闇鍋の具   作:凍星 奏雨

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――前提条件――

①闇鍋ギルドが結成されていた。
②ビルド方針の変更に猶予があるほど早くデスゲームになった。
┗ビルド変更出来るほどの補填が入った。


デスゲーム&奏雨君最強if
……みたいな認識でいてもらえると幸いです。


凍星奏雨活動記録-Ver.Extra2.1

「……ミスった。いやー、結果論かな」

 

 深い溜め息を言葉の前後に吐いて、一人のプレイヤーは広く丸いエリアを見渡した。

 薄暗い石作りの部屋だ。石の隙間からは紫色の、妖しげな光が漏れ出ている。

 背後を確認するのは三度目。

 相変わらず、閉じられた扉は開く様子がない。

 

 ここは新たに開拓された刑期(ストーリー)進行ダンジョンの一つ。

 ワールド内ストーリー進行度に関わる……デスゲームと化したこのゲームを終わらせる、たった一つのバカげた道筋。

 勿論、やや驕りが見られる奏雨とて、一人で攻略出来るとは思っていない。

 せいぜい……多少のマッピングならどうにでもなる。程度の驕りだ。

 

 円形のエリアが縦に揺れ始める。

 ダンジョン内の開けた部屋と言えば勿論ボーナス宝箱。

 

「進む道はある(閉ざされてはいるけど)……中ボスってところか」

 

 ……どこからともなく吹いた風が、部屋の中央で渦巻いた。

 

 


 

【餓えし賢者開示項目】

 

紫狐(シコン)(ミコト)・亜』

 

 有効属性:光・水・■・■

 抵抗属性:火・闇・■・■■

 


 

 

 奏雨の瞳に映るのは五メートルほどの高さを持つ狐型エネミー。

 銀色の毛並みに纏うは、漏れている照明と同系統の淡い紫のオーラ。尾の先には凝縮された光が濃い紫色の球体として灯っている。

 

「お前かい。じゃあもう物理耐性は見えなくても分かるよ」

 

 『亜』……ゲーム内で複数個所に渡り使用される表現。

 この場においては、強化版エネミー(オルタネーション)を意味する。

 

「仮にも大ボスだったのに、安売りか……」

 

 奏雨の握る手に力が入った。

 彼が担うのは、“そうであるはず”の武器から逸れた白き杖。長さは一般的で、先端にほど近いところでは、十文字槍に近いシルエットを象っている。十文字槍と違うのは十字が立体的なこと――先端から姿を捉えても十字になる造形であるところか。

 その他にも――装備全般が“そうであるはず”の凍星奏雨からはやや離れた趣きの姿と言えた。

 

 

 


 

『凍星奏雨』

 ウェアウルフ/ビーストテイマー

《虚ろう獣*1》《無彩色の誇り*2

 

E:白杖フィエルティジム*3――関連スキル:【未開放】

 

 

E:純狼の正装*4

E:空染(からぞ)まりの外套*5

E:(うつ)ろう獣爪(じゅうそう)*6――関連スキル:虚ろう足音 /【非公開】/【非公開】

 

 

E:イリュジオンハンズ*7――関連スキル:イリュジオン・ライト

E:無芯のタイピン*8――関連スキル:【非公開】

E:魔元素還元器*9――関連スキル:原初の産声

 


 

 潔癖な印象の強い姿なだけあって、目付きの冷ややかさもひとしおだった。

 かつて仲間と屠ったボスの強化版。中ボスと言えども、下降補正が加わっているということはなさそうだ。

 ついにHPゲージが現れる。その量たっぷり三段分。

 

「不意打ちな分、時間はくれるのか……」

 

 その間何もしていなかったんだけど。と胸の中で唱えた。

 モーションが記憶にあるものだけなら、恐らく今の自分なら独力で倒すことが出来る。

 今のスキル・装備構成でMP切れを起こした例はないし、見切るのに苦労する相手じゃない。

 だがここは――雲隠れ組(ハーミット)にすら協力を要請したダンジョンをクリアすることで、解放された地域。想定プレイヤーのレベルは高いはずだ。

 

「しょうがない、余力は残さない方針で行こう」

 

 

――《白昼の夢枕》

 

 ヒールブーツが地面を叩く。甲高い音の反響は――獣の唸り声が締めくくった。

 空間に染み出す半透明の狼。

 それはビーストテイマーの高位スキルではなく、テイムモンスター側のパッシブスキル。

 

狼魂(ろうこん)・シトラス』

 

 非物理的・霊体モンスター。

 ビーストテイマーが本職を全うしたところで、紫狐から開戦の狼煙が上がる。

 耳障りな高い鳴き声と共に発せられるのは鬼火めいた紫色の球。

 弾速は記憶より数段速い。

 

「……」

 

 だが、奏雨の速度はその時より数十倍速い。

 シトラスの《遥か遠き遺志》の効果も重ねられたアジリティは一足飛びに鬼火を躱す。

 

「やっぱ増えるよなー」

 

 紫狐の周りを扇状に漂う数多の鬼火。

 片手で杖を持ち、走行状態を維持したまま魔法を放つ。

 先端から灰色のレーザーが放たれた。一息に二本連射、一本は浮かぶ鬼火へ、もう一本は紫狐の胴体へ。

 

「あ、そういう系っ!」

 

 着弾を確認した奏雨は、姿勢を前傾させて回避行動に専念する。

 彼の想定通り、浮かんでいた鬼火が軌跡を撃ちつける。

 並走するシトラスに掠ったように見えるが、霊体モンスターは特定の攻撃以外に強力な耐性がある。現に体勢すら崩さない。

 呼吸を入れて大きく踏み込む。

 身体の沈んだ奏雨へ――ぐんと大きくなっている鬼火が放たれた。

 

「……っ」

 

 目の前は壁。かといって転身する時間はない。

 今までの鬼火ならいざ知らず、この規模が炸裂すれば爆風に巻き込まれるだろう。

 踏み込まれた床は彼の身体を大きく押し返し、非常識的(ファンタジー)な跳躍をして壁に迫る。

 しかしスケールだけなら、向こうは超非常識的(ファンタジー)

 状況は俄然――。

 

――虚ろう獣爪、特殊効果:特定角度接地時AGIアップ

 

 垂直の壁を離さず踏み込み、奏雨は壁を蹴って更なる高度に足を掛ける。

 下では鬼火が着弾し、爆発的な衝撃が僅かに身体を浮かせた。

 

 特定角度という表現からは、該当角度が限られる印象を多く持たせる。

 けれど、蓋を開ければなんと他愛の無いことか。

 特定角度――マップ規定の地面から六十度以上の傾斜。

 

 爆風を活かして身近な壁に足を掛け、再び虚ろう獣爪の特殊効果条件を満たす。

 人狼の犬歯が覗く。

 始まったのは――たった一人による一斉包囲掃射。

 

「うわっ視界が追いつかんなこれ……!」

 

 部屋が円形なのを良い事に、遠心力すら味方につけた大加速。

 魔法を的確な場所に放ちながら、なるべく上下移動を抑える*10というのは中々、経験し難い苦労だった。

 そう、魔法は的確に撃たねばならない――パーティを組むときの鉄則を律儀に守っているわけではない。

 

「あっくそ!」

 

 再度展開された鬼火に魔法が着弾する。

 ……本来の『紫狐の尊』が展開していた鬼火は、攻撃することで潰すことが出来た。攻略の定石に従った対応策だったのだが。

 高速で移動している奏雨にも簡単に見て取れるほど、一つの鬼火が膨れ上がってゆく。

 上がった出力は見ての通り。

 既に『紫狐の尊・亜』が使役する鬼火を阻む手段は、奏雨にない。

 

(速度上げて誤魔化せてるけど……偏差が効き始めてる)

 

 ただ走っているだけでは爆風からは逃れられない。

 引き起こした風に触れるなら影響はない。問題は、掠るだけで負うデバフの内容だ。

 奏雨の表情が強張る。

 意を決した顔で、彼は杖を逆手に持ち替えた。

 

「《イリュジオン・ライト》ッ!」

 

 膨張が収まったタイミングで、奏雨は壁を足場に身体を縮めて踏み込んだ。

 円形のエリアで壁を背負えば、どうしたって真ん中に鎮座する紫狐を捉える形になる。陽炎を引き起こす鬼火も、目の背けようがない。

 好都合だ、と犬歯を剥き出しにする。

 

「シトラスッ!」

 

――《憑霊・足》

 

 装備――虚ろう獣爪が仄かに白く光る。

 光と引き換えにシトラスは姿を消した。目で追おうにもそれは、中央に鎮座する鬼火の前では呑気な話だった。

 慣性による壁への吸着が限界に迫る頃、奏雨の魔法を吸い込んだ――人を飲み込める程の鬼火が放たれる。

 

 白雷が地面を跳ねる。

 

――《真白裂き・空漠》

 

 否、それは人だ。

 果たせなかった跳弾のように偶発性を帯び、雲と地を結ぶ落雷のように必然性を纏った一裂きが、すれ違いざま、紫狐の身体に赤きダメージエフェクトを刻む。

 瞬く間に反対側の壁へ着地した奏雨は、そのままの勢いで――とはいかず、力を抜いて本来の地面に着地した。

 

 そのままの勢いで蹴っていれば――ようやく着弾した鬼火に、突っ込んでしまったろう。

 

 杖を順手に持ち替えて、近接武器化エンチャントを解除する。

 あくまでも奏雨は魔法傾倒ステータス。高い出力のスキルを元手にしたとて、メインに出来る火力は出せない。見掛け倒しであるくらいなら、効果を切ってMPを温存する方が吉と見た。

 が……奏雨は訝しむようにダメージエフェクトを注視した。

 全然効いちゃいない、そういう反応だったらいつもの調子でぬるい笑いを溢すだけだった。

 

「思っったより効いたな……おっと」

 

 一瞥した紫狐はそれ以上の動きを必要とせず、奏雨に畳みかける。

 紫色の粒子が、広がりながら奏雨に迫った。鬼火よりも遥かに素早く、こなれた様子で被弾を判断する。

 身を翻した甲斐あって、付着した粒子は外套越しに局所一つ分*11

 付着しただけ――そんなわけはなく、次の瞬間、連鎖的に粒子が爆発する。

 そう、連鎖的なのである。粒子に占められた空間が爆ぜていく中でも前進をやめない奏雨は、見事逃げ切り、自身に付着した粒子の起爆を回避した。

 

「っし。…………――!」

 

 無意識的に判断していた、『粒子吐き』は一度だと。少なくとも本来、ここから繋がる派生パターンはなかった。

 二度目の『粒子吐き』が、反撃に移ろうとした奏雨を中心に捉える。

 今度は両足――垂直に跳んだ奏雨の足に紫色の光が加わった。

 疎む暇はない、本命は連鎖爆発だ。

 

「――《アルギス・ブラスト》ッ!」

 

 うって変わって腰に構えた杖を、彼は下に向け言い放つ。

 途端杖から顕在化するのは極大な光の柱。先程まで自分がいた地面をこれでもかと焼き続ける。

 そんなに焼かずとも丁度爆裂が地面をなめたというのに。

 して……気が済んだのか、奏雨は魔法を締めて着地する。

 

「三度目はない……ま、要観察かな」

 

 派生とはまた異なった、純然たる攻撃が奏雨を逸らせる。

 魔法の反動で咄嗟に回避が出来たが、あんなものそう何度も使えない。本当はボスに打ち込みたい火力だったのだが……爆発をモロに食らうわけにもいかないだろう。

 一人で相手取るには余るボスだが、しかしパーティを組めばやはり『中ボス』程度の圧だろうか。

 否。

 

「……早いな」

 

 突如、空中に紫色の火が湧き出る。十字で結べるよう――四点で。

 

「多いなっ!」

 

 生まれたのは、紫狐の尊をそのままスケールダウンさせたような子狐。

 世に放たれた四匹の子狐が、凶暴な爪に炎を灯して襲い掛かる。

 しかし随分と早い。AGI傾倒ステに《憑霊・足》のバフも乗せているはずなのに振り切れないでいる。

 振り向きざまに一発撃ちこんでみるも、怯むだけで倒れる様子はなかった。

 

(このまま時間が掛かると……少し、嫌な展開になりかねないかもな)

 

 楽しげな表情は鳴りを潜め、すっかり攻略時の透徹した目に移り変わっている。

 

「書くか……。……その為にもっ」

 

 行動を起こそうとする奏雨に降りかかる紫色の飛礫。密かに目を回していた記憶を封じ込め、再度外周を足場としてパッシブを起動させた。

 壁を走る最中、奏雨はおもむろに杖を持たない左手の甲へ食いついた。

 露わになる素肌。白手袋を剥いだかと思えば、手袋を口に咥えたまま、手形でもつけるかのように壁を叩いた。

 

よし(ふぉひ)

 

 壁を叩いた際に、大きくMPが減った。これでも《群れの統率*12》が効いて消費MPは軽減されているのだが……これ(・・)は些か大物なのだ。

 更に勝負に出る。

 壁を弾いて対角線上の壁へ――と行くには跳躍が足りない。減速気味の奏雨の身体は、紫狐の頭上で下降を始める。

 当然だ、目的地は対角の壁ではなく、この頭上なのだから。

 

 

《秘術:煮え立つは神代からの約定(ボイリング・サークル・バイアス)

 第一条件

 魔法陣を照射する。

 術者のいる軸を中心とし、最も近い地面へ展開される。

 

 

 口を開け、落ちる手袋を拾う左手がそのまま杖を取っ掴む。

 両手に持った杖を振り上げ、彼は叩き付ける動きのままに叫んだ。

 

約定再現(アンロック)ッ!」

 

 杖に眩い白光が灯った直後。

 古代と比べ薄汚れてしまったダンジョンの空気を、押さえつけるかのように光が照射された。

 部屋の面積ギリギリに照射されたのは、見知らぬ言語の刻まれた純白の魔法陣。

 

「――ギイイイィィイィィイイイイイッッ!!」

 

 怖れ知らずにも頭を取った魔法使いへ、紫狐がけたたましく張り上げる。

 縄張りにそぐわぬ決め事を刻んだことへ、

 欠獣半人(なりそこない)が不相応な秘術を目論むことへ、

 顕在化した脅威へ――妖狐は憤怒を示す。

 

(部屋の“干渉”にはボスのルーチンを大きく変動させるものもある……これ、毎回そうなんだよな)

 

 鬼火を展開したかと思えば、撃ち出す前に飛散してしまう。

 これが刻まれた魔法陣の効果――なんてことはなく、更なる条件を満たさない限りはピカピカする床にすぎない。

 飛散した光は再度形を求めて動く。そうして組み上げられたのは、紫色の矢だ。

 

(それ強化前だと赤ゲージで出してたやつだろ!)

 

 照射の反動で慣性も死に、浮かび上がった身体が落下し始める。

 無防備な奏雨へ、照準を合わせた矢が放たれた。

 そして――壁からも、一条の光が放たれた。

 

――《虹の調べ》

 

 素手で壁を叩いたことが合図。

 それは出ずる場所を導かなければ、すぐに迷ってしまう。

 テイムスロット二枠を消費する幻域空獣(フォークロア)

 

 

「見えるうわごと――口伝された光」

 

 

 その姿は、まるで虹の砂が形を成したよう。

 子供の夢に出てくるような――雲を泳ぐ運び手。

 

 

虹鯨(こうげい)

*1
【非公開】

*2
無属性魔法強化

*3
十字を貫いた白い杖

属性:無

特殊効果:レーザーマーキング。ポイント攻撃時クリティカル確率アップ

スキル効果:【未開放】

*4
メンズフォーマル

特殊効果:――

スキル効果:――

*5
純白の外套

特殊効果:着色不可

スキル効果:――

*6
獣脚を模したヒールブーツ

特殊効果:特定角度接地時AGIアップ

スキル効果:一定時間動きを写した幻像を反対方向に生成、ヘイト誘引有、被ダメ時消滅 /【非公開】/【非公開】

*7
フォーマルな白手袋

特殊効果:――

スキル効果:装備している一部杖に近接武器判定付与

*8
正円と十字が重なったシルエットのタイピン

特殊効果:精神異常耐性付与

スキル効果:【非公開】

*9
喉元の空いた、非線対称デザインの細いチョーカー

特殊効果:MPリジェネ

スキル効果:発声無効を解除

*10
さもなくば天井ガツーンor地面ズサー

*11
着色付加のせいで全然分からん

*12
テイムモンスター(・・・・・・・・・)にMP消費軽減等の強化






「私の独り言が多い気がする」

早期デスゲーム時空の奏雨君は、陣頭指揮のためにもおしゃべりになりました。
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