金獅子と忠義の黒兎   作:グランド・オブ・ミル

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第二話 門戸

 

 

 

 

 

 

 

 

 _その日、当方(おれ)は確かに”太陽”を見た_

 

 

 

 

 

 

 ある商船の護衛という、特にこれといって言うことのない平凡な依頼を受けた夜兎部隊(おれたち)。たくさんの荷物と金を載せた大きな船を、夜兎部隊が保有する小さな戦闘船が5隻取り囲む形で偉大なる航路(グランドライン)を航行していた。特に目を見張るような強敵が現れることもなく、精々時折海王類が海面から顔を出す程度の平和そのものの船旅。当方(おれ)も商船の後方部分で、壁にもたれかかる形で寝転び、のんびりと過ごしていた。

 

 _ゾクリッ…!_

 

「っ!」

 

 そこへ、脅威は突然やって来た。

 当方(おれ)の見聞色が凄まじい気配を感じ取り、身体中に緊張が走る。急いで身体を起こし、単眼鏡で気配を感じた方角を索敵した。遥か遠く、水平線上に一隻の船があった。船首に黄金の獅子のモニュメントを掲げた海賊船だ。その船首に両刃の刀を二本、すでに抜刀した状態で立っている男がいる。金色の長髪をまるで獅子の(たてがみ)のようにたなびかせる男。和風な装いと下駄がその男の持つ雰囲気にとても良くマッチしていて、歌舞伎役者のような威風堂々とした佇まいを感じさせる。

 

 ”金獅子のシキ”だ。現在西の海(ウエストブルー)出身の海賊として名を馳せており、未来においては世界最悪の海賊団”ロックス海賊団”の一員となったり、海賊王ゴールド・ロジャーと覇権争いをすることになる伝説の海賊。そんな大物海賊が当方(おれ)の目の前にいた。

 

 衝撃と興奮に口角を上げる当方(おれ)。単眼鏡越しに金獅子と目が合った。

 

 …ヤツもゆっくりと口角を上げ、好戦的な笑みを浮かべた。

 

 

 

 

「敵襲だ! 事前会議(ブリーフィング)通り部隊を迎撃班と防衛班に分ける。防衛班は商船と共に一刻も早くこの場を離れろ! 迎撃班は交戦準備! 当方に続け!」

 

「「「了解です! 隊長!」」」

 

 その笑みを見た瞬間、当方(おれ)は部下達に指示を飛ばした。間違いない、あっちもこちらの存在に気づいている。その上で戦い、奪い尽くすつもりなのだ。ならばこちらも準備を整え、真っ向から立ち向かわなくてはならないだろう。

 隊の統率を取りながら壁に立て掛けてあった刀を手に取り、鞘から抜く。銀色の刃にありったけの覇気を流し込んで漆黒に染めていく。まだ敵は遠いのにそこまで? と思うかもしれない。しかしその認識は甘い。船と船の間は離れているが、シキはこうしている間にもどんどん近づいてきているのだ。文字通り、()()()()()()()

 

 

 

「ジハハッ! 兎野郎! 挨拶代わりだっ!」

 

「はあっ!!」

 

 

 _ギィンッ!!_

 

 _ドォンッ! バリバリィッ!!_

 

 

 

 シキはフワフワの実の能力者。その能力でもって空を自在に飛ぶことができる。すでに距離を詰めてきた金獅子が覇気を込めた刀を振るってきた。それに対抗して当方(おれ)も刀を振り、鍔迫り合いに持ち込む。

 刃と刃が触れ合った瞬間、二本の刀を中心として黒い稲妻が発生した。覇王色の覇気同士が衝突することで起こる現象である。その威力は過去体験してきたものの中でも断トツであり、凄まじい衝撃が海面を揺らして大きな波が発生した。商船に乗っていた乗組員はもちろんのこと、空を優雅に飛んでいたカモメや水中にいた魚、さらには海王類にまで影響を及ぼし、その意識を失わせた。

 

 力も覇気もまったくの互角だ。刃と刃を重ね合わせた地点からお互い一歩も引く気配がない。当方(おれ)は刀に武装色の覇気に加え、覇王色も纏わせることでさらに力を込めた。上乗せした覇気の分優勢になった力でシキを海賊船の方へ弾き返すことに成功する。

 

 

「ハァ…ハァ…」

 

 

 一撃目を凌いだだけでこの緊張感、疲労感。一歩間違えばあっという間に死を迎えてしまう戦場のひりつき。これまで感じたことのない熱気と殺意。そのすべてに当方(おれ)は絶頂に近い興奮と快感を覚えていた。呼吸が早い、心臓の鼓動が煩い。目は剥き、口角が限界まで上がり、凶悪な笑みを浮かべていることが自分でも分かる。

 

「敵は”金獅子のシキ”! これまでにない強敵だ! 夜兎部隊! 悔いのないよう死を覚悟して戦え!」

 

「「「はっ!」」」

 

 部下に発破をかけ、当方(おれ)は船を飛び出した。先ほどの衝突で海面には気を失った海王類が何体も浮かんでおり、足場には困らない。それらを乗り継いでシキの海賊船に辿り着いた。

 

 

「船長!? 大丈夫ですか船長!?」

「船長! 一体何がっ!?」

 

「下がってろ野郎共! ジハハ…! 夜兎部隊、ただの雑兵集団かと思えばとんでもない化け物がいやがったぜ…!」

 

 海賊船の真下まで来ると船員の会話が聞こえてくる。破竹の勢いでのし上がってきた船長が手痛い一撃をもらったことに戸惑う部下とそれを鎮める金獅子の声だ。その声色から当方(おれ)が金獅子に感じたことを、金獅子の方も感じてくれていることが分かり、嬉しくなる。

 当方(おれ)はジャンプして海賊船に降り立った。

 

 

「…お初にお目にかかる。金獅子のシキ」

 

「! ジハハ…! こちらこそ初めましてだな! 水城不知火! さっきのはいい一撃だったぜ!」

 

 

 船に侵入してきた当方(おれ)を見て笑うシキ。その笑みは今の当方(おれ)とまったく同じであることが分かる。目の前の敵を倒し、屈服させることだけを考えている鋭い眼光と強者との遭遇を心から喜んでいる表情。当方(おれ)のように狂った戦闘狂ではないのかもしれないが、根っこにあるのは”力”への心酔。当方(おれ)とまったく同じ価値観だ。

 

 当方(おれ)にとってこの世界に二人といない最高の理解者であり、好敵手。そうなるかもしれない相手との邂逅に当方(おれ)は運命すら感じ始めていた。

 

 

「噂の傭兵部隊の頭がまさかここまでの達人とはな…。しかも、見れば見るほどいい女じゃねぇか! ウチの船に招待したいくらいだ!」

 

「…ほう? できるかな、お前に。当方は安い女ではないぞ?」

 

「ジハハハハッ! おうとも! やってやるさ! 俺はいずれこの海のすべてを支配するッ…! 俺は空からこの海を統べる男だッ!!」

 

 

 

 

 _トゥクン…_

 

 

 

 拳を強く握りしめ、己の野心を口にする金獅子。その力強い言葉と意志に当方(おれ)は全身をぶるりと震わせた。

 

 あぁ…、ダメである。ただでさえ当方(おれ)とシキの波長は運命的なまでに合致しているのだ。その上でこれほどまでに強い熱気と覇気を込めた言葉を放ってしまったら当方(おれ)は屈服してしまう。長い間宙ぶらりんだった”忠”を、この人のために捧げたいと思ってしまう。

 

 心臓の鼓動の、音色が変わった。一刻も早く目の前の男と殺し合いたい。かつてないほどの戦闘衝動が身体中を駆け巡る。それと同時に違う波動も感じていた。男から女に生まれ変わって十数年、初めて感じる身体の奥底からほんのりと熱くなる熱、紅潮する頬、ズキズキと痛いほど疼く下腹部…。

 

 今思えばこの時すでに当方(おれ)は金獅子のシキという男に魅入られていたんだろう。

 

 

「いくぜっ! 不知火!」

 

「望むところだ! 金獅子!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 …この世界の”太陽”に、伝承にある伝説の神、ニカがいる。太陽のように笑い、また人々を笑顔にすることで自由を与えるという解放の戦士。

 

 だが、当方(おれ)がこの世界で見た太陽はそれとはまったく違った。その男はニカをも飲み込まんばかりの熱量を放ち、通り名にある獅子のように猛々しく笑い、野心と誇りに満ちた牙を振るって何人であろうとなぎ倒すまさしく獣。

 

 人々を明るく照らすのではなく、すべてを焼き尽くさんとする生命の根源たる”太陽”だ。

 

 

 

「不知火! 俺の仲間になれ!」

 

「…はい、喜んで。ボス」

 

 

 

 そんな太陽に身も心も焼き尽くされてしまった当方(おれ)は、何もかもをこの人のために捧げることを誓った…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「__えさん。ちょっと、お姉さん」

 

「…ぅ……うん?」

 

「随分とぐっすり眠っていたね」

 

「…あぁ。とても良い夢を見ていた」

 

 波に揺られる船の中でいつの間にか当方(おれ)は眠っていたらしい。我らがボスとの運命的な出会いの日を夢でも見ることができて気分は爽快だ。これほど気分の良い目覚めは久しぶりかもしれない。起こしてくれた隣の座席の男に礼を言って軽く身体を伸ばす。

 

「そうかい。でもほら、そろそろ到着だよ。島が見えてきた」

 

「……”マリンフォード”。思ったより時間がかかったな」

 

 男に指をさされ、窓の外を見てみると三日月型の島が見えた。大袈裟なほど仰々しい建物がそびえ立つ世界の中心地。海軍の総本山である。

 当方(おれ)はある目的のためにマリンフォードへ向かう定期船に乗り込んでいた。武器や食糧といった物資をあの島に運び込むための船で、島へ向かう人間や出る人間を運ぶ役割も担っている。

 

 その目的というのは、正直言って重要度がそんなに高くない。ものは試し、といった具合だ。ここまで来て言うのも何だが、別に上手くいこうがいくまいがどっちでもいい。一応、成功した時のメリットが大きいのでやってみるだけだ。

 ……個人的には上手くいってほしくないな…。成功したらボスといられる時間が少なくなるし。

 

 

 船が無事港に着いた。降船を促され、他の乗客と同じように当方(おれ)も荷物をまとめる。といっても当方(おれ)の荷物は刀とボストンバッグが一つだけなのですぐに終わった。さっさと出口へ向かうと隣の男も荷物が少なかったようで一緒に船を降りた。

 

 

 

「ところでお姉さん。あんた(そんなもの)持ってここへ何しに来たんだ?」

 

 男に聞かれ、当方(おれ)は何と答えるか迷った。懇切丁寧に説明してやる必要もないだろう。一言で片づけられる文句を探した。

 

「…そうだな、叩きに来たのさ」

 

 チャキ…と刀を腰に差し、海軍本部の建物を見上げた。未来、頂上戦争にて白ひげの攻撃で無残な姿となる哀れな建物を。

 

「正義の軍隊の門戸ってやつをな」

 

 歩き出しながら肩越しに男を見て、ニヤリと意味深に笑って答えてやった。男は意味がイマイチ分かっていないのか首を傾げていた。まったく察しの悪い男である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここは世界のほぼ中心に位置する島、マリンフォード。世界中から精鋭が集まり、海の治安を維持する海兵達の総本山である”海軍本部”がある島である。

 

 三日月のような特徴的な形をした島の中心部に、でんと構える大きな建物がある。土台部分に大きく”海軍”という文字とカモメのシンボルマークが描かれた和風の城のような意匠の建物。それがこの世界の正義を司る海軍の司令塔、海軍本部だ。

 

 各地で生まれ、台頭していく海賊達の対応に追われ、海兵はいつも慌ただしく動いている。最近ではつい先日偉大なる航路(グランドライン)入りを果たした東の海(イーストブルー)出身の海賊”ゴール・D・ロジャー”や、強いカリスマ性と組織力で一海賊でありながらまるで一つの勢力のように活動している”金獅子のシキ”が話題に上がることが多い。

 

 

 そんな海軍本部に、今日はある人物が来訪していた。先に述べた二人程ではないが、彼女もまた度々新聞を賑わせている話題の人物。

 

「失礼する。先ほど電伝虫をかけた水城不知火だ。応接室はどちらにあるだろうか?」

 

 強さと連携、共に高い水準を誇り、小国を中心としてその影響力を強めつつある傭兵組織”夜兎部隊”の長、水城不知火である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 事の発端は数時間前に遡る。いつもと変わらぬ日常を過ごしていた海軍本部に一本の電伝虫がかかってきた。艶のある女の声で水城不知火と名乗ったその人物は、海軍に入隊したいので試験を受けさせてほしいと言ってきた。突然の連絡に、海軍本部は大層ざわついたそうだ。

 

 何せ”水城不知火”と言えば色々といわくつき人物として海軍本部内で噂になった女だ。

 偉大なる航路(グランドライン)の辺境の国ミナトにて、突然変異的に生まれた戦闘の天才児。物心がついた時からその才能を開花させ、覇気にも覚醒し、子供ながら幾多の海賊や軍隊を討ち滅ぼしてきた生粋の戦士。個人の戦闘力も然ることながら統率力にも優れ、軍の指揮官としても高い実力を持ち合わせている。

 その力を欲しがった政府によってミナトに取り引きが持ち掛けられたものの、交渉は決裂。使いに出した海兵や役人は惨殺され、不知火はミナトから姿を消した。この事件の犯人は不知火であるという見方が強いが、その後ミナトが他国によって滅ぼされてしまい証拠が手に入らなかったため、疑惑止まりである。

 

 その後、海に出た不知火は自分に賛同する者達と共に独自の傭兵組織を作り上げた。それが夜兎部隊である。国も立場もなく、力を欲する者達に金で雇われ、軍事力を提供する傭兵の集まり。トップである不知火が直々に訓練を施した兵士達は、そこら辺の国の兵士とは練度が桁違いで、並々ならぬ戦果を上げてきた。

 その影響力は決して無視できるものではなく、夜兎部隊の活躍によって小国が大国相手に勝利するという事態が起き始めており、国家間のパワーバランスを大きく崩すものとして危険視する声もある。

 

 そんな傭兵組織の長が、どういう風の吹きまわしか海軍に入隊したいと申し出てきた。誰もが予想していなかった展開に上層部は混乱状態だった。

 「きっと何か目的があるはず」、「あの女が今更政府に擦り寄ってくるわけがない」、という否定的な見方を強める者もいれば、「何にしてもあの女の力が手に入るまたとないチャンス」、「何かあったとしても女一人にできることなど高が知れている」という不知火の入隊に肯定的な意見を持つ者もいて中枢は真っ二つに割れた。

 最終的には実際に試験を受けさせてみて様子を見るという中間案が採用されることとなり、この混乱は一旦収束した。

 

 

 そして今、実際に水城不知火がマリンフォードへと現れ、少なくとも電伝虫がハッタリではなかったことが証明された。他の志願者の場合と同じように、一先ず不知火を面接室の方へ案内する。

 

 室内ではすでに人事を担当している海兵が2名待機していた。どちらも階級は大佐。二人とも普段表に出て海賊と戦うことはあまりないが、人事や経理などの裏方業務を専門とする部署に配属されており、海軍の正義を裏から支えている有能な人物だ。

 

 

 _コンコン…_

 

 

「失礼します。大佐、志願者をお連れしました」

 

「ああ、ご苦労だった。志願者は入室したまえ」

 

 面接室の扉がノックされ、部下の声が聞こえた。大佐は部下に下がるように伝え、不知火へ入室を促した。

 

 

「失礼する」

 

 

 端的な言葉と共に部屋へ入ってきたのは何とも目を見張る美女であった。大佐自身不知火の実物を見るのはこれが初めてであり、噂ではとんでもない美貌の持ち主であると聞いていたがこれほどまでとはと驚いた。

 艶のある黒髪、もっちりとした唇、出るところは出て引っ込むところは引っ込んだ理想的なプロポーションなど、ただ美しいだけではなく男の情欲をそそるような女としてある種の完成形を見ているようだった。

 そして着用している服も非常に目に毒だ。白とシースルーの生地を使用したスリーブレスレオタードと太ももまであるソックスという露出の激しいものとなっている。彼女が率いている軍隊である”夜兎”、その名を表すかのように頭に黒い兎の耳のようなリボンを付けており、不知火が歩く度にぴょこぴょこと揺れている。

 

 

「…おい、大佐殿。いつまで立たせておくつもりだ?」

 

「……っと、すまない。その椅子に腰かけてくれ」

 

 思わず見惚れていた大佐は不知火から声をかけられて意識を取り戻した。着席を促すと不知火は面接官の前に設置された椅子に座り込んだ。腕を組み、背もたれに背を思い切り預けて足まで組んでいる。絵にはなっているが、試験を受ける受験者としてあまりに不遜過ぎる態度に大佐は眉をひそめた。

 

「…君、その態度は……」

 

「うん? どうかしたか?」

 

「…いや、何でもない」

 

 一応指摘する素振りを見せてみても、不知火はまったく気にしていないようだ。これは言っても無駄だと判断して大佐は面接を進めることにした。

 

 

「ではまず志望動機から聞いていこう。今回君は何故海軍への入隊を志願した?」

 

「金のためだ」

 

「……すまない、もう一度言ってくれ」

 

「金だ。ここでは無法者相手に合法的に戦闘を行い、給金を得られるだろう? それが目当てだ」

 

 志望動機としてはあまりに率直過ぎる答えに思わず大佐は愕然としてしまった。これまで何人もの志望者を篩にかけてきた大佐だが、過去これほどまでに素直な答えが返ってきたことはなかった。

 確かに海軍に入隊しようという人間はどいつもこいつも腕自慢であり、その力を活かして職を得ようという者ばかりだ。だが、それにしたってそれをそのまま答えるわけにはいかないので、普通は「人々の笑顔を守りたいと思った」や、「無法者の魔の手から故郷を守りたい」といった聞こえの良いことを言うものだ。不知火のように、面接という場で面と向かって即物的なことを言う者はいない。

 

 こいつは海軍に入隊する気があるのか? もしかしてこちらをバカにしているのか? 

 

 そんな考えも浮かぶ。それはもう一人の大佐も同じようで、彼は机をバンッと力強く叩いて怒鳴った。

 

「貴様っ! ふざけているのか!」

 

「大真面目だが? 働く上でこれ以上に重視することなど他にあるか? お前も金のために働いているだろう?」

 

「違うっ! 我々は市民の安全を守るために__!!」

 

「そんな綺麗ごとなどどうでもいいだろう。人が品性すら金次第なのは新聞を読んでいれば明白だ。あちこちで革命やら海賊の台頭やらが起きているだろう? 主に天上金などという馬鹿みたいに高い金をむしり取っていく世界政府(どこかのだれか)のおかげでな」

 

「なっ!? それは…!!」

 

 不遜な態度ながら核心を突く発言をする不知火。思わぬ返答に怒鳴った大佐は何も言えなくなってしまった。面接を行う大佐が彼を宥める。彼は面接官の大佐の後輩にあたり、正義感の強い人物で順調に昇進してきたが、その過程で政府の後ろ暗い部分を多く見てきており、歯がゆい思いをしているのだ。

 

「…ではもう少し深掘りしよう。何故君はお金が欲しいのだ?」

 

「なに、当方が営む傭兵稼業が順調で組織も大分膨れ上がってきてな、その分運営のためにもっと収支を増やす必要が出てきたわけだ。ここで働けば海兵として給金を得られ、さらには世界の情勢もよく分かる。資金面でも情報面でも合理的だろう?」

 

「…待て、君は海軍入隊後も傭兵を続けるつもりか?」

 

「当然だ」

 

「ふざけるな! そんなことが許されるわけないだろう! 夜兎部隊は解体して政府の戦力に__!!」

 

「よく怒鳴る男だなお前は。見苦しい。今時副業など珍しいことではないだろう。いちいち目くじらを立てるな」

 

 不知火はおもむろに懐から一枚の紙を取り出した。

 

「だいたい副業をするなと言うにはお前達の組織の労働条件はあまりに不始末だ。先ほどこの島の本屋で海軍の求人広告を貰ってきたが、あまりにふざけた内容でつい鼻で笑ってしまったよ」

 

 それは海軍が入隊者を募るために世界各地へばら撒いている求人広告だ。不知火はその内容をこの場で読み上げ、ダメ出しを始めた。

 

「年間休日が90日以下だと? しかも本部配属の海兵はマリンフォードから出られるのが年に数回だけ。舐めているのか? 海兵のプライベートを何だと思っている? しかも左官未満の兵の給金は雀の涙ほど。月平均10万ベリー? これでどうやって生きろというんだ? 兵を奴隷とでも思っているのか? まさか『やりがいが報酬です』などとふざけたことを言うつもりじゃあるまいな?」

 

 一つ一つ、傭兵組織を束ねる経営者としての目線で海軍の欠点を述べていく不知火。さらには比較のために他の民間企業の条件まで並べ始め、如何に世界政府がふざけた内容の求人を出しているかを説明した。言葉は悪いがそのどれもが理にかなっている指摘であり、長年人手不足に悩まされてきた原因はこれかと思わず納得してしまう内容だ。あまりに正し過ぎて上層部が大真面目に作ったその求人広告が、何だかとんでもない間抜けを全世界に晒している気にすらなって恥ずかしくなってきた。

 懸賞金が数千万ベリー程度の小規模の海賊の方が船員のためを思ってずっとマシな条件を課していると言われた時はさすがに顔から火が出そうになった。

 

「分かったか? お前達が如何に恥知らずなことを世間に公表しているかが。こんな条件に加えて副業もするな、おまけに今まで築いた組織も資産も解体して政府に吸収しますなどと一体どの面を下げて…」

 

「もういい。もう分かった…。我々の改善点が十分理解できたよ……」

 

 面接官の大佐が力なく不知火を止める。不知火はまだ言いたいことがありそうな顔をしていたが、一応求人広告を仕舞ってくれた。

 ここ数年で一番疲れた表情を浮かべる大佐。不知火の処遇は試験の態度を見て判断するという上層部の指示に軽い気持ちで従ってみたが、不知火は想像以上の厄災だった。ここまで一方的にペースを握られると思わなかった。

 

 上層部の指示にはまだ続きがある。色々と怪しい部分はあるが、やはりそれを差し引いても不知火の圧倒的な才能を政府は欲しがっている。思惑はどうであれ、あちらから志願してきたという事実は大きい。是が非でもこの機会に確保しろという意見が根強いのだ。

 そんな事情もあり、今回大佐は余程のことがない限り不知火の入隊を認めるように指示を受けていた。この面接は試験とは名ばかりの、水城不知火を観察するための茶番のようなものだ。

 大佐から見て不知火は、正直言って問題だらけの人間だ。それは今回の面接で嫌という程伝わってきた。何より問題なのは政府への忠誠心が欠片もない点。これは入隊後、様々なトラブルを引き起こすことが目に見えている。

 とはいえ、それは入隊を拒否する余程のことには抵触しない。その問題を補って余りあるほどに不知火の力は魅力的なのだ。

 

 

 後は大佐の口から入隊を許可するだけ。なのだが、もう一つクリアしなければならない課題がある。採用する際、あくまで政府が不知火よりも上であることを印象付けるようにと言われているのだ。不知火を思いのままに操りたい政府として当然の要求だ。間違っても世界を支配する世界政府がたった一人の小娘に振り回されるようなことはあってはならないのだ。

 

 しかし、面接中ずっと大佐は不知火のペースに乗せられっぱなしであり、このまま合格を告げれば政府と不知火の立場があやふやになってしまう。あくまで雇い主は政府であり、不知火は駒。上の命令には唯々諾々と従わなければならない。そういう印象を強く刻み込む必要がある。

 

 ……難易度の高い要求だ。大佐は内心でそう愚痴った。しかし命令ならばやらなければならないのが軍人の性。大佐はゆっくりと口を開いた。

 

 

 

「水城不知火、残念ながら君は不合格だ」

 

 

 敢えて大佐はここで不採用を通告したのだ。色々と悩んだ末、この場のペースを取り戻すにはこれしかないという判断だ。

 そう、今回は以前ミナトへスカウトを持ち掛けた時と状況が違う。以前は政府の方が是非ともうちで働いてくれというスタンスだったのに対し、今回は不知火の方から入隊を希望してきたのだ。主導権は間違いなく政府側にある。

 

 ここで毅然とした態度で不採用を告げれば、不知火の方はきっとその理由を聞いてくると思ったのだ。その際に海兵として働く心構えや、政府への忠誠心とその態度を説く。それができるか確認した上で合格を告げれば、口頭であったとしても不知火は海軍の入隊条件を呑んだ形になる。そうすれば交渉術や指導に長けたもっと上の人間が、この不知火の問題過ぎる性格を矯正してくれることだろう。実際にこのやり方で、力はあるが性格に難がある海兵を何人も採用し、政府の力の一部としてきた実績がある。

 

 

 すべては政府の思い通りになる。今回も例外ではない。……そのはずだった。

 

 

 

 

「……そっか。邪魔したな」

 

 

 不知火は席を立ち、部屋の出口へ歩き出した。まるで海軍に未練などないと言わんばかりのあっさりとした態度でだ。

 

 

「……は?」

 

 面接官の大佐から思わず間抜けな声が出た。

 

 

 

 

 

 






・水城不知火
 海軍の面接で大暴れしたTS主人公。金獅子への忠誠心はほぼメス堕ちと言っていいほど振りきれている。当然シキ以外に忠を尽くすつもりはない。
 服装は原作でお馴染みの対魔忍スーツ。たわわな胸とか色々なところがこぼれそうだが本人は気にしていない。動きやすいらしい。
 海兵になる目的については次回。といっても大それたことではなく、作中でも不知火が話していたように情報目当てのスパイ行為。原作でドフラミンゴとヴェルゴがやっていたように、金獅子や夜兎部隊のために海軍で地位を上げていくつもり。
 でもそれだとシキと一緒にいる時間が取れなくなるので本人としては乗り気じゃない。シキからも失敗してもいいと言われているので不合格と言われたらさっさと帰るくらいに軽い気持ち。


・面接官の大佐
 主に人事を担当している名もなき大佐。上から不知火について「一先ず様子を見ろ。そして問題がなければ入隊させろ。ただし、政府の方が上だと徹底的に理解させた上でだ」という無理難題を押し付けられた人。当然成功するはずもなく振り回される。
 不知火の語った労働条件への指摘は目から鱗だった。だから入隊希望者が少なかったのかっ!!

 ……労働条件が見直されてきた現代日本では極めて普通のことなんですけどね。その辺りの倫理観はまだまだ未発達の世界という印象。





 次回か次々回辺りに読者視点回を挟もうかなと考えております。初めての試みなので緊張しますね。
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