第二条件
魔法陣内の指定箇所に触れる。
計七箇所、MP貸与を伴う接触を経て詠唱が赦される。
第一条件を済ますべく、『
差し迫る紫の矢。
途端、細やかな光の粒が、奏雨と紫狐の間に割って入る。
テイムモンスター『
それは虹そのもの、生きた虹の分け身。
壁から迸るように現れた虹鯨が、その口を大きく開け――奏雨を飲み干した。
『虹鯨』
有効属性:水・【非公開】
抵抗属性:魔法
特殊抵抗:物理
【保有スキル】
Active Passive
・虹の調べ ・自動MP回復
・虹の息吹 ・広域属性強化・全*1
・
・もっとも豊かな鯨 ・虹の身体
・【非公開】 ・【非公開】
・【未開放】 ・【非公開】
特殊抵抗――通常の抵抗と異なった抵抗能力を表す。
虹鯨も例外に非ず。其れの特殊抵抗は――被弾判定の消失。
如何に飲み込まれたと言えども、虹鯨の身体は光の粒が、鯨の様相を呈しているというもの。
防ぐには至らず、ただ虹色の光の粒が奏雨を覆っただけ。
放たれた五本の矢全てが奏雨の身体を貫いた。
――貫き、天井に弾かれて消えた。
虹鯨だけでなく、虹鯨が含んだ主すらも抵抗の影響を得る。
魔法への抵抗は勿論のこと――虹鯨に含まれている間、
(一瞬でもMPが目減りするな……)
尤も、無制限ではない。
虹鯨の中にいる間は、MPが虹鯨に吸収され続ける他、呪文の詠唱が不可能になる。
「よし……『離れろ』」
命令を受けた虹鯨の身体は飛散し、部屋には虹色の光の粒が満ちた。
モンスタースキル《虹の身体》を持つモンスターは、その身体を拡散させ、偏在性を獲得することが出来る。
規模はエネミー時より数段グレードダウンしているが、ボス部屋が設えられた中で不便を起こすことはない。
事象がたまたまモンスターの形をしているだけなのだ。
今の奏雨も、成り行きで事象を従えているようなもの。
彼は威厳のない表情を見せながら、魔法陣の敷かれた地面へ着地する。
「眩しっ」
元々の光源である紫色、地面に照射した純白の魔法陣、満ちる虹色。
控えめに言ってセンスの死んだクラブハウスみたいな有様だった。
さしもの狐でも怒るのは当然。紫狐の呼び出した、四匹の従僕狐が着地直後の奏雨へ間髪入れず爪を振るう。
「相手はしてられん……っ」
霧散中でも、虹鯨のパッシブは効果を発揮している。属性強化の乗った水魔法――弱点を突けば数を減らすことは出来るだろう。
しかし、取った行動は脱兎の如き逃走。群れに追われる狼人が、地上に散りばめられた光を追う。
まったく紛らわしい。光の粒が舞う中で、奏雨は悪態を飲み込む。
現在追っている光は全部で七つ、秘術起動に必要な白光を放つポイントだ。
「――『
始まりの接触。触れた白光が霧散し――残存MPの一割が減る。
完全に逃げの体勢に入った今の奏雨であれば、放たれる攻撃は冷や汗一つで回避出来る。
「――『
再び一割が減る、残り五つ。
紫狐のHPバーは三本、そのうち初めのHPが1/4ほど削れているくらいだろうか。
(一本割ってたら、悠長に出来なかっただろうな……)
「――『
都度唱え、手触りのある光にMPを受け渡す。
この秘術成立には、最低でも現存MPの七割を消費することになる。段々と消費するMPが減る仕組みではあるが、果たして楽観出来るだろうか。とても、ボスとエネミー計五体を迎撃しながらくべられる量ではない。
(狐は素の運動で巻ける……鬼火も粒子も壁を蹴れば……)
思考に沿うかの如く、扇状に五つの鬼火を展開した紫狐。
眼前の光に触れながら唱える。
「『
次の光を見るべく顔を上げる。
残り二つ、空間を占める異質な光が消えて段々と簡素になっていく。
そう、異質な光が消えている。
鬼火は既に矢へ変換され――
「《イリュジオン・ライト》ッ!!」
――奏雨めがけて放たれた
(一発食らえば最悪そのまま死ぬ!)
矢速も精度も極めて高い。
加え、丹寧に呪いの込められた一矢は、その矢じりに三つの
それすら、以前の話。
亜種となった『紫狐の尊』がどれだけ呪いをため込んだのか、既に奏雨には図り切れない。
(数本
「ホーミングッ!?」
即座に代償を覚悟し、足を止めた。
既にMPは半分を切った、虹鯨の手は借りない――近接スキルの構えを取る。
紫の軌跡は足元と胴体へ。残る判断は脊髄に委ね、閃光を奔らせた。
――《真白裂き・月削》
弧描く杖が迫る三本の矢を叩き落とし――残る、沈んだ身体の右肩を狙う狡猾な二本。
違う――代償はこれではない。
(派生振り上げは間に合わない……ッ)
重ねるは鬼の陽炎。
覇道を往く最も身近な近接巧者。
盗用するは居合からの逆袈裟、背後から見た記憶を投射する。
スキル補助無し――完全手動迎撃。
「っく……!」
素早さに富んだ点の攻撃へ、わざわざパリィなどそう行なわない。
不完全な当たり方をした結果、手首を起点に大きく体幹が崩された。
次いで襲うは妖の爪牙。
外套越しに、礼服越しに、情け容赦なく突き立てられる。
「儲けだよ……ッ!」
適性外の近接迎撃に足を止めざるを得なかった代償。
右半身を蹂躙し尽くさんと食いつく妖狐。仮に振り払ってもすぐさま飛びつき、最早逃げることは敵わない――群れの狩りに相応しい結末をもって命を落とすだろう。
退け反った奏雨のかかとが、部屋へ反響を起こす。
「……小賢しいんだよ――」
反響は狼の遠吠えで締められる――狼魂・シトラスのスキルが、妖狐を容易く吹き飛ばす。
呪詛返しなんて大層なものではない――。
ただ――この狼の魂は、怨みをなにより重んじる。
――《
被弾後五秒以内に使用可能。攻撃者へ強い衝撃と混乱を与える。
消費リソースはシトラス自身のMP――回復不能の全体二割を消費する。
霊は場に残る理由が必要だ。生き物のようにただ生きることは許されない。
シトラスにとってそれは怨み。故に、晴らし尽くせば、ひと時の間現世に飽いてしまう。
(どうせすぐ正気に戻る。紫狐の次弾もある、体勢立て直すのは後だ……)
「うわあデバフきもっ! エキノコックスLv100だ!? ッ『
狐の爪牙に付加されていたデバフ――いずれもステータス減少系統が、七つ程*3重ね掛けされているのを傍目に、やや慌てながら六つ目を唱えた。
鈴の音を巻き戻したような、収束感のある音が凛と響く。
発生源は白杖フィエルティジム。
先端部の十字に、異言語の円環が廻り始める。
デバフで素早さが落ち、《怨狼の睥睨》もクールタイム中。
慎重を期す奏雨が見たものは――十二本の矢へ変じた鬼火の陽炎。
「っ付き合ってられん!!」
――《虚ろう足音》
突如鏡面へ飛び込んだかのように――奏雨の動きに同期した、もう一人の凍星奏雨が現れた。
いきなり逆走する奏雨の虚像へ、十二本の矢が放たれる。
無論なすすべもなく両足、脇腹を集中的に貫かれ――同期が崩れた。
(…………ホーミングにしては……)
足装備スキル《虚ろう足音》。
ヘイトを爆増させた自身の幻を、鏡写しに動かすスキル。
先撃ちしないと意味がない割には、使用回数一回*4と、吐きどころに困るスキルでもある。
最大限活用出来たと言い聞かせ――右手に握る杖を、正面に突き出した。
「『
七つ目。
異言語の円環が一際大きく広がる。
奏雨の頬をやたら眩しい虹色の光の粒と、白い円環が照らした。
(くそっ! 絵面がギリ面白さに寄ってる!)
紫狐が吠え――従僕が、先の恥辱を拭うべく飛び掛かる。
「もう遅いんだよなぁ……『吞め』」
第二条件達成――謙譲MPのハーフバック発生。
部屋を満たす虹色の粒が、奏雨の頭上に寄り集まり――大口が形成される。
立ち寝でもこうはなるまい。奏雨を縦に食らった虹鯨へ、妖狐が飛び込んでいく。
虹の粒を掻き分け、ふてぶてしくも人に飼われた狼、そして不遜にも魂を飼いならすなりそこないへ牙を立てた。
が、すり抜ける。
一匹二匹、例外なく。
正面へ向けた白杖の円環が一度収束し、杖の中へ秘められた。かと思えば――今度は七つの白き光が、杖を巡り始める。
「…………。……
あと三話かなぁ。
この回に限らないですが、誤字があったら教えてください。