凍星奏雨*主
朝露花火*殺
白金縁*主
笹原慧*剣
塩宮るれあ*主
樹凛之助*槍
松林檎*主
敷島抹利*殺
郊外、藍色の波間が踊る倉庫街。
コンクリートや鉄錆に塗れたひと気のない空間において、一際異質な樹木がセイバーとそのマスターを囲っていた。
槍のように鋭利な枝木が大きな弧を描いてセイバーに襲い掛かる。一振りで寸断した次の瞬間には、二本の枝木が両脇から襲来。斬り返してみれば更に数を増やして絶え間なくセイバーを追い詰めていく。
追い詰めていくというには余力のあるセイバーだが、相対する陣営の誇る物量には剣一本の心細さたるや。
ランサー《ハイペリオン》とそのマスター、塩宮るれあ。今聖杯戦争屈指の万能と言えよう二人は、塩宮が錬金術による植物への転化、及び強化を促し、ランサーが対サーヴァント兵器へ昇華。砲手の元へ常に砲弾を運搬しているようなものだ。
尤も魔力効率を度外視したものではあるが、マスターの魔力量を気にしないサーヴァントでもない。つまり、通常攻撃の要領で行える程度の物量でセイバーを押し留めていた。
それは、逆に言えば通常の策だと崩せないのがセイバー《スラッシャー》である。
この状態はセイバーのマスター、白金にとって都合のいい展開だった。というのも、その速さを活かさず迎撃を選ぶ事になったのは、自ら姿を見せて囮になっているからだ。
故に、平常時でランサーを惹き付けていられるのは幸運と言ってもいい。
「ランサー……キリがないです、崩しに行きましょう」
「了解した」
セイバーと傍らの白金に、とぐろを巻くようにして樹木が取り囲む。限られた空間を更に塞ぎかかるのは、再び弧を描いて迫る地衝の樹槍だ。
獣の爪牙のように鋭く迅速にセイバー達を穿たんと迫る。
壮大な攻撃の裏で、文字通り表面ではなく裏面においてうなりをあげている第三の攻撃を、セイバーは聞き逃さなかった。
上下に加え、取り囲む樹木から枝が荊棘の形をもってして伸びる。事実上、全方位がランサーの領域である。
下から天を衝く枝木、内心派手さを懸念する塩宮だが、すぐに焦点が戦場へ合う。
「どうやら一筋縄ではいかないようだ。ギアを上げるが……問題はあるか、マスター」
「バイタル異常なし……。構わないですが、長期化するようなら今晩は撤退します」
「問題ない」
片腕で従者を抱えたセイバーが、土煙から姿を現した。所々は荊棘に引き裂かれた箇所があるものの、取り立てて言う事もない軽傷である。それよりも、マスターに傷一つない事が彼の能力を示していると言えよう。
守護者は健在、反撃に移行する――
その男は激闘を、空想に馳せているように思えてやはり現実に巻き起こる激闘を観覧していた。
「おお、こわいこわい。全く剣呑……剣……いや、剣とか槍とかじゃねえよ、アレ。サーヴァントってのはすごいんだなァ」
礼式めいた装束を身に纏って、マスターは自身のサーヴァントに問いかける。
念話である。魔力を通して従者の軽口が脳に響いた。
「ハッ、《にぎやかし》に何を期待してるんだか」
「滅茶苦茶にぎやかだろ、あそこ」
「でもよマスター。……うるさいのがお好みなら、諸手を挙げて来客をもてなすのも悪くない」
マスターの男は臨戦態勢を取る。セイバーとランサーの戦いよりもマスターの危機だと、そのサーヴァントも馳せ参じる。
封鎖された鉄橋の上、マスターは感覚を研ぎ澄ます。
己のサーヴァントは魔力のパスから気配が辿れる。なければ――両者共に、判然としない。
警告をまともに受けるなら近くにサーヴァントが接近しているのだが、まるで気配が掴めない。それは妙だった、なにせそのマスター……松林檎にとって、
「あん……どういう事だ?」
波長――ほんの数瞬、警戒の波がごくわずかに凪いだその瞬間。
「ッ――『
サーヴァント《
緋髪の男――アサシン《メメント・モリ》が、松林から数十メートル挟んで姿を見せる。否、暴かれる。
「おや。厄介だな……」
「そう思ってくれて恐悦だねぇ。そんで、お前は誰だ?」
マスターと反対側に立っているように見えるサーヴァント。実のところ既に隠密へ移行しており、姿を幻像しているのはマスターへ攻撃させない為のデコイである。
緋髪の男は問いに答える。
「アサシン。悪いが――」
「「えっ」」
「――――?」
《にぎやかし》――クラスにして、アサシン。
「何? 奏雨、あんまり余裕ないんだけど」
『いや……なんか、アサシンが言うに……』
鉄橋に響く糾弾。
「お前――アサシンじゃねぇのかよッ!」
「違いますがァ!?」
「違うのかよ!」
「違うッ! 正真正銘アサシンだぞオレは!」
アサシンのマスター、時を同じく困惑が走る。
「なんでか二人目のアサシンがいる……」
「なんでアサシンがダブっちゃってるんだよクソッ……!」