闇鍋の具   作:凍星 奏雨

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凍星奏雨活動記録-Ver.Extra2.7

 遍くものを否定する虚無の前に、妖狐とて例外たりえない。

 糾魂で膨れ上がったMPを代償とした、人の身で引き起こした虚無。

 手に負えないと言わんばかりに部屋は揺らめき――五人は、解き放たれた。

 

 

 

――システムログ

――プレイヤー名凍星奏雨

――称号獲得条件更新 [運命の輪]

――職業獲得条件更新 [パレットテイマー]

 

 

 

――ウィズラム

 

 知識の集まる獣人都市。

 朝を迎えたばかりの大都市は、セントラルに次ぐ活気で満ちていた。

 歯車を回しているNPCを横切っていき、奏雨は一目散に電話へ向かう。

 街に設置されている電話か、特定のアイテムを使用することでフレンドと音声通話が出来る。尤も、通知が迅速なメッセージ機能を凌ぐ理由は然程ない。ダンジョンなど指定エリアでは繋がらないのも含めて、多用される機能ではなかった。

 

 ダメで元々。そんな思いで、彼は一人の少女へコールをした。

 

「…………何?」

「悪いね、白金。共有したいことがあって」

「そう。まぁ、話なら聞いてあげる」

 

 武器の手入れ中か、何処かで拠点()でも張ってたか。

 ともあれ、彼女が応答出来る状態にあったのは幸運と言う他ない。

 

「いましがた、ダンジョンで妙な中ボスと接敵してね。

 多分幻惑の類だと思う、通路がいきなりボス部屋になって閉じ込められる。ただの通路だったから、以降は変哲のない通路を気にする形で警戒自体は出来るかもしれないけど、少なくとも、受動的な精神異常耐性で気付いたりは出来ないものだった」

 

 警戒は出来ても、完全な対策は現状厳しいという所感だ。

 藪を突くことは出来ても、突かずに済む方法が見当たらない、と言ったところか。

 

「で、お願いがあるんだ」

 

 危険な中ボスの存在に、ソロプレイヤーへのお願い。

 受話器越しに、小さく息遣いが聞こえた。

 奏雨は何か発言するのかと思い間を置いたが……やや真剣で、大分気まずめな沈黙が流れるだけだった。

 重心を変えて、奏雨は言葉を続ける。

 

「――なるべく踏みまくって攻略、それから共有をしてほしい」

 

 白金の瞼が微かに動く。

 思いもよらない――今までの奏雨ならば、お願いと称して『パーティを組んだ攻略をしたい』とでも言っていたろう。

 

「白金なら、余程相性の悪い相手でもなければやれると思うんだよね。あっ、……二つ返事されるとビビるから、ちょっと論拠挟んでもいい?」

 

 聞こえるように溜め息を吐いて、白金は返事をした。

 これも義理だろうか――つまらない考えを他所に、奏雨は並べ立てる。

 

「中ボスの特徴ね。

 これまでの……。序盤に割り当てられていたダンジョン・フロアボスの強化個体だった。

 私が遭遇したやつは、そのうちなんらかで共有されると思うから、共通項だけ。

 モーション強化。諸々のステ強化。で、問題が……耐性の増加、及び反転」

「属性?」(魔法の属性のことですか?)

「分類」(物理攻撃/魔法攻撃のことなので貴方にも関係ありますよ)

「ふぅん……」(ありがとうございます)

「会敵したボスの本来の特性は物理抵抗。でも、強化版では魔法抵抗になってた」

「それは苦労したわね」(それは苦労しましたね)

「まあね」(まあね)

 

 唾を飲み込み、先の戦いを思い出す。

 結局持っている手札をほぼ使っての戦いだった。

 

「……ただ、苦労すれば勝てる相手だった。言っておくと、あくまでも魔法が主なダメージソースだったよ。

 強化版であるからと言って、反転した耐性が馬鹿な補正かけられてる訳じゃない。

 つまり、いくら相性が悪くても無理ゲーになる可能性は今のところ低いっていう私の独断と勘から来るお願い、でした」

 

 息を吸い込む音が聞こえて、奏雨はすかさず口を挟む。

 

「あぁっと、伝えておきたいのは次で最後。なんで頼むのか。

 これら強化版の共通項だと思って話してるものは、同じダンジョンでもう一体、別ダンジョンから一体ずつの計四体で擦り合わせたものなんだ。

 確定したものとして扱うにはまだ根拠が足りたい。

 ただ、これから先のダンジョンとかでボスの奇襲があることはほぼ確実だと思う。見掛けた三種類のダンジョン、フレーバー的な繋がりは今んとこ全然無いし。ボスにも。

 加えて、同じダンジョンで複数例出てる。踏みまくってっていうのはそういう意味」

 

 

「――ダンジョンボスより中ボスの攻略を優先してほしい」

 

 沈黙。

 ここが引っかかるだろうとは奏雨も思っていた。

 最速の踏破を望む――全プレイヤーのうち、それを可能である有数の前線組に、なんと厚顔か遠回りを望んでいるのだから。

 だからこの要望を最後に回していた。

 話をすべて聞いてもらうため。そして。

 

「踏破することで環境が大きく変わるダンジョンの例は結構ある。

 その結果中ボスが消える、或いは別ダンジョンへスライドして密度が上がるなり、フラグが消滅するなり、プレイヤーに不都合な影響が出るのは結構予想出来る。

 あとドロップがめぼしい。

 これだけ言っても説得力ないから……私のドロップ品だけ。他三つは私から流したくない」

 

 

()(はざ)む紫弓』

 分類:弓

 専用矢使用――MPで生成可能。

 状態異常者特効。

 

 

「私は使い道がないから、ごんさんのギルド経由で然るべきプレイヤーへ回るようにするつもり。

 強力なアイテムがプレイヤーに渡れば、その分だけ攻略は早くなる。平均的なプレイヤーの強さが上がる。その為にも亜種を狩っておきたい」

 

 ダンジョンそのものの情報も併せて共有するべく、既にアポ用のメッセージを飛ばしている。

 或いは他の亜種ボスと戦闘したパーティが、既に伝えているのかもしれないが。

 ともあれ水面下に起きている混乱。情報源は幾らあっても損ではない。

 

「ふぅ……これが最後。序盤のボスって言ったよね。

 もしかしたら、踏めば踏むだけ、残る亜種ボスが絞り込めるかもしれない。

 詳しい条件付けをするにはまだ遭遇例が少なすぎるけど、数重ねれば、その分だけ『序盤のボス』から何が出るのか、候補を用意出来る。……もしかしたらポップするダンジョンで共通点があるのかもしれない。とにかく、亜種ボスは脅威だけど情報源なんだ。

 だから攻略と、共有」 

 

 共有に強調をして、奏雨は深く息を吐いた。

 らしくもない長台詞だ、と自嘲を滲ませた語調で付け足す。

 

「正直、これだけ言った上でだけど――半端な人に踏んで死なれたくないのが半分を占めてる」

「まぁ、考えておくよ」

「よろしく」

 

 電話越しなのを良いことに、まるで了承を得たような笑顔だった。

 徹頭徹尾、白金自身へのメリットを持ち出さなかったのは、互いに分かった上での話だった。

 口約束で縛れる程『神速の担い手』の足は鈍くない。

 

「あー、なるべく椒と……んー、まぁ、塩宮さん筆頭元ギルドメンバーにはなるべく内密にしてくれると嬉しい」

「私から話すことはないだろうけど……確約は出来ないかな」

「分かってる。椒挙げたのはわかってるだろうからなんも言わないけど、元ギルメンには……まぁ、私のメンツが主かなぁ。無茶が諌められたりしたら、遠慮なく私の名前出していいからね、椒にも」

「はいはい」

「ただ、塩宮さんにはさっきの理屈は言わないでくれると助かるかも。あ、なんかこれ今言うのちょっとズルいかもなぁ…………単独狩りの一番の強みは、その分だけ人員が空くこと。で、塩宮さんは多分絶対、そのメリットを踏まえた上で断固拒否する手段でもあると思う。だからしっかり理由があるのを主張すると……」

「まぁ、わざわざ面倒事を大きくする気はないよ」

「うん」

「もう良い? 片手間で済む間なら聞いておくけど、談笑しながら挑める程易いことはしてないんだよね」

「いやぁ、長々と本当に悪かったね。……気を付けて」

「そっちも、随分連帯感を重んじているみたいだけど、趣旨を間違えても面倒は見ないから」

 

 軽い電子音と共に通話が切れた。

 手厳しい忠告を受け、奏雨の口元が緩む。

 

「間違えないよ。お前と違って、免罪符がないと一人は落ち着かないだけ」

 

 受話器を戻して、個室を出る。

 商工会へ出向くには少し早い。その間に戦利品の整理と、それから月詠マキナへの連絡もしなければ。

 

(虚無属性魔法――広まれば、私の現行クエストに支障が出かねない。

 せめて私から情報を出して、流れの傍に居ておこう)

 

 リソースがどうと言っておきながら、半端なプレイヤーを手酷く疎む。

 

(これを飲み込めない限りは、塩宮さんとこで動けはしないな)

 

 アイテムの換金に、ひと気の少ない通りを往く。

 高レアリティのアイテムを扱うNPCへ会いに行く最中、奏雨はふとグリーンカーソル、即ちNPCではないカーソルに目を配った。

 

(虫人? 珍しいなぁ)

 

 視線に気付いたのか、奏雨が一瞥する間にも虫人は振り向く。

 二度振り向く。

 三度振り向いた頃には――奏雨の顔にも困惑が色濃く滲んだ。

 奏雨は背後を確かめ、何もないことを確認する。

 

「……どうしました?」

「やっぱり……」

 

 カマキリ型の虫人は小声で呟いた。

 聞こえてるぞ、とこれ見よがしに耳をぴくぴく動かして見せれば、虫人の少女は喜びと驚きの混ざった表情で奏雨に近付く。

 

「奏雨さんですか……ですよね」

「そうですけど」

 

 一方的に知られていることは、もう特筆すべき事項ではない。

 ただどうにも熱量があるというか、対応に困り、軽快が表立ってしまう。

 その様子に両手の鎌をブンブン振って否定を示し――奏雨の耳に、思わぬ名前を告げた。

 

「白金縁さんって、今何をしてるんですか……!」

「…………アレの、なんですか?」

 

 としか言いようがない。少なくとも、丁度釘を刺されてきました! などとは言えまい。

 警戒を強める奏雨に、虫人の少女は恥ずかしそうに答えた。

 

「あの人のファンで、このゲームを始めたんです」

「…………?」

 

 

――【闇鍋ギルドの】ボスを最低限の武器ダメージで殺してみた

 

 

「ああ~~~~っ!?」

 

 声が響き渡ったことは意に介さないで、奏雨は色んなものが繋がっていく――ある種の快感に意識を持っていかれていた。

 

(だから虫人。だから私のことを奏雨って呼んだのか。動画じゃ奏雨で呼ばれる方が多かったし!)

 

「はー、なるほど……」

「それで、本当は会うつもりなかったんです。リア凸なんてファンのやることじゃないので」

「うーん、うーんまぁ……」

「ただこんなことになって……正しくあの人に近付く為に、強くなろうと決めたんです」

 

(だからこの通りに居たのか)

 

「でも見付けたら話は別です。聞きます」

 

 強かだなぁ、と呑気な感想を抱きながら、奏雨は考える。

 ありのまま伝えても白金は迷惑しないだろうが、ファンにとってはどうなんだろう。

 別にファンの意思を汲む義理はないのだが、藁になった身としては、無下にするのも憚られる。

 

 

「――まぁ、生きてますよ。

 あの時と同じようにボスを毒漬けにしたり、

 あの時と違って早々とボスを処理したりして」

 




()(はざ)む紫弓』の専用矢は登場した呪いの矢とほぼ据え置きの性能です。
被弾時ワンチャン即死のランダム三種デバフ矢




虚無属性魔法:大賢者の遺稿について。

大体《D:想い人》アタック。

……MP参照で火力が上がったり、MP全損したり、撃ったら引くほどバステ付いたり、杖がしばらく使えなくなったりします。スキルで踏み倒すことを前提にした反動がたくさんついてる印象。

月詠さんに知られたくない理由の8割は情報屋だからです。2割は月詠さんだからです。
別に悪しき感情は一切ないけど。
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