闇鍋の具   作:凍星 奏雨

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カナメ

・マリルリ♀
・ウィンディ♂
・ランクルス♀
・キュウコン♀
・アーマーガア♂


オトメ

リザードン♂
キュウコン♀
サーナイト♀
ガチゴラス♀
フラエッテ♂
アーマーガア♂


ポケモンパロ
カナメVSオトメ①


 私は街から離れ、森に来ていた。夜の森に差す灯りは存外に眩しい。

 少し開けた空間で、傍には反り立つ崖がある。

 ウインディの毛並みを確かめて言った。

 

「付き合ってくれてありがとうね。ウインディさん」

 

 なんでも無さそうに彼は吠えた。

 街に宿を取ったのはいいけれど、このところ少し退屈だ。或る噂を確かめたくて街に来たまでは良かったものの、現状収穫はない。

 この散歩は、退屈を紛らわすための散策だ。大して目的のない、強いて言うなれば目的を探すのが目的の散策。

 そして周りの野生のポケモンを把握していない以上、ポケモンは出しておくに限る。活力が余り気味であるウインディと共に、崖沿いを往く。

 

「やっぱり眉唾だったのかな……」

 

 カロス地方やホウエン地方などで、多く見られるようになった現象――。

 進化を超越した進化、メガシンカ。

 使命も宿命もない旅だけど、だからこそ、見たいものを見て、感じたいものを感じることが出来る。それも全て、先ず見つけてからの話だ。

 

 突如、ウインディが立ち止まった。様子を見れば、森の方に向き、深く姿勢を落としている。

 小さな唸り声が私を警告する。

 

「……!」

 

 誰か来る。

 

「あら怖い……そんなに警戒しなくてもいいのよ、トレーナーさん?」

 

 区切るようにその女性は言った、私のことをトレーナー、と。まぁ、ウインディを連れ歩くとしたら、警察官などを除くとトレーナーくらいなものだろう。

 でも、この場で私をトレーナーとして扱うことには意味がある。

 私は軽く周囲を見渡して答えた。

 

「なんの用です?」

 

 現れた女性を見据えた時、その傍らに、何者かが鎮座していると気付く。

 どうして気付かなかったのだろうと思う程、それは堂々と座していた。

 酷く冷たい瞳をしたキュウコンが、金色の尾を揺らしている。

 

「なんの用だと思う?」

「……夜盗」

 

 そんなわけないだろうけど。

 

「想像力が豊かなのね。でも……残念、外れよ」

 

 夜盗がひと気のないところで活動するか? ここは森の深く。待ち構えるのは不毛に過ぎる。もし仮に()けていたとしたら……襲うのに丁度いいシチュエーションはもっとあったはずだ。

 視線をそのままに、私はボールへ手を伸ばす。

 

「トレーナー同士が目を合わせたら、やることは一つでしょう?」

「……気が乗らないですね」

「どうして?」

 

 彼女は愉快そうに微笑み、試すように言葉をかざす。

 

「ここは野生のポケモンが多すぎる。あまり荒したくもないですし……別に、場所を改めるなら構いませんよ。バトルコートがある街が近場にあります」

「へえ――野生のポケモン」

 

 目を細めたその姿に、言い知れぬ感情を覚える。

 

「じゃあ聞くけれど、ここに野生のポケモンはいる?」

「……? …………」

 

 風は凪いでいる。木々は静まり返り、鳴き声一つ聞こえない。

 でもそれは、寝ているだけなんじゃないか?

 そんな疑問を抱え、反証を探そうとする最中、彼女は手を掲げる。いや、掲げるようにして、何かを上空に投擲した。

 

「それに――」

 

 雄たけびと共に現れたのは、翼を持つほのお色のポケモン。

 喉から漏れ出た炎が、闇夜を脅かした。尾には同色の灯火が猛っている、文字通り、それが命の灯火であると私は知っていた。

 突然の傑物にも森は穏やかな体裁を保っている。

 いいや。

 元から、この森は緊張していた――来たる戦いに備え、既にこの場を去ったのだ。

 

「――タダで見せる程、私のバトルは安くない」

 

 女性の月影が伸び、私の足元へ辿り着く。

 ここまで言われちゃ仕方ない。

 それに案外、これは遠回りじゃないのかもしれなかった。

 

「私はオトメよ。君は?」

「カナメです。……良いですよ、やりましょう」

「そういうと思ったわ。中々珍しいのよ、声を掛けても逃げちゃうトレーナーだってザラにいるんだから」

 

 だろうなぁ。

 実際、忙しい時にこのバトルを受けたかは定かじゃない。

 きっと、生半可なバトルじゃ済まないだろうから。

 女性――オトメさんは、私が歩いてきた道に立つ。双方とも、崖と森を側面にして構える形だ。

 

「戦い方は合わしてあげる」

「……参考に聞くんですけど、バッジは」

「ん~内緒♪」

 

 絶対集めてる側の人間だろ貴方。

 翼を広げ、トレーナーに追従するリザードン、そして仕えるように立つキュウコン。どちらもほのおタイプ……もしかしたらジムリーダーや、それに準ずるスタイルかもしれない、いずれにせよ、マリルリ以外の有効打が薄い私には、使うポケモンを少なく絞ったバトル展開が良さそうだ。

 

「シングルのフラット、サイクル有で」

「いいわよ。……ひょっとして、ガラルの人?」

「滞在したことはありますけど」

 

 追っかけじゃないってことだな、これは。……ミュージアムからの帰りを()けられた過去が中々苦いから、これは素直に安心した。

 私の準備を待つ間、彼女はポツポツと喋る。

 

「そう……。以前ガラルの人と()った時も、今みたいに言われたのよ」

「バトルの競技化が図抜けて進んでますからね。向こうは」

 

 ……よし、手持ちはこれでいいか。

 帽子のブリムを整え、私はプレミアボールを握りしめる。

 

「準備出来たみたいね」

「はい」

 

 厳格な場だと、後出し防止の為に残る手持ちを預かったりするけど、オトメさんはあまり気にしていないらしい。

 何がそうさせるのかは、明白だ。

 私が如何に臨戦態勢を取ろうと――彼女には揺るがぬ自信がある。

 

「ッ……ランクルスさん!」

「サーナイト!」

 

 いきなりアテが外れた!

 ……いや、チャンスだ。早速畳みかける。

 

「シャドーボール!」

「迎え撃ちなさい」

 

 大きな両腕が宙を掲げ、闇色のエネルギーが蓄積していく。

 対するサーナイトは高貴な光を静かに帯びる。

 ランクルスは、その種族からして素早さが遅い――先手を取っても、技を溜め終わるのは同時だった。

 意気を鳴き、ランクルスは力強くシャドーボールを放つ。それがサーナイトに迫る直前、サーナイトの直上に見たのは白銀の月。

 月は迷いなくシャドーボールに繰り出され、エネルギーは二匹の中心で炸裂した。

 

「……っ」

 

 弾速の遅さを鑑みても、炸裂場所はもっとサーナイトに寄ると思っていた。うちのダブルエースの一角、それもいのちのたまを使った威力だ。エスパータイプのサーナイトには最善手のはずだったのに。

 

「存分に魅せてあげなさい、サーナイト」

 

 軽やかな足取りで、サーナイトはフィールドを駆ける。

 そうだ、付き合わなくていい。ランクルスは普段通り、軸だけは相手のポケモンに合わせ、その場を動かない。

 機動力勝負にはさせてたまるか。

 

「迎撃だ、ランクルスさん!」

 

 ランクルスが右腕を横薙ぎにすると、その軌跡に五つのシャドーボールが浮かぶ。いずれも細々とした大きさだが、当たれば崩れるのは必至。

 順に放たれていくシャドーボールを、サーナイトは躱していく。崖に打ち込まれ、空に消え……激しくないのに何処か素早いサーナイトを、ついぞ捉えられない。

 シャドーボールならサーナイトも覚えたはずだ。ここはランクルスを引っ込め、相手の機動力勝負に乗るべきか?

 僅かな葛藤に敵は付け入る。

 迎撃をしながら、ほんの僅かに接近を許してしまった。サーナイトは手を合わせるようにして、エネルギーを溜め始める。

 

「マジカルフレイム」

 

 手元で煌々と輝いた炎の螺旋は、妖しげな光を伴ってランクルスに直撃する。土煙が舞い、二匹の状態が分からなくなる。

 ……ランクルスに火傷は効かない。特殊技なら、一層耐えられる。まだまだ戦えるだろうけれど、しかし気になるのは着弾の瞬間、ランクルスへ吸い付くようにして消えた妖しげな光だ。

 土煙の中で灯りが浮かぶ。闇色の光が閃いた時、視界を晴らした。

 次いで炸裂するのはサーナイトの方。

 攻撃を受けるのを承知で、ランクルスはカウンターを備えていたのだ。

 

「見立て通りね」

 

 ……弱点を突いたはずなのに、サーナイトはまだ余力をありありと見せている。

 

「よく当てたよ、ランクルスさん」

 

 うちの背中も頼もしい。弾力のありそうな鳴き声には、まだやる気が感じられる。そうだ、暇していたのはウインディだけじゃない。思わぬ強敵に、ランクルスも奮い立っているのだ。

 純白のドレスをはらりと靡かせ、サーナイトは再びエネルギーを纏う。

 ポケモンが頑張ってる。トレーナーのやるべきことは、知恵を絞って策を講じることだ。

 この対面は、腕の力を使うまでもなく、技の撃ち合いで決着がつくだろう。ならば自ずとシンプルな話になってくる。

 

「ラスターカノン!」

 

 サーナイトの白い光、月のイメージを帯びたそれは、きっとムーンフォースだ。ならば対抗させるべきは、はがねタイプの技。

 再び技は相殺される。思惑通り、土煙はサーナイトに覆いかぶさるよう展開された。

 今のうちに仕掛けを施しておこう。相手の力量は既に推し量ることさえ難しい、慎重に事を進めていく為、息を潜めて指示を出す。

 土煙が晴れていく。向こうがただ待っているとは思えないが……もしかしたら出方を伺っているのだろうか。オトメさんの値踏みするような眼差しは、どのような行動でも受けきるつもりでいるのかもしれない。プレイスタイルは見た目に寄らない。こっちから攻めていかないと綻びを見せない相手だとしたら、ローペースに展開するのは少々まずいか。

 

「――今よ」

 

 地響きが襲う。いや……地響きが近付いてくる!

 

「まずい、ランクル――」

 

 身体がぐわんと持ち上がる。揺れる視界で、ランクルスの正面から何か大きな影が迫っているのが見えた。それが踏み込む度に感じられた地響きは、言うに及ばずサーナイトのものではない。

 ウインディが私のリュックを咥えている。身体が横に流れていく。

 なすすべのない体勢で、私は――ランクルスが吹き飛ぶのを見ていた。

 

「ランクルスさん!」

 

 私がさっきまで居た場所を、ランクルスの身体が通り抜け、その間近で地面に倒れ込んだ。

 ランクルスを吹き飛ばしたのは、獰猛な太い足腰を持つポケモン。刮目した。私は、それを初めて見る。

 

「まさか、ガチゴラスのもろはのずつきを耐えられるなんてね。とっても根性のある子じゃない」

 

 ガチゴラス……そう呼ばれたポケモンは、その場で足を踏み鳴らし、相手のエントリーを今か今かと待ち望む。

 うつ伏せに倒れているランクルスは、両腕に力が入っていないものの、身体をピクりと動かし、危なっかしく揺れながらも、新たな刺客を睨み付けた。

 戦況は大きく突き放された。サーナイトに痛手を加えることは叶わず、詳細不明のポケモンにうちのエースをかなり削られてしまっている。

 ガチゴラスは見るからに物理型だ。近付き、力強く相手を圧倒するのだろう。ならばこっちもウインディにバトンを渡すか? いや、ウインディを繰り出すのはもっと相手理解してからだ。相手のタイプも分からない以上、おいそれとウインディに負担をかけるわけにはいかない。

 それに、ガチゴラスはどうやらチョッキを着ている。ポケモン用に開発されたとつげきチョッキ、飛んでくる攻撃に耐性を持つ代わりに、自身の技の妨げにもなりやすい。搦手は来ないと踏めば、ランクルスにだって勝機は残されているだろう。分は悪いのは否定出来ないが。

 

「来ないのなら、終わりにしてあげる」

 

 一際地面が揺れたというのに、ひこうポケモンの飛び立つ音さえ聞こえない。

 あのポケモンが破壊を踏み鳴らす度に、皮肉にも静けさを認識する。

 ……冷静にいこう。

 

「ラスターカノン!」

 

 突貫するガチゴラスの正面に、棘立ったエネルギーの凝縮が成す。銀色に輝く榴弾は、屈強な頭蓋を捉え炸裂した。

 土煙が晴れる、何事もなく一手やりすごした。まともにかち合ったガチゴラスは、足元に僅かに後退った跡を残してかぶりを振る。

 あまり効果的ではなかった。否、これは確かな発見だ。

 いくら特殊技に秀でたランクルスでも、所詮タイプ不一致(ふとくいな)技。対するガチゴラスはチョッキを着て特殊技に特別備えている。それでもダメージが見込めた事、そして、ガチゴラスはもろはのずつきが得意な技である事。いわタイプだと、判断して良さそうだ。

 

「畳み掛けろ!」

 

 語気が強くなるのを感じる。光芒を見つけたなら縋らずにはいられない。

 夜を切り裂く銀色が、再び正面のガチゴラスへ襲い掛かる。体力の高いランクルスに向けた、もろはのずつき、反動ダメージは馬鹿にならないはずだ。

 

「受け止めて――差を見せつけなさい」

 

 まるで食らいつくように、ガチゴラスはその頭蓋を振りかざした。

 銀色は飛散し、辺りは宝石が反射するように照りついた。

 調子付いたガチゴラスは一層猛々しく吼え、ランクルスへ再三の突撃を行なう。ラスターカノンは装弾が間に合わない――。

 

「今だ!」

 

 主砲がラスターカノンだと、判断しているんじゃないか。

 これは着ているチョッキじゃカバーできないんじゃないか。

 あの相殺で引き起こした土煙の最中――何も、策を弄じていないとでも。

 

「サイコショック!」

 

 ランクルスの意気に呼応して、崖の下端が妖しく光る。

 あの場所は、先程シャドーボールの乱射に見舞われた――つまり、崩れた部分の真下であることを意味する。

 岩が積み上がっていても不思議ではない。

 そこに形の歪な硬質物があったところで、違和感はない!

 ガチゴラスの死角から、サイコパワーを纏った砕片が飛び掛かる。弾の装填が遅いなら、用意出来るうちにするだけのこと。

 大きな図体を守るチョッキに、サイコショックが突き刺さった。

 

「よし――」

 

 小さな歓喜は、野生のように荒々しい咆哮に飲み込まれる。

 まだ、まだあのポケモンは()れる。

 

「――組み伏せっ、ゼロ距離で当てろ!」

 

 ランクルスの腕は岩をも握り潰す。速さの介在しない接近戦なら、後れを取らない。

 体勢の崩れたガチゴラスの身体を、ランクルスが地面に押し付ける。短い腕でランクルスに抵抗することは出来ず、ランクルスは優位を掴み取った。

 ランクルスとガチゴラスの間の空間に銀色が滲み出す。

 

「力勝負で勝てると思ってるなら、大間違いよ。――ガチゴラス、げきりん」

 

 一瞬だった。

 銀閃は瞬きの間に消し去り、ランクルスは突き上げられた頭に弾き飛ばされる。体勢を立て直す猶予を与えず、生き物離れした躍動をもってして、ガチゴラスはいとも容易くランクルスを壁に打ち付ける――。

 

「……っ」

 

 石片が零れ落ちる。ランクルスが衝突した崖は、衝撃のみでその表面を砕かれていた。

 もう彼女に、それだけの衝撃を受け止める体力はない。

 

「あと二匹。……気を付けて? 今のガチゴラスの前で、考える時間はないわよ」

 

 爛々と輝く獰猛な瞳。野生っけのある、わんぱくな戦い方とはかけ離れた――強大な生き物としての、怒り。

 今は私のことでさえ、獲物と思ってるに違いない。

 

「貴女にして良かった……。マリルリさん!」

 

 ほのおタイプに備えた選出が思わぬところで輝いた。

 我らが姐さんは、小さな背丈と豊満な体躯で、怒りの権化に立ち向かう。

 

「戻れ、ガチゴラス」

 

 出陣に間髪入れず襲い掛かろうとしたガチゴラスは、すかさずモンスターボールに戻される。

 舌打ちしたい気持ちを押さえて、出方を伺う。……フェアリー(マリルリ)ドラゴン(げきりん)は効かない、少しくらいは後出しのアドバンテージを活かさせてくれてもいいのに。

 

「面白くなりそうじゃない」

「貴方のポケモンも、これからってところだったんじゃないですか?」

「そうね。ああなれば手が付けられないから……その子を倒した後で、また頑張ってもらおうかしらね」

 

 動じてくれる気配もない。オトメさんは再度サーナイトを繰り出した。そういえば、三匹ルールってことはリザードンかキュウコン、或いはそのどちらもこの戦いには出てこないのか。

 余分な考えはよそう。ここでマリルリにどれだけ貢献してもらうかで、私の残りポケモンがどれだけ楽になるか決まる。

 

「マリルリ、足元にれいとうビーム」

 

 優れたセンサーになっているマリルリの耳は、呟くような支持も聞き逃さない。地面ごと凍て付かせる青い光線が、回避姿勢を取ったサーナイトの地面で終着する。鉱石のクラスターみたいに炸裂した氷がサーナイトへ牙を剥くが、あえなく躱された。

 本命はその次。

 サーナイトが回避した頃にはビームを撃ち終わっている。私が口を開いた頃には、マリルリは実行している。

 凍った地面を滑走し、マリルリは本来よりも遥かに素早く接近した。

 

「サイコキネシスッ、岩で塞ぎなさい!」

 

 崖に溜まった瓦礫が横薙ぎに飛んでくる。サイコショックの隠蔽に使うなんて小賢しいものじゃない、あれでは、サーナイトに自在な武器を渡しているようなものだ。

 氷の進路は打ち付ける岩に砕かれ、それでは飽き足らないと幾つもの岩石がマリルリを襲う。あの加速度じゃ横には避けれない、迎撃か? いや。

 

「たきのぼりでいなせ!」

 

 口から大量の水を噴射するマリルリ。サーナイトのサイコパワーで動かされている岩はその程度じゃ揺らぎもしないが――それは好都合だ。

 水はマリルリに押し返される。飛んでくる岩に加えて大波が襲ってくる状態を作り、それを逆手に取る。

 ほんの一瞬だけ成立した『滝』をマリルリは駆け上がる。

 

「エナジーボール!」

「れいとうビーム!」

 

 僅かに指示が遅れた……!

 エナジーボールは空中にいるマリルリを正確に狙い撃つ。対するれいとうビームも、その断続性を活かして薙ぎ払うようにサーナイトへ照射する。

 エナジーボールを切り払った冷気は、サーナイトの両脇に氷のクラスターを咲かせて沈黙した。

 チャンスだったが……反省は後。チャンスはこの先、何回だって見つけてやる。

 

「盾にして近付け!」

 

 着地したマリルリへ叫ぶ。離れた距離、岩がゴロゴロと点在している状態で、あのサーナイトと技の撃ち合いは出来ない。

 もっと早く、ランクルスが居た時に障害物を増やしに行くべきだったか? いや……こっちのポケモンを見て、向こうも対応を練っている。結果論だ。

 

「そんなもの、本当に盾に出来るの?」

 

 サイコパワーを纏って、岩が直上に浮かび始めた。これは遮蔽として通用はしないどころか、いつ降り注ぐかも分からない岩石が装填されたことを意味する。

 遮蔽がないならと、お構いなしにれいとうビームを放つ。岩で防がれたところで、別の岩石が襲い掛かった。

 果敢に躱すが、やっぱりマリルリの機動力では振り切るのに難がある、縦横無尽に動く岩石に、着実に削られている。

 無理矢理近付いてじゃれつくを当てるか? なみのりは……周囲の環境への影響が大きい、無しだ。

 

「いや……。ウインディさん」

 

 見ずとも分かる。彼の闘争心は既に臨界にある。

 頷いて――きっと頷きあって、私は目の前の戦況を見定める。

 

「崖に当てて岩を奪え!」

 

 張り切った様子で応えたマリルリはすぐさま崖に寄り、サーナイトの飛ばす岩石が次々崖に当たっていく。形を多少損なう物、完全に破砕する物と様々だが、サーナイトの武器が完全に消えることはない。

 崖に砕け散る中でも崖を砕き、操る総量は目減りしない。

 意図は別にある――ことも、オトメさんはきっとわかっている。

 だからこそだろう、マリルリの進行方向から岩が迫って来る。これをどう潜り抜ける? そう問い掛けられているように思えた。

 

「崖を登れ! たきのぼり!」

 

 さっきの岩を駆け上がった時と同じ原理だ。岩に掠められながらも、マリルリはバトルフィールドを一段階上げる。

 

「それしかないでしょうね……。サーナイト、叩き落として」

「マリルリ!」

 

 空中に投げ出されたマリルリをエナジーボールが襲う。

 私は拳を、否。

 モンスターボールを握りしめる。

 

「戻れ」

 

 光線はマリルリを追い、瞬く間にボールへ戻す。

 

 

「――しんそく」

 

 

 勇猛そのものが形を成して、速さの限界を求める。

 神の名を冠した爪は反応速度を超越し、ただ突風をもってして襲来を知らせ――瞬きの間に、状況を決着させた。

 オトメさんの真横をサーナイトが吹き飛び、そして、動かない。

 ……ランクルスとの戦いで蓄積したダメージが祟ったのだろう。

 

「あと二匹……。考えるのはご自由に。うちのウインディの前で、間に合うのなら」

「やってくれるじゃない……!」

 

 口振りと相反して、彼女は愉しそうだった。夜闇の中でもハッキリと、その上がった口角が見える。

 ……ハッキリと?

 

「キュウコン、出番みたいよ」

 

 ウインディのエントリーとはかけ離れた幽艶な足取りで、キュウコンはフィールドに赴いた。

 身体が熱を帯びている。出し抜いた快感が先んじて勝利を錯覚させてくる。

 

「ふぅ……」

 

 シャツの胸元に空気を入れて、少しでも身体を、頭を冷やす。

 熱だけじゃどうにもならないことをウインディは知っている。私も、思い知っている。

 再度、帽子のブリムを上げて、フィールドを睨んだ。

 トレーナーがどうして帽子を被るか。それは、最後まで戦いを見通す為だ。

 

「行くよ。ウインディさん」

「さぁ、貴方も燃えてきたでしょう? 勝つわよ、キュウコン!」

 

 爪が、牙が、理性と並行する本能に従属する。

 熱気は静かに、然して確かに彼らを焚き付けた。




ご愛読ありがとうございました――☆


長くなりそうだったので二つに分けようとしたら、思ったより打ち切り色が強くなりました。実際続きは......出すか出さないかで言うと......
ここで終わるというのも綺麗ですよね。



本当にここで書きたかったのは作中の補足です。少しニッチというか、触れてないといまいちピンと来ない描写だったよな、というのがサイコショックのくだりです、
前提として、作中ではとつげきチョッキの特殊技耐性を強調しておりますが、システム的な話をすると、特防が1.5倍になるアイテムです。「特殊技を軽減する」アイテムではないのです、絵面的には後者っぽいですが。
そしてサイコショックが、簡単に言うと受け手は防御でダメージを算出する技です。あの状況、ランクルスさんは自分の特攻を用いて、物理技を放ってたようなものなんですね。白兵11が光の舞踏使ったみたいな話です(一般通過オーヴァード)

他にも色んなシステム的効果を様々な原理で自己解釈しています、図鑑説明に倣ってA65のランクルスさんがA121のガチゴラスさんと力比べをするなど、その逆も然りですが。
必ずしも公式に基づいた描写とは限らないこと、各々の解釈と違ってしまうことを念頭にワンチャン投稿される自作も読んで反応くれたら幸いです。
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