闇鍋の具   作:凍星 奏雨

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三年前に書いていたものです。


闇鍋組合活動記録-Ver1.0

 ギルドハウスの庭園で、幾人かのプレイヤーが談話している。もっとも、複数の話題が複数のグループで共有されている、フリーダムな集まりだが。

 

「え、魔法汎用なんですかそのスキル」

「えぇ。まぁ相当極めないと出てこないので――今からだと難しいでしょうけど」

 

 スキルウィンドウから目を泳がせる奏雨を見て、月詠はほくそ笑む。

 ベンチに座っている奏雨の傍らに立っている為、月詠は奏雨が表示させたウインドゥを覗く事ができた。話題に挙げたスキルの習得まで根気が続かないだろうと月詠は判断する。

 

 一方で、互いの武器を持っては修得スキルと照らし合わせる者達もいた。

 

「ちょっと二刀流のモーション見せてくんない?」

「花切れるが?」

 

 互いの武器を返した後、椒がメインウェポンの源斬と。直近のドロップ品である鬼紋神楽月を手にする。後者は未だ血を被ってない新参者なのだが、かといって手放す気にならない心情も、彼と関わっているプレイヤーなら理解できるだろう。

 質問の意図まで理解した白金だが、好色を見せる訳でもなく、むしろ要望に応える気は湧いてないように見える。

 物騒な話を耳にしたケットシーは、花壇から椒に目線を向けた。共にいた塩宮、ハジメも釣られて顔を上げる。

 

「庭荒らしだー!」

「いや、流石に戦闘マップだろ」

 

 冗談めいた抗議をひらりと躱す。大事(おおごと)にならないと見切りをつけたハジメは、園芸用オブジェクトを評価していないことに気が付いて再び花壇に生えた無数の花を観察し始めた。

 

「面倒……」

「高AGIがなんかいってんなぁ」

 

 アラクネの惰性たっぷりな発言に塩宮が茶々を入れる。

 移動したくても不便な重装備低AGIと、移動に困らない軽装備高AGIでは、冷戦じみた皮肉の送り合いが睦まじいコミュニケーションになることもある。

 

「なにやら面白そうな話してますねぇ」

 

 月詠は、この場にやってきた際に使ったセリフを引用しながら白金達に合流した。

 奏雨もなんとなく着いてきたようで、ハジメが花を捕食するかしまいかという状況に固唾を飲んだが、誰もそれに気付いていないことから気にしないことにした。

 

「どうもー、さっきまで装備交換してました」

 

 二本の太刀を持ったまま、椒が経緯を説明する。へぇ、と続きを促す月詠だったが、装備スキルの情報交換目的だと察しはついていた。

 

「お面外れたしょーも見れましたよ!」

「別に言われれば外すけど……」

「あんまり頓着してないよね」

 

 見る側としては覆面装備の素顔はレアなのだが、さほど意識していない覆面二人のテンションは至ってデフォルトだった。この場で要望されれば、椒も塩宮も言葉通り素顔を晒すだろう。

 会話の流れを読んで、奏雨が口を開く。

 

「やっぱりある程度ギルドにいると気になるものですよね。私も月詠さんとスキル修得状況とか確認してましたし」

「見られちゃいました。てれてれ」

「恥ずかしがる要素あったかなぁ!」

「おや~?」

 

 ツッコミを入れる奏雨に椒がまくしたてる。

 無理矢理に空気を変える咳払いを連発し、奏雨は仕切り直す。

 

「実際、初期リスが種族で固まってても、職が同じ人と交流するのってこういう場じゃないと中々ないですし」

「いぇーい」

 

 その場を設けた白金に目線を向けると、ふてぶてしく主張してくる。

 

「ね、戦場(いくさば)あるけど、白金いなかったら多分二刀流する気なかったし」

「椒はその剣使いたいだけだろうに。まぁタンク職は基本集まらないので、雨葉さんと会えたのは良かったです」

「ファブリーズかけたシーツみたいな味、と。……ん? あぁ、まぁタンクが何人もいたら事故るしねー」

「ん~?! 今なんていった?」

「えっ、何聞いたんだこの人」

「えぇ~? さっぱりわかんないな、こわ……」

 

 唐突に発せられた言葉を、獣人二人は聞き逃さなかった。

 逆に言えば、恋葉と奏雨以外の耳にハジメの呟きは届いていない。予定調和と笑う奏雨と反して、恋葉は大きなリアクションを見せる。

 しかし、奏雨と月詠以外は困惑の様子を見せ、次第に疑念は薄れていった。

 

「似た職業の情報交換は大事ですからねぇ。いやしかし、見るだけではなく実際に戦うのも分かりやすいと思いますが」

 

 話題をもともとの路線に戻しつつも、大きな一石を投じる月詠の眼は、深淵のような好奇心が潜んでいた。

 椒は期待の目線を白金に向ける。

 

「んまぁ、プレイヤー戦も練習したかったし、いいよ」

「よっし!」

「ぬるっと決まるなぁ」

「我々はどうしましょうか」

 

 その一人称の内側に、自分も含まれているのだと奏雨は気付く。この場での魔法職は確かに月詠と奏雨のみだが、期待通りの戦闘になるだろうか。

 すぐに首肯できない懸念を、ひとまず後回しにした。

 

「あー、椒達が終わったらって感じですかね。誰かがケチってるせいで闘技場一つしかないですし」

「はぁーん?」

 

 白金が似合わない威圧をしたところで、エフェクトと共に誰かがやってくる。

 

「いいなー、私もそういうのしたい」

「彩音さんは支援職ですからね。っと、噂をすれば」

 

 姿を現したのは、同種族の椒と比べても少々特殊で不均等な二本の角を額から生やした、ギルドのトリックスター松林檎だった。

 

「チャオー。なんの話?」

「情報交換も兼ねて同じ職業で戦ってみない?ってとこに、ごんやんが来たとこ」

 

 そう言いながら雨葉が恋葉に目線を向けることで、檎に噂の意図が伝わったようだ。

 

「僕と彩音が戦うの? いいけど、いいの?」

「ひぇっ、殺られる」

 

 拳を構える檎は、冗談であろうとも形容しがたいプレッシャーがあった。或いは近しく在る椒が、緩くなってきた空気を急かす。

 

「ま、とりあえず俺らが先約なんで!」

 

 白金の意思を受け付けずに椒は庭園と地続きの場所にあるギルドハウス用の闘技場へ向かった。白金も歩き始め、庭園にいる支援職二名タンク二名魔法職二名の計六人も後に続く。

 自動ポップする花の一凛が消えたことに、今後新しく気付く者はいないだろう。

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