登場人物の年齢も一部公開されてないから概ねで考えています
それはそうとアダムの境遇考えると武器の扱い方を教えてくれた人がいると思うんだけど
他のファウナスからそれを教わったとは思うがいろいろあの世界隠れた達人たくさんいそうだよねって。
アダムの過去話捏造注意です
ブレイクと列車で別れてから、ひと月ほど経っていた。
俺はトレーニングルームで木刀を振るい、木人形を叩く。
自らの心を鎮めるために、その衝動を木人形に向けて発露させる。
あの別れは必要なものだった。彼女の為にもこの組織にはいてはならないと感じた。
だが、それと同時に俺には彼女の存在が必要不可欠だったと思う。
現に今こうして、いくら木刀を振るっても彼女の存在が心から離れない。
それは罪悪感なのか、それとも俺が彼女に未だ心惹かれているからなのだろうか。
雑念は剣筋に現れ、木人形に浮かぶ傷は斬撃によるものではなく打撃によるもの。
普段通りに振るえば、木刀だろうと切ることが出来たと言うのに。
「無様な姿をしているな、アダム・トーラス」
その声に振り向けば、豪華な衣装に身を包んだ今のホワイト・ファングの指導者シエナ・カーンの姿があった。
すぐに木刀を収め、姿勢を正して彼女に向けて膝を突こうとするが。
「いい、続けろ」
そう言われて、もう一度木人形に向けて木刀を振るう。
甲高い木材が叩き合う音が響きながら、彼女は言葉を続ける。
「ベラドンナの令嬢がホワイト・ファングを離脱したと聞いた。
あの場で聞くことはしなかったが、お前はそれを見逃したのか?」
「彼女はまだ幼くっ、そしてファウナスの未来をっ、背負う若人の一人ですっ。
指導者カーン、私が彼女の、組織から去ったことを非難するおつもりですかっ」
かっ、かかっ、と木人形にさらにへこみが生まれる。
「そういうつもりではないが、お前なら彼女を引き留めると思ったのだがな」
「はぁ、はぁ…。引き留めはしました、しかしそれでも彼女の意志は固かった。
同志として、そしてパートナーとして、彼女に刃を向けることなど私には出来ません」
息を整え、ちらりと時間を確認して木刀を元の場所に戻す。
本当のところ、彼女の為だなんだと俺は理由を着けているが。
俺は彼女が日に日に俺に、ホワイト・ファングに失望の目を向けるのが耐えられなかった。
これからの活動として、彼女が傷つくこともあるだろう。
そうなる未来にもさせたくなくて、だから俺は話すこともせずに彼女を組織から引きはがした。
それにもし………もし本当にブレイクが傷つくことがあれば、俺はギラに顔向けが出来なくなってしまう。
俺自身も、もうこの刃を止めることが出来なくなることだろう。
「お前の仕事ぶりは理解している、だからこそお前なら彼女を止めることが出来たと思った」
「私は彼女の意志を尊重します。これでもそこそこ彼女とは長い間共にしていました。
故にこそどうして私が彼女の意志を無視して引き留めることが出来ますでしょうか?」
「以前から彼女にはホワイト・ファングへの疑念があったようだが?」
歩み去ろうとした足を、シエナの言葉を聞いて止める。
そのまま無視してもよかったのだが指導者の疑問を返さないわけには行かず、微かに溜息をはいて振り返る。
「以前から彼女…ブレイクは同志だけでなく、人間の血も流れる事を悲しんでいました。
出来るだけ私も血を流さない為にはしてきていますが、それでも必要に応じて流れる血は起きます。
それがブレイクには耐えられなかったのでしょう」
「だからお前はブレイク・ベラドンナを止めなかったのか?
お前ならブレイクの存在がこちらにあることで、ギラの意志も介在しているとわかっているだろうに。
だが、まぁ確かにそろそろ用済みと言ってもいいか」
「用済み、ですか?」
「ホワイト・ファングはこれからも力をつけ、そしてその存在を世界に刻み込んでいく。
存在そのものは、既にもう達成されたと言っていい。まだまだ我々の存在は伸びていくだろう。
いづれはギラもそのことに気づく。その時に不穏分子となり得るブレイク・ベラドンナは正直邪魔になる」
「…いっそ、そうなる前に離脱してもらった方が組織としては助かった、と?」
ふっ、と指導者カーンの嘲笑が聞こえる。
俺は拳を作り、ギリッと歯を食いしばった。
しばらく瞑目した後、それ以上の言葉を交わさずに俺はトレーニングルームから出て行った。
今のシエナ・カーンを見たら、俺はその拳を向けずにはいられなかっただろうから。
傷が疼く。
鏡の前の俺の顔を見る。
そこに写るブルーの瞳と…グレーの瞳。
左目にある焼印「SDC」の三文字。
シュニー・ダスト・カンパニーの略称だ。
俺の両親はシュニー・ダスト・カンパニーの従業員の一人だった。
従業員といっても正規ではない。
炭鉱夫として朝晩休むことなく働かされ、安い賃金で危険なダスト掘りをする仕事。
ダストは強い衝撃で簡単に爆発し、掘り起こすのも命がけだ。
その中でさらに鉱山の中にはガスがたまり、爆発したダストに反応して大きな被害をもたらすこともある。
俺の父はその爆発事故で死んだ。
母はそもそも、俺を産んだ後医療施設に入ることも出来ずに亡くなった。
当時の俺はまだ子供だったが、人権がなかった故に働かなければ生きる賃金ももらえなかった。
そんな中で、父は正しく生きろと俺に言ってくれた。
俺もそれに従おうと、だが正しさとは何だろうかとは父は教えてくれなかった。
そうなる前に、父は死んだ。
ずきり、と焼印がと体の傷がまた疼いた。
働かされるのはファウナスが多く、その誰もが人権を有していない。
だが働くのはファウナスだけじゃない。人間の労働者だって居る。
そんな人間ですら、シュニー・ダスト・カンパニーの連中は奴隷扱いしていた。
「…」
無言で焼き印を指でなぞる。
鏡の中の俺は嗤っていた。
結局、人間もファウナスも本質的には何も変わらないのだろう。
虐げられた事実はある。そのために自由を勝ち取ろうとするのは当然だ。
だがやればやるほど、それは暴力を振るう快感や支配欲によって歪んでいく。
最初はどんなに高尚な理想でも、いづれは現実によって歪み、形を変えていってしまう。
ホワイト・ファングがまさにそれだ。
平和的な手段は暴力的な手段に変わり。
人権を勝ち取ろうとする目的はいつしか恐怖を刻み込む目的に変わっていた。
前指導者ギラ・ベラドンナから、現指導者シエナ・カーンに代わってからは特に分かりやすい。
「今では立派なテロリストか」
俺も最初は平和的かつ犠牲が出ない手段が正しいと思っていた。
人間とは違う、誰も傷つかない方法で歩むことが、ギラの理想の為にもなると。
だが人間はいつまでもそれだけじゃ耳を貸さない。
対話とは、相手が自身と対等であると認めなければならない。
その位置に、ファウナスは全く届いていなかったのだ。
鏡の中の俺は嗤っている。
「…血を流せば流すほど俺たちの悪名は響き渡る。
人間たちは恐怖し、そして俺たちの存在を認めざるを得なくなる」
これが嗤わずしてなにが笑えるのだろう。
正しさを求めれば虐げられる日々は終わることはない。
その正しさを放棄した瞬間、我々の存在が認められ始まった。
この世界は結局、暴力なしではなにもなし得ない。
シエナ・カーンはそれをわかっている、だが……。
彼女は野心家だ。同時に愚かではなく聡明だ。
力を見せつけ、ファウナスの地位を向上させる。
しかしその為に流される血は、どこまでも続くだろう。
人間にも、ファウナスにも。
ファウナスこそが人間から人権を剝奪すべきだと訴えるホワイト・ファングの人間は多い。
その大体が辛い過去からこの組織に拾われた存在だ。
仮面をかぶり、人間たちの工場を襲い、物資を奪う。
奪うことが当たり前になってしまった今のホワイト・ファングは、かつての姿とは程遠い。
もう戻ることは出来ない、組織も、俺も。
「…こんな俺だから、ブレイクも嫌になったんだろうな」
自嘲する。
俺はもう何人もの人間を事故ではなく故意に殺害していた。
最初はファウナスや労働者を虐げる悪徳な商人。
人身売買を当然のようにする裏組織。
カンパニーの役人。工場の管理人。
これが正しい事だと思い、その道を突き進み続けた。
中には確かにどうしようもない人間もいた。
だけれど、理由があり、そうせざるを得ない人間もまたそこにいたのだ。
彼らにだって家族があり、そこに至るまでの苦労があったのだろう。
それでも俺は彼らを切った。
楽しかったから。
自身の正義を信じて人を殺すのが快楽となっていた。
俺は人斬りの自分をだんだんと自覚していった。
そんな自分を制御したくても、この仕事が俺に舞い込んでくる。
俺の両腕は、顔は、目は、俺自身の影はもう血まみれの人殺しになって。
いくら両手を洗おうと顔を洗おうと、この焼印がどうしようもない暴力性をかき立てる。
幻影の父が、共に働き、死んだ労働者の声が。
殺されて行ったファウナスの声と影が俺にまとわりつく。
影を切っても切っても俺の影が消えることはない。
「笑えるよな…本当に」
俺はずっと、その影の中に棲んでいるのだから。
影の中に囚われないように、ブレイクには生きて欲しいと。
血に塗れた今でも願っている。
次回はブレイク視点。
感想お待ちしております。