アリサと出会ってから5日後。
「はい、今日から新しく皆の友達になる子を紹介します」
「は、はじめまして! アリサ・バニングスです! よろしくお願いします!」
アリサが転園してきた。
どうやら父親が娘の願いを叶えてやったらしい。
まぁ、折角できた友達と一緒にいたいからと言われれば無視できなかったのだろう。
さて、アリサの登場に周りがザワザワしている。
「髪の毛が金色だ」「外国人って言うんだよ」「日本語喋ったぞ」「変な色ー」「なんか気持ちわりーな」だのと好き勝手な事を言っている。
このままだと前の幼稚園の二の舞ね。
アリサも聞こえてくる声にビクビクしているし。
そこで私はスッと席を立った。
私が立った瞬間、騒がしかった教室は一瞬にして静かになる。
教師を含めたその場の全員が生唾を飲み込んで私の一挙手一投足を注視する中、私はコツコツと音を立ててアリサの前まで行き、ピタッと止まる。
そこで私はニッコリとアリサ微笑みかけた。
「こんにちは、アリサ。先日ぶりね」
「え、えぇ、パーティー以来ね」
そこで私はクルリと皆の方に振り返ると、
「ねぇ、皆。アリサは私のためにこの幼稚園に転園してきた『大切な友達』なの。だから……『よろしくね?』」
「「ハ、ハイッ!!」」
ふふふ。アリサが驚いて目を見開いているわ。
でもここではこれが普通よ。
ここには私のペットか下僕しかいないのだから。
結局、私の『お友達』を悪く言ったり危害を加える命知らずがこの幼稚園にいるはずもなく、すんなりと受け入れられた。
一度受け入れてしまえば、子供というのは単純なもので、髪の色や目の色なんて気にもしなくなる。
子供とは害意や悪意が長続きしない生き物なのだ。
アリサの方も一度受け入れられれば、その面倒見の良さなどで直ぐに人気者になる。
今も子供たちに囲まれて、質問攻めに合っていたり、狭い園内を連れまわされて案内されている所だ。
囲っているのが女の子たちばかりなのは、まぁ、ご愛嬌というやつか。
ここでアリサの好感度が上がれば、私に可愛がって貰えるかも、という打算も見え隠れするが、あれは恐らく無意識だ。
むしろいじらしくて可愛らしいじゃない。
後であの子達はねっとり愛でてあげましょう。
アリサの方も満更でもなさそうで、嬉しそうに笑っている。
きっと前の幼稚園では一人ぼっちだったのだろう、人に囲われるのが楽しいようだ。
しかしチラチラと私を気にしている。
もう少ししたら迎えに行ってあげましょう。
「むー」
さて隣を見ると、頬っぺたをプクーと膨らませて上目遣いで睨んでくる天使がいた。
恐らくアリサが他のペット達とは違い自分と同列だという事を無意識に感じ取り、焼き餅を焼いているのだろう。
今までは私の寵愛はなのはに最大限向けられていたから、無理もないか。
「むーーー」
まだ睨んでいるわ。焼き餅焼いちゃって、可愛いわね。
そのぷにぷに頬っぺなんて、文字通りお餅みたい。
両側から頬っぺたを潰してみる。
「ぷはぁーーっ! にゃにゃにするにょ!」
「ふふ。なのはが余りにも可愛いから、悪戯したくなって」
なのはの顔が真っ赤に染まる。
この初心な反応が堪らないわね。
「そ、そんな言葉じゃ騙されないの! それで、百合ちゃんはあの子とどういう関係なの!? さっき百合ちゃんの為に来たって……」
「ん? その通りよ。アリサは私の友達なの」
すると私の様子を伺っていたアリサが周りの子達に断わってこっちにやって来た。
「ゆ、百合! き、来たわよっ!」
「えぇ、そうね、アリサ。凄く嬉しいわ」
そう言って微笑みかければアリサも顔を赤くしてしまった。
しかし直ぐに気を取り直すと、なのはの方に向き直る。
「あ、あんたが百合の友達ね! 私はアリサ、アリサ・バニングス。百合の『一番の』友達よ!」
その言葉を聞いてムッとしたなのは。
「む……なのはは高町なのはなの! 百合ちゃんの『一番の』友達なの!」
「な……百合の一番の友達は私よ!」
「なのはなの! なのはは百合ちゃんの始めての友達で、一番なの!」
「は、始めて……べ、別に? 大事なのは始めてとか長さとかじゃないわ! どれだけ大切に思ってるかよ!」
「な……それだったらなのはが一番なの! なのはは百合ちゃんの事大好きだもん!」
「わ、私だって大好きよ! そ、それに私なんて、キ、キキ、キス、まで、したんだからね!」
「なぁっ……ふ、ふーん? で、でもそんな事で威張ってるなんてまだまだなの。な、なのはだって毎日ちゅぅ、し、してるもん」
「なぁ……そ、それなら私なんて……!」
「なのはだって……!」
ワタシノタメニアラソワナイデ……ッ!!
ふふふ。二人とも可愛いなぁ。
キスとかちゅぅとかいう時に顔を真っ赤にして、周りに聞こえない様にして言ってる所とか堪らないわ。
このまま眺めているのも良いけど、教師が困った様に見ているし、そろそろ止めてあげましょうか。
「ふふ。ほら、二人とも嬉しいけど、そこら辺にしときなさい。私は二人とも大好きだわ。それは一人だろうと二人だろうと、百人だろうと変わらない。私は貴女達に変わらぬ愛を注ぎ続ける自信があるわ。それなら順位なんてもの、意味ないじゃない」
「あ、愛!?」
「ゆ、百合ちゃん……恥ずかしぃの……」
「ふふ。でも事実だもの。私がなのはとアリサの二人を大好きな事は、幾ら言い争っても変わらないわ。なら私は二人に仲良くして欲しいの。そっちの方が楽しいし、嬉しいでしょ? 私がアリサをこの幼稚園に誘ったのは、なのはとアリサがきっと良い友達になれると思ったからでもあるのよ」
「う、うん……でも……こいつが……」
「でも、なのはだけが、友達だったのに……」
まだ言い募る二人。
もぅ、しょうがないわね。
強硬策でいくわ。
「ふぅ、じゃあちょっと来なさい、二人とも」
そう言って私は二人の手を引いて、誰にも見れない裏に出る。
そして、なのはの耳元に口を寄せて、万感の想いを込めて。
「大好きよ、なのは」
ちゅっ♡
アリサの耳元にも口を寄せて、同じだけの想いを乗せて。
「大好きよ、アリサ」
ちゅっ♡
二人にキスをした。
途端に二人は訳の顔を真っ赤にして、ヘナヘナ、とへたり込んでしまう。
「どう、分かったでしょ。私は二人とも大好きよ。それは友達が何人になろうと変わらないわ」
「わ、分かったわ……よーく分かった……ちょっと、ヤバイわよコレ……」
「にゃ、にゃはは……相変わらずすごい威力なの……」
結局この後はなのはとアリサは表面上は仲良くなり、3人でタージマハルを作って遊んだ。
しかしなのはの表情には少しだけ陰があった。
やはり強硬策だけじゃ対処し切れなかったか。
◇◆◇◆◇
さて、その日の夜。
今日は桃子が忙しいらしいので、我が家に来ている。
なのはは幼稚園の帰り道からずっと暗い顔だ。
「ねぇ、なのは。アリサはどうだった?」
「……少し気は強いけど良い子だったの。でもなのは、聞いてなかったの」
「ふふふ。そりゃ秘密にしてたし。驚かせようと思ってね。この間のパーティーの時に知り合ったのよ」
「……ねぇ、ゆりちゃんはああいう子が好きなの?」
「そうねぇ、ああいう子も好きよ」
「そうなの……」
「でも、だからってなのはから離れる訳じゃないし、ましてや嫌いになんてならないわよ」
「え……?」
「何度も言ってるじゃない。なのはが大好きだって。それじゃ信じられない?」
「そ、そんな事はないけど……でも……」
なのはは二人の世界に異物が入って来た事が怖いのだろう。
やっぱりかなり依存してるわね。
ふむ、やはりアリサを引っ張ってきて正解だった。
依存されるのは嫌いじゃないけど、私なしでは身動きが取れなくなるのは困る。
私はハーレムも愛人も持つから、なのは一人に付きっきりという訳にもいかないし、それに私は心まで気高い事を好む。
愛人なら構わないが、私のハーレムになるなら、見てくれだけが良いお人形じゃダメなのだ。
これはまだ幼いが故の独占欲だから、本来なら他者との交流で解決して行くけれど、なのはの場合は少し事情が違う。
なのはは辛い時期を支えたり、殆ど毎日一緒に過ごしたり、その他諸々の要因もあり、私が絶対的になり過ぎている。
恐らくはなのはの中で格付けするなら私は桃子や士郎よりも上だろう。なにせ私はなのはにとって、親であり姉であり親友であり恋人であるような存在なのだから。
つまり、私とその他との間に差がありすぎるのだ。
そしてその差は時間が経てば立つほどに広がっていく。そのまま一定以上の年齢になったら穴を埋める事は出来なくなるだろう。
それが成長すれば、私無しでは立ち上がれないお人形の出来上がりだ。
それじゃあダメ。
まだまだ余裕はあったけど、でもなるべく早くになのはには私以外にも友達を作ってあげたかった。
しかし適当な人間をあてがえば良いという問題でもない。
まず、現段階でなのはの対等な友達になるには、私からの扱いが対等でなければならない。
これはなのはの物差しが私を基準にするからだ。
よってペットではダメ。
私がハーレムにしたいと思える子でないといけない。
しかし私も妥協はするつもりは無い。
そこでアリサは非常に都合がよかったのだ。
アリサの方は今まで友達がいなかった分、輪を広げる事に忌避はないどころか喜びそうだし、面倒見の良い性格から、なのはも可愛がってくれるでしょうし。
まぁ、この年齢は程良い依存状態を保つのは難しいってことね。
「まぁ、何れにせよ私はアリサと友達であることは変わらないし、そこからどうするのがベストなのか考えなさい」
「う、うん。わかったの……」
「じゃあ、私は本でも読んでるから、考えを纏めたら声をかけてね」
「うん……」
これは私から出す始めての命題よ。
たっぷり悩んでどんどん良い女になってね、なのは。
……。
それから約10分。
「ゆりちゃん、私決めたの!」
なのはのこの声に、私は顔を上げた。
「ふぅん、言ってみなさい」
「私、アリサちゃんと友達になる! ゆりちゃんが私の一番ってことに変わりは無いけど、アリサちゃんがゆりちゃんの友達なら、私も友達になってみるの!」
「そう。よく出来たわね、なのは。偉いわ。それで正解よ。私とアリサが仲良くするなら、なのはも仲良くしないと、きっとつまらないものね」
「えへへ〜。それじゃぁ明日、アリサちゃんと改めて友達になるの!」
「そうね、それがいいわ」
そう言うとなのはは不意にモジモジし始めた。
これは……
「それでね、ゆりちゃん。なのは、頑張るからね、そのね…………ごほうび、ほしいな」
そう言ってなのはは目を閉じた。
…………。
何なのかしら、この子。
私を悶え殺す気?
いいわ、そろそろ次のステップに移ろうと思っていたし、丁度いい。これは私も抑えられそうにない。
「ふふふ。本当おねだりが上手になったわね、なのは」
私は目を瞑っているなのはにーー
「大好きよ、私のなのは」
ちゅぅぅ♡
ぷはっ♡
「愛してるわ、私のなのは」
ちゅぅぅっっちゅるんんちゅちゅっちゅぱっちゅるっじゅるんっちゅぷぱっちゅっぴちゃちゅるる……♡
……。
「ぷはっ…………なんだったの、いまの……いつもとぜんぜん違うの……なんか頭がボーッとして……」
「ふふふ。気持ちよかったでしょ」
「……うん……あの、ゆりちゃん、もう一回……」
「いいわ、今日はご褒美だから。なのはの気が済むまで好きなだけやってあげる」
ーーこうして二人の夜は更けていく。