死亡遊戯で幼馴染を買う。   作:たたたった

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第1話

 人生をもう一度やり直すことになった時、ふと前世の記憶を思い出した瞬間があった。

 

 それは幼稚園の頃、遠足で近くの公園へ散歩に出かけ、不意にお友達の髪の色に違和感を覚えたのだ。整列して前に立つ女の子の髪色がピンクであることが呼び水となり、周囲に視線を向ければ、それはカラフルな髪色の幼稚園児たちに囲まれていた。赤、青、黄、緑、紫、金、銀と日本人といえば黒髪黒瞳だろっと思わず叫んだ時、前世の記憶が脳裏に蘇り始めた。

 

 そしてここが前世の地球ではなく、異世界の地球だと気付いた時には大きく困惑したものだ。

 なにせ髪色や瞳がファンタジー。転生モノのジャンルであるならば、現代ファンタジーの世界に転生したのではないかと不安を覚え、まさか超能力者や妖怪や宇宙人がこの世界に存在するのではないかと心底に怯えた。

 それからしばらく幼稚園児として過ごしていくうちに、この世界は髪色や瞳といった容姿以外に、前世の地球との違いがないことに気付いてからは、俺は知識チートという行為に手を染め始めることにした。

 

 なにせ、歴史の本筋は前世の地球と大きな違いがないのだ。これから何が起きるか知っている上に、流行になるものまで先んじて手を回すことだってできる。

 

 最初は両親の説得であった。

 どれだけ金になるものが分かっていても、投資をするには幼稚園の身分では何もできない。だから、俺は天才のフリをしてパソコンを買い与えてもらう作戦に出た。方法は単純、父親の部屋のコンピューター関連の本を読み、プログラムに興味があるように見せかけて両親の関心を買う。

 そこで適当にじゃんけんをするゲームのプログラミングをして実行すれば、両親は俺のことを麒麟児だと勘違いしてくれた。5歳児がプログラミングの本を流し読みしただけで理解してゲームを作る。それが小学生でも即席で作れるものでも、幼稚園児が、流し読みした本を見ただけで、ブログラミングを理解したというシチュエーションが重要なのだ。

 作戦は功を奏した。息子に可能性を感じれば、たかが20万もしないパソコンを与えることも惜しくはないのだから。

 

 次は仮想通貨を集めることであった。

 2024年だったならば1枚1000万を超えるビッドコインも、2012年の頃は1000円前後の価値しかない。そこに新興だった0.1円もしない価値だった仮想通貨も、幼稚園のお年玉の範囲で片っ端から買い集めて、マイニングでも手を出した。両親は理解を示してくれなかったので、大して量は集められなかったが、それでも10年後には数十億になっているだろう。

 

 次は未来の流行の先取りであった。

 これはあまり上手くいかなかった。時代の隆盛や時事、SNSでバズるという理由もあり、とりあえずIT系で働いていた俺の知識の範囲で作れる、何で流行ったのか良く分からないミニゲームのアプリを片手間に作っていた。そもそも幼稚園児で出来る範囲なんてたかが知れているので、アプリの作成くらいしか自宅でできるものがなかったのだ。

 しかし、幼稚園児が独学で面白いゲームを作ったのがウケ、テレビで取材を受けるレベルには有名になってゲーム業界に伝手が出来た。

 

 

 

「あんま上手くいかないなぁ……いや、仮想通貨の時点でもう勝ったも同然なんだけど」

「なにかいてるの?」

 

 24歳のメンタルを持った5歳の幼稚園児が、同学年の幼児たちと馴染めるわけもなもなかった。とはいえ、孤独に過ごしていると両親を悲しませることになるので、適当にはぐれ者同士でつるむことが多くなる。

 

「んっ、これから何をしようかのメモ。どうやって金に換えようか必死に考えてる」

「おかねほしいの?なんで?」

 

 幼児とは純真無垢なものだ。お金の大切さなど知りもしないし、お金を巡って人間がどれだけ醜く争うかも知りもしない。

 『ゆうき』と書かれた名札とスモッグを着た銀髪の幼女は、興味を惹かれたのか俺に話しかけてくる。庭で幼児どもが遊ぶ中、部屋の中でお絵描きしたり、本を読んだりと、将来の文芸部候補たちの中で、この『ゆうき』と呼ばれる幼女は異彩を放っていた。

 まるで幽霊のように突っ立ったままによくフリーズしている。心の病気とか、頭に問題があるという話ではなく、基本的に無関心で無気力のダメ人間みたいな存在が、俺の中の『ゆうき』という幼女像であった。

 そしてシンプルであるが、どこか哲学を感じさせる問いに少しだけ考え込んで。

 

「金があったら色々と買えるから。欲しいもんとか、お前もあるだろ」

「ないよ」

「そうか、ないか。でも、俺は欲しいもんがたくさんあって、それに金が必要だから集めてんだよ」

「そうなんだ」

 

 コミュニケーションの相槌が下手な幼女であるが、幼稚園児ならばこんなものかと話を早々に切り上げる。

 それでも『ゆうき』はその場から離れようとせず、まるで背後霊のように俺に憑りついてくる訳であるが努めて無視した。感情的に俺はどうしても同い年とは距離を取る。幼児の会話の脈絡のなさ、行動の突拍子のなさ、大人としてそのテンションに合わせるならともかく、子供の視点で同じように付き合うのは苦行なのだ。

 

 その点では『ゆうき』は楽である。必要以上に関わることもないし、関心を示したからといって、論理的にバグってる会話劇に巻き込むこともしない。端的に必要な言葉を、必要なだけ出力して、返答に満足したらそのまま黙ってくれる。そしたらこんな風に憑りついてくるので、園内で友達いないです、と先生が両親にタレこむ心配がなくなる。

 

 こんな風に、俺は『ゆうき』を盾にして幼稚園から小学生時代を生き抜いてきた。

 

 

 

 

「義務教育って知ってるか?中学までは最低限の知識を詰め込むために学校に行かなきゃならないんだ」

「行きたくないから、行かない。これでこの会話はおしまいです」

 

 不登校になった幼馴染を連れ出すために、反町友樹(そりまち ゆうき)の家を訪れると素気無く返されて玄関が閉まる。

 俺は早々に自分の為すべき最低限の義務はやり終えたので、満足して家に帰ろうとすると再び玄関が開いた。

 

「諦めが早いですね。もう少し粘ったらどうですか?」

 

 少しだけ険のある声が玄関の隙間から響く。蒼い瞳が煌々とまるで獲物を狙うかのように、俺を射抜いてくるのでこのメンヘライズムを感じる幼馴染は何がしたいのか良く分からない。学校には本気で行きたくないけど、それはそれとしてちゃんと説得しない俺への態度に苛立ちを感じているようなので、学生運動の生徒のように玄関の前に居座り。

 

「分かった。ユウキが学校に行くまで、俺はここから一歩も動かないぞ」

「馬鹿なんじゃないですか?」

「うるせーよ!俺だって先生に言われて仕方なく来てるんだよ!こっちだって仕事で忙しいの!中学一年生でベンチャーで起業する俺の気持ちが分かるか?社員の生活抱え込むって割と地獄だぞ!」

「ユウタの身の上話になんて興味ないです。それよりも、与えられた仕事はちゃんと全うしてください」

 

 陽光に怯える吸血鬼のように、陽の当たる場所には絶対に出てこない幼馴染。

 こちとらアプリ開発とゲーム企画で忙しい身なのに、押し問答をやってる暇はないのだが、不機嫌のままに放置していると深夜徘徊をするこいつは夜中に突撃してくるので構うしか逃れる方法はない。

 

「学校に行きたくないなら行きたくないで良いんだよ。俺からすると、ユウキが社会不適合者なのは知ってるし、その結果で野垂れ死にしようがお前の勝手だからな。でもね、俺はお前の幼馴染なの!幼馴染っていうのは、周りにバレると保護者監督責任でも発生するかのように、何か問題が起きる度に駆り出されるの!今回は、お前がまた学校に来なくなったからだ」

「行きたくないから行かないと、さっき言いましたよね?」

「だから、俺はその言葉に納得して帰ろうとしたよな!?――――ッ!ヴぉっえ?!」

 

 あんまりな返答に押し込み強盗のように家の中に入ろうとすると、濡れた犬のような匂いに思わずえずいてしまう。

 

「風呂に入ったのいつだよ……臭いが凄いぞ。この腐臭……さては、四日は入ってないな?」

「失礼ですね。三日間です」

「夏場で三日間って……お前、自分の体臭に気付かないのか?」

「臭いますかね……?」

 

 流石に目の前でえづかれたら、ショックを受けているようだった。

 犬のように何度も腕や腋の下を嗅いでいるが、俺はなるべく距離を取る。女の子は良い匂いがするなんて幻想だ。風呂に入らなければ柑橘系の腐った臭いが鼻から伝わってくる。

 

「その……学校に行くなら……お風呂入ろうね。それじゃ」

「まっ、待って……ッ!」

 

 待てと言われて待つ奴はいない。恋をしている訳ではないが、100年の恋も冷めるような幼馴染の醜態を見て、俺は躊躇いなく逃げ出した。やはり臭いというのは生理的に無理だ。最低限の身嗜みも整えない少女など、付き合う義理などない。

 その出来事を切っ掛けに疎遠になると思っていたが、これが深夜に幼馴染の襲来を許す切っ掛けとなるのだった。

 

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