闇鍋の具   作:凍星 奏雨

3 / 31
凍星奏雨がVRMMOに参戦した時の話です。Ver.1.1から1.2までの話も一緒に入ってます


MMOパロ
凍星奏雨活動記録-Ver.1.0


凍星奏雨活動記録-Ver1.1

 

 ずっしりとしたヘッドギアを手にして、軽く埃を払い落とす。

 買った直後こそ友人と遊んだが、流行が過ぎてからはそこまで感心を示さなくなったオンラインVRゲームというジャンルに、今一度触れてみようと思った次第だ。

 少々たどたどしく準備し、深呼吸をする。

 いずれ、閑静な部屋に稼働音のみが伝わり続けた。

 

 視界は現実から乖離し、仮想の世界に直立する。ここまでは慣れたもの、フリック操作でソフトを選びタップする。

 類似ジャンルはかじったことがあるが、それだけ。VRMMOは未知の世界であり、友人の声以外で情報を仕入れた事もない。故に繰り出される情報量で呆気に取られてしまう。

 ユーザーネーム凍星奏雨が纏う姿を決める為に、種族一覧がズラりと並ぶ。得意不得意があるようで、推奨職や取得スキル例が付随していた。一つ一つくまなく見るのも何十件目か、途方もない作業に辟易し始める。

 

「キリがないな、これ」

 

 大まかに見て、見た目と多少の機能性で決めることにした。

 

「やっぱり獣人だと探索に振りやすいんだ」

 

 推奨自体は分かれていても、獣特有の優れた感覚は大体の種類が持ち合わせているらしい。ならばその中から見た目で選んでも大外れはしないだろう。

 というか、数十はくだらない種族から最適解を選ばなければ快適にプレイできないゲームはバッシングされてしまえばいいと思う。

 見た目を設定し終わり、職を選ぶ。ただ、これは選ぶと表現する程選択肢はなかった。

 ビーストテイマーを選択する。

 モンスターを連れて戦う事にロマンを感じるのも理由の一つだが、それ以上にモンスターやNPCの挙動に興味があってのチョイスだ。ゲームの自由度を売りにされたら何処まで自由か試したくなるのは、ゲーマーならよく分かる感情だろう。

 テイマーは幅広く武器を装備できるらしいが、その中でも杖が存在することに驚く。

 

「魔法ビルドのテイマーねぇ。誤射が怖いな」

 

 数発程度なら大丈夫だろう、とズレた認識で、好奇心に身を任せてみる。

 ステータスのウィンドウに移る。いよいよキャラメイクも終盤だと思えば、先んじて冒険に胸が高鳴る。

 ステ振りはAGIを選択する。魔法職は一にポジショニング、二に殲滅力という考えが根付いているのだが、このゲームでその考えが活かされるかは不明である。

 取得スキルは選択の余地もなく、《氷の矢》《強化聴覚》を取得した。少なくないか? いや、こんなものか。と疑念を抱きながら先へ進めると、一般的な防具と杖を渡された後に視界がホワイトアウトする。

 

「お、やっと終わりだ」

 

 

『黄昏の渓谷』

 

 

 足元に硬い感触を感じて目を開けると、家族が夏休みに行きそうな浅い川が陽光に照らされ輝いている。

 ゲーム内時間では夕方なのだろうか、痛い程感動的で鮮やかな夕日が渓谷の間に浮かんでいた。

 なるほど、これは確かに仮想だ。

 森羅万象の出来が完璧すぎる、現実の美しいテクスチャだけを切り貼りしているような。少し動けば、足元を見なくとも踏みしめているものが河原の石というのも分かるし、澄んだ水の匂いはむしろ嗅いだことのない清らかさ。これは受け入れるまで時間を要するかもしれない。

 景色を楽しむだけで満足感を得るという時代遅れな遊び方をしていると、視界の端に現実離れしたものが映った。赤い、半透明の矢印だ。

 

「あぁ、早く行けと」

 

 チュートリアル的なものだろう、素直に従って進んでみる。鳥の鳴き声を音楽にして川沿いを歩くと、眼前にポップアウトが出てくる。あまりに前触れがないものだから、大きく後退してしまう。

 

『これから安全区域外です。ウィンドウから武器の装備をしましょう』

「あっ」

 

 指揮するように指を動かしてみれば、鈴の音のような効果音と共にウィンドウが現れる。持ち物欄には、キャラメイク時に貰った武器が眠っていたが、それだけではなかった。

 いつしか指はそれに触れていた。

 アイテム名『鴉昏(アコン)の翼』は、カラスの羽根という形で私の周りに顕現した。突然吹き抜けた風によってそれはあっけなく飛び去ってしまう。ロクに説明もなく唖然としていると、頭がピクりと動いた気がした。

 これが獣耳の感覚か、と思いつつ、音の出処を探す。

 後ろ側から、のそりと肩に重みがやって来た。突然命を内包している重さが宿るものだから、臨戦態勢とも言える反射速度で振り返った。

 

「カァ」

 

 軽い衝撃と共に肩の荷は消え、私の眼前には橙の光沢が仄かに宿るカラスが対空していた。

 

「カァカァ」

「え、モンスター? だよなぁ、チュートリアル的なアレかな」

 

 言い切った後に自分の職を思い出す。そして、視界の左上、景色よりも内側のものに注視してみた。体力と魔力の残量を意味する棒の付近に、同じものが小さく存在した。一つ違うのは、凍星奏雨ではなく鴉昏という文字だ。

 

「違う、なるほどね。鴉昏か。へぇ、いいねぇ!」

 

 川のせせらぎや生き物の奏でる音を引き裂いて、興奮した私の声が渓谷に響く。客観視して恥じる間もなく、止まり木のように作った指を鴉昏とやらに向けてみた。すると鴉昏は迷いなく指に止まった、重さも案外苦ではない、補正が掛かっているのかもしれないが。

 そのまま肩に運んで、再び矢印が指し示す方角を見据える。今度は杖も取り出して。

 

「行こうか相棒。なんてね」

 

 さらさらとした木製の杖を握り締め、川沿いを歩き始める。

 少しすると、正面に滝となっているであろう崖が見えた。下の方からは水が叩きつけられている音が厚く響いてくる。一瞬崖を飛ぶように指示されるかと思ったが、矢印は右折して森林に作られた道を指した。

 木々の密度は現実離れしたものを覚えたが、燦然と輝く夕日が隙間を縫って照らしている為に不安は覚えなかった。道幅も大分広く、恐らく戦闘が見込まれるだろう。

 進む前に崖の先端に立って、周囲を見下ろしてみる。

 チュートリアルを素直に進まないのはきっと誰しも共感してくれる行いだろう。

 下に行ける道があるのだろうか、既に見えるものはないだろうか、淡くも爛々と燻る好奇心に委ねてみた。

 涼しげな風が包む私達を、始まりの予感を可視化したような夕日が照らす。まるで主人公になったようだ、この世界は何にでもなれると確信するのに充分すぎる。

 眼下は、水に研がれ段々の岩が滝の水を弾いており、高さは絶叫物より遥かに低い。どこかに下へ行く道がないかと探してみれば、エリア設定に抵触したらしい、再びポップアウトが現れる。

 

『チュートリアル適用外エリアです。進みますか?』

 

 補足として、今のチュートリアルモードが終わってしまう事も書いている。ここで引き返さないのはあまりに愚行、説明書を読まないどころの話ではない。が、しかし、それでも歯止めする程冷静ではなかった。

 進むことを選択し、チュートリアルと別れを告げた。そして、追い風でも吹けば落ちてしまいそうな程崖際に立つ。

 

「鴉昏は落下死しないだろうし、私はデスポーンも怖くない。なら、行くしかないでしょ」

 

 滝を下った先は、川沿いの道があることしかわからない。でも、道があるなら進む価値はある。蛮勇と知りながらも、主人公志願は止められないのだ。

 順路を定める。滝を弾く岩はいくつか飛び出ているが、大きく分けて三分割された感覚で出来ているようだ。ワン・ツー・スリー、と岩を渡れれば、落下ダメージは抑えられるだろう。そうであってくれ。

 杖をストレージに収める。改めてシュミレーション済ませた後、助走を付けて崖を蹴り飛ばした。

 その跳躍は想定以上の飛距離を叩き出し、制御など毛頭出来ないと悟る。

 

「っはは!」

 

 舌を噛むという悪い想像が巡り、寒気と共に口を閉じる。

 そして一つ目、絶え間なく研磨された岩の表面は滑らかと称する他なく、一秒たりとも滞在できずに滑り落ちる。

 滝の中間地点にある二つ目の岩は、自身の落下予測地点にないことが分かる。付けすぎた勢いのせいでズレてしまっていた。

 水辺近くの空気を切る身体の表面温度はすさまじく冷たい、先程までの勇気が凍り付くような感覚さえ覚えそうだった。

 このままでは十メートル近くある高さから真っ逆さまだ。痛覚制御が効いてるとしても、HPダメージは計り知れない。

 

「鴉昏!」

 

 鳥ならこの状況を打開できないか。そんな浅はかで切実な願いを込めて叫ぶ。

 人間を乗せる膂力がないことくらい見て分かる、それでも、蜘蛛糸を必死に求めなければしょうもない初めてのデスを経験することになると分かるのだ。ならば、一度でも相棒と言った存在に賭けるしかあるまい。

 

《シューティング・フェザー》

 

 願い虚しく、身体の舵は制御不能だ。

 岩とすれ違う。歯を噛みしめて手を伸ばしてもそれは────否、風が吹いたか、或いは必然か、届かないはずだった岩に手が届く。掴めはせずに、つるりと空回るが、それがかえって最後の岩に届く行動となった。

 いや、届きすぎる。

 勢いが強すぎる。予想外の加速に振り回された自身の思考が、ほんの一瞬スローになった気がした。

 狙いを澄ませる。足を前に突き出し、岩と接触するコンマで着地姿勢を作る為に。

 どうやら獣人の身体は素晴らしく、身体能力が現実とは比べ物にならない。ほぼ反射と言える踵蹴りで、前傾姿勢のまま地面に迫った。

 手を前に突き出し、地面を弾く準備をする。今はなんだかゾーンみたいだ、受け身こそ鮮やかにやってみせようと意気込んだところで河原に衝突する。

 

「ぐぇっへ!」

 

 痛覚を感じず丸石にスライディングするのはちょっと気持ちよかった。

 左上のゲージが動いたのに気が付く。どうやら死亡RTAは防げたようだ。二割ほど削れてはいるものの、誤差だろう。

 よろよろと立ち上がりながら、ゲージの動きがおかしいことに気が付く。緑のゲージではない、MP残量を意味する青いゲージが進行形で減っている。

 

「え、うん? デバフかな」

 

 原因を探る為に辺りを見回してみる。再び元の場所に戻れるアテはないことが分かるが、それらしいオブジェクトやエネミーは見つからない。

 喉を唸らして思い当たる節を振り返ってみていると、半分になったところで減少が止まった。割合デバフという選択肢もあったが、バフアイコンが消えたのを見逃さなかった。消えてから分かるとは、いったいいつ付いたバフなのやら。

 自分のスキルを見てもそういったスキルはない。

 

「あ、もしかして」

 

 鴉昏のステータスを開く。

 プレイヤーのようなステ、スキル振り分けの画面が存在しており、初期スキルとして既に取得しているものが一つ存在した。

 《シューティング・フェザー》……どうやら、移動速度バフをMPの一定値まで与えるようだ。

 

「なるほど、道理で岩に届いたわけだ。ありがとね、鴉昏」

 

 肩に止まった鴉昏を指でささやかに撫でた。目を瞑って享受する姿は素直で可愛らしい印象を受ける。

 ひとしきり愛でた末に、川の先へ目を凝らす。

 どうやら途中で小さな橋が架かっており、建造物らしきものも見える。チュートリアルが終わった後に着く街だろうか、無駄なショートカットをしたかもしれないと思いつつ、楽しかったことに違いないのだから、気にしないでおこうと歩き始めた。

 

 この凍星奏雨が、真夜中に嘆きながらモンスターを狩る奇人に成り果てると、未だ誰一人知る由もない。

 

 

凍星奏雨活動記録-Ver1.2

 

 

 眼の先にある街の様子が分かって来た頃、自分のHPバーを見た後にストレージを見た。

 道中で手に入れた宝箱的アイテムだが、一個しかないならイベントが起こる前に飲んでおこうかと実体化させる。

 ガラスの内に野菜ジュースのような液体が詰められており、味に期待は出来なそうな色だ。いや、人気ゲームならその辺も一味違うかもしれない。

 ぐび、と喉を鳴らす。ふむ、確かに一味違う。猛烈に合わない、少なくとも気を使っていたらこんな味にはならないだろう、万人受けすることはないだろうし、私は万人の中の一人だ。

 HPが全快したことに安堵はしつつも、極力被弾を抑えておこうと胸に刻む。回復薬の存在意義としてはある意味正しいのかもしれない。

 入れ物が煌びやかなパーティクルとなって消えるのを見届ければ、再び街と思わしき先へ歩み始めた。

 視界の隅が書き換わる。

 

 

『暗影の秘境』

 

 

 木造の橋をギシりと渡り、正面から建物や道を見てみれば、そこは発展した村のようだと感じた。

 木造建築、疎らにいる民間人(NPC)。如何にも初期の街という異界の平凡さを纏っているが、それが少し妙に感じた。順々に攻略していくRPGならまだしも、様々な人間と交流して自由度の高い冒険をするMMORPGのスタートラインが、森に囲われた小さい街というのはおかしくないだろうか。

 ともあれ踏み出してみても、イベントが起こる気配はなく。

 

「これ誰に話しかければいいんだろ」

 

 街の全体を把握しに歩く。

 入口は東西南北に四つあるようで、住居は少ない。しかし店の揃いは申し分ない。ただ、路上に面している屋台系の店は寂しく、雑貨店が既に締める準備をしている。道中を往くのはNPCばかりで、むしろ妙な緊張感を覚えた。

 足音や作業音だけの空間で立ち止まるのも心細く、鍛冶屋や宿屋に近付いてはみるものの、用がなかったり懐がなかったりと、勇気を出すための準備をし始めるところで、不意に後ろから声をかけられる。

 このゲームに来て初めて聞く人の声に、身体が強張った後振り向いて距離を取った。

 

「おお、このタイミングでプレイヤーが来るの珍しいですね。どうもー」

 

 人がよさそうな茶髪男子だ、身体的特徴も見当たらないのでヒューマンだろう。

 後ろの人物も含めて計三人のプレイヤーカーソルが浮いている。

 

「あ、どうも! いい街ですね、ここ。でもこのタイミングっていうのはどういう?」

 

 装備で分かるだろうが、念の為初心者というのは隠す方針で話す。身の上を早々に晒して起こるトラブルが、悲しいことに想像に容易い環境で過ごした弊害であった。

 引き続き茶髪のプレイヤーが話す。

 一人は成人男性の背丈を上回る戦斧を背負った、青い甲冑。一人は見るからに人見知りの小柄な女性であり、茶髪のプレイヤーに偏るコミュニケーションの心労を感じる。

 

「ここに来る人はみんなベータ上がりで朝方の人だからさ、ゲーム発売から数日経った夜に来る人は初めてみたよ。俺、赤風(セキカゼ)。君は?」

「奏雨です、奏でる雨で奏雨。ベータ情報からですか?」

 

 随分と限定的な人ばかりが来るものだ。この三人はベータテストの頃からこの街にいたんだろう、プレイヤーとの接触に精力的じゃないところをみても、茶髪の────セキカゼは害悪プレイヤーではなさそうだ。この人なら警戒を解いてもいいだろう。

 

「そうそう。この街、辺鄙(へんぴ)なとこだけど特徴が一つあって、陽が早く沈むんだよ」

「はあ」

「その代わり、昇るのがはやい」

「あぁ~」

 

 伝えたい意図を理解し、納得の声を上げる。その様子を見てセキカゼは歯を見せながら爽やかに笑った。

 店を畳むのが早いとは思っていたが、なるほどここだけらしい。

 夜前にはこの街は活動を停止し、東雲時には動き出す設定だと推測が立つ。

 となると、準備ができない今ここにやってきてしまったのは相当まずいのでは。これは、プレイヤーを警戒する暇などなさそうだ。

 

「それじゃあ私はこの辺で」

「あれ、これから狩りならおすすめしないよ。って言ってもベータ上がりなら大丈夫か。引き留めてごめんね!」

 

 なんで、と聞く間もなくセキカゼは宿屋へ入ってしまう。続いて小柄な女性もそそくさと消えて、残る青甲冑もそれについていくと思ったのだが。

 

「えーっと、なにか?」

 

 扉の前で、青甲冑は私に振り返って硬直する。

 なにか言葉を残すかと思われたが、一向に気配がない。段々と日が落ちていき、影が付いた青甲冑の姿は無骨な恐怖を纏っている。

 

「あー、それじゃあ失礼しますね?」

 

 状態異常を疑う静けさだ。ピクりと甲冑の指先が動いたところで私は速やかにこの場を離れた。

 三人がやって来た道を走る。モンスターで小銭稼ぎが出来れば宿屋も間に合うだろうか、私が入って来た入口とは違う門をくぐる。

 橋が渡っていて清涼感のある門と比べて、鬱蒼とした木の群れが待ち受ける重みは緊張感を覚えた。

 

「チュートリアルハードモードかな」

 

 己を茶化し、森へ足を進める。

 

 

『早暁の森』

 

 

『Level up! 1→2』

 

 杖の頭を草根に降ろし、一息ついた。

 暖色の月明かりが差す。空へ上ったエネミーの消滅エフェクトは、次第に細かくなって消えていった。

 《氷の矢》が想像以上に強く、HPが思ったより減っていない。初めて見るエネミーは過剰な程様子を見るスタイルも幸いしたのだろうが。

 

「そろそろ戦利品でもみようかな」

 

 木に寄りかかってUIを開く。素材は汎用らしきものが数個で、資金は────

 

「あ」

 

 モンスターからドロップはしない、或いはごく少数らしい。素材を売って稼ぐ形がメジャーと思われるが、最寄りの街は店仕舞いしている。さては詰みではないだろうか。

 

「カァ」

 

 対空していた鴉昏が控えめに鳴く。エネミーのリポップが始まったようだ。ポーションなんてものはなく、これからこの連戦が続くのだと思うと肝が冷えた。

 MPの自動回復は微々なるもので、殴り倒すことも択に入ってきた。

 

「リポップの制限とかあるのかな、このゲーム」

 

 切に願いつつ、杖を構えて臨戦態勢を取る。未だエネミーはいないが、スキル発動にラグがある魔法職の戦いは既に始まっていた。

 

《氷の矢》

 

 杖を前に突き出し、半透明の青い矢が形成される。白い冷気が緊迫感を演出していた。

 杖の頭付近にはファンタジー基調の発光する文字が緩く回転している。

 辺りを照らす文字の光に、街灯へ集る羽虫の如くエネミーが集まる。

 木々の奥から、イノシシ型のエネミーが現れた。

 

発射(シュート)!」

 

 停止していた矢は、弦を要さず正確無比に飛んでいく。

 頭蓋に深々と刺さった矢は頭部を氷で蝕み、後ろへ吹き飛ばした。間もなくパーティクルと化すだろう。

 出会い頭に仲間を奪われた残り二匹は、双眸を赤く尖らせ私を睨む。そして、弓弦にかけられた矢の如く、前脚の片方で地面をこすり、腰を落とした。

 

「鴉昏」

 

 焦らずその場に残る。避けるだけなら走って軸をズラせばいい話だろう。ただ、それは負けないのであって勝てもしない手段だ。

私に呼ばれた鴉昏は、頭上で対空し始める。

 

1(ワン)

 

 杖を真上に放る。テイムモンスターは独自の思考出力が行われており、命じれば自分の思い描いた挙動をしてくれるらしい。思惑通り、投げ渡した杖を受け取った音がする。

 

2(ツー)

 

 突進準備のモーションを見送り、腰を深く降ろして跳躍の準備をした。

 

3(スリー)!」

 

 ザッ、と二匹のエネミーが突っ込んでくる。それと同時に、私は高く跳躍しながら片手を上に伸ばす。直後に重い衝突音、続いて木々が左右に揺れ始める。

 突進を回避した私は前まで居た木のふもとへ視線を落とした。手を伸ばした私へ杖が贈られたところで、私の身体が落ち始める。

足元には木に衝突してダメージリアクションを取る二匹の姿。

 自由落下しながら杖を振りかぶる、狙うは頭部へ。

 

「チェストぉ!」

 

 手に痺れるような感覚が走る、痛みはない。どさりと草に不時着した私の身体は無防備に寝転ぶが、狙われることはなかった。

 

「やっぱり、気絶値が入ってるんだ」

 

 杖を叩きこんだエネミーの頭上近くに、星が二つ回っている。デフォルメされた演出から誰しも気絶だと分かるものだ。

 素早く身を起こす。杖の攻撃を受けなかったエネミーは土を払う間も与えず復帰した。

 ただ、タイマンで先手を譲る程自信は欠如していない。

 精一杯の力を込めて身体を逸らし、もう一匹にも杖を振り下ろした。再び手が痺れ、手から杖が零れてしまうものの、それを咎めるべき者は目を回していた。

 拾い直し、最初に気絶させた方を見下す。

 

「ふぅ、これだけやっても半分か」

 

 エネミーのHPは半分近く残っている。

一匹目を倒している頃にはもう一匹が起きているとしても、その時点で負ける要素はない。

 今度は程よく脱力した状態で、一匹目をタコ殴りにする。鈍い殴打の音が森に響くのは、少し心苦しかった。

 

 無事三匹倒し終わったが、このマップにはオオカミ型エネミーもポップするはずだ。それらが来る前にステ振りも終わらせておかねばと思う。

 鈴の音と共に現れたウィンドウには、ステータスとスキルにマークがついていた。

 興味を刺激された私はスキルの方を先んじて押す。

 《インパクト》というスキルが解放されていた。

 

「あぁ、気絶が条件なのね」

 

 毎度あんな無茶をするわけにもいかない。効果は打撃の一撃技らしい、恐らく打撃武器の初期スキル枠なのだろうが、杖でも撃てるならサブプランとしてこさえておこう。

 ステ振りはINTに2、STRに1振って終わる。武器を落としてしまったのはSTR不足が関わっていそうだ、たまたま別の敵がいなかったからいいものの、囲まれている状態で落とすのを想像するとゾッとする。

 

 作業が終わっても静謐に取り残された私の周辺に、未だ何者もやってこない。或いはすぐ側にいるのかもしれないが、私はそれを知覚していなかった。

 孤立無援の極限状態を錯覚させる。鴉昏だけが頼りというのはこの世界を踏んだ時から何も変わっていないのに、猛烈な孤独が恐怖を促進させた。

 それでもこれはゲームであり、私が主人公なのだ。切り開けば、なんであれ王道に伏す道中に過ぎない。

 

《強化聴覚》

 

 世界の半径が劇的に広がる。

 木々のざわめきに厚みが増すが、一本一本を聴き分けられる程に鮮明だ。MPが減り出し、感動する隙がない事にテンションが少し下がった。

 私から放たれた円形の知覚エリアを連想する、方向感覚がやたらと冴え渡っており、どんな事象も逃さない自信に満ちる。それは裏切られることもなく、マップに赤点が浮かび上がった。同時に、領域を侵入する不届き者の足音が耳に届いた。

 

「しばらくこれって大分ハードだなぁ、しんどー」

 

 泣き言を垂らしながらも、身体はすぐさま足音の方へ向ける。マップに浮かぶもう一つのマークを背にする形となった。

 今居る場所は森の浅瀬であり、入口に立てたマップピンを見失わない余裕のある座標なのだが……どうやら森の奥からそれは来るらしい。

 《強化聴覚》を切る、そしてすぐさま杖を前に突き出して《氷の矢》を装填した。上善如水、規範と柔軟を使い分ける事で戦闘勘は養われるのだ。

 地面が揺れた気がした。

 錯覚で違いないのだが、然して衝撃を受けた事にも違いない。

 右腕が担うは刀剣、腰布を巻いて二足歩行するそれは、程度は兎も角として知能を感じさせる者だった。

 焦茶の毛並みに、筋肉質な肉体美。そして溢れ出る野性味と闘争心────人狼だ。

 傍らには四匹のオオカミ型エネミーを従えている、それらがオマケになってしまう程の威圧感が、人狼に内包されていた。

 瞬きの迷いが死に導く。

 

発射(シュート)!」

 

 矢は一直線の軌道でオオカミに迫る。頭数を減らすべきという判断を即決したものの、オオカミが動き始めるタイミングと噛み合ってしまう。矢は脇腹に直撃した。大きなダメージリアクションと共にそれは仰け反るが、HPを全損させるに至らない。

 同胞を射抜かれた人狼が、高らかに月へ吼える。

 スキルを切っていても、これが森全体に響いた事は分かった。

 蒼い双眸が見つめ合う。

 人狼は獲物を、そして私は────二本のHPゲージを見据えた。

 

「嘘だろ、マジか」

 

 二匹のオオカミが私へ駆け出す。予備動作が短く、その代わり硬直が長いのが特徴だと捉えている。それは数の有利を取られている状況では逆風となった。

 逃げの一手が選択肢に挙がる。

 蛇行しながら木々を縫い、双狼の牙を躱す。攻撃はまだしない、人狼の次手を見定める。

 共に視界に入った負傷しているオオカミのHPは、スキルを使わずとも倒せそうな程に少ない。それが意味するのは、私のステータスとオオカミの適正レベルは同じということだ。

 二本のHPゲージは、雑魚エネミーとは一線を画した存在の現れなのだろう。だが、それは初期ダンジョンの高レベルボスと同義なのだろうか?

 人狼が、跳躍しながら刀剣を振り上げる。

 縦一直線の斬撃を飛び込み前転(ローリング)で躱す。急いで振り向けば、二の太刀で私の胴を切り裂かんと構えていた。

 これはまずい、オオカミ二匹は攻撃の硬直を受けており、もう一匹は怯んでいる。ならば、もう一匹がハマる場所は明らかだった。

 人狼とオオカミの攻撃は秤に置く手間が惜しい。真横一文字の銀閃を伏せて躱しながら、突っ込んでくるであろうオオカミに視線を向ける。

 背筋を冷やす斬撃の風が走った後、間髪入れずに爪牙が私を襲う。両手で杖の端を持ち、なんとかそれを阻んだ。

 

「ぐっ──!」

 

 杖で受けるには想像以上の重さ、武器耐久値が減るのが分かる。

 寝転がったままオオカミの腹部をなんとか蹴り、それは離れた。

 

「鴉昏!」

 

《シューティング・フェザー》

 

 後転で跳ね跳ぶ。まるで体操選手のような身のこなしも、継続時間は決して短くない。でも。

 

「出し惜しみは無しだ」

 

 人狼自体の戦闘能力に異常な強さは見受けられない。基礎で戦えるモーションだ、加えて平凡な取り巻きのステータス。

 なるほど、理論上倒せてしまう。

 ここで引いてはプライドに傷が遺る。死んではいけないものが侵される。

 倒した後に横槍で倒れても構わない。それでも、ここで全部を出し切ることが、私の勝利条件なのだ。

 猫のような初速で駆ける。ごく自然に始まった疾走は誰にも咎められず、HPが減ったオオカミの懐へ入る。システム的な硬直を忌避し、スキル未発動のまま杖を横に振った

 遠心力頼りの一撃は、確かな手応えを持って応える。吹き飛んだオオカミは木に衝突してパーティクルと成り果てる。

 

「あと四匹!」

 

 足は止めない、でなければなんのための節約か。動きの慣性を木でいなし、自らを矢の如く奔らせる。

 袈裟斬りの構えが見えた。斜めに腕を伸ばして私を待ち受けている。

 

「遅せぇよ!」

 

 だだっ広く空いた腹部に狙いを定める。確信に満ち溢れた一撃を、完璧に叩き込んでみせる。

 

《インパクト》

 

 黄金色に発光する杖の頭で、力一杯横殴りにする。

 人狼は構えを解いて大きくよろけた、すぐさまHPゲージを睨み付けたところ、減っているのが確認できる。

 十発叩き込んでも倒せない事も確認できたが、筋肉が詰まった腹部に当てて目に見える減り方をするなら、やはり勝てない相手では無い。

 確認は出来た、倒せると分かれば攻略の為に最善を尽くす。

 まずは相手の手数を削っていく、もう一匹倒せれば人狼の相手も出来るだろう。

 鴉昏のバフが尽きるまでが勝負だ、取り巻き駆除も贅沢は言っていられない。最低一匹、そこからが本番だ。

 

「さぁて、土産の一つくらいは落として貰わんと割に合わんね」

 

 集中を自覚する。月に酔ってしまったか、或いは仮想空間がそうさせるのか、臆病な初心者という一面は凍星奏雨の潜在的な人格が塗り潰した。 

 《氷の矢》はまだ使えない。

 溜めが必要な上に当てるのも困難を要するだろう、立ち止まれば外す気がしないが、動き続けなければ勝てる気がしない。

 基本はMPも使わず機動力を活かせる《インパクト》を連打するしかない。魔法職とは。

 今度は三匹のオオカミが三方位から強襲してくる。

 一匹は寸前で高く跳躍し、更に多角的な攻撃となる。

 だが、結果的に私へ収束すると知っていれば、動揺する道理はない。躱される事がない空中のオオカミへ杖を構える。そして、すれ違うようにして前進した。

 脚に熱が走る、躱しきれなかった攻撃があるらしいが、軽傷。攻撃を続行する。

 

《インパクト》

 

 宙のオオカミの強襲に、杖をクリーンヒットさせる。会心の一撃が頭部へ打ち込まれた。土を纏ってオオカミが地面を滑る、これ以上ない一撃という自覚はあるが、私自身の底が浅い。HPが半分しか減ってない上で、気絶もしていない。

 襲い掛かる硬直、間髪入れずにスキルを使った弊害から身体が石化したように重い。それを、狩狼(かりゅうど)は見逃さなかった。

 

「やばっ」

 

 硬直が解けた頃には、既に人狼が技を放っていた。

 モーションが分かりやすいからこそ避けられた攻撃の本質は、斬撃の速度にあった。バフ込の初速でさえその刃から逃れられず、脇腹が斬られる。

 HPがガツンと減る。あと二発喰らえばゲームオーバーだ。

 酔いが覚めるように現実感が私を誘惑する。冷静を装った惰性が、逃げろと囁いた。

 

「いいね、危機感がある」

 

 この言葉には既視感があったが、発言した経緯はまるで違った。

 『プレイヤーにこそ実力を出せる、NPCじゃ生温い』、そんな考え方こそこの場では生温かった。

 幾らでも底上げ出来るエネミーのステータスが、わざわざ緻密に計算されているのだ。熱中する下準備はされている。

 脳を回し続け、森を駆け回る。

 どのエネミーにも決して離れすぎる事無く、見失うなんて事もないように視界へ入れ続けた。

 オオカミ型エネミーの特徴として、人狼のように統率する者がいる場合は高確率で連携攻撃をしてくる。一見難易度を上げているだけの仕様に見えるが、攻撃パターンは単調で、数種類の陣形を使い回すような戦い方だった。

 

「連携なら、もっとハードなゲームを通ってきたもんでね!」

 

 2、1、1。接敵時に仕掛けてきた攻撃パターンがやってくる。

 二匹の攻撃を躱した後に、人狼の十字切りが襲い掛かってくるものだ。二撃目に合わせたもう一匹のオオカミの強襲は分かっていても避ける事は難しい、ならば攻撃させないように動くだけのこと。

 刀剣を横軸回避で凌ぐ、そして、オオカミと私の間に人狼を挟んだ。これでは人狼が邪魔で攻撃を繰り出せまい。

 横一線の二撃目が来る、伏せて回避すると反撃を取れない技なのだろうが、鴉昏のバフがある間は跳躍で回避が出来る。

 人狼の横を駆け抜ける為に、跳躍しながら走る。

 斬撃を回避しながらもタイムロスは最小限、人狼の背後にいる手負いのオオカミへ杖を構える。

 私の姿を視認した瞬間放たれた爪撃は、十字斬りと同時であれば脅威だっただろう。けれども、来ると分かっていた攻撃をタイマンで見逃す程私の経験は浅くない。

 

《インパクト》

 

 土を抉り取りながら、杖をかち上げる。顎を捉えた打撃でそのHPを潰し切った。空中でその身体が飛散する。

 

「さて、こっから本番だ」

 

 二匹も同胞を討たれた人狼は、その怒りを遠吠えに乗せる。

 残存MP約四割、《シューティング・フェザー》解除まで残り176秒────

 

 

凍星奏雨活動記録-Ver1.3

 

 

 残り二本のHPを削り切る。最悪残り二匹のオオカミは倒せなくとも気にはならない。

 見れるだけのモーションは見た。

 攻勢に転じる他選択肢はない。

 遠吠えが響き渡り、遠くからの残響も過ぎ去った頃、人狼は刀剣を構える。

 腰を深く落とし、刀剣の柄がそれ以上に低く位置している。

 三連撃のラッシュが来る。木の間を通ってやり過ごそうと後退して様子を伺った。いつ繰り出されるかは分からない、反射神経が物を言う場面だ。

 小枝が割れ、技が解き放たれる。

 異常なまでの瞬発から、一気の懐まで潜り込まれた。下段から、殺意のように鋭く斬撃が昇る。

 波長と外れた、完全に後手だ。

 ただ生存本能に縋り、振り上げる方向とは逆へ転がり込む。二撃目とのラグはなかったはず、間髪入れずに強く地面を蹴り飛ばし、当たらない事を祈って前に突き進んだ。

 感覚の空白。

 どうやら躱せたようだ、慣性に乗りながら振り返る。土の滑り止めは作用せず、左手を着いて人狼を見上げた。

 人狼を通した月光が影となり私に覆いかぶさる。

 最終段、どれだけHPがあってもこれは耐えきれない。

 線対称の構えから、慣性、膂力を乗せた致命の一撃が発生する。直線的な攻撃だ、然して今の私を討つのに最善のシンプルな強さ。移動を一度完全に止めてしまった隙に、死神が私の手を取った。

 

《インパクト》

 

 ならば振り払うまでの事。

 右足を力一杯踏ん張りを効かせ、身体を精一杯横にズラす。ヤマカンで空中を横方向に殴り込み、刀剣とのパリィを狙う。もし手ごたえがなければ、待ち受けるのは虚しいデスポーンだろう。

 ガキンッ、と森林に似つかない音が短く響く。

 刀剣の横腹に、杖の最重量部分が衝突した。技のぶつかり合いは衝撃を相乗し合い、互いを弾き飛ばした。

 大きく仰け反るだけの人狼を傍目に、私は土手っ腹を露わにしながら飛ばされる。

 これで痛み分け────とはならなかった。

 唾の一滴すら鮮明に映るような、生命の危機。それは大きく口を開けて私を抉り喰らわんと襲い掛かる。

 

「くっ!」

 

 頭目の危機に奔る従順な餓狼が、私に喰らい付く。

 せめてもの抵抗で腕を十字にし、防御態勢を取る。

 背中から着地した反動と、防御に使った腕に熱が宿るのはほぼ同時だった。HPががくんと減る。ボス級ではないとしても、二匹の攻撃相応の減り方だ。

 視界に赤いフィルターが掛かる。HPが危険領域に踏み込んだ。どんなモンスターのどんな攻撃でも、猶予はない。

 杖をついたてに立ち上がる。その間にもオオカミが再び飛び掛かってくるが、オオカミだけじゃ私を殺せない。不格好ではありながらも、かすり傷一つ作らず復帰する。それは人狼も同様だったが。

 おもむろに走り出す。

 自分の身体、思考を最高速度に乗っけてから攻勢に出なければ僅かな命は吹き消される。

 MPは三割程、速度バフ《シューティング・フェザー》はMPの全損ではなく二割を残して終了する。MPの回復手段は非戦闘時の自動回復のみ、結末には否が応でも察しがついてしまった。

 

「くっそ!」

 

 そんなのどうだっていい。

 空想理想を実現できないフルダイブなんてクソゲーだ。

 

「あぁぁぁ!」

 

 人狼を囲むように駆けた体躯は、木を介して鋭角に反射しボスの背後を襲う。

 速さと力の方程式が適用されるならば、迅速にて頑強なこの一撃は至高となるはずだが。

 

《インパクト》

 

 しかしシステムの檻は何より堅い。

 やはり反応される。振りかぶった杖を叩きこむ前に人狼の身体がこちらへ向く。それでも、今回は私が速い。

 奴の前身に打撃を打ち込む、手ごたえはあるが、弱点ではない。

 ここで欲張れば死ぬかもしれない、でも、退いても勝てないのは知っている。

 身体中のバネを伸ばし、杖をかち上げる。前の衝撃により頭の垂れた人狼へ逆転を祈りながら。

 

《インパクト》

 

 勝ち星は訪れず、人狼の頭に気絶の星エフェクトが宿ることもまたなかった。

 痺れる右腕、パラメータを上げた恩恵か杖を取り落とす事はないが、スキルを連発すればその分硬直がやってくるのは道理だった。

 いやしかしここまで顕著とは、VRMMOの基本に慣れていないことが敗因だったか。いや、或いはじっくり攻略する為の根気がなかったからかもしれない。

 幾らでも言える、しかし、死人に口無し。

 スキルの反動を御しきれない私へ、取り巻きのオオカミがやってくる────

 

 

『Level up! 2→3』

 

 

 視界の暗転は、迫る殺意で咄嗟に瞑ったことからだった。それもすぐにシステム的なブラックアウト(ゲームオーバー)と移り変わる、そう思っていた。

 恐る恐る目を開ければ、命の輝きに包まれた青い甲冑の戦士が、勇猛たる姿で立っていた。

 シャラシャラと子気味良い音が空へ昇り、失せていく。それがオオカミだったものと理解するまで少しの時間を要した。

 

「さっきの人……?」

 

 数時間前に見た事がある甲冑だ。

 鮮明な青色で形成され、二対の黒い角が生えており、肌色一つない硬派な武装。宿屋に消えていったはずのプレイヤーが、この時間に一体何故。

 

「大、丈夫?」

 

 くぐもった声でありながらも繊細で控えめなその声は、静寂に消える。

 凛とした女性の声だ。いやしかし、とても小さい。

 

「はい、えっと、おかげさまで」

 

 甲冑の女性は人狼に身体を向けて、私の前に立つ。

 次第に人狼が刀剣を振り上げて襲い掛かるが、女性が戦斧で受けると忽ち突風が場に周波した。

 思考がようやく追いついた。

 理由は後でいい。今は戦闘中で、鴉昏も入れれば一対三。

 奇跡は起きた、後はそれが繋いだ道を必然的に掴み取るまで。

 

「基本モーションは武器を見てれば予測がつきます。最後の取り巻きが倒された今、モーションはかなり激しいはずです」

「分かった」

 

 戦斧を前に押し出すと、人狼は飛び退いて間合を取る。確実に身体能力が上がっていた。斜め後ろに立つ私へ初めて女性が振り向いた。身体を一度浮き沈みさせた後、微弱な声量で語りかけてくる。

 

「ヴォルガフ・ブルートロード、とても一人で挑むべき相手じゃない。耐えておくから、ヒール済ませて」

「いや、使い切っちゃいまして。MPも二割くらいです」

 

 間もなく、バフアイコンが消滅した。

 

「レベルは2……いや、3で、スキルは《氷の矢》と杖の打撃くらいです。勝てる相手ですかね」

「理論上は出来るよ。────それと、自分のステータスはあまり人に言わない方がいい」

「はは、いい人ですね」

 

 人狼、ブルートロードは腰を落として構える。

しかし……今回は初めて見る構えだ。

 刀剣を真横に、左手を沿わせてる。あれではまるで居合みたいな──。

 

「伏せて」

 

 小さくも、それが切羽詰まっているのが伝わる。それだけで自然と身体は脱力し、地に這いつくばった。

 今まで私の胴があった空間に、鋭い旋風が巻き起こる。スキルを意味する赤い光の粒子が有ったのも見逃さない。

 

「やっぱり、刀剣スキルの構えだった」

 

 口振りからすると、この人も戦ったことはないのかもしれない。急いで起き上がり、軽く土を払いながら後退する。

 

「一分持ちこたえるよ、倒してみよう」

 

 甲冑の腰に巻かれたバックから、青い液体が入った瓶が現れる。投げて寄越され、意図を理解する。

 

「私が受け止めたら下がってね」

「はい、でも」

 

 貴方にそんな義理は、と無粋な言葉は、戦斧と刀剣の威勢で掻き消された。

 女性は人狼に向き合い、目配せをしない。いや出来ないのだ。

 私を助けるのは情か打算か、なんにせよ必死ならそれに応える他あるまい。

 二歩下がり、一思いにポーションを喉へねじ込む。

 その間に戦場を俯瞰する。

 ボス戦の仕様なのか、リポップしたエネミーが襲い掛かってくる様子はない、けれど楽観できないのは、助太刀に来た女性の鈍重さが悪い方向へ噛み合っている事だ。素早い刀剣捌きを見せる人狼に対して、彼女は事前予測で対処をしている。勿論外れる事もあり、切り込まれたダメージエフェクトの光は強い。きっとシステムが技量に追いついていないのだ、そこまでシステムレベルが高いプレイヤーではないのだろう。

 飲み干してすぐ、テイムモンスターの異常に気付く。視界の端に位置する鴉昏のステータスに小さな赤点が一つ、未読のゲーム内お知らせやプレゼントボックスを彷彿とさせるものが付いていた。

 状況と情報を整理する。

 賭けに出るか否か、わずかな思考が瞬時に巡る。

 私は間違いなく彼女と連携が出来ない。

 普段からパーティを組んでいると思わしき彼女は恐らく眼の使い方が上手い、初見モーションに手慣れたアラートをしている様や戦斧を巧みに操り、高速の剣に先回りした防御を示しているのがそれを裏付けている。

 何が問題かと問われれば、私はそれと同類である。

 後の先という言葉が私は好きだ。前隙をいち早く察知し先手を打つ、目敏いプレイヤーに許されたシステム外スキルを振るう事が。けれど、味方に合わせて動くとなればその難易度は跳ね上がる。

 自ら動き状況を作り出すプレイヤーが居て光るスキルは、大振りな戦斧使いと初心者魔法使いを組み合わせて発揮されるものではないのだ。

 短期戦なら私は誤射するし、持久戦なら前に出た私が戦斧に巻き込まれる。そんな未来が容易に思い描けた。

 ならばやはり、もう一手が必要だ。

 

「すみません! あと三十秒ください!」

 

 剣戟に負けぬ声で叫ぶ。既に一分少し、相性の悪いボスへ向き合わされていた彼女が思わず視線を寄越してくる。アイコンタクトはほんの一瞬、私はすぐにウィンドゥを弄り始めた。

 

「了解」

 

 なんて力強い首肯だろうか、熱がなくとも意志がある。

 ある程度規格化されつつあるフルダイブゲームのウィンドウを全速で叩く。初めはよく誤タップをしていたが、今となっては手慣れたものだ。

 きっちり三十秒。

 正面衝突とは乖離した金属音に顔を上げる。

 戦斧が上に弾かれ懐が開いた女性の姿。後ろへ仰け反った彼女に、赤光の迸る刀剣が構えられている。

 

《氷の矢》

「お待たせしました!」

 

 追撃に掛かる人狼を諫める氷柱が、間一髪で甲冑の女性を救う。

 ブルートロードのHPは一本が全損、二本目はまだほんの少ししか手が加えられていない。尤も彼女が参戦するまでは二本目に突入すらしていなかった、僥倖である。

 

「おかえり。炎属性、取ってないの? 《炎の渦》や《火球》とか」

「残念ながら」

「そっか」

 

 獣に火が弱点なのは相場だろうが、つい趣味を優先してしまった。氷属性へ目に見えて耐性があるようにも見えない為、お互い閉口し攻撃に備える。

 ヘイトは私らしい、遠距離魔法が狙われやすいのは何処も同じか。

 地面を抉りながら逆袈裟に振り上げる刀剣を引いて躱す。この後は同じ軌跡で振り下ろしがあったはずだ、甲冑から離れるように横へ逸れて回避に成功する。

 ただ躱すだけでもダメージの打算が有るのは素晴らしい、人狼の後隙へ緑の粒子を纏った戦斧が襲う。

 

《旋快》

 

 体重の乗った横薙ぎがブルートロードの脇腹へクリーンヒットする。

 円形に強く引きずられた地面、周囲に逆巻く旋風からその一撃の重さが垣間見えた。

 

「カバーお願い」

 

 一回転を済ませた彼女へ、怯む様子のない人狼がスキルを構える。えっ、あの人これ受ければちゃんと致命傷では。

 内心驚きつつも杖を持って接近する。

 刀身の光った一撃──所謂スキルを使用した攻撃は、適した攻撃をしなければ怯まないと確認している。

 さっきよりも一歩が軽い、この感覚は鴉昏の速度バフと似ている。

 

《インパクト》

 

 黄金色と赤色がぶつかり、火花のように閃光が起こる。私は弾き飛ばされるが、目論見通り人狼も怯んでくれたようだ。

 

「ありがとう。AGI(アジ)上げておきたかったんだけど、こいつ体幹強いね」

「びっくりしましたよ。助かりますけど」

 

 戦斧と刀剣が幾度目かの激突を果たす。

 やはり彼女は私の行動を前提とした立ち回りをしており、パリィに《氷の矢》を合わせるのは別の緊張感があった。

 時折近接でカバーに入りつつ、隠し玉の切りどころに手をこまねく現状。

 再び二割を切ったMPに固唾を飲むのだった。

 

「今の火力が限度ですか」

 

 時折隙の少ない単発技スキルを使う彼女だが、見せるダメージは鈍重な戦斧使いにしては慎ましい。意図を察したのか、少し礼儀のない質問にも甲冑の女性は気後れなく答える。

 

「いや。後隙長いから使えてないだけ」

 

 ならそれを誤魔化せばどうにかなると解釈しよう。

 打てる手が多い時に勝負を決めよう。

 なにしろ私の体幹が足りてないせいで、戦場が地味ながらズレているのだ。幾らボス戦だろうと自分から向かってしまえば、野良モンスターのヘイトを貰いかねない。

 

「私のスキルが当たったら、あれの脇腹を狙ってください。剣持ってない方です」

「? 了解」

 

 数瞬の間を経て頷かれる。先程までピンチだった初心者に、随分と信頼を置くものだ。

 人狼が三連撃を繰り出す。

 手早い二撃を躱した私へ、唐竹割の一閃が振り下ろされる。一方で私は回避直後のよろけた体勢、せいぜいかすり傷程度に抑えられれば良いが。

 ダメージを覚悟したところで割り込みが入った。

 コンパクトながらに重たい横振りが刀剣の横手に入る、颯爽と横切った甲冑から確かに蒼い眼が覗き、淡白な期待がそこに在った。

 感謝の代わりに魔法を紡ぐ。

 

《氷の矢》

 

 武器を弾かれ露わになった横腹へ狙いを定め、放つ。

 恐ろしく精巧な青の矢じりがブルートロードへ刺さり、砕ける。

 正円のダメージエフェクトからそれは咲いた。

 幾度も同じ箇所へ属性攻撃を命中させた賜物だろう、仄かに変色していた事を狼の眼は見逃さない。

 内部から湧き出るように氷の華が咲く。人狼の身体に突如噴出した小さな結晶へ、状況の好転を読み取った彼女が間髪入れず叩き込む。

 

「ハァッ!」

 

 鈴のような声が猛々しく吠え、私の眼前を戦斧が奔る。緑の粒子が疾風となり剣先に集い、捻りを加えた跳躍は竜巻のように荒く冴えていた。

 

鬼疾風(おにはやて)

 

 物理法則を越えた対空を用いて、甲冑姿が独楽のように五連撃を刻み付けた。凛とした声音から連想も出来ない烈風使いは、慣性のまま身体を捻って着地する。舞踊のように設置し、数回転する姿は、甲冑に不相応な軽やかさがある。

 これがVRMMOか、そんな場違いな感情は、きっと忘れないのだろうと思った。

 

「『凍傷』か。でもごめん、削り切れなかった」

 

 体力が僅かになり、ブルートロードの意気が天を衝く。モーションチェンジの合図だが、彼女は未だスキル硬直から復帰しない。人狼の身体に発生した氷、曰く『凍傷』もすっかり元に戻り、状況は一変したようにも見える。

 けれど、()()()()()()()

 人狼が構える頃には私は駆け出していた。

 手に持つ黄金色で夜闇に線を引き、ボスへ距離を詰める。それから間もなく動き出した人狼と私の速度は、同じだった。

 移動速度バフが累積している。恐らくは彼女の風属性に関連したスキルだろう、同速であれば無論、先手を取った私がスキルを放つのは道理。

 更にバフの影響で、スキルサポートがなくとも私の跳躍力は十全にある。

 

《インパクト》

 

 叩き割らんと繰り出した打撃。指越しに伝わる会心が胸を打つ、これでもう一つ、目論見が叶えばいいのだが。

 気絶エフェクトは……ない。

 

「くそっ」

 

 気絶値の蓄積は恐らくある。怯み具合からしてもう一手だろうが、連発出来る体制ではない。

 至近距離の私へ刀剣が構えられた。

 月を覆い隠す体躯が私の斬り裂かんと吠える。

 

「ごめん。間に合わない」

 

 問題ない。もう一手なら、準備している。

 

「鴉昏!!」

 

《シューティング・クロウ》

 

 引き絞られた弓のように好機を待っていた黒鴉が、木々を縫って人狼のうなじに突っ込む。

 その身に光を宿し、首を落とす勢いで翼が薙いだ。

 ヘイト値ほぼ無しの死角からスキル相応の火力が襲う。ブルートロードは怯み、その隙さえあれば追撃には充分だ。

 

「最後は任せます!」

 

《インパクト》

 

 杖をかち上げ、スキル硬直が襲う。

 けれど気絶という特大の隙を、彼女は見落とさないだろう。

 

「了解……!」

 

 割って入った甲冑から風が吹き荒れる。

 彼女自身が台風のようだ、ならばその眼は、薙ぎ払う相手を見据えて襲い掛かるだろう。ほんの少し、けれど戦闘においては充分な長さの溜めが入った後に、空気が凪ぐ。

 この世界から風が奪われたような錯覚があった。

 

《山割り》

 

 戦斧を突風が押し上げる。爆発的に放出された風に飛ばされながらも、繰り出した単純明快な一撃を見て心を奪われた。

 ヴォルガフ・ブルートロードの首が落ち、不可視の斬撃がその先の木々を撫で切りにしていく。

 太く鋭利な鎌鼬を引き起こす程の一撃。確かにあれは、味方が動き回る場では使えないだろうな。

 

『Level up! 3→4』

 

 座り込んではだらしなく口を開けている私へ、甲冑の女性は振り向く。ザン、と戦斧を地面に突き立てる背後では、青い粒子と化す人狼の姿があった。

 

「お疲れ」

 

 表情なんてまるで分からないが、確かに彼女は笑っていた。

 

 最寄りの村『暗影の秘境』へ向かう最中の事だった。

 口数のない彼女へどう会話したらいいのか分からず、お礼と回復を済ませては粛々とした帰路を歩んでいる。不気味な程静かな森を《強化聴覚》で警戒していれば、呟くような大きさで彼女が声を出した。

 

「ラストアタック、持っていってごめんね」

「え? いいですよそんな、貴女がいなければそもそも倒せてないですし」

「けど、狙ってたんじゃないの。同族狩りの実績」

 

 そもそも目的があってあれと遭遇したわけじゃない。

 そんな実績がある事がまず初耳だ。どう言ったものかと思案していれば、察したように彼女が言葉を続ける。

 

「もしかして、ベータテスターじゃないの?」

「あー、はい。お恥ずかしながら」

 

 今度は向こうの考える時間が発生した。軽く事情を言っておこう、今更疑うものもない相手だ。

 

「チュートリアルスキップしてあの村についちゃって、レベリングの最中にあれとでくわしました」

「それで前情報無いんだ。なんか、すごいね」

 

 静かな声でいっそう胸が痛い。恥ずかしさを表に出しつつ、話題を彼女へ振る。

 

「そういえば、パーティの人と一緒じゃないんですね」

「うん。君が気になって」

「私がですか」

 

 思い当たるとしたら、村を出る時に振り返った事くらいだろうか。周囲の安全を確かめながら詳細を聞く。

 

「ここの周り、アイテムやエネミーとか、全体的に価値が高いの。この周辺を夜にうろつくのはそういう目的だろうなって思って、進行中のクエストが妨害されてないか確かめたくて」

「進行中って、あの皆さんと?」

「うん。オブジェクトがあるから、第三者が関われるんだ。でも、君くらいなら問題なかった」

 

 釈然としないものの、外敵判定を下されなかった事は素直に安心しておこう。

 

「これからどうするの? あの村は拠点にしにくいよ。もしまだ時間があるなら、都市規模の街へ案内するけど」

「いいんですか?!」

 

 食いついたが最後、ベータテスターの言う時間の規模を思い知るのだった。

 

 何時間かして、私達は朝焼けに照らされた都市へ踏み入る。幾らか上がったレベルよりも遥かに疲労感が勝っているが、彼女はそうでもないらしい。

 

「ここが獣人の街、人呼んで叡智の星雲」

 

 

『ウィズラム』

 

 

 円形の壁で囲われた街は早朝でもちらほらとプレイヤーがいる、あからさまなクエストNPCもいたりと、その規模は一見じゃ計り知れない。

 

「やっと、着きましたね……」

「ごめんね。思ったよりかかっちゃった。宿だけ案内するから、そしたらお開きにしようか」

 

 頷いて案内に従う。

 道をすれ違うのは規模様々な体毛の獣人ら、そういう映画のような景色だ。

 何処も白が基調とされた清潔感のある建物だが、案内された宿は一際品のある高層の建物だった。思わずたじろぎ、甲冑を見上げる。

 

「宿……?」

「この街で一番いいとこ。今日分の宿代は払うよ」

 

 そういって、決して安くないのだろう額が目の前に現れる。承諾を意味するボタンが、何故だか随分遠くのように思えた。森を抜けるまで何個かポーションも貰い、案内までしてもらったうえ宿代を貰うなんてがめついにも程があるだろう。

 そんな躊躇いを他所に、彼女が涼し気な口調で言葉を続ける。

 

「ラストアタック貰ったし。さ、早く」

 

 そういうことなら、と甘んじて頂く。ボタンを押すだけで所持金の桁が一つ上がって、嬉しいより怖いが勝った。

 

「ありがとうございます。でも、どうしてここまで」

 

 彼女は踵を返す。青い甲冑は色鮮やかに朝日を反射して、思わず目を細めた。

 一晩の縁とはいえ、胸には寂寞が揺蕩う。

 

「多分、暫くの間このゲームをやらなくなるから。なのに持ってても仕方がないし」

 

 理由は聞かないでおく。現実の話題に触れたとしても、ゲーム内の出来事が理由でも、安易に聞き出すのは無責任に他ならない。小さく相槌を打つ。感謝を改めて述べるのも違う気がして、言葉を探した。

 

「戻ってくるつもりはあるからさ」

 

 彼女は指を踊らせる。

 ウィンドウ操作だろうか、静かに見守っていると、子気味いい音と共に彼女の表情を隠す兜が消え去った。

 オレンジ色と間違えそうな、色を透かす白髪がたなびいた。彼女はそのまま首をほんの少しこちらへ向かせ、青い瞳が私を覗いた。

 

「いつかまた会ったら、フレンドにでもなろう」

 

 その眼に宿っているものを表現するなら、それは自信が一番近いような気がした。

 何か明確な未来を見据えて言葉を発したように思える。彼女はすぐに兜を表示し直して、重々しい足音を鳴らし始めた。

 

「勿論、ぜひ」

 

 

 

『セントレア』

 

 

「ナビゲーターやってる理由はこんな感じかな。他にも色々あるけど、やっぱり憧れが大きい」

 

 小柄なウェアウルフに語り掛ける。いつの間にか彼の待ち合わせ時間に達していて、いそいそと送り出した。

 私が手伝えるのはここまで、後のクエストは彼自身の努力が実を結ぶのを祈るしかない。

 

「さて、次は何しようかな」

 

 この世界は持て余す。けれど、退屈は当分しないだろう。




『黄昏の渓谷』
獣人種の初期スポーン地点候補。チュートリアルに沿っていけば、そのまま最寄りの都市へ迎えるクエストに繋がる。繋がるはずだった。

『暗影の秘境』
周辺に珍しい性質のクエストフラグや高レアの採集物がある村。教会が転移スポットとなっている。設計としては夜が来るのも早ければ朝が来るのも早いシステム。

『早暁の森』
その名の通り朝が来るのが早い森。こちらも初期スポーン地点の候補になっている。迂闊にモンスターを狩りすぎるとボス格モンスターが出てくる為、レベリングには向いていない。上記の採集物とかはこのエリアにある。

『ウィズラム』
獣人種のスポーン地点に近い都市。セントレア程では無いが、都市に恥じない大きさの規模を誇る。
叡智の星雲の通り、知識に関するクエストが多く初心者の導入にも親切。智慧を求める人らしさが獣人をケダモノに堕とさない、というフレーバーがこの街には込められている。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。