闇鍋の具   作:凍星 奏雨

9 / 40
プレイヤーネーム「凍星奏雨」Lv96
ビーストテイマー/ウェアウルフ♂

プレイヤーネーム「Sera」Lv19
拳士/ウェアタイガー♀

プレイヤーネーム「アギ」Lv22
戦士/ヒューマン♂

プレイヤーネーム「ライリー・ホーン」Lv42
呪詛使い/妖精♀

プレイヤーネーム「full川(ふるかわ)氾濫(はんらん)」Lv64
魔法使い/エルフ♂

『ヴォルガスト・ヴァッサーロード』
有効属性:雷・毒・打撃
抵抗属性:火・水・斬撃
残存HPゲージ:全損・1/2・満タン


凍星奏雨活動記録-Ver.2.4『赤い闘志は呆気なく』

 制限時間は残り15分。

 15分かけて半分まで削った『精霊付きの人狼長(ヴォルガスト・ヴァッサーロード)』の、更に激化するモーションを相手にして倒し切れるか。

 四人に賭ける他あるまい。二人のセンスと、二人の経験に。

 

「今みたいには、流石に無理でしょ……」

 

 アギさんは苦笑いを隠さず言った。ただでさえ軽かった敬語すら剥がれてる辺り、プレッシャーを相当感じているように思える。

 横目でSeraさんの様子を見るが、彼女は全然元気そうだ。空元気ではないことを祈る。

 

「そうですかね? ま、やってみましょう」

 

 言いながら、私は後衛二人の方へ《氷の矢》を放つ。

 full川さんのMP状況が少し芳しくない。平行して水コボルトの処理を担っていこう。

 さっきのような曲芸は何度もやりたくない、こっからは堅実にいかせてもらう。

 

 

「――振り下ろしからは三撃くらい続くことを想定しましょう!

 一撃を完璧に凌がなくても良いです!」

 

「――遠距離攻撃が見えたら、一旦全部視界に入れて直感的に軌道を予測してみましょう!

 脳内で、槍の矛先に直線を結んでみるだけで行けます!」

 

「――Seraさん! 雑魚敵は正面に捉えず流していきましょう、身体の向きはずっとボスへ!

 ライリーさんー! アラート任せましたよー!」

 

「――オッケーです、いい対応! 二撃目まで凌げたら、私もこうやってカバー入れるんで!」

 

 

 頭疲れる~……。

 

「いっち、に、っさん!」

「ナイスー!」

 

 片手盾を両手で構えて、三連撃を受け止めるアギさん。反撃を割り切った素晴らしい受けだ。

 Seraさんは無理をせず好機を待っている。正しい、先程斬撃中に横やりを入れようとした際、最後の一段だけ対象を変えてきた事が、ちゃんと頭に入っているようだ。

 さて、そろそろSeraさんにも気持ちよく入れてもらわないと、楽しい経験とか一回抜きにして、打点が出ない。

 

「Seraさん、大技撃てます?」

「撃てはするけど撃てなぁ~いっっ!」

 

 言ってる間にも、水で出来た短剣が数十本、Seraさんの後を追って放たれていく。

 彼女の敏捷力なら、動いている限り当たりはしない。装備重量が極めて低く、ライリーさんのバフも乗っかった虎人の拳士ならば、三次元的な動きを交えてもっと身軽に戦えるとも思う。

 ただ、このゲームに慣れていないと、回避と攻撃を両立させることは難しい。回避に余力を割いている今、人狼長に隙が生まれても、反撃の判断に遅れてしまうだろう。

 

「なら……。こう……で、うん、うん……。たーぶん……」

「??」

 

 ……いける。いや、どうにか通して見せる。

 

「っと、あれはヤバい。片手盾じゃ受けきれないやつ」

 

 人狼長がやや不自然にバックステップを挟む。正面にアギさんを捉え、奴は川を背にする。

 

「横軸回避! 盾はいい!」

「っっす!!」

 

 話が速い、人狼長からただ遠ざかるのではなく、人狼長の視線から逃れるようにして彼は走る。

 これなら“飛沫”の被弾も少なく済む。

 

「俺の後ろに控えて」

 

 黒杖ヴァングラシオにMPを注ぐ。紺碧の光は杖の先端に留まらず、河原全体を照らしていった。昼間の蛍火にあてられた河原に霜が降り、いずれ剥く牙を確かめる。

 人狼長は刃を下段に構え、深く腰を落とす。切っ先が川に浸される程、深く。

 長い緊張感は、然して短い猶予時間。

 水飛沫を巻き上げながら放たれた斬撃と、霜に潜む敵意が露わになったのは、ほぼ同時のこと。

 

「《冰刃雪牙(クレバス・ファング)*1》」

 

 水属性の斬撃が丸石を抉り砕きながら、縦に閃いていく。

 が、既にそこは氷結の領域。侵されたと憤るかのように、氷の柱が斬撃を諫める。

 地面からの氷牙を断ち切って尚猛るのは斬撃――が引き連れた水飛沫。最早それは飛礫というべき数多の破壊力だ。

 躱せるかは運に近い、私の背後にはSeraさんが控えてる。

 

「…………」

 

 しかめた顔を隠しながら、水の飛礫を受けた。

 アギさんは躱せてそう。パーティメンバーのうち、私しか体力が減っていない。

 爆発の脅威は、爆風による飛来物……そんな言説が頭をよぎってった。

 斬撃防いだ後隙に狙ってくるわ、そもそもくそ避けにくいわで、この川斬撃だけクソモーションだと思うんだよなぁ。

 

「だいじょぶ!?」

「ぜーんぜんいけます。ま、そろそろ攻勢に出ましょ!」

 

 実際、レベルがもたらす基礎ステのおかげで体力は安全域(グリーン)のまま。

 仕切り直して、反撃開始だ。

 

「full川さん! 本気で周囲守って!」

「はい……っ」

「ライリーさん! 大きめのヒールいけます!? いけるなら私宛てにキープ!」

「わ、分かりました!」

 

 MP管理にも気を配る。鴉魂のスキルで徐々に削れており、急を要する場面であわやギリギリ足りないなんてことも、万一あり得るかもしれない。

 

「二人共、一気に削りますよ!」

「了解す!」

「けどどうやってっ?」

 

 水の短剣の連射、別々に分かれて回避する私とSeraさん。

 密度を二分し、より躱しやすくなった掃射を後にしながら言葉を続ける。

 

「ハメる! 条件は整いつつあるから、カウンターを叩き込む!」

「じゃー、合図は奏雨さん待ちでいいんだね!」

「それで良いです! アギさん、ちょっと踏ん張りますよ!」

「もうメチャクチャ踏ん張ってっすけどね!」

 

 そりゃ確かに!

 唯一ヘイトを貰っていなかったアギさんが突っ込んでいく。

 一瞬振り返るが、後衛は問題なさそうだ。

 

「よし……」

 

 川の方へ寄っておく。

 《ブレイブ・バッシュ》で肉薄したアギさんへ、人狼長は情け無用の猛撃を行なう。

 何度も刃を叩き付けられるアギさんは、笑っていた。

 

(片手盾の使い方を掴んで来てる……もしかして)

 

 もしかして、このまま私が手を打たずとも、彼らなら。

 ……いや。

 もしそうだとしても――否、そうだとしたら尚のことだ。

 昇華する瞬間に私が立ち会う必要は何処にもない。友達だけに囲まれて、一切の遠慮をせずに喜べた方が良い胃に決まってる。

 

「『静かに潜る・静かに進む(イズヴォリー・スカロプス)――……』」

 

 今度は私の番。川に杖の先端を浸し、魔力を流し込む。

 氷雪魔法の持つ侵略性は、水辺こそ真価を発揮する。

 

 アギさんと入れ替わり、Seraさんがスキルを叩き込む。人狼長の持つ体力ゲージは、そろそろ三分の一を迎えようとしていた。

 これで一気に、最後の形態移行を引き出す!

 

「『……――開通完了(エネルゴピスィ)』」

 

 杖の先端が青白く光り、水面の微かな範囲を氷結させる。

 氷結は――二ヵ所。

 人狼長は斬撃スキルを構えた。周囲広範囲を薙ぎ払う斬撃に、水の武器が追随するものだ。

 

「《氷孔繋ぐ竜の爪(スカロプス・クリオス)》」

 

 一ヵ所目の氷結は無論、杖の先端に触れている川の水。

 二ヵ所目は――人狼長の背後、川の流れに惑わない静かな異物がそこに在った。

 堂々たる奇襲。川から杖を引き抜き、氷片を巻き散らす。それと同時に、人狼長の背後で機を伺うようにしていた氷から――勃然、獣爪のような氷柱が発生する。

 

 腹を貫かれた人狼長は動きを止める。

 ラストゲージへ突入。追い込まれた精霊付きは、守るべき環境を外敵排除へ転用し尽くす。

 

「水が……!」

「ラスゲか、上等!」

 

 ライリーさんへ目を合わせ、私は前衛二人と合流しに行く。

 水コボルトの身体が崩れる。人狼長が、辺りの水を頭上へ溜め始めていた。川の水は残っている、システム的に枯れないことを良い事に、人狼長の無限リソースを化してやがるのだ。

 

「アギさん! 私と並んで、一波(いっぱ)止め切りますよ! Seraさんは私らの後ろで待機、合図するまでは出ないでください!」

「「了解!」」

 

 ふと、二つの鎧姿が頭を掠めた。

 彼らほど、堅くも逞しくも、手数もないけれど。

 志くらいは、追うことが出来るかな。

 

 アギさんは自分の背後へ、片手剣を突き立てた。

 

 《不退転の赤柱》

 

 その旨は分からないが、赤く変色した刀剣と、同じく赤い輪郭を帯びたアギさんの防具を見るに、守勢スキルなんだろう。

 正念場、アギさんは片手盾を、私は黒杖を構えて人狼長を見やる。

 

「障壁特性の魔法で威力を殺しに行きます。視界が悪くなりますが、悪しからず!」

「とっくの昔から、どうにでもなれってもんすよ!」

 

 ふっと笑い――詠唱を始める。

 

「『破城、先駆け、坐す魔性――』」

「GrRUUUUU――――ッ!!!」

 

 人狼長の持つ刃が水を纏い、更にリーチを伸ばす。加えて空いた左手には、水で出来た大剣を装備している。

 大剣二刀流――水霊の補助がなければ成立しない、埒外な破壊の剣技。

 

 

――其に宿る罪、罰、降りかかる不幸。

――かねて呪われた其の運命。

――白き呪いにて私が雪ぐ。

 

白旺(はくおう)呪態(じゅたい)

 

 

 視界の片隅、私を含めた前衛三人のHPゲージに薄緑色をしたゲージが重なる。

 追加HPか。気を利かせてくれる!

 

「『――移ろう定め、しばし射竦める』」

 

 私とアギさんの足元数センチ前に、一本の氷が引かれる。

 対して人狼長は、ついに二刀を奔らせ荒ぶる。

 

「GrRUUUUUrAAAAA――――ッ!!!」

「《刹夜の氷芯》」

 

 溢れるように、引かれた直線から雪崩れ出る氷波。

 然して情け容赦なく大剣を叩き付ける人狼長、かの掘削速度には、盾の真似事も通用しない。

 ならば真の盾ならばどうか!

 

「はぁぁッ――!」

「『散り舞えど塵に非ず――』」

 

 アギさんの片手盾に宿る赤い光が、防御範囲を広げている。二人で身を寄せ、赤い光の内側に収まっておく。

 受け止め続ける間も、私らはダメージを受け続けていた。

 

「《氷潤蜂起》」

 

 追加の魔法で、自分が生み出した氷雪オブジェクトの強化を重ねる。

 今なお溢れる《刹夜氷芯》の氷の強度を上げ、大剣の一太刀一太刀を削いでいく!

 後はスキルで相殺していけば、問題はない――

 

「っあ!?」

「? …………っ!」

 

 氷の破砕音に混じった、バキンと嫌な破壊音。

 視界の先を照らしていた赤い光が途絶える。

 

――盾が壊れた。

*1
出典:塩谷あれる『闇鍋狩り③』




《氷孔繋ぐ竜の爪》はドラゴンじゃなくてモグラです。
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