闇鍋の具   作:凍星 奏雨

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デスゲームMMOパロ掃き溜め。恐らく次話で終わりますが、次話を書くかは未定です。

誤字やおかしな書き方があったら教えてくださると幸いです。


掃き溜め連合活動記録-Ver.Extra1.1

 周年記念のパーティが行なわれる中央都市セントレアでは、その瞬間が訪れる前から多くの人が寄り集まり、事前に銘打っていた『レベルキャップ解放』や『ステータス振り直し』を始めとしたアップデートを待ちわびている。

 これほどまでに騒がしく明るい夜を、奏雨は知らなかった。焚火を思わせる暖かな光で彩られたセントレアの街並みに、さしもの彼も高揚を隠せず堪能していた。

 そう、機能の追加や改善を嬉しく思うプレイヤーは多く居るが、この場においては祭囃子に耳を傾ける者や踊る阿呆に見る阿呆……記念の祭りを純粋に楽しむプレイヤーが更に多く集まっている。

 周年当日のパーティはピークを迎えようとしている。当時サーバーを開帳した時刻が目前へ迫っていたのだ。

 自警団まがいのギルドが目を光らせている影響もあるのか、これまでトラブルめいたものは起きていない。

 

 奏雨は――傍らにいるギルドメンバー、そのまた横に並ぶ名も知らぬプレイヤーも、期待を秘めた瞳で夜空を見上げる。NPCですら、配膳の手を止めて顔を上げた。

 視線の先には数字を空に刻む花火が今もなお咲き続けている。

 それらが段々と桁を小さくして、今では十を切った。

 

 これだけプレイヤーを集めるものがありながら、その悲劇に突然と名付けるのは――些か語弊を生むものであろう。

 カウントダウンの終了が意味するのは、また、これまでにない大犯罪の始まりだった。

 花火が忽然と止み、清廉な星々が浮かぶ夜空には不釣り合い極まる巨大なウィンドウが浮かんだ。奏雨は後になって知った事だが、この場にいないプレイヤーには眼前にメッセージウィンドウが展開されたらしい。

 セントレアのパーティに出席していない人物も含め、いわば全アクティブプレイヤーにそれが通達された。

 レベルの上限解放やステータスを一度振り直す権利というのも、このたった一つの変更においては前座に過ぎない。

 

 仮想空間の現実化――この仮想舞台に倣って呼ぶならば、デスゲーム化。

 

 

 

 総勢数万の命を遊戯に陥れる悪夢のような宣告から――数ヶ月。

 死の危険を伴ういつものダンジョン散策でありながら、今までと非にならない死線に三人のプレイヤーが立たされていた。

 『修羅』椒朔月。淀まぬ戦技で敵を斬り結ぶ、無尽の剛力を振るう鬼人。

 『黒冠のカリスマ』白金縁。光に伴う影のように、密やかな神足で首に剣を運ぶアラクネ。

 デスゲーム以前と技の冴えは比べるまでもない両者だが、戦闘スタイルの変化で言えば残り一名が追随を許さぬ推移を見せる。

 立ちはだかる剣鬼、目にも留まらぬ影刃、そして――今まさに赤く染まったプレイヤーカーソルの魔法使い。

 三人の強者がダンジョンの広間で死闘を繰り広げる。互いの命を懸けた文字通りの死闘が。

 

「っははははァ! テメェも殺したな! 俺の仲間を殺したな! 『人殺しは許されない』だったか、滑稽だなぁ全く!」

「ゴチャゴチャうるせェな!」

 

 言葉を叩き切るように振り下ろされた椒の大太刀が、耳障りな哄笑を寸断した。しかしその身までもを切り裂くことは出来ず、男は笑みを浮かべ、自身から放出した黒霧で身を隠す。

 黒く塗りつぶされた空間に一歩引き、椒は後方にいる仲間――凍星奏雨へ背中を預けた。いや、この場合は背もたれになるような、そんなニュアンスが近い。

 不揃いに継ぎ接ぐ呼吸が静かに繰り返されているのを耳にする鬼面。かける言葉に逡巡したところで、黒霧に包まれた男ではない別のプレイヤーから剣戟を持ちかけられる。

 下から振り上げるスキルを、椒は押し潰すように放つスキルで応戦した。

 

「運が悪かったな。俺達にとっては運が良かったけど」

「あァ……?」

「攻略組がたったの三人で、ノコノコ現れてくれちゃって……本当に運がいい!」

 

 黒霧の男――殺人ギルド『ラフ・イズ・ラフ』のギルドマスターが椒に刻んだ筋力デバフさえなければ、相対する剣士に劣ることはまず無かったが、現状、『ラフ・イズ・ラフ』の張り巡らせた網を踏んでいる三人が劣勢を嘆くのは無意味に等しい。

 総勢二十人弱のギルドを相手取るたった三人、そこに見出す希望は――己の頭上で忌々しく輝く、赤きカーソルの存在だろう。今から小一時間ほど前までは瑞々しい発色の緑を掲げていた者達が、この場で脅威を払いのけた証明こそ深紅の証。

 多勢に無勢ながらも、一矢報いる悲観的な想いで戦っているプレイヤーはいない。椒も白金も殺人者を殲滅する気概で剣を振り、奏雨も、そのつもりで()()使()()に指示を送った。

 プレイヤーを手に掛けたテイムモンスターは今も白金と共闘し、ギルド所属者に死の輪郭を示している。

 奏雨は背負った罪と現状を一息に飲み干し、長く太い息を吐き出した。

 魔法使いはいつまでも戦地で閉口していられない。

 背後を伺う。椒と敵の剣士には力の差があるようだ、恐らくレベルも素の筋力も椒の方が上。状況が状況の為に互角だが、たったひとさじの助力が大きく天秤を傾けるように奏雨は思った。狼人は連携というアドバンテージにおいて、こちらの方が根強いと疑わない。

 

「ごめん」

 

 無論詠唱ではない。彼が使う魔法に詠唱は必要なかった。

 なればその言葉の意図は一つ、何度でも飽き足らず、人殺しの業を仲間へ押し付けることへの呵責。

 《加重・中》

 上から太刀を押し付けていた椒がどんどんと力を増していき、罅割れてから間もなく敵の剣が折られる。

 みるみる絶望に変わる表情を、凍て付く視線で椒は見下ろす。最早躊躇いはなく、鬼刃がまた一つ業を纏った。

 

「フゥ――」

 

 奏雨を中心とした重力の強化によって、上下の体勢にあった両者の均衡を大きく揺らがした。

 これは従来の奏雨には必要としないデバフスキルだった。氷など見る影もなく、秀麗さの欠片もない魔法で相手の動きを奪い取る。それが今の奏雨の戦い方。

 一部の杖を刺突属性の近接武器として扱うスキル《イリュジオン・ライト》を用いた自衛は健在なのだが、集団での狩りを得意とする殺人ギルドに小手先で突っ込むのは蛮勇ですらある。故に前線をテイムモンスターと、白金、椒両名に託している。

 それでも染まったカーソルを見て彼は、人の手を一方的に汚させるハメにならなくて良かったと、後に思うだろう。

 思うのも死線を超えたらの話だ。

 椒の背後、奏雨の正面には数名の魔法使いがいる。猛火や雷槌を放つ正道の者ではなく、妨害を信条とした邪道の魔が。

 

「椒。あれを片付けたい……ギルマスは多分、白金の方に行った」

「オッケー」

 

 極力重くならないよう相槌を打つ椒だが、声色まで明るくはならない。黒霧の向こうで白金――ゲーム開始以前の付き合いがある友人が危機にさらされているのを思うと当然だ。

 そもそもの話、ゲームオーバーが死の同義語となった今は安全を喫し、魔法使いの奏雨を中心とした編成で手厚く攻略するのが定石と考えられる。それを行なわないのはひとえに白金の意志……言外の破滅欲求。理屈を付け単独行動に奔走する彼女が、今回も例に則ったというだけの話だ。

 だが、薄々感じ取る願望を今日叶えさせるつもりは二人にない。でなければ、奏雨の主力であるテイムモンスターを付き添わせはしないだろう。独りでいかせない椒の流儀、そしてやれるなら突き詰めて実行に移す奏雨のスタンスが合わさり、矛先を魔法使い達へ重ねる。狙いは最短撃破、即時に白金への合流。

 奏雨を除き魔法使いは五人。ダンジョン内の戦いであるため闖入者を警戒している者と、被食者を弱らせる者。前者も危機となれば戦いに交わるのは想像に易い。

 早急に打ち倒すにはハードルがある面々だった。

 射程に則った長い間合が椒の技を物理的に遠ざけている。加えてデバフを集中砲火されてしまえば木偶として散る可能性も高く、足踏みする理由は大きい。だからこそ最速で片付ける。

 幸いにも奏雨のとある魔法でかなり高いデバフ耐性を持っている、隙さえあれば『修羅』の名を証明できよう。

 

「ここで出し切っても大丈夫。白金と合流できればどうにかなる」

「……」

 

 短く区切りながら発せられる言葉に焦りを感じ取りつつ、今はかぶりを振って頭から追い出す。椒が真に奏雨の焦燥を解けるとしたら、誰も欠けずにこの場を切り抜ける以外にはないと分かっていた。

 鬼面の裏で鋭く放つ眼光。

 奏雨が思うほど、今の椒に人殺しの精神的ダメージはない。

 あるのは、オーバーフローした冷徹な激情のみ。

 

「腹括れよ、クズ共」

 《修羅》と化した者の、報復の惨劇が始まる。

 

 

 

 場面は奏雨がカーソルを赤く濁らす直前へ遡る。

 

 一同はダンジョンから帰還している最中に『ラフ・イズ・ラフ』と鉢合わせた。出口側へ待ち伏せするようにいた殺人者達が往く手を阻むようにして。

 高難度ダンジョン攻略を狩場にしている三人は疲弊しておらず、ほぼ万全とも言えた。

 たった三人が万全で、二十人弱を相手出来ると思うプレイヤーはどれほどだろうか。相当数が首を横に振るだろう難題だが、これがたった一人になれば話は違った。

 高い索敵スキルとテイムモンスターの察知能力や隠密スキルを持つ奏雨は事前に把握し、その身を隠してやり過ごすことが出来た可能性が高い。

 白金は天井を利用したスパイダーフックと高AGIの機動力で撒けただろう。

 椒に関しては難題のままだが、そもそも彼は一人でダンジョンに潜るスタイルではない。白金らがいなければ今も命が脅かされることなく活動していたはずだ。

 どことなくそのことを察する三者。そして白金に合流する形を取った椒、奏雨は幾らかの気まずさを漠然と抱えていた。この死線を切り抜けた時、どう詫びるかなんてよぎったほど。

 しかしその白金自身は違った。毛ほども後ろめたさはなく、双剣を握った手に戦意が満ちた。これは殺人ギルドへの義憤なんて誇り高きものではない。

 

――六人目。心中で呟き、パーティクルと化した敵に一瞥も寄越さず疾駆を再開した。

 蜘蛛糸を打ち込む障害物が乏しい広間でも、『やりようはある』と言わんばかりの縦横無尽さを見せる白金。彼女は天井と側面の壁を使いながら包囲されないように動き、連携の崩れた者から処断する。

 中には滑稽に断末魔を叫ぶプレイヤーもいたが、耳障りだと眉を顰める程度の力しか働かなかった。三人のうち最も早くレッドカーソルとなった少女には、相応に躊躇いがない。

 開戦時も飛びぬけて早く切り込んだものだ。

 なればこそ、自分だけでもこの場を離脱することが出来たのだが、彼女に言わせてみればこの状況もそう悲劇ではない。むしろ――

 

「容赦ないねぇっ! 人殺しって分かってやってんでしょ?」

 

 白金は気まぐれに、曲刀を操る女の言葉を踏まえてみる。

 初めはデスゲームを不愉快なジョークだと受け取る者もいた。ログアウトが消失している時点で、死んでも死ななくても魂がゲーム内に幽閉されているのだから、些事とも思えるが。やはり違いはある。

 実は死んでも問題はなく、むしろ現実で目覚めることが出来るのではないか、と思うプレイヤーがいた。今でこそ失笑を誘う話だが、それも当時ではそれなりに言われている話だ。

 それを否定したのは、ゲーム内のお知らせ機能だ。カジュアルな概念での『運営』と隔絶された世界では凍結された機能かと思われたものは、プレイヤーへ大小様々な衝撃を覚えさせるのに充分な内容を唐突に記載した。詳細は割愛するが、そこで大半のプレイヤーが死を実感し、いまや死を誘う吹聴は質の悪い道化行為に過ぎない。

 その認識は白金も同じだった。自らの死の重さについては論ずる必要があるが、しかし、他人の命についての認識は、他の者と大きく変わらない。

 道徳的な観点から見て、人殺しは犯してはいけない。

 カーソル制度を鑑みた合理的思考も介在しているだろうが、不満に思ったから殺すような非倫理アラクネではないのは確かである。

 それなのにここまで即殺人に踏み込めるものだろうか。優れた攻略組程度の認識しかない『ラフ・イズ・ラフ』の女は感心に近い感情を抱いていた。

 それは見当外れにも程がある。

 

「どこまでやれるか――ってとこかな」

 

 二人を置き去りにしなかった理由も、幾度も殺人を重ねられるのも、究極的には白金の内在する衝動へ帰結する。

 ひとしおの情があるのは誰も否定しないが、情で止まらない破滅的な衝動があるのは既に『元』ギルドマスターとして証明してしまっている。

 既に生身の身体を失っていた者のみが魅せる速さに、常人だった彼らは未だ追いつけない。

 迂闊にも白金の言葉を聞いた女、そして周囲のギルドメンバーは等しく【恐怖】の状態異常を受ける。 『黒冠のカリスマ』が所有する効果だ。

 それに続くように、白金へ助力していたテイムモンスターがスキルを放つ。

 ボスゲージがないため雑魚エネミー枠ながらも、その能力は中ボス相当。高レベル推奨の霊園マップにて辛くもテイムを成功させた――奏雨にとって二匹目の霊体モンスター『ペイン・テイカー』が鎌の持ち手側を地面に叩き付ける。

 ペイン・テイカーの見た目は所謂死神のステレオなイメージだ。昏い紫色の布で出来た身体に、怨霊のような歪で細く白い顔、宙に浮いた身体で軽々扱う大鎌と、迫力に満ちたエネミーらしいモンスター。それが鎌を叩き付けると、甲高い音が一度反響し――身体から紫色の煙を噴射する。

 《ソウルスパイス》

 目に見えて毒ガスであるそれは、事前に防備している白金には効かない。効くのは【恐怖】で状態異常耐性の低下した『ラフ・イズ・ラフ』だけ。

 毒ガスはすぐさま晴れる。受けた毒も効果時間は非常に短いものだが、一瞬の目くらましと状態異常一つ分の特効さえあれば、白金が命を刈り取るのも時間の問題だ。

 比較的テイムモンスターの近くにいた女へ狙いをつけ、スパイダーフックの直線移動ではなく自力の高AGIを活かした接近で襲い掛かる。ひとたび捉えれば手も掛からず、一つ二つと刻んでいく。そうして傷を作る度、淡白なダメージエフェクトと相反して傷は膿む。

 重なった状態異常に耐えかねて膝を折る女、多くの人間を屠った女が見上げたのは――死そのもの。

 

「……七?」

 

 息つく間もなくギルドメンバーの男が白金へ槍を放った。ほんの数瞬とはいえ、斬り刻むのに足を止めてしまった為に周囲は軽く包囲されている。やむなく最低限のダメージに抑えて離脱に移ろうとするが、視界の端の紫布で考えは変わった。

 刹那の直線を見切り、双剣の片割れを振り下ろして防ぐ。

 槍兵は立て直そうとするも――大鎌は弧を描き、その腹を掻っ捌いた。死ねば死ぬゲームという悪趣味な舞台だが、ゲームでなければどんな惨状か。大仰な一振りにて槍兵はパーティクルと化し身体を失う。そうして開いた隙間から白金は包囲から離脱した。

 ついに手を汚した奏雨に思うところはなくもない。自分ほど非情に徹しきれていない雰囲気のあった狼人。

 それ故か、軽く目線を向けたところで、椒や奏雨に続く廊下が黒く塗りつぶされる。空中を墨で汚したような黒い霧が哄笑を放った。

 

「俺も混ぜてよ――アラクネ」

「上手く踊れるなら、歓迎するわよ」




『ラフ・イズ・ラフ』
総勢19名。殺人ギルドとしては中くらいで、ギルドマスターのワンマンのようなギルド。
ただ他の犯罪ギルドとパイプがあり、その姿を見掛けても中々追い詰めることが出来なかった。
レベル90越えのプレイヤーは一握り。恐らく三人くらい。
『気軽に暴虐を』



『ペイン・テイカー』
デスゲーム後、解雇した冰熊の穴埋めとして招き入れた霊体モンスター。
鎌以外に物理判定がないのでガンガン前線に送り出せるし、AGIが素でかなり高いうえスキルで増強も出来る。
かなり強いものの、テイムモンスターを霊体として蘇生するクエストを踏まないと登場しないのであまりプレイヤーからの認知度はない。
『痛みを運ぶ死神ならぬ者』
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