「オマエがこれから学ぶことは、全てが無駄なのだ」
魔術を学ぶ際に初めに伝えられたのはコレだった。
根源へ向かう。子孫へ継がせる。抑止力を超える。
才能に溺れた私は、その矛盾に疑問を持つことも出来ずに破綻した。
ネバダ州南部。夜の荒野。流星の荒れる夜。
電球で煌めくミステリーサークルの中心で、私は何をすることもなく仰向けで空を見ていた。
人柱。ひとばしら。生贄。運命。
眩い銀色の円盤を観た私は眼を閉じて世界が救われるのを待った。
「縺溘∪縺溘∪繝ッ繝シ繝励い繧ヲ繝医@縺溷?縺ォ髫懷ョウ迚ゥ縺ィ縺ッ窶ヲ窶ヲ縺、縺?※縺ュ縺」
「繝√Ι繝シ縲√%縺ョ諠第弌繧ク繝」繝槭§繧???溘??螢翫☆?溘??螢翫@縺ィ縺擾シ」
パーティは、評判が形を持って現れる儀式だ。
金も、風評も、責任も、好き嫌いもそこには表面化する。
だからこそ、私が主催の筈であるパーティは異様さが際立っていた。
豪邸である。使用人も多数いる。金銭にも困らない。近場の孤児院は有名だ。私が年中寝たきりで天井を見上げてなければそれは素晴らしい生活なのであろう。
「本日はお日柄も──」
金銭に困っている商人にマハトマと言う。彼は涙を流して現場に飛び出した。
「本日はお日柄も──」
恋人が死に瀕している婦人にマハトマと言う。彼女は喜び勇んで病院食を作りに飛び出した。
「「「「「「本日はお日柄も──」」」」」」
誰も彼もにマハトマを言う。区別なく。捨てるように。奇跡は無くならない。ゴミのように使い捨てる。マハトマなど未だ持ってもないのに。
だから幸せなのだ、そう言い聞かせる。動かず、利益を他人に譲り、しかしそれが感謝となり更なる評価に繋がる。幸せなのだ。幸せなんだ。後悔なんかしてないのだ。私が悪いとは──
「
横を向いて睨みつける。
洒落た紳士服をきた男がそこに居た。誰もいない夜間に侵入した男は、しかしながら月光に照らされて当然の様に君臨していた。彼は優雅に一礼し、花束を適当に振り回した。
「イヤ、遅れてしまい申し訳ない。軍主催のナロー・ブラヴァツキーの追悼式に参加してたものでネ。彼の親友を自称する身としては外す訳にはいかなかった。10年──時が過ぎるのは早いものだ。私の名は知ってるだろう?」
「──ジェームズ・モリアーティ」
彼の日記に記載されていた、曰く髭面の爺さん。彼は優雅に年齢を重ねた存在を尊敬していた。彼はそんなジジイになれるだろうから渾名にすると日記には書かれていた。彼が日記を認めていたなど私は知りもしなかった。
「いやあ。彼の魔法は凄いネ。君がマハトマ〜と言えばみぃんな幸せになる。商売は成功して、恋人は治って。
「欲しい?」
「要らない。何故彼の親友であるのに遺品を奪う必要がある」
君とは違うんだよと言外に言われた。日記には彼が犯した犯罪の仔細はない。捕まえた。反撃した。喧嘩した。規模もなく、場所もなく、結果もない。彼は興味がなかった。誰かと楽しく、あるいは楽しさすら不要で、誰かと困難を達成するのが好きだったのだ。
「君の益体もない愚痴は聞く価値もない。エレナ・ブラヴァツキー。我が親友の愛を捨てた女」
「…!」
「私のために、君の人生を解体させて貰う」
「蠖薙◆縺」縺溘?繝シ繝シ??シ溘??SSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSR繝ャ繧「繧ュ繝」繝ゥ縺悟ス薙◆縺」縺溘=繝シ繝シ繝シ??シ溘??繝薙ャ繧ッ繝舌Φ縺瑚オキ縺阪k遒コ邇?h繧贋ス弱>繧薙□縺槭%繧後?繝シ繝シ??シ」
「エレナ・ブラヴァツキー」
「1831年8月12日生まれ。ドイツ系貴族で騎兵砲撃隊長のペーター・フォン・ハーンを父に、ロシアの名門出身で女権主義者で小説家のエレナ・アンドレヤヴナ・フォン・ハーンを母に持つ。従弟に政治家がいたネ?私は彼が首相になると計算している。まあ君には関係ないけど、彼、軍部の支持率やばいらしいよ?」
使用人の椅子に腰をかけ、モリアーティは淡々と語る。確かに従弟は最近訪問頻度が高くなってはいたが、彼の死による風評はそこまでだったか。やはり知らない。私は何を学べたのか、そもそも必要だったのか。
「幼少期は旅の連続で、ロシア帝国の辺境を転々。精霊と会話してたと聞く。精霊とはどんな姿なんだい?素晴らしく美しいのか。もしくは醜いのか」
「美しかったわ」
「だろうね」
知ってたとばかりに彼は背もたれに寄りかかった。椅子がぎしりとなり、不吉な音を立てて折れた。彼は驚きもせず椅子を放り捨て、別の椅子に座り直した。私は骨と皮になっている体を持ち上げ、背を丸めて彼に向き合った。
今思えば、あの神秘体験こそが誘いだった。愚かな運命へと導くための、死の行進だった。あれを素晴らしいと思うのではなく、恐ろしいと感じるべきだった。神秘が何故隠匿されたか、熟慮するべきだった。
「そして君は美しく成長した。聡明で、快活で、家柄もいい。素晴らしい女性だ。当然、君と結婚したナローも一流の男だ。軍では最高の評価を持ち、家柄も貴族、片手間の商売も成果を上げ、儲けは孤児院の経営に充てる人格者。けれども、君達の生活は上手くいかなかった」
「…私のせいよ」
「
彼は椅子の脚にヒビが入ったのを見て、残念そうに次の椅子を引き寄せた。予備なのか、更に2つの椅子を持ち上げ、背もたれをカンカンと打ちつけた。固いものに何かを打ち鳴らす癖は夫の真似だった。
私は彼の言葉を察して恐怖した。彼の親友は彼とは違った。悪辣に、真摯に、捻じ曲がった心で、私を傷付ける事に躊躇はしない、恐ろしい悪党だった。
「ナローは童貞だった。彼は貞淑で、妻以外に女性と関係するのを良しとしなかった。対して君はどうか」
「やめて」
「好奇心豊かな女性だ。貞操の有無など気にしない。何せ風評被害も無視できてたしネ。つまり、抱かれるのに抵抗はなかった。しかし、君は拒否した」
「やめて、やめてってば」
「手段の内容など関係ない。結果こそ事実だ。ならば、何故彼は褥を共に出来なかったのか」
「ねぇ!ねぇったら!!」
「そう、君は彼が嫌いだったのだ!ひと目見たその時から!」
「やめて!!!」
私は耳を塞ぎ、全力で叫んだ。だが、椅子の折れる音は鮮明に聞こえる。枯れた私の手は耳を塞ぐにはまるで足りていなかった。彼は死神のように私のベッドに近づき、囁いて私を嗤った。
「彼、
涙が止まらない。痩せ衰えた身体は不器用な震えしか出なかった。悪夢が蘇る。私が彼を罵倒したあの時を俯瞰する。私は私を殴り殺し、彼を寝室へ誘うのだ。だが、彼の顔は真っ黒で。魔法で蝕まれた私は彼の顔を覚えることが出来なかったから。そして彼は、彼は。
「口唇口蓋裂。彼が生まれた時から患っていた持病の名だ。」
「彼の場合、裕福且つ軽度だったのもあり縫い付けられただけですんだ。済んだが、跡は残る。結果として彼は少々口下手となり、自己評価が低くなり、そして愛を神聖視した。彼の親は仲睦まじく、彼ごときの障害など無意味だったからだ。たとえ子なしだったとしても変わらなかっただろう。だからこそ、彼は親の希望に従って君と結婚した。彼の愛は家族に認められてのものだから。今では後悔してると言ってたネ」
やはり、あの人達は私を恨んでいたのか。
彼の両親には一度しか会えなかった。子供がいないことを謝って、今までのことを謝って、そして彼らは私に何も言わずに別れを告げた。財産も、名誉も、彼らは何も要らないと断っていた。終わったことなのだと。
「そうして君は結婚し、エレナ・ブラヴァツキーとなった」
「彼の経歴だけを見て結婚したのか。あるいは元から使い潰すつもりだったのか。君の事情は興味ない。結論として、君は結婚して漸く彼の問題に直面した。そうだろう?」
答えない。聞きたくない。コンフォーターを頭に被り、暗闇に籠った。悪党は嬉々としてそれを剥ぎ取り、嘲笑した。
私は世界のためにネバダ州南部へ、あの場所へ行かなければならなかった。
「4%」
「口唇口蓋裂が遺伝する確率を君は恐れた。魔術回路は後付けだ。誤魔化しだ。君は劣等であるナローの血を継ぎたくなかった。だから、彼の性的な要望を全て狂わせた。当然、君達の夫婦生活は破綻した」
酷い沈黙が私達の周りに降りた。彼は一息ついたと壁際のワインを開けてグラスに2人分を注いだ。それを彼女に渡そうとしたが、置く場所は全て不安定と化していた。彼は大袈裟に肩をすくめて2杯分を喰らうように呷った。
「美味い。素晴らしいワインだ。口に残る後味が特に素晴らしい。是非ともボトル代を払いたいが…残念ながら私は薄給の身の上。払える財布はない」
「だから彼の子供の
鏡を見れば私はどんな顔をしているのだろう。
此奴は悪魔だ。邪悪の化身だ。友情だけで破滅を誘い込む極悪人だ。口から訳の分からない叫びが出たが、肋の浮いた胴からはか細い音しか鳴らなかった。
「螟ァ蛻?↓菫晁ュキ縺吶∋縺阪d縺ュ縲ゅ〒繧ゆサ悶?遏・諤ァ菴薙↓縺薙s縺ェ繝√Ε繝ウ繧ケ貂。縺励◆縺上↑縺??縲よャ。縺ョ繝薙ャ繧ッ繝舌Φ繧ャ繝√Ε縺」縺ヲ髢句ぎ縺?▽?」
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「ナローは自らを神のお手製だと自嘲した」
「彼は敢えて流されて人生を過ごした。神に謁見した以上、自らの力はそれをこなすための必要事項だからだ。気持ちはわからないでもない、彼の力は正に権能と例えるべき万能さだった」
「そして結婚し、君と出会い、彼は使命を理解した。君は彼の最高の好みの容姿であった。そして君は生贄だった。彼の仕事は君が捧げられるまでの維持管理だった。あるいは、その下拵え役だった」
魔法は無限の幸運とある一つの
56億年の保護を手に入れるために。星の死を守るために。幸運の化身である私は産み落とされ、そして宇宙開闢を超えた運を手に入れた。
だが、
「
「……」
「彼は神の名を知っていた」
神様の名。この世界の創造主。
「かの言葉のもとであれば何もかもそれを前提になる。言い訳の極致!全てを解錠するマスターキー!解答X!」
「彼に頼んで作って貰ったこの超超小型録音機に保存したは良いけど、だぁれも認識出来ない!たかが5文字に!私の右腕として造ったナロウ君も3文字覚えたら自我が無くなってしまった!仮にも死徒なのに不甲斐ない!」
「──
彼のテンションは素晴らしく逝かれていた。或いは、私の頭が壊れかけていた。良心が、利得が、罪悪感が、使命感が。水となり土に塗れて泥として脳に漬けられた。
「何故説明したかって感じだネ。答えは『捨てに来た』だよ」
「ぁぁぁ」
「彼の遺品は受け取った。
「ああ!!ああああ!!」
「乱数は好きだ。けど、空気抵抗を混ぜる君の乱数は要らない。だからこうやって君にとって素晴らしいクソみたいな事実を差し上げたのだよ」
「──!!」
「そう、クソわよ!ってヤツ」
──これ、君の夫の愚痴癖だったんだよ?
髪を掴まれ、頭を上げられた私が見た。彼は、爽やかな笑顔で。
誰かのおもちゃを気持ちよく壊した子供の笑顔だった。
「
頭の中はもうぐちゃぐちゃになった。感謝と憎悪が混ぜ込まれて涙となった。噛み締めた唇は血塗れとなり、鼻水と涙で水浸しの顔は彼以下の顔だ。心が折れたのを自覚した。頭が狂ったのを理解した。彼の復讐は余りにも優しかった。こんな化け物がいるなら、私はいくらでも壊せていたのに。
優しさが憎しみが嘘が正しさが憐れみが他全てが、分からない。
もう私に確認する手は無く、私にはもう次はない。正しく、別離されたのだ。
神の元へと逝く道筋は、幸運の交通費に売り払われた。
「謗医¢縺セ縺励g縺??る橿豐ウ豕輔↓隗ヲ繧後↑縺?ぐ繝ェ繧ョ繝ェ縺ョ繝ゥ繧、繝ウ縺ァ縲∵?ケ貅舌↓繧ウ繝ウ繧ソ繧ッ繝医@縺ヲ繧ゅi縺?∪縺励g縺??るュ碑。薙→縺呵カ??蜉帙→縺九?∫炊螻医?豌ク驕?縺ォ蛻?°繧峨↑縺上※繧ょョ溯キオ縺ッ縺ァ縺阪k繧医≧縺ォ縺ェ繧九°繧峨?ゅ◎繧後〒」
その後は流れるままだった。幸運の導くままに書物を、寄付を、旅行を、生贄を、友情を、そして座へと。敵は無く、幸運は外されず、私は私のまま幸運に座に存在した。
だが、これで終わりだ。無限の刑期は此処にある。劣化した力は世界を救う一因にしかならない。制限された首輪に抗う術も気力もなかった。だから、もう次はないのだ。
次はない。次はない。次はない。次はない。次はない。次はない。次はない。次はない。
『カルデアの司令官として指示を出すよ。私の事は気にせず、完膚なきまで完全な勝利を』
私は、次を目指せることに暗い笑みを浮かべた。
※アガルタの彼女はコロンブスが正義と信仰と妻の愛で頑張ってナレ死させました。