なのはと出会ってから暫くの時間が経過した。
今日もなのはが家に遊びに来ている。
「百合、なのはちゃん、お母さん少し買い物に行ってくるから仲良く待っててね。知らない人が来てもドアを開けたらダメよ?」
「はーい!」
母は買い物、父は仕事。
つまり今、この家には私となのはの二人っきり。
ふふふ。
私は絵本を読んでるなのはに話しかける。
「ねぇ、なのは」
「なぁにー百合ちゃん」
「キス……しよっか」
「えっ……う、うん」
顔を真っ赤にしてるなのは。可愛い。
「ねぇ百合ちゃん、やっぱりおかしくないかな?」
「どうして? キスは好きな人同士でするものでしょ? 私はなのはが好きよ。大好き。なのはは私のこと……もしかして……嫌い?」
「そっ、そんなことないの! なのはも百合ちゃんのことが大好きなの!!」
「じゃあ私はなのはが好き。なのはは私が好き。何も問題ないじゃない」
「う、ううん?」
なんだかんだ言いながら毎日こっそりちゅっちゅしてるので、なのはのキスへの忌避感は薄れて来ている。良い傾向だ。
この分だともう少し進んだキスを出来る日も近いかもしれない。
「じゃあなのは、目を閉じて?」
「うん……」
未だに顔を真っ赤にしちゃって。可愛いったらないわ。
ちょっと意地悪してみましょうか。
「……」
「……」
「…………」
「…………」
「………………」
「………………」
「……………………ねぇ、百合ちゃん」
「うん?」
「まだ……なの?」
「してほしい?」
「えっ……?」
「してほしいの?」
「えぇと、百合ちゃんのほうからしy」
「してほしいの?」
「えっ……う、うん……」
なのはの顔が更に赤くなった。かわいい。
「してほしいなら、ちゃんとおねだりしなくちゃ」
「おねだり?」
「そうよ、おねだり。言ってみなさい?」
「で、でも、百合ちゃんのほうかr」
「しなくていいの? ほら、急がないとお母さん帰って来ちゃうかもしれないわよ?」
「うっ、ううううぅぅぅ……してほしぃ……の」
「えっ? なに? 聞こえないわよ」
「ちゅぅしてほしぃの……」
「え、なんだって?」
「にゃぁぁあああっ! ゆりちゃんにっ! ちゅうしてほしいの!!」
「よくできました」
ちゅぅぅぅぅっ♡
しっかりおねだりできたから、今回は長めにしてみました。
なのはの顔が40度の熱があるんじゃないかってくらいに真っ赤だ。
「ぷはっ……どうだった、なのは?」
「どうもしないの。いつもと同じなの」
「へぇ……じゃあ次からはしなくてもいいんだ?」
「えっ……そっ、それはダメなの!!」
「じゃあ、キスして貰って何て言うのかしら、なのは?」
「えっ……?」
「人に何かして貰ったらお礼を言いなさいっていつも教えてるでしょ?」
「えっと……あ、ありがとう、なの」
「どういたしまして♪」
「なんだか、しゃくぜんとしないの」
「ふふ、ごめんね。余りにもなのはが可愛すぎるものだから、ちょっと意地悪しちゃった」
「もぅ、百合ちゃん、ひどいの」
「ふふふ、ごめんね。でもなのは、意地悪な私は嫌い?」
「……なのはが百合ちゃんを嫌いにならないって分かってるくせに」
「そうね、聞いてみただけよ♪ 大好きよ、なのは」
「もぅ、百合ちゃん……なのはも大好きなの」
ふふふ、順調ね。あぁ可愛いわ、なのは。私のなのは。
◇◆◇◆
士郎が大怪我をした。
やはりあの程度じゃ防げなかったようだ。
しかし、瀕死の重傷、というわけでなく、まだ意識こそ取り戻していないが、重傷にはかわりなくても暫く入院を続けていれば無事に退院できるとのことだ。
意識もじきに取り戻しすだろう、とのこと。
本来なら生死の淵を彷徨うはず……
これは、すこしでも私の言葉を気にしていてくれたってことかしらね。
でも一家の大黒柱が大怪我をしたのは事実。
やっぱり高町家はどことなく暗い印象だ。
桃子はお店に、見舞いに、家事にと更に忙しい。
美由希も入れるだけ翠屋にシフトを入れているし、炊事以外の家事も手伝っている。
恭也は焦って追い詰められている感じで修行に明け暮れている。
確か、士郎に怪我を負わせた犯人が捕まっていなくて、その牙が家族に向く事を考えるといてもたってもいられない……だったかしら。
でもそんな鬼気迫る雰囲気が、なのはには怖くてたまらないらしい。
そんな訳で、高町家の危機である現状、なのはに構っている時間が取れない、とのことで、家で預かる時間が増えた。
具体的には、夕飯食べて、お風呂に入ってから帰る事が多くなった。家には寝に帰る、みたいな。
お泊りしていく日もしばしば。
そんなある日の事。
「……」
「どうしたの、なのは。暗い顔して」
「いま、みんな、忙しそうなの」
「そうね……士郎さんが怪我してしまったからね……でも命に別状はないみたいじゃない?」
「うん、それだけは良かったの……」
「じゃあ、どうしたの? いつまでも暗い顔していたら皆が悲しくなってしまうわよ」
「うん、それはこの間百合ちゃんに怒られたから分かってるの」
「そうね、あなたは高町家の太陽だから。貴方が暗いと、あの家はもっと暗くなってしまうわ」
「うん……でもね、皆が大変なのに、なのはは何もできないの……」
「なのは……」
「昨日もお手伝いするって言ったけど、お母さんもお兄ちゃんも、お姉ちゃんも、百合ちゃんの所でいい子にしてなさいって。なのは、いらない子なのかな……」
「あのねぇ、さっきも言ったでしょ。なのはが暗かったらあの家はもっと暗くなっているはずよ。それだけでもなのはがいらない子な訳ないでしょ」
「でも……だったら! なんでなのはにもお手伝いさせてくれないの! なのはも皆の役に立ちたいのに!」
「うーん……ねぇ、なのは。私達は子供でしょ?」
「うん……」
「それだと、お仕事のお手伝いとかはできないのは分かるわよね? かえって手間を増やしてしまうかも知れないわ」
「うん……」
「でも、なのははそんな事は分かっているのよね。分かっていて、それでも役に立ちたいと思ってる」
「うん……」
「そうねぇ、それじゃあ、私たちにも出来るお手伝いをすればいいわ」
「なのはにもできる……?」
「えぇ、できるわ。それならなのははいらない子じゃないし、家族の役にも立てるわよ」
「でも……本当になのはにもできるの?」
「できるわ。私が一度でも間違った事を言ったことってあったかしら?」
「……ううん、ないの!」
「幸い明日は翠屋が定休日だから、早速今日、作戦決行よ!」
「わかったの!」
その日の午後。
「まずは、このクイックワイパーで掃除をするわ。掃除機は重いからね」
「わかったの!」
「次は洗濯よ! 洗濯機に服を放り込んで温水を注いで、洗剤と柔軟剤を適量入れて、ボタンを押したらおしまいよ!」
「かんたんなの! なのはにもできるの!」
「その間に料理の下拵えよ! 火と包丁はダメだからそれ以外の所だけでね。今日は生姜焼きみたいだから肉に下味を付けてキャベツをスライサーで千切りにしておきましょう」
「はいなの!」
「洗濯機が回り終えたから、洗濯物を干してしまうわよ! 今日は天気が良いし、今から干せば日が沈むまでには乾くわ」
「がんばるの!」
そんな感じで風呂掃除、洗濯物の取り込みなどを行い……
桃子達が帰ってきた。
「お帰りなさいなの!」
「おじゃましてます」
「なのは? 百合ちゃんまで。この時間は向こうにいるはずじゃ……」
「なのは、家のお手伝いしたの!」
「えっ……」
桃子が一瞬だけ苦みばしった顔になる。
これから家事を済ませて店の片付けに戻らなくてはいけないのに、仕事を増やされてぱ堪らないと思ったのだろう。
しかし直ぐににこやかな笑顔になり、なのはと私の頭を撫でているのは流石といった所か。
「それで、二人は何のお手伝いをしてくれたのかな?」
笑っているが、内心では、はぁ、これからフォローか……と思っているのが手に取るように分かる。
「えーっと、お掃除と、お洗濯と、お風呂洗いと、食器洗いと、トイレ掃除と、夜ご飯の下拵え!」
「えっ……」
桃子の顔が真っ青になった。
そんなに……? という顔だ。
しかし、どんよりとした空気を纏ってリビングやら脱衣所やら風呂場やらを回っていくうちに、桃子の顔が驚愕一色になる。空いた口も塞がらないとはこの事か。
「なのは、百合ちゃん、これ……あなたたちがやったの?」
信じられない、という風に聞いてくる桃子。
しかし舐めて貰っては困る。この私が手伝ったのだから、この程度は当然だ。
「そうなの! あのね、あのね、なのは頑張ったの!」
「えぇそうね。なのはは本当に良くやったわ」
「なのは……百合ちゃん……ありがとう……」
桃子が涙ぐんでいるわね。あぁ、綺麗だわ。きっとあの涙は舐めたら凄く美味しいのでしょうね。
因みに今日は泊まることになった。私がいればなのはの面倒も全部見てくれるし、桃子達にしてもありがたいのでしょう。
さてその後、美由希や恭也を一通り驚かせてから、本日のメインディッシュだ。
「お母さん、マッサージするの!」
「えっ、なのは? 百合ちゃん?」
「桃子さんはお疲れでしょうから、私となのはからマッサージのプレゼントですよ」
「なっ、なのはぁぁ……ゆりちゃぁぁん」
「どっ、どうしたの!? お母さん!!」
本格的に泣き出してしまった桃子に、なのはがワタワタしているけれど……無理もない。これで嬉しくない筈がない。
暫くすると桃子も泣き止んだ。
「じゃあ痛かったら言ってね」
「ハイ、分かりました♪」
「じゃあ、私が指示を出すから、その通りにね」
「わかったの!」
ふふふ。さぁて。
うはぁっ。いいわぁ、なのは。そこよ、そこぉ。あああぁ、絶妙ぉ。いいっ、凄く気持ちいいわぁ、なのはぁ。あっ、ちょっと、そこっ、ダメええぇぇ。ふぅ。へっ? そ、そんな所まで? ちょっとっ……あんっ。や、やぁぁ。きくうぅぅ。良すぎよおぉぉ……
「何をやっているんだ! 父さんの入院中に!?」
「ちょっと、お母さん!? 凄い声が聞こえてるよ!?」
ふふ。わざと開けておいた扉から声が漏れていたようね。顔を真っ赤にした恭也と美由希が入ってきたわ。
ふふふ。マッサージだと知って焦ってる焦ってる。
何を想像したのかしらね。
さぁて、そろそろなのははお眠みたい。
寝かしつけて来ましょうか。