この世界線のエレナは頭魔術師の言峰タイプ。
追記:感想で分かり難い理解力とか散々だったので後日書き直します。しました。ナローのぐだぐだとカドック達のイケメンさをペイしました。
豪奢な墓場にて彼は穴を掘っていた。
天気は大雨、外には誰一人存在せず。泥となった土を息を上げて汲み上げる。男の身の丈を超え、男の腕が震えを覚えた。それでも男の手は止まらない。爛々と深く輝いた目が彼の欲深さを示していた。
やがて、カツンとスコップが目的を探り当てた。大雨でなければ誰もが気付くであろう歓喜をあげ、掘るスピードは狂気に彩られた。そして掘り当てたのは一つの棺桶。彼が尊敬してやまない存在だった。
男は、歓喜のままソレを開いた。
◼︎▫︎◼︎▫︎◼︎▫︎◼︎▫︎◼︎▫︎
カルデア一行はひたすらに長い地下への螺旋階段を降りていた。壁伝いに並ぶ階段は下が見えない程暗い。時折聞こえるノイズのかかった叫び声は藤丸達が慎重手を取る理由として当然の事としていた。
視点を整理するべきだとモリアーティは唸った。
大前提として、仕掛け人は既に死んでいる。ナローは勝っており、カルデアが来たことで予定を変更した。それは知られてはならないことで、忌々しいことに犯人はエレナではない。
考えて、そしてふと、モリアーティの中に疑問が浮かんだ。
何故、ナローが召喚された?
実情を知らなければナローは戦争で活躍した程度。知名度で言えばエレナの
『お困りかしら?モリアーティ』
『………』
顰めっ面でモリアーティはエレナを向いた。エレナはいつものように猫を被ってはいなかった。魔術師面した、正気と狂気が入り混じる、人を平然と喰らう悪女が笑みを貼り付けていた。
『ナローとマスター達の目が無いと随分とつけあがるじゃないか。そんなにもガチョウの内臓を見せびらかすのは楽しかったかネ?』
『優越感はあるわ。まあ。コレからナローに逢うなら化粧は外した方が良いと思って。あの人ナチュラルが好きだし』
『どの口で夫婦を騙るんだ貴様は』
『味わってみる?』
エレナが唇を捲り上げる舌はモリアーティから見ても酷く妖艶だった。これをはじめからナローにすれば何もかも欲しいままだったろうに。流石に初期は抑止力を疑ったが、おそらく素である。魔術師とツンデレとプライドが混じるとここまで残念になるのか。
『……。…何か言いたげね』
『クソババアになって漸く更生もどきをするとは…いやはやナローが浮かばれない。今更蜘蛛の巣張った身体を差し出しても…いやアイツ喜びそうだな』
『あの人全知全能出来てなんでそんな残念なの…?』
モリアーティはエレナの口ぶりに違和感を感じた。彼の知る素面のエレナは魔術師を全面に出した薄情者だった。実際、彼女の愛情は性能に対しての愛着に近い。皮肉にも、モリアーティが犯した復讐は彼女の情操教育に荒療治をもたらした。長年の放蕩から破綻していた筈のエレナはマスターを参考にした事で漸くまともな愛を把握することができた。
『死体弄りして軍人から総スカンされた女が何を言ってるかネ』
『…?虹の魔眼よ?あの人の素晴らしさを宣伝するには一番だと思うけれど』
『こいつマジで…ナローはどうやってこのバカに倫理観を教えたんだ…?』
エレナは他人の愛を理解できない。ナローは全ての愛を信奉した。だからこそ、エレナは病を理由に彼を遠ざけた。ナローという完全上位互換に彼女は本心から嫉妬していた。彼女は我儘で、特別で、叱られた時の対処を理解できなかったのだ。
『そう、仕掛け人はナローよ!私に会いに蘇ったのよ、これで3回目!』
『賭けても良いが君が逢う前に逃げられただろう?』
『恥ずかしがり屋よね。ただ──今回は逃げ先はないわ』
モリアーティはこの品性が抜けた女に唾を吐きたい気持ちで一杯だった。彼は試験中に答案用紙の答えを見た学生の気持ちがわかった。彼女の興奮した顔で理解してしまったのだ。
特異点が自然消滅するのは、黒幕が不本意で構築したからだ。
ナローが召喚されたのは、黒幕本人が信じるに値した存在だからだ。
ナローが閉じ籠ったのは、黒幕の死体が劇物だったからだ。
神の僕として形成され、その身体はいかなる触媒にも、燃料にも、稚拙な願いさえ叶えられる。
黒幕は本体のナローで、隠しているのはナローの死体だ。
◼︎▫︎◼︎▫︎◼︎▫︎◼︎▫︎◼︎▫︎
「納期は…辛いねんな…」
藤丸達が最下層まで降りきった時、ナローはメタリックな義顎が目立つ口元を隠しもせずに疲れ切っていた。
「本当はあの螺旋階段でメモリアルクエスト作りたかったんだよ。一日有れば全ビースト集合!みたいな光景を見せられたんだよ。今からでも明日にしない?」
「だめ」
「復刻では実装してやる…!」
遂に妄言すら吐き出したナローに通信が開かれる。そういえばいつもと違って通信繋がりっぱなしだったなと藤丸は思い出した。特異点攻略のプロは異常事態を平常として扱ってしまっていた。
『で、君は何故強行策を取ったんだね。私達に説明すればよかっただろう!』
「それは魔術師の生態─しいては、世界の基準を語る必要がある。少し長くなるぞ」
「誤魔化さない」
「はい」
マスターの指摘にナローは神妙に正座した。
「神の言葉って何?今まで何で隠してたの?」
「モーリー経由で聖堂教会に寄付したので権利ないかなって…下手に使って万能ORTとか誕生しても困るし」
「それで引き籠る必要はないよね?」
藤丸の指摘にナローは曖昧な笑みを浮かべた。
「ちょっとぉ…じゆうがぁ…ホシクテ…」
「あなたーせっかくの機会だし、ちょっと『別室』でお話ししましょう?」
「モ、モーリー!」
「仕方ないなぁナロー君は」
ズルズルとエレナに引きづられたナローはエレナの人形を掴み、鎖を外して地面に置いた。
「じゃあ後はゴルドルフ、カドック。よろしく」
静かに語りかけたナローの声は厭世的で悪人的だった。
『…は?』
『…んん??』
「システム・ナロー。キドウ。プログラム『賠償金』」
気が付けば、藤丸は管制室で
既にナロー達は跡形もない。人形の目が赤く光り、手に持ったレコーダーがナローの解説を放映した。
『下層のテーマは『遡行』。本来責任を果たす者を正しく試す場所。要は、
『…!新所長!避けて!』
人形は宙に浮かべたマスケット銃でゴルドルフを撃った。藤丸の通信越しのアドバイスも虚しく、ゴルドルフの肩が撃ち抜かれる。立ち尽くしたままのカドックに、人形は無反応で先取りされたであろうナローの音声を流していた。
『カドック、お前正気か?安全圏で口だけ命をかけますぅ〜なのが事実だって証明してんのか?それだからお前は
人形が無造作にゴルドルフに放った次弾はカドックが防いだ。勢いのまま突撃したカドックの攻撃は全ていなされ、人形の体当たりがゴルドルフごと吹き飛ばした。
『ゴルドルフ。弾一つで無様を晒すな。マスターの簡易召喚はどうした?スペックはお前の方が高い。あまり失望させるな』
「いきなり!ありえないことして!対応出来るはずが!ないだろ!!」
『それをするのが藤丸立香だ』
ゴルドルフが気まずげに目線を下げた。隙だらけだったが、人形は何も動かない。ゴルドルフ達が立ち上がったのを認識して、人形は次の音声を流した。
『藤丸立香は命綱だ。お前達カルデアの人間は己が消耗品であることを自覚しなければならない。要は、献身がまるで足りていない』
ナローの戯言にその場の全員が意識を向けていた。隔離されたサーヴァント達が何処で何をしているのか観測もせず、親友が行う犯罪に加担した詐欺師はこちらに更なる注視を集めんと思いつきのケチつけを口にしていた。
『はっきり言おうか?お前らはなぜ
「それは…」
音声の嘲りにカドック達は何も返せなかった。最前線のマスターを弱体化させる道理などない筈なのに、彼らは藤丸にそれを補填する術がなかった。
ブラックバレル。第五架空要素を崩壊させる弾丸。この銃で放たれた弾丸は対象の寿命に比例した威力を発揮する、『天寿』の概念武装、神殺しの銃。その代償は回復不能な使用者の運命力さえ生贄としていた。
『お前らは当事者意識が足りない。マリスビリーの尻拭いは魔術師の贄で賄うべきだ。さあ、模擬戦と行こうか』
ナローの指を鳴らす音が聞こえた。地面の染みが形を創り、やがてソレは人形の周りに纏わりつき、ぎょろぎょろと目玉が蠢く歪で身の丈10メートルはあるスライムとなった。空気が溶けるような溶解音を掻き立て、スライムは吠えるように身体を蠢かせた。
『コレは神の残滓。
それ以降、人形は沈黙した。カドック達が何をしようとも動かない。効かない。魔術も、物理も、疲労さえ化け物に与えた全てがそのまま返却されていた。
「な、何だねこれは!無敵ではないか!」
「流石に神の力は伊達ではないということか…」
カドックは目を瞑り、開いた。擬似サーヴァントはあり得た彼の可能性だ。カルデアが悪辣で、なりふり構わない場合に生まれるであろう鉄砲玉だ。
必要なのは覚悟だけだった。
「──ゴルドルフ。ブラックバレルを撃つぞ」
「…は?───あぁ。…うん。そういうこと」
『カドッ──ブツン
カドックとゴルドルフの横で叫んでいた藤丸達の通信が途切れた。いつものことにも関わらず、ゴルドルフは痛烈な吐き気に襲われた。カドックも顔が青い。カドックは己を正しき者とは到底思っていない。だからこそ、彼はナローが何を言いたいのか理解した。
カドックは無言でブラックバレルを顕現した。長い銃身を固定し、使い方を確かめるように一撫でした。何か言いたげなゴルドルフに対して、彼は澄んだ目で首を横に振った。
「
ゴルドルフはカドックの言葉に震えながらも何も言わなかった。2人はブラックバレルを握りしめ、スライムに照準を合わせて運命力を全力で注いだ。赤黒く光る銃身は空間を歪め、一筋の光がスライムへ撃ち込まれた。
神の残滓は何もせず打ち砕かれ、聖杯が溢れ落ちた。
◼︎▫︎◼︎▫︎◼︎▫︎◼︎▫︎◼︎▫︎
現れたのは成人男性の遺骨だった。
もう男の中に待てはなかった。男はカニバリズムを起源とする魔術師の末裔だった。泥と雨水で汚れたソレを彼は高級レストランのメインとして食した。全てが一体となり、男の目が
ナローは罵倒を垂れ流し、墓場を立てた。ナローにとって蘇りは完全に不本意だった。勢いのまま島を作り上げた男は墓場の中でふと思った。またあり得るのではないかと。彼は妻の顔を思い浮かべた。また蘇りそうだとナローは思った。ナローは座の己を呼び出し、死体の処分と
座のナローは半ギレで処分作業をした。神様製の骨はクソみたいに頑健だった。暇つぶしに座でブームと言われたヨハンナ像を死体ナローと組み合わせ、いざ破壊と思ったその時、ナローは妻と自身を検知した。よくわからないが、あのナローは妻と仲良くなったらしい。凄いなとナローは彼方を勝ち組と認識した。
ナローは童貞卒業を夢見て彼に霊基を渡すことに決めた。
今回のイベントで一番の勝ち組は神様すんげぇ〜で死んだモラン大佐になります。次点で運命力を補充したぐだ子。