全損・全損・1/1


凍星奏雨活動記録-Ver.2.5『黄と赤の奔流、孤高の青』

 盾が壊れた――受け止めていた攻撃が強すぎたんだ。極めつけは私の指示、シールドバッシュ主体の運用。

 盾系スキルに習熟していないうちは、シールドバッシュで減る武器耐久値が無視出来ない値なんだ。くそ、なんでわざわざ人に聞いて覚えたと思っている!

 

「――大丈夫っ!」

 

 私は更に一歩前へ出る。アギさんが事前に使ったスキル、後方へ剣を突き刺す動作はつまり、後退を諫めるものではなかろうか。

 なら、護る為には私自身が前に出るしかない。まともに受ければレベル差なんて役に立たない、吹き飛ばされるのが関の山。

 

「――源流励起」

 

 呟いて――私は遥か上空に、杖をぶん投げた。

 眼前に迫る蒼刃。

 

「奏雨さんっ!」

 

 

 《祖術:狼化》《獣の血潮*1

 

 

「グ、……っはははァ!」

 

 バリバリ削られていくHP!

 ゴリゴリ持ってかれる体幹!

 けれど、それだけで済んでいる!

 

 杖を手放し、叡智使いの獣は身を堕とす。

 世界観(クエスト)上禁術同等の――獣化魔法へ。

 地面に爪を食い込ませ、両腕を構えて受け続ける。獣の鼻先が視界に入る、普段と違う関節部の感覚がこれまた気味悪い。

 ライリーさんのヒールが入って、警戒域(オレンジ)になった体力が持ち直し、しかしまた急激に減る――。

 

「っやんだ!」

「Seraさんッ!!」

 

 身体がへたりそうになるのを堪え、空を見上げる。

 投げた杖が戻ってき次第、獣化を解除出来る。……と、私達に影を落とす人影。

 

「待ちくたびれたよっ!!」

 

 飛び上がったSeraさんが、大きく身体を捻り、右拳に光を蓄える。

 

「ありがと、アギさん。もう大丈夫」

「っす、行きます!」

「気を付けてね!」

 

 ……いくら人狼の身体で受けようが、やはり並々ならない猛攻だ。数撃受け切るなんて、余程の低乱数を引いていたか?

 いいや。

 不退転を誓ったアギさんが、後ろから支えていなければ、私の身体はやはり吹き飛ばされていた。

 

「《バリスタ・ナックル》ッ!」

 

 空中を蹴って、急角度で打撃を加えるSeraさん。

 背後から追い越す形で前線に出たアギさんは、片手剣に黄色……いや黄金の光を宿して駆ける。

 杖が落ちるまで数瞬。その間に、私はバングルを付けた左手をめいっぱい広げる。

 

「『統率者の力、借り受ける』」

 

 バングルに刻まれた回路模様が緑色に光った後――掌から、同じような模様が前衛二人へ伸びる。一瞬だ、ゲームの表示バグのように、まさしく光の速さで、回路のような光が私と二人を一瞬繋げた。

 『狼主印のバングル』のアイテムスキルは、視界内のパーティメンバーを一時強化する、パーティリーダー時専用スキル。

 リードを手繰るようにして、より良い狩りへ統率する。

 

「《インパクト・エクスプロード》ッ!」

「《ヒーロースラッシュ》!」

 

 爆音に混じる金色の斬撃。

 主に打撃属性のSeraさんが、人狼長の体幹を揺らがした。

 杖を手に取り、私も距離を詰め始める。黒杖ヴァングラシオの適性距離は近・中距離……こちらも本領発揮だ。

 

――凱岩(がいがん)(はか)らえ遠寧(えんねい)(ほとり)

 

「『穢れた口吻、厭飫(えんよ)知らずの餓鬼遣い――』」

 

――児戯に及ばぬ模擬遊戯。

 

「『――課せ、飾れ、重ね暴け』」

 

 呪文同士が重なる。好機を逃さない二人の魔法使いが、輪唱するように。

 

 《岩乗(がんじょう)戦線法》

「《卑賤なる氷蝶(ひょうちょう)》」

 

 河原、丸石や砂利の底に眠っている土や岩が呼び起こされる。

 地面へ敷かれた魔法陣――full川さんの魔法が岩を、槍や剣などの武器に作り上げ、Seraさんとアギさんの隙間を縫って刻んでいく。

 ひとりでに突き刺さっていく戦争の真似事達。乗じて紛れられては……いないらしい、人狼長が睨み付ける先は、蒼い光を放ちながら迫る私に他ならない。

 

「《バレット・インパクト》!」

 

 が、横合いからSeraさんが打ち込んでいく。素早く抉り込んだ単発の一撃を受け、ややよろけた人狼長――懐へ迫った私は、ダメ押しに氷を放つ。

 触れれば折れそうな細長い氷が人狼長に打ち込まれる。注射針を彷彿とさせる光景、然して患者でもない人狼長は、刺さった氷を振り払わんと大剣を振り上げる。

 それより速く。

 

「食い……散らかせッ!」

 

 それより速く氷針を引き抜いた。

 トッ、と小さい音の後――傷口から氷が溢れ出る。

 身体のナカミを引き抜かれた時、血飛沫は揚々と噴き出るだろう。人狼長から溢れるように出でた氷はそういったものを彷彿とさせた。

 

「なっ、んだこれ……!?」

 

 驚愕はアギさんの方から。意図を掴み損ねて、私は声のした方を見る。

 《岩乗戦線法》が人狼長へ追撃する中、視界は悪いが確かに見えた。

 アギさんの正面に、なにかしらのウィンドウが表示されているのを。

 

 

 時に、このゲーム――この世界は、或る条件を満たすとプレイヤーへ贈られるものがある。

 或る条件とは様々だ。滝登る鯛もかくやと言ったところ、唯の蜥蜴人が空模様を食したりなど。

 贈られるものも様々だ。種族、称号、クエストフラグ――最も多いのは、スキル。

 

 賜った瞬間。

 数多のプレイヤー、大人気ゲームに参加している群体の一ではなく、このゲームの『個人』となることを意味する。

 これは、はてさて誇張だったろうか。

 どうだろう、今新米プレイヤーの前に表示されているウィンドウは、まさしく今後『個人』と成る為の要素に他ならないのではないか。

 少なくとも、彼の中では。

 

 

「あ? これ……??」

「――――……」

 

 アギさんと視線がかち合う。

 ここで『是が非でも承諾しろ』というのは簡単だ。スキルが増えて損はない。

 でも、熟練者から言われたことに応じる――ここに個人の意思はあるのか? あったとて、不純物が多分にあることは確か。

 私はただ視線を送る――それもすぐ、割って入った岩石が妨げた。

 

 さて、私は私の仕事をしなければ。ハメると言ったんだ、詰めはとことん抜かりなく!

 

「『始祖に及ばぬ腑抜けた吐息――人が赦した人の業』」

 

 黒杖の先端から冷気に酷使した気化魔力が漂う。

 些細な変化を跳ねのける、人狼長の怖気(おぞけ)立つ咆哮。

 大技後のボーナスも終わり、《岩乗戦線法》も止んだ今、人狼長の両大剣を止められる人はいない――。

 

「《偽証:氷竜息吹(ドラゴンブレス・オマージュ)》」

 

 原理を排し、過程を侮り、ただ結果だけを求めた魔法使い共のおままごと。

 原理を排し、過程を侮り、ただ結果だけを求めた――即ち、結果だけは真に迫れるリスク(のびしろ)がある。

 放射される冷気――魔力で再現した、竜の真似事が、氷片を張り付けた人狼長を包む。

 

『人狼長の両大剣を止められる人はいない。』

 ……停める(・・・)のならば、私はエキスパートだ。

 

 

▼ 【凍結】ヴォルガスト・ヴァッサーロード

 

 

「形を持ったこの瞬間なら! 斬撃も通る!!」

 

 黄と赤の奔流が視界に飛び込む。

 低レベル――されど、“選ばれた”側の『個人(プレイヤー)』が保有する、秘奥の輝き。

 

「《エクステンド・インパクト》ッ――!」

 

 乾坤一擲とはこのことか。すべてを込めた一撃を、Seraさんは叩き込む。

 爽快な打撃音を一度響かせ――二、三、四、五六七度――!

 《紅蓮裂き・牡丹雪》を見下ろすような多段攻撃、八発分の一撃が、人狼長にクリーンヒットする!

 

「…………」

 

 赤い軌跡を走らせる少年。

 盾を失った赤髪の剣士が、刃のついた勇気で斬りかかる。

 

「ッ――」

 

 『拡張される打撃(エクステンド・インパクト)』の中にいて、けれど、彼の息を吸う音が鮮明に聞こえた。

 詠唱の決め打ちは、少なくともナビゲート中はしないようにしていた。

 その上で――無意識に、自分へ詠唱を許していた。

 

「『森羅万象は流転する――』」

 

「《クルージーン・グラナーデルグ》」

 

 三度の赤い太刀筋が、ダメージエフェクトよりも鮮明で清い赤色を刻みつける。

 

 

 

 縦切り、逆袈裟、またも縦切り。それは雷のような図形を宙へ残す。

 

(……ケルト、ルーン文字!)

 

「『形あるモノはいずれ変わる――』」

 

 アギさんのバックステップを引き金に、図形が勇ましく光を放つと、無数に分かれた枝が人狼長を貫通した。

 いや、枝に見えただけで、あれは。

 

「……赤い稲妻――水に雷は、効果バツグンが相場だろッ!」

 

 図形から放たれた赤雷は、枝のような姿をとって人狼長を貫き――今まで軽減された斬撃ダメージを取り返すかの如く、体力を削っていった。

 

「『流れるままに移り変わり――故に私は否定する』」

 

「あ、やば…………っ」

「痛っ!? あぁっクソ、反動か……!」

 

 八連撃分の一撃、勇者の赤雷、どちらも代償を求め、スキル使用者の動きを止める。

 右手を抑えて鈍い後退をするSeraさん。

 アギさんなんかは、赤雷に包まれて、特殊状態の麻痺を受けている。

 

「『一切の不変を、変わらず散る華を――』」

 

 破砕音、雷撃音が絶え、私の詠唱が聞こえだす。

 だがそれも束の間。

 人狼長が咆哮をあげると大地は揺れ始めた。

 いや、揺れているのは川だ。

 『精霊付きの人狼長(ヴォルガスト・ヴァッサーロード)』の力の源泉。

 

「水、川が……っ!」

 

 背後ではライリーさんが悲痛な声をあげている。

 ラストゲージが半分を切った時、奴は膨大な質量攻撃を周囲に巻き散らす。

 

「『変わらぬままの終わりをこそ望む』」

「アギくんっ!」

「いいから! 下がれって!」

 

 右腕が使えないSeraさんじゃ、たった今麻痺が解除されたアギさんを連れて離れることは無理だ。森の木々すら巻き込む災害級の水流を躱すことなんて。

 

 

「『――キミよ、美しき骸に散れ』」

 

 

 人狼長が両大剣を地面へ突き刺すと、噴火目前の山のように、川そのものが揺れ――敵意ある自然が噴き出す。

 青ざめた清さが私達を攫い流してしまう、その前に。

 私の杖は精神力(コスト)と呪文を受け入れ、先端に爪の先程度の僅かな光を許した。

 

「奏雨さん!」

「これヤバいって――」

 

「《氷壊散華(ダイヤモンドダスト)*2

 

 飛び立った僅かな光は、綿毛のように頼りなく、湧き出た水に飲み込まれた。

 水が光を飲み込んだ。言い換えれば――生体が毒を飲み込んだ。

 

 川から溢れた水が一瞬で、水精霊の意向すら一切抵抗にならず、一瞬で凍り付く。

 

「あんまり手荒だから、停めるんじゃ済まなくなった」

 

 氷が砕ける――爆散、と称して憚らない勢いで、既に溢れ出ていた質量全てを停め、砕いた。

 

「……マジか」

「ぼさっとしない、行こ!」

「っああ!」

 

 言わずとも、二人は人狼長へ駆けていく。クリアという希望を抱いて。

 人狼長は咆える。

 大技を何度も凌がれ、万策尽きたと――浅はかにも判断した外敵達へ突き付けるように、純然たる強さを見せつける。

 流れるように、両手の大剣を扱う人狼長。

 万策なんてなくても、斬り捨てるのに充分な武力を示す。

*1
出典:アメーバ『闇鍋攻城戦〜カーソルの色がそんなに大切か?〜』

*2
出典:アメーバ『 闇鍋強襲狂詩曲〜【都落ち】・返咲〜』




かなめいど世界観の補足二点。

獣化そのものは禁術ではないと思います。
獣人が繁栄させた叡智の都市、ウィズラムがバックボーンに大きく関わっています。
由来を軽く纏めると、獣人だからこそ、完全に獣に堕ちないことこそ叡智の証明となる。故に自分から獣へ近付く獣化魔法が禁術、というものです。
これは別にケモ度が深い獣人を排他する思想ではないので、元々備わっている≒魔法ではない獣化は目くじらを立てられることはありません。
あくまでも、獣“人”として叡智を尊重しようとする気構えが大事、というやつですね。


偽証竜息吹のリスク(のびしろ)とは、立ち回り内の話ではなく世界観についての言及でした。
まぁつまり、人が竜(この場合は“竜”の方が正確かもしれませんが)の域に手をかけてしまっても本当に良いのか、というものです。何のために人は無力なのか、的な。

唯の蜥蜴人が空模様を食したり(氏族食い雨葉さん)といい、なんかアメーバさんの比率が高い話になっちゃったな。
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