闇鍋の具   作:凍星 奏雨

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《秘術:煮え立つは神代からの約定(ボイリング・サークル・バイアス)
 最終条件
 詠唱し、神代魔法を選定する。


凍星奏雨
デバフ×7のせいで全ステダウン
HP:3/4くらい
MP:大体半分(高速リジェネと高速吸収がせめぎ合っている最中)

狼魂:シトラス
カウンタースキル保有
現在《憑霊・足》で奏雨のAGIを強化、憑霊状態付与

虹鯨
いるだけでバフばらまくわ主を口に含むと物理無効(ただしMP大吸収)にするやべーやつ
虹色の粒の光で出来た非実体


紫狐の尊・亜
HPゲージ:[3/4][満タン][満タン]
攻撃内容
魔法吸収鬼火、爆破粒子、デバフ矢など


凍星奏雨活動記録-Ver.Extra2.3

「…………。……()の中じゃ呪文使えねえわ」

 

 仰々しい七つの光球を巡らせた白杖も、詠唱が出来なければそれまで。

 虹鯨の口内で働く決まり事――呪文禁止がここで裏目に出る。

 

「かといって、無しでどうにか出来る相手じゃない」

 

 これ以上デバフを食らえば致命的な隙になりかねない。妖狐の爪牙を受け付けるわけにはいかなかった。

 間一髪で『紫狐の尊・亜』からの鬼火や粒子攻撃を避けながら、刻一刻と減少するMP。

 安寧の代償は大きい。

 

(これ以上虹鯨に食わせるわけにもいかない……)

 

「とっ……!」

 

 AGI低下でズレた感覚。覚束ない足取りで壁を駆け上がっていく。

 如何に素早い狐でも、数メートルと高さを離されれば追いつくのは至難。

 

「よし、『離れろ』」

 

 鯨の形を保っていた虹の粒が飛散する。

 緊急手段用のMPをギリギリ残せたことに安堵したのも束の間、紫狐は手を緩めることなく、むしろ攻撃パターンは激化していく。

 

 放射状の紫粒子を躱し――否、たなびいた右腕が災いしたか、純白の杖に紫色の穢れが付着する。

 

「……」

 

 次手の粒子連鎖爆破は食らわない。

 だがこれで、両足、外套、杖と付着した箇所は増えた。連鎖箇所を着実に増やされている。

 更には今まで複数掃射を主としていた鬼火攻撃が、突然束ねられた一つの巨大鬼火による焼き払いに変わった。

 

「舐めんな……っっぶないダメだ!」

 

 杖を向け、魔法で相殺しようとすれば、それこそ紫狐の思惑通りだっただろう。

 奏雨の心中を知ってか知らずか、裂けんばかりの口、腹立たし気な表情で狐は魔法吸収の鬼火を放った。

 まるで太陽が迫りくるかのようなプレッシャー。

 魔攻・速度重視ビルドの彼がモロに食らえば致命は必至。

 それもステータスダウン中の今なら、間違いなく一撃で死ぬ。

 

 着弾地点は天井に程近い壁――咄嗟の誘導に乗った結果となる。

 

「ッ!」

 

 

 決死の降下。壁を蹴りあがって天井に足を付け――真っ向から地面に突っ込む。

 待ち受けるは激突ダメージ、よしんば回避しても、地面にたむろう妖狐の襲撃が続くだろう。

 時に。

 何故最終条件――呪文詠唱をしないのか。

 秘術詠唱は中途破棄をよしとしない。詠唱中は別のことに口を使えないのだ。

 魔法詠唱中に詠唱できないのは、魔法職にとって一桁レベルからの常識だ。彼もこの期に及んで渋っているわけではない。そうした隙を考慮したうえで、秘術という手段を取ったのだから。

 では何故か。

 ……テイムモンスターへの指示は基本的に口頭で行なわれるのが主だ。

 少なくとも、虹鯨にとっては。

 

「『響け』ッ!」

 

 言うと同時に二つ。

 奏雨は床が迫る中で、いささか遅い姿勢転換を行なう。床と身体が平行に近くなるよう傾け、身体を縮める。

 もう一つ――部屋を占める虹の光が、突如線を描いて一点に収束していく。

 

――《虹彩(こうさい)反響域》

 

 そのスキルは、鯨のエコーロケーション能力に由来する。

 命じられた虹鯨は、不偏の身体をレコードのような形に変更させる。

 そして主が触れれば、レコードから放たれた超音波を通じて周囲の状況を細かく伝達するのだ。

 つまりは、状況把握スキルである。

 

 注釈をするのならば、今の奏雨に足りないのは状況把握ではない。足りないのはせいぜいタンクとヒールと余裕と死への危機感とMPくらいだ。

 

 虹の光が一点に収束し、虹色の縁を持ったレコードになる様は、銀河の渦を連想させた。

 ハウリング音が形成完了の合図。

 奏雨は縮めていた身体を解き放ち――レコードを蹴って、地面と平行に直進する。

 

 触れたことによる再度のハウリング音は、巨大鬼火の着弾にかき消された。

 

 速度を落とさず壁に突っ込んだところ、どうにか身を翻して壁に接地する。

 膝を深く折り曲げて衝撃を吸収。紫狐の更なる攻勢を待つ。

 

「ふぅっ……」

 

 序盤ボスの亜種、それもHPゲージ一本目だ。攻撃パターン自体は少なく、派生で緩急をつけていくのだろう。

 爆速で位置を変えた奏雨にも照準を追いつかせ、紫の粒子を巻いた。既に三ヶ所被弾している――苦手意識が芽生えつつある技。

 が、移動準備は万全。攻撃を既に待っていた甲斐あってか、粒子も爆撃も、奏雨の軌跡を彩るに過ぎない。

 派生で緩急。

 『粒子吐き』は二連パターンがある。

 

「『響け』!」

 

 叫ぶや否や、壁を待たずして空中で転身。

 地上に浮かんでいたレコードが飛散すると、再び奏雨の足元に集う。

 

「虹――光なら、そりゃなにより速いさ」

 

 ハウリング音が二度刻まれる。

 空中で足場を蹴った奏雨は『粒子吐き』を一切の禍根なく回避した。

 触れることで索敵出来る状態になるスキル。

 つまり――空中に、触れられるオブジェクトを生成するスキル。

 

「これ……回避しながら完全詠唱は無理だな――『響け』」

 

 虚ろう獣爪のAGIアップは、勿論虹彩反響域に足を掛けた際にも発動する。

 

「『響け』」

 

「『響け』」

 

 音が置き去りにしている――そんな錯覚さえあった。

 紫狐にとって、外敵がハウリング音と共に視界から消えるのだ。

 何度も、何度も、攻撃さえしないのだ。ハエ同然と称してもこの場においては仕方がない。

 ……尚のこと不況を買ってしまったか、『紫狐の尊・亜』が、煩わしさを表明するかのように吠える。

 

 夥しい鬼火が矢に変換される。混呪の矢が十二本、奏雨に誂えられた。

 如何に早くともホーミングであれば。

 

「それだよ……」

 

(なんで急に十二本に増えた? 亜種は十二宮関連、いや十二なら他にもある。

 けど唐突すぎる。ゲージ割ってない……)

 

 奏雨の内部音声にデバフ解除の音が短く届く。

 計一分、呪いにしては細やかだっただろうか。目の前で是と答える者に、奏雨はグーパン(STR25)も辞さないだろう。

 

(ホーミングの仕掛けと言い、伏せ情報が多いな……原種でやれよせめて)

 

 秘術は保留とすれば、今の奏雨を遮るものはない。

 検証の為だ。虹鯨にMPを寄越すのに、躊躇う必要はなくなった。

 壁を蹴った奏雨は、空中で四肢を広げる。

 

「『呑め』」

 

 虹に分解されていくレコードは、鯨の形象を取り戻し、意気揚々と奏雨に食いついた。

 この矢が物理判定なのは虹鯨召喚時に把握済み。

 奏雨の思惑通り矢はすり抜けた。

 

 思惑通り――脇腹と両足、杖をすり抜けた。

 

「っしビンゴ!」

 

 

『身を翻した甲斐あって、付着した粒子は外套越しに局所一つ分』

『今度は両足――垂直に跳んだ奏雨の足に紫色の光が加わった』

『放射状の紫粒子を躱し――否、たなびいた右腕が災いしたか、純白の杖に紫色の穢れが付着する』

『無論なすすべもなく両足、脇腹を集中的に貫かれ――同期が崩れた』

『(…………ホーミングにしては……)』

 

 

 粒子の役割は連鎖爆発だけじゃない。

 矢のホーミングマーカーを兼ねていた。

 

(わざと杖に受けたのは当たりだったな、杖に飛んでくるなら弾きやすいことこの上ない。もしこの狐が別所にも湧くなら……。いいぞ暴いてけ情報!)

 

 落下を始める奏雨だが、彼の自由落下にはもうそれほど意味はない。《虹彩反響域》は虹鯨側のMPを消費するが――虹鯨自体が持つ《自動MP回復》に奏雨の《群れの統率*1》……更に奏雨から食らったMPがあれば、もう数十回は可能だろう。

 虹縁のレコードを蹴り、空中で態勢を立て直す奏雨。

 

「矢についてはあと二つかな! でもわざわざ釣る必要はないか……。というか、長引かせすぎると頭が持たない気がするし」

 

 攻撃を行なわなかった理由は単に反撃に出る暇がなかったから。これは本当だ。これも、本当ではある。

 追加で二点。

 デバフ状態で落ちたDPS*2のまま攻撃し、MPを減らしたくなかった。

 そして、MP回復に専念したかったことも真。

 

 継戦能力を重視した奏雨のビルドには自動MP回復系スキルが多分に積まれている。

 加えて憑霊を経た奏雨自身にも《群れの統率》のMP軽減は乗っている。

 奏雨のMPは、虹鯨に与えた分を差し引いても――既に全力抗戦の可能域にあった。

 

「『示し明かせ』」

 

 杖を紫狐の頭部へ向け、唱える。

 応じたのは白いレーザーポインター。杖の先端から紫狐の額にまっすぐと伸びた、かと思えば――菱形から派生したなにがしかの文様が、紫狐に刻まれる。大きさはヒューマンの頭くらいの大きさだろうか、手でなぞるにはやや余るが、巨大な狐に刻まれても、馴染むボディペイントのような絵くらいのもの。

 白杖フィエルティジムの特殊効果――マーキング箇所攻撃時、クリティカル確率アップ。

 パーティ運用時はスポットマーカーとしての役割が大きかったが、現状ではダメージソースの一因か。

 ともあれ奏雨は暗にこう宣言した――今から、その頭へ寸分たがわず攻撃を与え続けるつもりだ、と。

 

「先ずは体勢を崩して詠唱を入れる……『響け』!」

 

 遅れ馳せた宣戦布告に紫狐は遺憾の鬼火を手向ける、が、軽やかに宙返りまでして躱す奏雨。

 身体を反り、打ち下ろす形で杖を向ける。

 

「《マエストロ・チェイン》」

 

 顔を上げた紫狐の額に迫る灰色。

 バシリと鈍い音と共に、久しく動かなかったHPゲージが揺れた。

 着弾と合わせ、杖の先端では照準を形作るかのように、正円の鎖が浮かび始めた。

 

「『響け』」

 

 反撃を躱し、またも顔を動かした直後の紫狐へ灰色のレーザーを当てる。

 鎖の輪が増え、平行に二つ浮かぶ。

 ハウリング音と鎖の音が、着々と積み重ねられる。

 重なるのは音だけではない。

 僅かに蓄積されていくダメージだが、与えるダメージ量が目に見えて増えている。

 

(そろそろ……外したら心臓に悪い頃合いだな)

 

 気負う表情、もし現実ならば杖を握る手は汗で滑っていたかもしれない。

 ……現実ではある。然して世界の法則は仮想だ。()のアバターに不確定性を持つ代謝は働かない。

 

 《マエストロ・チェイン》は無属性攻撃魔法。攻撃そのものに特殊性はない。

 効果は――命中時、次に行なわれる同対象への攻撃ダメージアップ。

 勿論外せば解除される。装備を操るエネミーならば、防がれるだけでも解かれる。

 別の攻撃魔法を詠唱しても解ける。杖を変えても解ける。

 使い勝手は悪い――特に、広く対応を求められる普段の奏雨のパーティ内役割であれば優先度の低い魔法だ。

 現在はどうだ。

 頼れるのは自分。自分だけでボスの膨大なHPゲージを、全て削らなければいけない。

 

「易い的当てだよ」

 

 鎖の音が強く響き合う。

 

――十重連鎖(フル・サクセス)

 

 もし命中し続けて際限なく威力が上がるなら、それでも多用されていたかもしれない。

 しかし《マエストロ・チェイン》の真価は違う。

 せいぜい――十連続で当てれば超高衝撃の魔法を一度放てるようになるだけ。

 

「ヘイトが私にしか向かない――なんて当てやすいったら!」

 

 これまで常に紫狐は、攻撃対象を一瞥していた。

 奏雨が都度移動する度、明確に奏雨へ額のマーカーを見せびらかす形になるというのに。

 杖の先に十の鎖の輪。

 

 《虹彩反響域》で小回りを利かせ、奏雨は自ら『紫狐の尊・亜』の眼前へ躍り出る。

 

「近接が未解禁な今のうちにね……」

 

 杖を握る力を強めると、突如鎖の輪は大きく広がる。

 似ても似つかない――けれど例えるなら、これほど役割に沿った表現もないだろう。

 十重の鎖輪は通り抜ける道を作る。

 言わば、砲身のように。

 

「マエストロ・チェイン――コンプリート」

 

 今までのレーザーと比べものにならない極太レーザーが鎖の輪を通り抜けていく。

 灰色は続けざま砲身を壊していき――間もなく、狐の首領の頭部を飲み込んだ。

 

「ぐっ!」

 

 対する奏雨も反動で壁に打ち付けられる。

 ダメージは軽微、問題は体勢だけ。

 ノックバックで済まされた場合、被弾は覚悟しなければなるまい。切れるカードはあっても、状況の好転を望むには厳しい結果を飲み込むことになる。

 

「…………よし」

 

 頭部への超高衝撃&クリティカル。

 奏雨の正面では、鎖が舞い散り――目を眩ませた紫狐への明瞭な視界が確保されていた。

 間髪入れずに叫ぶ。

 ここしかないと直感していた。ここを逃がせば支払った代償を賄えないと理解していた。

 壁を蹴る。ここから先、《虹彩反響域》の足場は出せない。

 

 

(わたし)は約定執行代行者! 赦しを得たと愚見し、ここに眼差しを(ひら)く!」

 

 

 白杖フィエルティジムで長らく倦厭していた七つの白き光が、声に応じてバラける。

 再度集合したかと思えば、拠り所に選んだのは杖ではなく、奏雨自身。

 彼の周りを不確かな衛星軌道で巡る光達。

 紫狐は予感を覚えながらも、短期気絶からは未だ立ち直らない。

 

 

「選定を刻む。(わたし)が求むは海影(かいえい)残響(なごり)

 

 奏雨に巡る七つの星のうち、一つが強く輝いた。

 その輝きは段々と昏き黒に変容する。その様に怯えたか、それとも術者を見限ったか。他六つの星は呆気なく姿を消した。

 

「此の肺を飲め、相見互(あいみたが)えし秋を喰え」

 

 黒き光が明滅する。存在の希薄さから来るものではない。むしろその反対、この世界がこの光を正しく描写出来ていない――即ち、世界が持て余しているのだ。

 こうなれば躊躇いは命取り。約定の破棄は術者に根深い代償を刻むだろう。

 して――根深いと言えば。

 

「ギィィィイイイイイイィィイイイイッッ!」

 

 『紫狐の尊・亜』が動き始める。

 怒りに目を剥いた紫狐は呪い灯る鬼火を矢へ変え、奏雨を射る。

 耳障りな言の葉を奪い取るべく放たれた五本――

 

「花手折る愛撫。母(しい)する黒」

 

――《真白裂き・月削》

 

 矢を視界に入れた途端、諦めたようにピタりと止まった奏雨。

 追いかけてくるのなら当たり判定を狭める。

 飛んでくる矢に頭を向けた結果、奏雨を追う矢は、自然と集合した。

 一太刀で五本薙ぎ、勢いを失った奏雨はそのまま地上へ落ちる。

 

 彼の表情は虚ろだった。

 その双眸に映る現実が混濁している。

 

「これは――蟆√§繧峨l縺滉ク?▽縺ョ蜃ヲ蛻第ウ?(わたしのしらないわたしの原罪)

 

 

――「『神代魔法:黒の咎』」

 

*1
テイムモンスターにMP消費軽減等の強化

*2
Damage Per Secondの略

 秒間ダメージ量を表し、DPSが低ければ恒常火力が低く、DPSが高ければ恒常火力が高い。

 しばし、秒間ではなく単なる継続火力して使われる例もある。




鴉魂と狼魂について。


このルートの奏雨君は、鴉魂に出会ってません。

テイマーを選んだ時点で鴉昏(鴉魂の生前)が初期テイムモンスターにするのは確定路線です。加えて、死亡して『魂』になることも(死亡時期は軸ごとに前後すると思いますが)
本来ならじきに蘇生というか、鴉魂へのクエストを踏むことになりますが、その前にシトラスのクエストを踏み、一旦の完走を経ました。
クエスト報酬(分岐)でシトラスの魂を獲得します。

テイムモンスターの『魂』を同時に二つ以上所有出来ない。

愛着ではなく強くなることを優先した奏雨君は、シトラスの魂を優先しました。
プレイスタイルの変更が表面化した瞬間ですね。

多分今回の話で出ることはないですが、シトラス君は隠密看破系のスキルをはじめ、平時に優秀なスキルを持ってます。
あと対霊で滅茶苦茶強い(今回の話に霊エネミーは現状出ない)(プロットがないに等しい)
あと(1)狼魂の後に名前がある通り、別の狼魂の個体はいると思います。狼魂・ミカンとかだったらウケる。
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