闇鍋の具   作:凍星 奏雨

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ぽっと出のネタなので続かないです

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闇鍋組合活動記録-ver2.0

「んに〜〜〜……」

 

 っと、テーブルに突っ伏して悩みを悩んでるまま垂れ流すのは、二股を椅子の隙間から垂らしたケットシー。白く柔らかな毛質の耳をくたびれさせ、彩音恋葉は両腕を伸ばす。

 向かいに座るのは翡翠鋼の鎧を着込んだギルドの巨壁。彼は自らのコーヒーカップを手前に引き寄せ、脱力のままに伸ばされた華奢な両腕を見やる。

 

「悩んでますねぇ」

「んん〜〜やりたいんだけどなぁーっ……」

 

 大層悩んでいる様子の少女だが、塩宮るれあは特段深刻に思わず、ゲーム内のお知らせを見返している。最新更新日は本日の日付を指していた。

 彼女らがいる室内はさながらログハウスと言ったところで、猫が伸びた机も円形の木製テーブル、建物の雰囲気と噛み合った落ち着きのある色合いをしている。

 テーブルを囲むように用意された椅子は五席で、現在は彩音、塩宮含め三席が埋まっている。

 向かい合って座る二人を軽く見たあと、建物の中にいるもう一人に視線をやって、凍星奏雨は腰を浮かした。

 この建物は小さなセーフハウスで、今は四人が屋根の下に集っている。あまり使う頻度は多くないのか、家具の揃えは簡素なものだ。キッチンで今しがた仕事を終えたコーヒーミルなどが、個性を僅かばかり醸しているだろうか。

 

「手伝いましょうか?」

「あぁいえ……お気遣いなく」

 

 ふむ、と奏雨は落ち着く。

 ややあって、セーフハウスの持ち主――刻印術師にして行商人、時葉累が湯気を漂わせる二つのカップを持って、テーブルにやってきた。

 

「お待たせしました」

「やったあ。ありがとうございます」

 

 奏雨の分と自分の分とを運んで、累は椅子に座る。

 闇鍋ギルド内で集まりがあるとしたら、ギルドハウスで集まるのが通例だ。しかしギルド外部のプレイヤーがいるとなれば話は別。

 この場を設けた奏雨としては、客観的に見て素行が大人しい人選をしたつもりではあるが――それにしても、衆目の目がある中でギルド外のプレイヤーと出会うのは少し気が引けた。

 本来なら気にする必要のないものだが、ギルドの悪名が悪名なのだ。

 そんな話を累に持ち掛けたところ、渡りに船、最近登録したおあつらえ向きなセーフハウスがあるとのこと。よって彩音、塩宮、奏雨は、累手製のコーヒー片手にチルタイムを過ごしている。

 項垂れケットシーの存在によって、あまりチルチルしいチルではないが。

 

「んで? えー……と」

「彩音さん、そろそろ正気に戻りますか」

「正気で迷ってるんですー。はーい」

 

 扱いに困った累を見兼ねて、塩宮が少女を窘める。

 それほど改まった邂逅ではないのだが、このゲームのプレイヤーにとって、今は時間を無駄にするのが惜しい時期なのは確かだ。

 

「まぁ、今回集めたのは――」

 

 奏雨が口を開いたところ。

 コンコン、と木の扉が叩かれる音がする。調子を崩された奏雨は、同ギルド二人も、扉へ視線を集めた。

 家主はと言えば、眼前に出てきた来客を知らせるポップアップを確認し、予定通りの来客であることを認めれば、ポップアップの解錠ボタンを押した。

 

「「入れるかな……」」

 

 来客と家主の、落ち着いていながらも疑問符を混ぜた呟きが遠巻きにハモる。

 温かなコーヒーを置いて、累は席を立った。

 姿を現したのは横幅の大きな種族。足を壁にぶつけつつも、ひとまず入場を許されたアラクネ。ギルドリーダーの白金縁だ。

 

「大丈夫?」

「はいれた。大丈夫」

 

 近寄ってきた累へ頷くと、他三人にも「待たせて悪いね」と声を掛ける。

 

「そんな待ってないですし、彩音さんも()()なので……」

「やっほー」

「私もさっき来たばかりだしね。リアル?」

「いや、普通にクエストフラグに足止めされてた」

 

 約束事を控えたならば、冗談混じりに『回避しろ』だの軽口を叩いたであろう奏雨だが、今日ばかりは見逃す他あるまい。というのも、奏雨が塩宮達より後にコーヒーを貰っている理由は白金とまんま同じだからだ。

 さて、時間差のある来客へ逐一コーヒーを振舞っていた累。再現度の高い家具と風味のおかげで退屈さは覚えないものの……。

 

「なんか、コーヒーとか……淹れます?」

 

 白金は、既に机に並ぶ四つのカップを見下ろす。

 恐らくは丁度淹れたのであろう、湯気立ち昇るコーヒーカップ。

 

「いや。遠慮するわ」

「まぁ正直有り難い……ところでなんですけど椅子って」

 

 人用の椅子へ、アラクネが座れるはずもないのである。

 尤も椅子自体必要とするかは疑問だが。

 

「いや。遠慮するわ」

「遠慮とかじゃねぇだろ」

 

 言うと思った、と言わんばかりに突っ込む奏雨。

 やり取りですっかり笑顔になった彩音が、横に位置取る白金へ雑に話しかける。

 

「ねえ僕はどうしたらいい……?」

「えぇ知らない……」

「あのずっとこの調子なので、気にしないで大丈夫だと思います」

 

 元々、様子のおかしな彩音ではなく素顔を晒した塩宮に関心を惹かれていた白金。言われるまでもなかった。

 その間、塩宮と同じくゲーム内情報を見ていた奏雨。改めて、彼は本題に移る。

 

「んじゃ、全員集まったし確認していきますか」

 

 本日は定期的に行なわれるゲーム内更新日であった。

 奏雨はギルドメンバーを素行で選別していたが、それでなくとも新しい要素を巡って駆けまわる他メンバーを引き留めるのは難しい話である。特に情報屋、美食家、快楽主義者数名などは。

 今回集まった五人は追加アップデートでも影響度合いが二極化している。

 

「ま、例の如く私は特に影響ないですね」

「白金もそうだったよね」

「アラクネ毒使いが影響あることは、まぁー無い」

 

 定期更新ではクエストフラグの追加、ダンジョンを含めマップの拡大、そしてバランス調整が主だ。開発者の精力的な新規要素の追加によって、このゲームは支えられている。

 そんな新規要素の矛先が、突如二人のプレイヤーに向いた。

 フラグ、マップ拡大、バランス調整――どれにも当てはまらないもの。今回の目玉のひとつ。

 新規派生ジョブ『宝石商』

 検討と、奏雨個人の動機によって、この場が用意されている。

 渦中の一人に、奏雨が鉢を回した。

 

「で、結局どんな感じです。ふんぎり付きました?」

「まだでーす……」

「なんの話?」

 

 妙な調子の彩音を見かねて、白金が小首を傾げる。

 

「追加ジョブの一つ、『宝石商』になる条件を満たしているようなんですが……」

「結構しっかり製作物が限定されるみたいなんですよね」

 

 塩宮の滲ませた懸念を累が引き継ぐ。

 流石の高レベル鍛冶屋であり、ジョブ派生フラグを大きく満たしている彩音。尚、累も同様だが、彩音程切羽詰まった決断をする気はないようだった。

 彼女自身が事情を語るまでの猶予を、奏雨が埋める。

 

「宝石商って聞いたら完全に売人って感じするけど、なんかバリバリ戦闘職っぽいね」

「あそうなんですか? てっきり魔石特化なのかと思ってましたが」

「概念的には魔石の枠でしょうけど、今までがパッシブの魔石、宝石商の生産物はアクションの魔石……使い捨てなり、攻撃モジュール用の魔石って感じみたいですよ」

「生産物の制限が厳しいからって感じですかね」

「単騎性能を見れば、恐らく」

 

 奏雨と累で会話に花を咲かせていると、彩音もすっかり冷たくなったコーヒーを含みながら会話に混ざる。

 

「今まで戦いになるとあんまりだったからさー、しかも宝石だし」

「後者が九割でしょ」

「九もないもん! 七割だもん」

「変わってないです彩音さん……」

 

 冷ややかな白金に頬を膨らませつつ、彼女は話を続ける。

 

「でも今の職も捨てがたい……」

「少なからず、ギルド内でも彩音さんの鍛冶スキルをアテにしてる人はいますからね」

「んでこの会は、彼女の背中を押す会という認識で……?」

 

 わざわざ自らのセーフハウスを使ってまで、と……それほど毒もないが、話題を進めに行く。

 本来なら彩音の方針が決まってから話題に出したいところだったが、奏雨は彩音と累に目を合わせて、説明し始める。

 

「実際検討、考察がしたかったのは確かですけどね。ただ、お二人どっちかに頼み事がしたくて」

「ふむ」「ほう」

「宝石商分岐を進行してからじゃないと踏めないクエストがあるそうで……私は、それが、絶対に欲しいんですよ」

「おぉ……熱量」

 

 彩音が笑みを浮かばせ、続きを待つ。

 実際、ゲーム内でここまで押しが強い奏雨はあまり見ない。見るとしたら余程のライン越えが起きそうな時か――。

 

「『久遠の氷晶』、宝石分類の、氷属性大強化アクセです」

 

 氷系統についてである。

 

「宝石商はさっきの通り戦闘に特化した生産職という側面が強くて。使い切りの大きな効果を持つ宝石や、武器を恒久的に強化する……までは今までもありましたが、なんでも武器自体にスキルを刻印出来るんだと。まぁ相応に要求条件が多くて、私が副職出来るとしたら数年は先でしょうね」

「まぁつまり、それくらい強い宝石商のアイテムだから、報酬の氷晶も強いだろうと」

 

 持って回った主張を白金が纏めると、奏雨は力強く頷く。

 ともなれば次第に、面々はこのメンツにも合点が行った様子だ。

 オールラウンダーな奏雨、累。サポートの彩音、名タンク塩宮。そしてアタッカーの白金。パーティを組むにはバランスが良い。

 ヒーラーもいなければやや火力も不安に思えるが、回復のいない戦いは充分慣れている上に、白金の火力でどうにもならないのはそれこそ高難度のボスくらいなものだ。その場合は大人しく再編するべし。

 加えて、クエスト報酬という話なら、なるべく関わる人数を減らして軋轢を回避したいのが本音でもあった。

 

「ジョブごとのチュートリアルクエストさえ踏めれば、氷晶クエストのフラグも踏めるそうです。どうか何卒……」

「まぁ、踏むだけなら後でクエスト破棄すればいいだけですけど」

「私はいいよー」

 

 他二人もやぶさかではない態度で、奏雨の顔は明るくなる。

 コーヒーを飲み干し、彼は大きく頷いた。

 

「よし! それじゃあよろしくお願いします。しばらくはもうかなりバックアップするんでね、本当。借りは返しますよ」




・宝石商
『刀鍛冶』等が玉鋼を要求するように、研磨前の宝石アイテムを元にマジックアイテムを精製する職業。
刻印によってさまざまな効果を得れるが、実装初期は戦闘用が占めている。
即席アイテムはインベントリから出す手間を数秒要求するが、宝石を複数保持出来るポーチが共に実装されたことから、注目度は高い。

分岐条件は生産スキルをそこそこのライン(プレイヤーレベル的には60~辺り)まで修めている事と、公的アイテム売買(個人間のやり取りではなく、ゲーム内の店等を通して顧客に買ってもらうこと)を一定額済ませている事。


奏雨君は、追加職業の中では難易度の高い方で、尚且つ戦闘用の強力な効果を付与出来る事、そして市場に関与した条件がある事から、ゲーム内の環境を加速させるための実装だと思っている。
その事についても検討したかったが、そういう空気でも無かった。
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