予定はヨハンナ様ではなく婦長でしたがやたら暗くなるのでヨハンナ様に頑張って貰いました。
最終的にはアイアイエーくらいの爽やかなラストになる予定です。
迷宮作成
ストームボーダー管制室にて。
白紙化地球を救うべく運行しているノウム・カルデアはいつものように新たな微小特異点を攻略するべく、藤丸立香とマシュ・キリエライトと合わせてレイシフト可能なサーヴァント達がダヴィンチに呼び寄せられていた。
呼ばれたのは4名。モリアーティ(アーチャー)、エレナ(バーサーカー)、エジソン(キャスター)、ヨハンナ(ルーラー)である。エジソンはエレナの胴を持ち上げ、ヨハンナはモリアーティにアルゼンチン・バックブリーカーを極めんと頭を腰に当て、彼らの暴走を止めていた。
「あはは…ごめんねーお二方」
「なぁに、構わないとも。今回は交流野郎を退けて私が選ばれたからな。これくらい朝飯前だとも」
「確かに、この面子で私が選ばれたのは不思議ですね。皆さん
「つまり君が重要なパーツなわけさ」
「分かるのかモーリー!」
エレナの首元の鎖に縛られているモルモットのぬいぐるみ、彼女の夫であるナローは流石ダァと鎖をガチャガチャ鳴らした。モリアーティは上機嫌に胸を張ろうとしたが、ヨハンナの頭の位置に顔を青くして慄いた。彼の腰の爆弾は健在だった。
ヨハンナの手にギブアップの叩きを入れながらモリアーティは答えた。
「私達の年代から見て近代なのは確定。そして架空の存在である君が選出されたと言うことは、空想を実現した特異点になる。ファンタジーかそうでないかは知らないがネ」
「さっすがモリアーティ。その通り、年代は一九世紀の後半、大体クリミア戦争が終わった1860年辺りかな。そこで未知の島が発生している」
「クリミア戦争…ね」
「エレナさん、どうかしましたか?」
藤丸がエレナに尋ねる。彼女がゲーティア戦前にカルデアに来て、藤丸は彼女の扱いを心得ていた。モリアーティ曰く、親友が泣いて教えを乞うねと評価するほどだ。だが、目の前にいるエレナに紐付いている彼はその素振りは全く無い。彼女達の関係はイマイチ理解しがたいのが現状だった。
「マスター、心配する事はない。どうせ生前の俺を惜しんでいただけさ。おもちゃを買えなかった子供みたいな物だから気にしなくていいヨ」
「あーなーたー?そこは慰める場面でしょうが!?」
「座の人工知能に夫婦仲を期待されても困る…困らない?ヨハンナ=サンを見ろよ。らぶらぶはぁとを悠々乗り越えての今だぞ?お前も全能を目指すならさっさと吹っ切れろよー」
「ナローさん私の黒歴史をほじくらないでください」
ヨハンナはナローに言い返したが、ぬいぐるみの反応は芳しくない。モリアーティが察したと言わんばかりに口元を手で覆う。少しして、ダヴィンチの口から少量の唾が吐き出た。堪え切れずに吹いた。彼女は笑いを堪えていた。
ヨハンナの顔が青くなった。思い出すのはあの時の悪夢。尊厳が切り売りされて観光費に計上されていたあの記憶。ヨハンナは震える指でダヴィンチを示した。彼女はハンカチで口元を拭い、特異点であろう場所の解析画面を映し出した。
解析画面には、
「…。──ツゥ。──────ふう」
ヨハンナは天高く飛び上がった。彼女は弾丸のようにモリアーティの腰を支点として優雅に回った。そしてモリアーティにバックブリーカーを極めて反転し、モリアーティを腹部から叩きつけた!
「なんでじゃァアア!!!!」
「ギャー!!」
女ヨハンナ、地獄からの叫びであった。
「GO!ゴー!クイック!RTA!!」
レイシフトで特異点へ飛んだ一行はヨハンナ主導の下駆け足で現場に向かっていた。藤丸は彼女の背中に背負われ、モリアーティは腰痛薬としてナローを腰に巻きつけていた。ナローは輝かしい歴史と異なり、戦闘においては無能だったが補助に於いては一流だった。ぬいぐるみなので当然ではあるが。
「別に急ぐ必要なくない?ダヴィンチちゃんも『自然消滅するよー』って解説してたじゃん。エジソンどうするのさ。野生に返すの?」
「そんなものは現地で考えます!!このドス黒い暗黒物質をぶっ壊すのが最優先!らぶなんか語尾に付けさせてたまるか!」
「そんなもん?…そんならいいけど」
ナローは興奮したヨハンナに首を傾げて納得した。彼にとって、黒歴史は別段拒否するものではなかった。自分の親の馬鹿話を聞かされるのと同じだ。座産まれの彼女には辛いかもしれないが、間違いを乗り越えてこそ人生は輝くものだと彼は信じていた。
「ナローさん、今日は多弁ですね」
マシュの問いにナローは首を傾けた。そして自答する。確かに口数が多いと。色々言いたいことはあるが、彼の存在はあくまでもエレナの宝具である。ただ受動的に、機械的に忠言するのが正しい機能なはずだ。
「うーん。…何故だか、そう、異様な焦燥感を覚えるんだ。崖から飛び降りるような、なんかヤバいなーと言う感覚があって」
「焦燥感…ですか?先輩、何か感じますでしょうか」
「きよひーみたいな感覚はする」
藤丸が思い出すのは恋するドラゴンガール(和風)。愛と恋をごた混ぜにした、執着が表に出る溶岩の如き感情。大切なものが奪われる、それが憎くてたまらない。そんな熱量を感じていた。
「らぶヨハ像の恋人が鍵かも」
「──ナローは渡さないわよ!?」
「ハッ(嘲笑)。戯言はさておき、あの像はナローではないネ」
「そうなのですか?大柄で筋肉質な軍人。一般的なナローさんのイメージですが…」
「俺はあんなに美形じゃない」
ナローは妙に平坦な口調で卑下した。モリアーティとエレナが何故か鎖の引き合いをした。エジソンは悲しげに呻き声をあげ、ヨハンナは空気の違いに少しばかり狼狽えた。
「靴の大きさも同じだし、手足は均一で、仮面の形も顎が歪んでない。服装は確かにそっくりだけど、ロシア軍人の誰かじゃないかな」
「だろうな!なぁに。近場に行けばこの私が直流調査で完璧に精査してみせるとも!ウエディングらぶらぶはぁとヨハンナ像まで後少しだ!頑張ろうではないか!」
「…了解したわ!マハトマ!」
「無駄な形容詞は止めていただけませんかぁ!?」
皆が速度を上げて走り出した。こうなればナローにすることは何もない。ガタガタと首が揺れる。軽い体は振動で辺りに叩かれた。上を見上げれば、ヨハンナ像の顔が真上に見えた。鼻の穴すら精密に開けられた石像は、なるほど、確かに生きているかのような出来栄えだった。
「──そういや、鏡を見たのはいつだったかなぁ」
溢れた愚痴は足音にかき消えた。
案の定、ヨハンナ像の足元は彼女が消し去りたい思い出と同じく観光地と化していた。
大量の屋台は塩味がきつめで量が多い。食糧が豊富にあるのかと藤丸は思った。宿泊宿はひとつの街道全てに隣接しており、どれもが均一である。町ぐるみで計画的に建築を行なっているのだ。将来性を考慮した街並みを見て、ナローとモリアーティは互いに目配せで意見を交わした。答えは同一だった。
この町では、土地の汚れない探鉱をしている。
この土地の気温は低い。それなのに汗を出すのを前提とした食事は何らかの一次産業に関わっているのは間違いない。それは道ゆく人員が採掘用具を所持していることからも分かる。だが、周りの土地は見渡す限りの農地で土壌の汚染はない。それどころか水源も乏しいように見える。
「ま、隠している様子も無いみたいだし、気楽に現場に行くとするかネ」
「せやな。…うーん、やっぱりヤバい気がする…」
「それは君の事だよネ!?私の腰を診た結果じゃないよな!?」
騒ぐ2人を他所にヨハンナは辺りを見渡し、遂にあの老人を見つけた。
もはや言わなくても分かる。アレがこの町の長だ。らぶらぶはぁとヨハンナ像を推進する悪の枢軸だ。感情のままに歩み寄り、ヨハンナは意を決して彼に話しかけた。
「失礼、町長さんで間違いないでしょうか」
「ん?そうだが。…うん。見かけない顔だね。出稼ぎの方かな?」
「…ぶら…に…あ」
「…んん?」
「あのらぶらぶはぁとヨハンナ像について聞きたいんですけど!!」
ヨハンナは顔を真っ赤にして叫び、そして俯いた。あの羞恥心がくるのだ。らぶを語尾にした酷い町内PRを受けるのだ。目を瞑り、待つ事1秒、10秒。
おや?と顔を上げれば町長は困惑した顔でヨハンナを見つめていた、
「らぶ…?なんだねそのけったいな名前は」
「…。…………。…違うんですか?」
「あの像は『祝福されぬ求婚像』だ。幾ら解体予定だからといって馬鹿馬鹿しい呼び名はやめなさい。全く」
「あっはい」
ヨハンナは胸がすくような感覚を覚えた。すっと頭を下げて謝罪をした。間違いをしたはずなのに、彼女は光の道を進めたような爽快感が心を通っていた。
「そうだったんだ。やっぱりイタズラで教えられた名前だったんだね、マシュ」
「そ、そうですね。そんな名前の石像はあり得ませんよねー」
「余所者に悪評を吹き込みおって…」
「それで、解体するんですか?」
藤丸とマシュのフォローに特に怪しむこともなく町長は彼女達の質問に頷いた。故郷の有名人が亡くなるような、寂寥感が顔に映されていた。
「老朽化が進んでいてね。まあ大往生さ。歴史ある大石像も、雨と風の前にはどうしようもない」
「でも、
受講料です、と帳簿らしき書類を抱えたモリアーティはにこやかに町長に手付金を渡した。勿論、書類は適当に偽装したメモ帳であり、金はそこらのチンピラからスリとった盗品である。鮮やかな手際に顔を隠したエジソンは口をひくつかせた。
いそいそと紙幣を懐にしまった町長は先程の不機嫌さを吹き飛ばしていた。彼の目線が行き来する。
「噂を聞いてやってきたのではないので?」
「いやいや。貴方がたの慣習を理解しないことには採掘もままならない。我々とて、町を潤す一員となりたいのサ。彼ら石像の天罰を喰らいたくはないしネ?」
「ああ。確かにそれは。いやはや不信心でした」
町長の肯定にモリアーティは現象を大まかに把握した。壊れかけた石像が動き、或いは動いている痕跡を住民は発見した。大事な観光物の解体前だ。安全の為に周囲を確認したところ、石像の近辺、又はその内部に手掘りレベルの発掘地が見つかった。ダヴィンチの解析結果を踏まえれば、余人が近寄れない…おそらくは地下深くに野晒しとなった聖杯による採掘地の顕現辺りか。後は霊体化で場所を特定し、発掘するだけだ。
「あの石像はとある悲恋を元にしたものです」
「悲恋…ですか?」
「当時のしきたりでは結婚は子供をこさえる為の神事でした。彼らも愛し合ってはいたのですが、彼女は病気で。彼は戦争の傷で。彼らは子供を作ることが出来なかったんです」
町長の言葉にマシュは眉尻を下げた。彼女の経歴はカルデアで完結している。他国の文化は外聞だけのものだ。それでも、愛し合う者達が風習を理由に祝福されないのは悲しく思った。
「それでも心だけは、想いだけは。──男は許されないプロポーズを許されない女にしました。それで終わりです。彼らは恋仲にはなりませんでした。満足だったのでしょう。この石像はそのプロポーズを形にしたものです」
「なるほど…悲しく、素晴らしい恋話だと思います」
「いやいや。石像はそう思わなかったみたいでしてな。壊される前に町の住民に夢で伝えたのです。
「せ、石像がですか!?」
驚いたマシュ達の言葉に町長は頷いた。彼とてはじめは夢だと感じた。だが、起きた妻、子供、孫の口から飛び出る同じ内容。町中の人間がそれを見たと理解するのに半日も掛からなかった。誰もが困惑し、解体を主張している派閥が確認を要請したのをきっかけに調査が決まった。内心、皆が神秘を気にしていたのだ。
「翌日、皆が石像に行けば整備された洞窟が出来ていました。勇敢な若者達が入ってみればゴーレムや小鬼、手のひら大の羽虫が襲ってきたそうです。彼らも命は惜しい。必死に逃げ帰った彼らでしたが、その服は金粉まみれでした。あの化け物を倒すと金になる。効率は悪いが壁を掘っても同じ。今や戦時余りになった傭兵達がこぞってやってきてますよ」
気前のいい石像ですよ、と町長は朗らかに笑った。次いで、ヨハンナを見つめて先程の言葉を思い出したのか、目頭を押さえて長い息を吐いた。
「町の住民は小型の石像の複製と子供の作成をしておりますが…まぁ金に目が眩んだ馬鹿は少なくない。あなた方が聞いた名前もその余波でしょう」
「誰が吹き込んだのかはこちらで調べますが、くれぐれも!ヨハンナ像という淫売と一緒にしないでいただきたい」
「──そうですね!」
罵倒されたはずのヨハンナは嬉しそうに町長の叱責を肯定した。
その顔は太陽に負けないくらい輝いていた。
『此処が町長の言っていた始まりの入口だ。外部からの解析もこの入口が最深部に繋がっていると示してる』
『倒した敵は自動で分配されるようだ。町の住民達への設計費、石像自身の製造費、そして労働者の賃金。労働者自身が望めば直接紙幣として出してくれるらしい。つまり他人の目を気にせず攻略可能というわけだ』
ダヴィンチとゴルドルフが解説するように、近場には誰一人いない。場所が崖上なのもあるが、崖下にある男性部分の膝下が交通の便で非常に効率的だからだ。聖杯に興味のないものは近づくことすらない。恣意的に作られた入口にモリアーティは眉を顰めた。
「…なるほど。ナロー、危機感は当たりかも知れない。マスター、一度シャドウサーヴァントで偵察を」
「すまんモーリー、もう遅いみたいだ」
「っ!?エレナさん!?」
マシュが切迫した顔で叫ぶ声で全員が気がつく。入口が妖しく光ったと思えば赤黒い鎖がエレナを巻き込んで引き寄せていた。洗脳されているのか、エレナに抵抗らしき動きは見られない。反応が遅れたのもあり、宙に浮かぶ彼女を助けることは不可能だった。
それを他人事で見ていたナローは飛び上がりながらモリアーティを信じた。
「モーリー。俺を撃て。
「──ッ!」
「ぐべっ」
モリアーティの空砲はナローの体に当たり、エレナを越えて扉へ入り込んだ。途端にエレナに巻き付いた鎖は掻き消え、彼女の表情に驚きが混じった。吹き飛んだナローは全身に鎖が巻きつき、やがて眩いほどの光に包まれた。
「ぬわーーっっ!!」
「ナロー!」
「糞女サッサと鎖を引け!それとも吹き飛びたいのか!?」
「やって!」
「死ね!!」
2発目の空砲─流石に理性はあったのか実弾ではなかった─がエレナを崖下に落とした。重力と勢いで彼女の鎖はナローを引き寄せ、発光する彼を救助した。しかし、代償と言うべきか。彼らを繋ぐ鎖は壊れ、かろうじてナローは扉の前に不時着していた。
「ナロー!」
「…。────あっ、まずいなこれ」
駆け寄ったモリアーティを他所に、ナローは光り輝いたまま
「マスター、俺たちの目的は特異点の解決。そうだな?」
ナローは狼狽えたモリアーティを無視せざるを得なかった。彼自身も非常に混乱していた。迷う暇はなかった。彼が理解した内容が事実なら、
「う、うん。
歴戦のマスターはナローの無茶振りに正しく応えた。彼はそれが頼もしく、彼女がそんな存在になってしまったことを悲しんだ。彼は光が消える前に胸元のハンカチで口を隠し、幾分か均整になった
「命令を受諾した。サーヴァント、アサシン『ナロー・ブラヴァツキー』。
「えっ」
反転して入口に走る。否、迷宮に突入する。間一髪、閉じ始めた扉がナローを繋ぐ筈の鎖を遮った。計算ではまだ浮遊している筈だったが、どうやら崖登りをしてまで復元を優先したらしい。訳の分からない女だとナローは舌打ちをした。ひとまずの大前提はこれで解決した。後は天に、否、友に任すだけだ。ナローは全力で叫んだ。
「モーリー!!」
「なんだ!!」
「『死体』、『矛盾』、『遡行』!そして、
「任された!」
扉が完全に閉じた。先程までの光は沈黙し、ヨハンナとエジソンは何も把握できず狼狽えていた。モリアーティは震える手を握りしめ、崖を這い上がるエレナを掴んで引き上げた。
問題文は多数ある。特異点が自然解消する要因。サーヴァント化したナロー。叛逆の理由。迷宮に立て篭もる必要性。彼が発した3つの単語。そして、モリアーティだけが見た虹色の瞳。
難問だな。
モリアーティは不敵に笑った。
私の諫言の象徴
マイトレーヤ。戦闘能力のないモルモット型人形『ナロー』を召喚する。
彼女の夫が病死するまでの間、彼女は凡ゆる土地で息災だった逸話から発生した。
ナローに備わる能力は解析であり、それは愚痴の形で発せられる。
本来であれば中身のないAIだが、人理救済にあたり親切心でナローの霊基が追加されている。