闇鍋の具   作:凍星 奏雨

19 / 31
デスゲ時空のハジメちゃんと奏雨君に話してもらいたかった


“元”闇鍋組合活動記録-ver2.0

――遺声独唱庭園《アリオーソ》

 

 普段の純白な外套から一転、《霊皮の外套》は効果こそ有用だけど、着心地が悪い。

 クエストの為にやむなく着ていたが、移動中くらいは脱いじゃおうか。

 そんな考えが、過ぎって――そのまま通り過ぎる。

 足元の『狼魂・シトラス』が感知反応を見せた。流石死者の蔓延る霊園エリア、霊へのスキル強化補正が掛かりすぎて、反応されても私が見つけらんないぜ。

 幸い方角は分かった。

 隠密補正の《霊皮の外套》があるのを良い事に、私は消音スキルを発動して迫った。

 

(あの姿は……)

 

 考えるより先に、私は行動へ移していた。

 記憶と装備が違う。けど、特徴は押さえてある。

 それで充分、追う価値はあった。

 

 彼女は足を止めた。

 茂る草葉の代わりに青い炎が奔る地面。そして地面からは、生物上考えられない大きさの骨が生えている。

 大体三十メートル強か。障害物がどんどん少なっていくせいで、思うように近付けない。

 いっそAGIに物を言わせて強引に……いやぁ、剣呑すぎる。出来る限りは温和になるよう、努めていきたい。

 

 深い夜、星すら光を届けない中では、生気のない青い炎だけが唯一の光源だった。

 それでもどうしてか。

 彼女は兜を付けている。万一にもあり得ないのに、どうしてか。

 振り返った彼女と――目があったような気がした。

 

(気付かれた、この距離でか!)

 

 私の姿を認めた途端、彼女――雨葉さんは、持っていた大鐧を振り上げた。

 地面に叩き付けられる重い一撃。この地表は高いエリア保護補正が掛かっている。

 起こるのは崩壊ではなく――爆発的に舞う砂煙。

 

「シトラス……!」

 

 足元の狼魂が足へ憑りつく。

 その気ならもう、手段は選べない……!

 

「――速いねえ。白金みたい」

「ちょっと受け取れないですね。アレにはもう、追いつけない」

 

 骨を蹴り進んだ不敬を、この地に眠る者は許してくれるだろうか。

 ともあれ幸いだった。私の機動力で追い付けたことも幸運だし、往く道を塞いだら観念して貰えたのも、幸運だ。

 

「……いつから尾けてたの?」

 

 私の徳をかってくれてるな。

 後ろ暗い手段を取ったのは私なのに、聞いてくれるなんて。

 

「割とすぐ気付かれましたよ。うちの子が、ここらに用あったんで」

「そっかぁ。じゃあ頑張ってね。久しぶりに元気そうな顔が見られてよかったよ」

「私は見れませんけどね……っ」

 

 兜で顔見えないもん。……ジョークはウケなかったみたい。

 先の疑問は義理立てと、まぁ多分、私の仲間を警戒したものなんだろう。

 実際、元から彼女を尾行する気なら、私は間違いなく塩宮さん達に連絡をした。

 それが困るのは、もう分かる。察するとかじゃない。

 ――浮かんでいるレッドカーソルは、人に見られたくないに決まっている。

 私も、視線が吸われないよう注意するので手一杯だ。

 『闇鍋の大食い娘』が尚も活動を続けた、なんて信じられない。思いもしない。

 ではなぜ染まったか。

 ……想像出来るものじゃない。どんな答えを見付けようと、妄想でしかない。

 なら聞くか? 

 ――ありえない。

 そんなこと、逆鱗をなぞるのとなんら変わらないだろう。

 友人を探るもんじゃないなぁ。

 

「あの……」

 

 杖を外套の裏へ閉まった。

 レッドプレイヤーの前で武装を手放すなんて、考えられないことだ。

 ……友人を警戒して武装するなんて、一層考えられないことだ。

 

「戻ってきませんか?」

「……知ってるよ。奏雨君もギルドを抜けたままだって」

 

 そのことじゃない。耳が痛い話だ、もしかしたら牽制のつもりかもしれないな。

 バカげた提案を聞かないでおく。そういう、表明と牽制。

 もしそうだとしても、私は首を横に振って、答えた。

 

「――表舞台に。いや、ただ戻ってくるんじゃない。攻略へ参加してほしいんです」

 

 重装の、面を隠したプレッシャーはどうにも慣れない。多分この先もそうだ。人の顔色を見る私は、やり方を変えられないだろう。

 沈黙は重い。

 言ってから気付いたけど、私の言葉は如何せん軽すぎた。

 誰が好き好んで独りになりたいだろう。

 ましてや、あんな奇天烈なドッキリに乗っかるほど、人と関わり合うのが好きな彼女が。

 

「――私はレッドだよ。戻る戻らないじゃない、居たらいけない存在なの」

 

 分かるでしょ? と、暗に告げてくる。口に出さなかったのは、なんとなく、私が非難と聞き違えない為に配慮してくれたように思える。

 いや……どうだろう。

 考えすぎな気もする。

 ただ、是非は関係ない。

 レッドカーソルというだけで、言動に曰くが付く。意味を見出してしまう。

 その思考に良し悪しは関係ない、とにかく邪推に晒されることを今しがた、私が体現してしまったのだ。

 

「……でも」

 

 塩宮さんがどんな顔をして周囲に椒の擁護をしているか、納得させているか。面が分からずとも理解出来る。

 レッドの力でもいい。前線への戦力がまるで足りないんだ。

 

「貴女の力が必要です。

 ……このふざけた世界を終わらせる為には、力のあるプレイヤーが働かなくちゃいけない。

 MMOというリソースの奪い合いを認めた人の、義務ですらある」

 

 言葉が強いのは分かってる。義務だなんて、思っていない。

 彼女はどうだろう。私が思ってもないことを口走ってることに、気付いているのだろうか。

 もうすっかり話さなくなってしまった。

 変化として受け取られても、否定なんかできっこない。

 

「……素敵な考えだね。ノブレスオブリージュってやつかな」

 

 その寂しげな声で――もう、答えは分かったも同然だった。

 

「でも、それは強要するものではないよね」

「…………。ですね、間違いないです」

 

 彼女は、空を指で切る。ウィンドウ操作だろう。

 レッドプレイヤーが目の前で何かしている。そんな様子に私は警戒一つせず、ただぼんやりと眺めていた。

 ……後悔の処理をしながら。

 

「一つ、約束してほしいな」

「なんですか?」

「内緒にして、……私に、もう関わらないでほしいんだ」

 

 ここまできて首を横にふれば、どれほど彼女を踏みにじることになるだろう。

 私にとってそれは、かつて馳せた偉大なる竜の骨を踏みにじるより、よっぽど重い。

 

「……わかりました。まぁ、この世界を攻略しようって言うんです。もしかしたら」

「うん。次会っても、それは悲しい偶然だね。……ありがとう」

 

 彼女がウィンドウ操作をやめたのを皮切りに、片方の手に光が募った。

 顕在化したアイテムはここからじゃよく見えない。手に収まる小さなもの、というだけ。

 

「これは約束のお礼」

 

 そう言って彼女は、出したアイテムを私に放った。

 手に取った感触は硬い。

 見れば、爬虫類の瞳のような、そんな宝石だ。

 

「きっと、奏雨君の役に立つよ」

「……ありがとうございます」

 

 そろそろ潮時だろう。

 後悔が少し、尾を引いてしまっているらしい。私は早口気味に言った。

 

「じゃあ、行きますね。私の足じゃ、またすぐ会っちゃうかも」

 

 笑えない冗談だ。……彼女にとってどうだったのか。それを確かめることなく、私はこの場を後にした。

 

 別に、考えてみれば、急いで離れる理由もないのに。

 走る間、私は何度も深く息をして、乾いた空気の味を確かめていた。

 

『義務ですらある』

 

 理屈を使った論調は、間違いなく悪手だ。

 人に言われるまでもないだろうに。

 そんなの、介するべき仲でもなかったろうに。

 私はただ恐れてしまった。

 ……もし理屈なんて関係なく、ただ仲間として肯定した時。

 そう、友達だから一緒に行こうって言って――そして、それが断られてしまった時。

 

 友達と言ったことを後悔してしまう、どうしようもない奴になってしまうことを恐れたんだ。




ハジメちゃんは竜の遺骸目的でやってきてます。
青い炎は、死して尚も残り続ける竜の息吹。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。