ビーストテイマー/ウェアウルフ♂
プレイヤーネーム「ライリー・ホーン」Lv42
呪詛使い/妖精♀
町の圏外まで、大柄な男とその取り巻きは私を連れていく。
俺達は荒事をしますよ。そう言っているのと同じだと、この人達は気付かないものか。
「お前、あの蜘蛛の仲間なんだよな」
あ、あの蜘蛛……?
誰のことだろう……蜘蛛によく似た爆速性悪女なら知ってるけどなぁ……。
「白金のことですか?」
「あぁそうだよ。ばっくれても無駄だぜ、動画に映ってんのも確認してある」
ファンなら一声かけておこうか。あいつも握手くらいはしてくれるかも。
……軽口を叩きたい気分だけど、相手のポジションが分からないままだと言うに言えない。これで百割身内が悪ければ、気まずいのは私の方だ。
「用があるなら直接言ったらどうです? なんなら取り付けますよ、私の方から」
「それには及ばねえよ。オレが手ずから呼んでやる」
そういって、禿頭の男は背負った大斧に手をかける。
呼ぶと得物に手を伸ばすのにどう繋がるんだ。
……。
……まさか私を叩いたら、仲間をやられた怒りで出てくると思っている?
……まさかあの蜘蛛が!?
「無駄ですって、良いから……」
「無駄かどうか、この一撃を受け止めてから言ってみなァ!」
「そういう意味じゃねえんですよ!!」
……。
…………。
時間的には1/3人狼長ってところか。
一人は勢いでやっちゃったけど、三人から攻撃を受けておいたおかげで反撃制PKであることが認められた。もう一人やればカーソルも濁りそうだが、武器を折っては壊して更に絶やせば、戦意も無くなるというもの。
「魔法職だろお前……テイムモンスターもいねえってのに……」
「ビルド的に得意なのは、まぁ防衛とかダンジョン攻略とか? ですけどね。私個人は全然対人好きなんですよ。五戦やったら一本くらいは取れるんじゃないですかね、白金相手にも」
始めた当初こそ、良い勝負の割合が大きかったけど、ちょっとあいつ塩試合製造機みたいなスタイルしてやがるから……。
「今PKしたくないので、これ使ってどっか行ってください」
そう言って、AGI増強ポーションを二人に投げ渡す。
転移アイテムは希少だし、今日明日とナビゲーターを全うしなくてはならない以上、ここでストックを失いたくない。
「さっきの町で見掛けたら遠慮なく嫌がらせするんで、どっか別の町にでも走ってくださいな」
「…………クソ!」
踵を返して、町へ戻る。一時間以上も待つんだから、別に急ぐ必要もないけれど、恥をかかされた相手の顔は長く見つめていたいもんじゃないだろう。
白金への怨嗟だし、どうせ逆恨みとかだ。
大方知り合いか、さっきの取り巻きとかが、白金のスタイルを真似して火傷したとか。うんうん、それは白金君が悪いね。私だったらそんなことさせないのになぁ。
「おいテメェ!!」
「?!」
びっくりした。背後から刺されたくないから耳を傾けていたのに、飛んできたのは足音ではなくパワフルデシベルの怒号。
「ハメやがって、どういうつもりだこの野郎! 這いつくばってろってか!!!」
「…………?? あーーっ!?」
AGI増強ポーション(
「やべっごめんなさい! 間違えました! これですこれ! レジストも多分出来るんで!」
「飲めるかこの野郎!」
そうだね! 私もね、多分飲めないね!
そんな天邪鬼なポーションが出てくる奴からもらうアイテムとか受け取ってらんないよね!
……せめてもの償いに、私は出来るだけ早く二人の視界から消えていった。
若干の緊張を胸に、宿屋へ戻った。
待つだけなら自分の部屋でも良かったが、折角のMMOだ、非現実を味わってこそ粋なもの。
酒場でリンゴジュースっぽいものを頼み、窓際の席に陣取る。
近くに中央都市のセントリアがある影響か、この町は人で混むことが少ない。店も同様だ、一時間構えっぱなしだろうとも、迷惑にはなるまい。
ストレージを操作して、ノートPCを机の上に出現させた。
このアイテムはハードと連携させた機能を、現実のノートPCと同じような操作性で使用することが出来る。
それこそ白金でもないので、私はやらないのだが。
代わりに弄るのはメモ帳。
同ハードの別ゲーでも同じような機能が実装されていたりして、その時にメモした記述が未だ残っていたりもする。
この時間で打ち込むのは、今日見掛けた私の知らないフラグのメモ。まぁ、アギさんが獲得した例のスキルだ。
『クルージーン』とルーン文字から、ケルト神話関連のクエストフラグが立っているのはほぼ確定だろう。
クルージーンは幼年期のクーフーリンが使った剣だったかな。クーフーリンはケルト神話の中でも比較的ヒロイックなポジにいる(主観)と思うし、『英雄の凱旋・防衛戦線』か、そのクエスト報酬で手に入れられる《ヒーロースラッシュ》の派生形フラグで見て良い気がする。
本人の道程を聞けば確証を得られるだろうが、そこまではマナー違反だ。アギさんが進むこれからのクエストを全力で補佐するとかなら、まだしも、あくまで今日明日付くだけだ。好奇心に巻き込むまい。
こうして軽く纏めておけば、調べ物くらいは出来る。他者に聞くにしろ、要点が曖昧じゃ質問も出来ないし。
ともあれメモっておきたいことは済んだ。別のフォルダに移動して、より私的な文章群に向き合う。
凡そ一時間の間、休み休みではあるが――創作に耽った。
軋む階段の音に聞き覚えがあって、私は顔を上げた。
真っ白な肌、背負うように装備している大きな杖。とんがった耳は然して、エルフよりも緩やか。
人間離れした瞳孔が、丁度私の姿を捉える。
「どうも、ライリーさん。お早いログインで」
「……どうも」
約束の集合時間にはまだ二十分はある。
挨拶はしたし、私は再度画面に視線を向けた。彼女のログインは行き過ぎた五分前行動だと限らない、むしろこの時間を使って、夜に備えるべく装備品を整えたいと考えている方が自然だ。40レベにもなれば、そこらへんの考えは馴染んでる頃合いだろう。
が、数文字打った辺りで、足音が動かないことに疑問を抱く。保存を押して、目線だけ送った。
「どうしました?」
「あぁ、いえ…………」
まぁ見当はつく。……私から切り出した方が早いか。
音を立てないようにPCを閉じる。所詮ゲーム内の再現物なので、シャットダウンする必要はない。
何のために知覚スキルを上げているか。対人用に隠密看破対策をしたいからだ。別にそれだけが理由なわけないけど。
なんであれ、階段に消えていく四人の姿を認めた時、同時に三人分の足音しか聞こえなかったことまでは把握していた。誰が止まっていたのか。それまでは流石に判別出来なかったけれど、態度を見れば分かる。
「さっきの連中のことですか?」
「……」
彼女が向かいの席に着くのと、私がノートPCをインベントリに戻すのは同時のことだった。
ぱっと見は人間に近い姿だが、作りからして大きく異なる妖精種。だからなのか、正面に立ったライリー・ホーンの姿はプレッシャーを醸し出している。
「さっきの方々は、奏雨さんのお知り合いだったんですか?」
「いや、知らない因縁でした。多少強めに追い払ったので、今日明日関わってくることはないと思いたいですが、もし関わってきたとしても、皆さんまでは巻き込みませんよ」
関わってこないと判断出来る確たる根拠はない。不安なので友達を連れて貴方から離れます、と言われても説得に困る。
ただ同じく、関わってくると判断出来る根拠がない彼女は、ここで多大な意志力を奮わせるということもなく。
というか関心自体そこではなかったのか、
「奏雨さん、あのギルドに所属していたのですね……?」
犯人と分かった親しい友人へ言うような、痛々しげな声だった。
そこまでか? とは言うまい。
「どの、とは聞きませんが。今は『闇鍋の宴』に入ってますよ」
「……やはり。あの……」
「あー、一応
「『人魔大戦』……わたし、丁度始まる直前にこのゲームを買ったんです」
「あぁ~」
確かに、あの頃のSNSは見渡す限り『百鬼夜行』が目についた。
「どんなイベントかはご存じ……です、よね?」
「ええ。まぁ色々あって陣営参加しかしなかったんで、内情は偏った把握になってますが」
「戦ってはいなかったんですか」
「間が悪かったってやつですね。知り合いは意欲的だったので、話は分かりますよ」
その頃も、あの前衛二人のような初心者達に、首を突っ込んだりしていたな。
大型イベントやプレイ支援の施策、リアイベ発表とそれに基づく広告。当時はとにかく新規が多かった。今も続々と増えているが、大戦前後でプレイヤー層は少し変わったように思う。
重要なのは新規が増えたという事実。大規模なイベント中に初心者が多いと、オンラインゲームの性質上、
問題は
……初心者が参入してくる中で、熟達プレイヤーが荒らすというのはいただけない。私は『人魔大戦』そっちのけで、そういうレッドとバチりあっていた。
話を戻そう。思い出していたのは、当時を懐かしむ為ではなく、荒らしがいたという事実を確認する為だ。
ライリーさんの話の要点も、きっとそこにある。
「まさか、何か嫌がらせでも?」
「あ……いえ、初心者が気軽に参加するものではないと分かっていたので。ですが……都市伝説が」
「都市伝説」
こくりと頷くと、あくまでも真面目に語る。
「無差別に人を食う、人型の怪物がいるって……」
「ん゙」
「?」
「あ、続けてください」
「はい……。それでわたし、あんまりプレイが出来なかったんです。無作為に首を狩る幽霊とかも噂になっていたので」
「スーッ…………、ですか」
「はい」
首強盗と景品表示法違反と無栓飲食とついでに
「後でそれらは、『闇鍋の宴』の仕業だって」
仕業呼ばわり。
なんなら幽霊の方(なんで死んだことにされてんだあの人)は当時うちにいなかったし。
「実在するって聞いて、もっとプレイが怖くなって、メインストーリー以外で遊ぶことが少なくなったんです」
「……それは」
「でも」
彼女はあどけなく微笑んだ。今までこの人がどれほど緊張していたのか、思い知る程に。
「奏雨さんのプレイを見て分かりました。噂は全部、根も葉もない――」
「あっいやそれらは全然合ってます。うちのが食ったり斬ったりしてます」
「…………えっ、でも、……?」
「人型ですが怪物ではなく竜人だったり、幽霊ではなくハーフエルフだったりするだけで……」
あっ、緊張とか通り越して、何かを失わないと出来ない顔をしている。なんだろう、自分への信頼とか失ってるのかな、ライリーさんってば。
心なしか黒く染まっていく目を見つめながら、出来る限りやんわりと話す。
「一応二人共、分別はあります。無害な人、望まない人を無理矢理PKしたりすることは万に一つもないでしょう」
水難事故さんは望まずとも望まない人をぶっ飛ばすんだからすげえや*1。
「……うちのギルドは所謂身内用で、何か特定の主義で動いたりするわけじゃないです」
「はぁ……」
「主義と言えば自分のスタイルだけ。極振りプレイやロールプレイ。型にはまる気がないけど、なんとなく群れる気になった人とかが居るだけです。まぁ~悪名高いのはもう今更どうにもならんですけど。私とかは巻き添え食らってるだけで、なるべくむが――」
『凍土イベントの伏線!? 三分だけ発生した氷山の行方』
『【悲報】夏イベ、海が死んだ』
『【要注意プレイヤー】寒冷地で不定期に奇声をあげる男』
「――無害な、プレイを心がけて、ますからね」
「じゃあ、迷惑行為を喜んで行なうわけでは……?」
「それは勿論! そういう主義の人は誰もいま――」
『市場に一つだけ僕産にしたポーションセットとか流したいな~』
『僕は皆が持つアイテムへの不信感を募らせることだけを生きがいにしてきたのに……!!!』
『お金だって信頼しきるには怖いって伝えたいだけなのに……!!!』
「――いません」
はい信用毀損罪(真)
「……良かったです。本当にごめんなさい、疑ってしまって……!」
「い、いえいえいえ! 割と仕方ないので! むしろ警戒するべきです」
「でも……」
「オンラインゲームですから。他人は警戒するだけ得です。間違ってはいません」
なんとか良い感じに正当化出来た。
すっかり安心した顔を見ると、如何に我々のギルドがやらかしているかを実感する。
誤解(というほど誤った理解ではない)を解いたことだし、早速話題を逸らしに行く。
「ところで、ライリーさんはどうしてその職に? 種族もあんま見ませんが」
実は結構気になっていた。
特に、ヒーラーなら素直にそういう筋の魔法使いになればいいのに、どうしてわざわざ呪詛経由でヒールなんかを。
「呪いを癒す職なのかと思って」
「……??」
「呪詛を取り除くことを専門にした職だと思ったんです」
「それは…………。……なるほど」
すげえ好意的な解釈するなこの人……。
「妖精は、元から好きなんです。童話のような存在が。このゲームに触れるきっかけもそうでした」
「御伽噺の種族を体験出来るから。人気な理由ですね」
「ええ」
一番掴みにくかった人を、思わぬ形で知られて、私の方も緊張がほぐれたような気がした。
十分前にもなると、他三人も続々とやってくる。
さ、この晩のプランもなんとなく準備はしておいた。もうひと頑張り、楽しんでいこう。
栓なき食欲の無栓飲食さんが、言うほど望まぬ相手を喰らわないかと言われたら、全然身内の視点でしかないと思う。