中層、草原エリアにて三人のプレイヤーが佇んでいる。辺りにポップしているモンスターの影は一つたりともなく、狩り終わった後の休憩だと傍からわかるだろう。しかしながら、故にこそ周囲にはプレイヤーもいない。
たむろっている内のビーストテイマーが退屈そうにウィンドウを操作しており、残りの二人はドロップ品の整理に勤しんでいた。ビーストテイマー、凍星奏雨はメッセージに通知がついているのを発見する。無論戦闘中は通知を切っている為、しばらく前に送られたものと分かるが、グループメッセージに投下された文量にただならぬ要件と面倒事の気配を感じ取った。
メッセージグループの設立者がハイテンションな文面で、あたかも気まぐれそうな発想を垂れ流している。凍星奏雨単品の考えなら無視しても良く、むしろすべき内容であったが、同じグループに所属している傍らの二人のことを加味すると荒唐無稽な発想に乗る事もやぶさかではなかった。
二人の頃合い、そして周囲をひとしきり確かめた後に奏雨が口を開く。
「ねえ、メッセージ見てみてくれない?」
「ほんとだ、なんか来てる」
そういって興味を露わにしたのは、種族:鬼、職業:侍という典型的パワーアタッカーの椒朔月だった。
もう一人の少女は、メッセージの宛先を見て徐々に呆れた顔となっていく。
読み終えたらしい二人は同じ顔、同じ感想となって奏雨に顔を向けた。
椒の心情共々代弁したのはアラクネの双剣使い、白金縁だ。
「ばーかじゃないの」
少女のアバターから放たれる罵倒はアンバランスな印象を持たせるが、この場にいる二人は慣れっこであり、意に返さない。
「ギルド狩りねえ」
思案しながらも肯定的な表情を浮かべた椒に、奏雨が思考の後押しをする。
「レッドギルドしか襲うなってお達しだし、いいんじゃない? 数日色が濃くなるくらいそんな影響ないし」
身内のみでパーティを組む傾向にある三人にとって、
奏雨の肯定的な意見を聞いて腰が上がって来た椒は、白金へ話を振った。
「ふむ。白金は?」
「いいけど、三人じゃキツくない?」
「相手次第でしょ」
確かに、と白金はグループリーダーの挙げた候補に目を落とす。
どれもネットの晒し上げをコピペしたであろう低質な資料だったが、情報が抜かれている詰めの甘いレッドギルドは幾らかあった。中でもギルド内人数と実力も透けているギルドがあり、三人は自然と同じ文面を見る。
「いけそうなのあるなぁ……」
厭気と面倒を隠しもせずに言う白金に男二人が笑いつつ、画策している内容に対して否定的ではないことを理解した。
「いくかぁ!」
おどけたトーンで言う椒に、奏雨、次いで白金が便乗する。
緩く決まったレッドギルド荒らしは、数日の時を経て決行に至った。
『ヘルメス・サイン』と名乗る今回の目的レッドギルドは、想像が容易な殺人ギルドなどではなく、隠密スキルを駆使して他パーティの尾行した後にラストアタックや宝箱を横取りする簒奪ギルドである。
アイテムコレクターの側面が強く、どれだけ不要なものでも軍資金に変えないことから規模も実力も伸び悩んでいる。実際、隠密を看破した実力者から敗走することもあるようだった。
正確性に保証がないネット由来の情報な為どこまでが本当か真偽不明だが、実行するに必要な勇気を満たすには、充分な強さと邪悪さだった。
相手が善ではないことを良いことに棚上げしているが、ギルド潰しも大概邪悪である。
時刻は夜。
ネットゲームをしている者にとって本領の時間であり、ギルドを脅かす時間としては下策とも言える。寝静まる深夜帯なら兎も角と言ったところだが、白金に却下された。三人のうち最も睡眠が健常である。
ワールドマップ全体でみれば難度の緩く設定された、安全圏外。安いアングラな事前評価にも合点がいった。
足跡を残さない為に、転移スポットから離れたところまで向かう。
進んだ先はモンスターもポップする森だったが、対して敵でもない。
薄曇りを縫うようにして星が光を放つ。
森は光が途切れない程に、実りのない枯れ木しか生えてなかった。
星月を妨げるものがないというのにさほど明るくないのは、このエリアが常日頃曇っていることが由来しているだろう。子悪党にふさわしい日陰エリアである。
標的とどちらが子悪党か区別のつかない三人が、適当なところで止まる。
「そろそろ隠密かけようか」
初めに口にしたのは奏雨だった。
ビーストテイマーだというのに一匹も連れていない様子は哀愁がある。或いはテイマー上位スキルであるモンスターの転移を持つ強者とも推測できるかもしれないが、生憎と多芸を目指す奏雨にそんな余裕はない。
ただ、多少レアなモンスターをテイムしているだけである。
「
そういいながら、奏雨は手を前に差し出す。手の甲を上に向け止まり木の如く指を作れば、元からそこにいたように一匹の獣が出現する。
その形状はカラスを彷彿とさせたが、半透明の白い身体が異常性を醸し出していた。テイマー種専用のレアクエストでは、一部の死んだモンスターを霊として再度連れ歩けるものがあり、凍星奏雨と鴉魂はそのイベントの通過者なのだ。
霊体属性を持つモンスターは専用アイテムがない限り物理的干渉が相互不可という大きな特徴があり、更にテイマーの傍へ呼び出せる出没スキルを取得している。
鴉魂は隠密とLUC補正が特徴的であり、テイマーを中心に隠密バフエリアを作る事が出来る。枯れ木そびえる退廃的な空間にカラスの鳴き声が響き渡る。すると、三人のステータスには隠密のバフマークが確認された。
隠密スキルを使う為に大きく鳴いてしまうのはアンマッチすぎるが、マップも相まって浮いている気はしない。
「白金の方も問題なさそう?」
斜め上を見る姿からステータスの確認をしているのだと察しが付く、白金には時間帯に応じたパッシブスキルがあり、今回の作戦では欠かせないものだ。こくりと頷く白金に、二人は安堵する。
「じゃあ行く?」
浮足立ってる態度に平静を装って、椒はマップにピンを指した。面々は目的のギルドハウスへ自然と歩き出す。
建物が見え始めたところで、物陰に隠れて作戦を確認し始める。白金は奏雨の段取りの悪さに苦笑しつつも応じた。
「椒が暴れて奏雨が盗んで。私いる?」
「いるいる、椒だけじゃ怖いって」
ギルドメンバーを外へ引きずり込んだところで、窓からピッキングスキル持ちの奏雨が保管庫を荒らす単純な作戦だが、血気盛んな椒だけじゃ心配という当人を除いた二人の意見からカバー役に白金も戦闘することとなったのだ。
「別にいいけどなぁ?」
実際なんとかしそう。というのも不安と同じくらい抱いた感想だったが、白金をサボらせるのが癪という理由で、奏雨は作戦の変更を認めず続行した。
プレイヤーがまばらにいる街中でも、隠密スキルをフルに使った一向は驚くほどにバレなかった。或いは、厄介事に首を突っ込まない賢明な住民なのだろう。冷ややかな風は暴くこともなく、緊張感を煽るのみだ。
古びたギルドハウスは攻略組の住居とどっこいどっこいの規模で、みすぼらしさに哀愁がある。中に灯りはついてるが、喧騒の気配が一切ない。さながら幽霊屋敷のような静けさと人の気配の混合に一向はテンションを上げた。なんだかんだいいつつ、傲慢なことに全員が敗北すると思っていない。
「聞いてくる。離れないでね」
奏雨は狼人の耳を揺らしながら、ひっそりと壁に近付く。鴉魂の隠密範囲は徐々に縮んでいく為、足の出ないよう近付くのが窮屈で仕方ないと椒が眉を下げた。
「えぇ、ここまで来たならさぁ」
声量を落としつつも不満は隠さない。愛刀を今か今かと抜きたくてしょうがないのだろう、しかし、盗聴スキルの使用で聴覚の適用範囲を絞ってる奏雨に届くことはなかった。
ぴったりくっつけた狼耳が揺れる。
次の瞬間、椒の口を奏雨が無造作に塞いだ。意図を汲み取り抵抗もしない椒だったが、音を立てずに抜刀して警戒を露わにする。一方で白金は脱力感すら覚えさせる通常運転でギルドハウスの入口を見つめている。
ゆっくりと椒を前に出す奏雨、ひっそりと椒の後ろに下がる白金、息ピッタリの供物献上にすら椒はツッコミする気を見せない。血潮の脈動に合わせて戦闘欲求が燻っている。
ギイ、と耳に悪い音を放ったのはギルドハウスの扉だった。
中から四人の男性が現れ、三人のいる方を向く。
「ステイ」
白金が逸る二人を抑えた。引き絞られた弦のように、反射神経が人並を凌駕する準備はできていたというのに、男達は大きな動きを見せない。駆け引きか、はたまた。
消え入りそうな声に男たちは反応を見せず、街中へ繰り出していった。
「良かった出ていかなくて、ありがと白金」
「いぇーい」
間の抜けた返答に奏雨の緊張が抜ける。しかし警戒は解いておらず、建物内の明かりを確かめた。
「まだいるみたいだし、あの四人がもう少し離れたら――――」
白金が言葉を切る。建物に関心を向けていた奏雨が白金に視線を向け、血相を悪くしている病人の面構えを見た。
「バカがよぉ……!」
蜘蛛足を走らせ、白金が街路を出る。奏雨が追いかけるよりも先に、男の怒号が聞こえてきた。それは奇しくも進行方向と同じ方向から聞こえてきて、高らかな知り合いの声すら聞こえた。
「どーもこんばんは。ちょっとお兄さん方、デスペナいりません?」
大太刀の峰を肩で背負い、紅と黒が基調の和装に身を包んでいる様は、正道歩む強者の姿なのだが。いやはや、立場を知っていればこんなにもアンマッチな失笑物なのかと白金は思う。
白金の眼には、右肩から腰までを鋭角に光らせているプレイヤーが一人見えており、奇襲自体は成功しているようだと推測した。
背後から奏雨が追いかけているらしいが、ここで姿を晒すのは自分だけでいいと考えた白金は双剣を抜きながら力強く発声する。
「ちょっとー?
白金の視線の先に自分が関与すべきものはないと直感した奏雨は、間一髪街路を出ずに留まった。
振り返っては納得したように鼻を鳴らした椒が、得意げに笑った。敵の前でベラベラと喋る訳にもいかない白金は報復を楽しみに隣へ立つ。
「まぁ、私に恨みはないけど、日頃の行いを改める時が来たってことで」
怒気丸出しの本性をしまいこんで、双剣の片方を四人へ向けた。見たところエルフ二名とヒューマン一名、ネコ科の獣人一名で戦闘特化の人員は見受けられない。
傷を負ったエルフが三人の影に紛れようとしているのを見逃さない二人の狩人は、チラリとお互いの眼を覗く。
そして、赤影が駆ける。最低限の鎧しか装備していない椒は、大太刀を装備しながらも足早に距離を詰めた。ポッと出の少女より、仲間を奇襲した鬼へ三人は警戒した。
《投擲術》
暗闇一閃。椒を抜き去って、意識の隙間を突くように後ろへ隠れたエルフ目掛けて黒塗りのナイフが飛んでいく。
ガラスが割れる音と間抜けた声が同時に響いた。
「ナイス!」
大きく、非対象に歯を見せながら斬りかかってくる剣鬼は恐怖の対象でしかなかっただろう。麻痺で転がるエルフを眼中から外し、ダガーを構えた獣人に袈裟斬りを放つ。光芒放ちながら赤熱した斬撃が、胴体を切り込んだ。残光が目に焼き付いた獣人は忌々しげに睨むが、二の太刀を見て僅かな余裕が生まれる。
眼前の剣士が放っているスキルは、命中し続ける限り斬撃を放つラッシュ系だと確信した。幸運にもギルドメンバーに大太刀使いが属している、弱点も躱し方も、織り込み済だ。
「悪いな」
振り上げた勢いの刀を、縦一文に振り下ろす二段目を、獣人は横ステップで回避する。椒には二段目を放った時点で避けられると確信していた。
すると、身体から沸きあがる炭酸のような快感が椒を満たした。
《スパイダーフック》
身体の硬直したプレイヤーは存外運びにくい。楽な体制でもなく、筋力振りしてないプレイヤーともなれば更に困難を極める。しかし、強靭な蜘蛛糸、加えてサポート対象が腕利きであれば、体力ドットのエルフ程度造作もない。
ケダモノの瞳孔のように、赤白い光が宙に浮かんだ。
敵味方関係なく、その鬼を見た者は本能的な衝動が込み上げた。快感に打ちひしがれながらプレイヤーを叩き切る快刀乱麻の赤き剣士は、獲物に恐怖という生存本能と絶望という諦観を贈る。
朧気ながらも、断じて迷妄の産物ではない闘志の光が椒に宿る。百戦錬磨をその身に宿すかのように、或いは、成ったかのように。
《修羅》
「いくぜ、ツケ払いな」
ギルドハウスからまたもや人が、然して大急ぎで現れる。アラクネと鬼に見事引きずり出されてしまった拠点には駐在している呑気なプレイヤーがいるとはとても思えない。奏雨は一人裏側の窓を目指して歩く。
二階にある窓はカーテンが閉め切られており、恐らく鍵もかかっているだろう。ただ、跳躍力に優れた獣人がピッキングをしに来る想定なんてしなくて当然だ。あまりの呆気なさに、弱者からの搾取を味わっている気分になる。このギルドは今まさにそのしっぺ返しを受けているのだが。
中に入ればそこは寝室のようで、もぬけの殻だった。雑に複数置かれたベットからはメンバーの適当さと余裕のなさが伺える。ここまでくれば隠密も何もなく、鴉魂には窓の見張りとして寝室に待機してもらう。
扉を開けて廊下に出れば、もう二つの扉がある。窓は等間隔に二つ付けられていた為、向かいの扉は同じ構造の寝室だろう。であれば早めに済ませて撤収するべく、残された扉に直行した。
低俗で弱小なギルドでも、矜持はあったのだと、鋭利な一刺しが鮮烈に思い知らせる。
《ハウンドショット》
それに直撃した瞬間にようやく奏雨は武器を視認する。銀色に発光する短剣は、椒が装備している脇差しとやらによく似ている。
走馬灯のような想起から覚めた奏雨は一歩後退する。ボロ切れのマントに身を包んだプレイヤーはフードのせいで顔すら見えない。詳しくみようとすれば、抉り穿つ次手が光り輝いて容赦なく振るわれた。
「ちょちょ、あれです。なんかやばそうなんで避難できてるか確認しにきたんです」
無理がある。が、こうでも言っておかないと、良心の呵責が苛むのだから仕方がない。
プレイヤーは黙々と短剣で銀月を描く。背の高い様子から見るにサブの武器なのだろう。速さは目を見張るものがあるが振り方にキレがない。
後退しつつも黒い杖を取り出し、一言呟く。長い詠唱なんて出来るわけがなく、隙を作る為の手段が欲しかったのだ。
氷柱を三発、扇状に打ち出す。至近距離で放つワンモーションの飛び道具は、さながらショットガンのように効果的だった。一発命中したが、ダメージが効いてる様子はない。
短剣の使い方を見るに、閉所というのが幸いしているらしい。広ければ、腰に下げられた獲物を抜刀されて為す術もないだろう。
プレイヤーは少し間合を取ったが、詠唱をうかつに始めれば即詰められてゲームオーバーだ。初手でモロに喰らった分と数カ所掠った分で、体力ゲージはオレンジ色をしている。次モロに喰らえばそれで終わり。
ギシギシと、木製の廊下が悲鳴を上げている。プレイヤーは奏雨が動かないことを確認して、構えを取る。
突進系スキルが奔る前に、奏雨は走り出した。
「鴉魂!」
《死者の悔恨》
短剣が放つ銀色の光が忽ち収まる。スキル発動条件の動きを満たせなかったからだ。突進系は自分の力で一定速度を出してからようやく発動する。間合を離せない閉所という局所的な環境と、テイムモンスターの移動速度デバフを嚙み合わせた一度きりのシステムメタである。
スキル未発動硬直は思考すらも両断する。プレイヤーが見せた初めての焦り、フードが外れながら奏雨を追いかけた。短剣では惜しくも確実に足りない距離こそ、奏雨の博打が最高にハマった瞬間だ。
刀を抜けば或いは届く距離、瞬き程の迷いすら拒んだプレイヤーは短剣を握りしめる。スキルへの疑心、自らに対する驕りは、最善の道から滑り落ちてゆく。
奏雨の握る杖に青白い文字列が並ぶ。一段、二段、三段と。
《フラジャイル・ケイヴ》
振り返り、それに合わせて壁が氷に蝕されていく。天井、床も無常に氷が喰らっていく。
氷上歩行スキルという日の目を浴びることのないスキルが、命運を分けた。踏み込みの効かない相手を押し倒し制圧するくらい、造作もない。
「くっ」
嗄れた声が奏雨の耳に届く。されど力を緩める事なく次弾の装填をする。
「抵抗をやめないと撃ちますよ。私はキル目的じゃないので、見逃してくれたら相応の恩は返します」
相当の仇も返すかもしれない、と奏雨は杖をプレイヤーの喉元に当てた。しかし、強い意思で放つ沈黙がプレイヤーの主張だった。
「残念ですね」
杖の先端が強く輝き、氷塊の波濤がプレイヤーの顔を飲み込む。顔は地面と氷で接合されて、起き上がるなんて万に一つもないだろう。開いたままの扉に改めて奏雨が足を踏み入れる瞬間、自分の影が濃く伸びた事に気が付く。
スキルの光芒が、奏雨の背中を照らす。
「よっと、借りかな」
振り向いた先には、剣をプレイヤーの腕に突き刺している白金がいた。腕の先には光の発生源であろう短剣が握られている。もし白金が間に合ってなければ、と考えるだけで総毛立つ。
双剣を痛々しく身体に突き刺されているプレイヤーは、完全に脱力しきってしまう。カランと短剣を落とす音がどこか寂しさを感じさせた。
「ホント助かった、さんきゅー」
「ちゃんとトドメ刺してからにしなよ」
ぐうの音も出ない、と苦笑した後に、白金が居合わせている都合に疑問を持った。扉から入った訳でもなければ、椒が一緒という訳でもない。
保管庫に進みながらも不思議な顔をする奏雨へ、端的に事情を説明しだす。
「椒はハイになってきたから、奏雨の様子見に来た。多分大丈夫でしょ」
大方、窓からワイヤー軌道で入って来たのだろう、と納得する。
ギルド共通アイテムの保管庫は基本ピッキング不可だが、あくまで安全圏内の話。圏外では低確率ながらも可能となっている。
冷たい地面に腰を掛けて、保管庫のウインドゥを開いた。
「幸運バフくれるモンスター探そうかなぁ」
自身のなさに情けない言葉を吐きながらも、スキルを行使した。
中層、いつもの草原エリアでいつものように集まっている三人の中に、一つだけいつもと違う要素があった。
「良いわこれ、すげえ良い」
銀色の脇差しを収めながら、満足げに二人の下へ歩むのは椒だった。反してあまり面白くなさそうに奏雨が僻む。
「いいなー、魔法軸テイマー少なすぎるんだよ。なーんもない」
「まぁピッキングに失敗したの奏雨だし……」
「そうだけどそうじゃなくてさぁ!」
事実を突きつける白金に抗議をするが、それでも奏雨にギルド潰しの褒章が湧く訳でもなかった。
結局レアモノの簒奪には失敗し、プレイヤーから奪ったものが丸々戦果となった訳だが、一番良い思いをしたのは椒だった。奏雨が相対したプレイヤーの短剣はかなり上質なもので、奪った刀がすぐに折れたことを差し引いても大きな収穫と言える。次いで白金、真っ向勝負で勝てない面々は搦手を多用する傾向にあり、今回も例に漏れなかった、しばらく暗器の仕込みには困らないだろう。
汎用ポーションがそこそこと、ガラクタ売却の小銭程度が奏雨の戦果である。
奏雨は眉を落としながら、発端のメッセージを遡った。
「よし、次行こう次」
充実していくアイコンの濃さと椒の装備。いつしか勧善懲悪カチコミはマイナー職を探す闘いになっていったという。