死亡遊戯で幼馴染を買う。   作:たたたった

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第11話

『どうしたんだ、急に色気付いて』

 

 生気に溢れる幼馴染の姿を見た時、俺は困惑を隠すことができなかった。

 幽霊のような雰囲気をから一変して、生者としてこの世を謳歌するように溌溂した出で立ち。希望で輝くような蒼い瞳、まるで生きているのが嬉しくて仕方のないように明るく朗らかな表情、服なんてジャージ一択だったのに新品のワンピースを纏い、足元を見ればレディースのサンダルを履いて、恐ろしいことに指先の爪まで手入れが行き届いている。

 

 幼馴染のユウキが、年頃の女の子へと変身していて、何が彼女に起こったのか心配になる。

 

 また身体を売りにいくのか……?いや、でも、こんな生き生きとした表情をする訳が……。

 

 あの日の悪夢が俺の脳裏に蘇った。

 今にも消え入りそうな幽霊のような幼馴染の姿、大切な何を失ったような感情の消えた瞳、まるで死化粧のように整えられた容姿。最悪の光景が浮かぶが、ユウキの表情からそれが間違いであると教えてくれる。彼女は間違いなく、我が世の春を謳歌するように全力で今を生きていた。

 

 10年間もの長い時間を共に過ごして、初めて見せる幼馴染の幸福に満ち足りた輝くような表情。そして俺の内心の疑問に答えるように、ユウキは幽霊にはできない眩しい笑顔を向け。

 

『私はもう15歳ですよ。女の子としての自覚だって芽生えます』

『そりゃ、そうだけど……風呂にも入らないようなユウキが、いきなりイメチェンしたら反応に困る』

 

 幼馴染は、もう俺の知る幽霊ではなくなっていた。

 知らない表情、知らない態度、知らない服装。幼稚園児の頃からの付き合いであったのに、俺はユウキの変わった理由が分からない。それが堪らなく寂しい思いとなり、俺の心の淀みへと溜まっていく。ずっと傍に居たはずなのに、ここまで大きな変化を見逃していたのだから。

 つまり、ユウキにもユウキの人生があることの証明。傍に居なくても私はもう大丈夫だよ、そう幼馴染の表情が伝えている気がした。

 

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 答え合わせは、それで十分だった。幽霊として憑りつくと宣言していた幼馴染の決別の言葉。

 

『そうか……つまり恋をしたんだな』

 

 全てを悟った俺は、絞り出すように言葉を紡ぐ。

 真剣な表情で頷く幼馴染の瞳は、本気で何かを成し遂げようとするように固く決意を秘めている。誰かのことを心の底から好きになり、そこに真っ直ぐに進もうという意志。ものぐさで、無気力に日々を生きているユウキを、ここまで変えてしまう男のことが無性に知りたくなった。

 

『俺も年上の真実(まなみ)さんって人と付き合い始めたんだ。良かったら、その好きな人と上手く行ったら、ダブルデートでもしないか』

 

 交際を申し込まれただけの女性を口実に、幼馴染の好きになった男のことを探ろうとする俺がいた。何をやっているんだ、と心の中で自分を制止しようとするが口は止まらない。ここまできてやっと、俺はユウキのことを失いたくないという気持ちに気付いた。今更、と自嘲する自分の心の声が聞こえる。

 失いそうになって初めて、女々しくも幼馴染を引き留めようとする俺の本心に――――

 

『あっ?』

 

――――地の底から響くようなドスの利いた声音。瞬間、視界が大きくブレた。何が起きたのか分からず、揺れる視界で床に倒れると、幽霊のように恨めし気な表情のユウキが、俺の胸倉を掴んで持ち上げていた。そして、俺もユウキも同じ気持ちであることに、殴られて初めて理解して、このコントのようなすれ違いに笑みが零れる。

 

 

 

 

 

「笑ってんじゃねぇ!いい加減に私の気持ちに気付いたらどうですか!」

 

 感情をむき出しにして、怒鳴る幼馴染の姿は初めてみた。胸倉を掴み上げ、眼前で憚らずに大きな声で、自分の気持ちを真っ直ぐにぶつけてくるユウキの姿。押し倒し、馬乗りになり、鈍感な大馬鹿野郎に思いの丈の全てぶつけてくる。俺は今日の今日まで気付かなかったのだ、こんな今にも泣きだしそうになる表情で詰問するユウキの本心に。

 

「ごめん、今になって気付いた」

「遅ぇんだよ!私にはユウタだけだ!それなのに、ここまでしても気付かないなんて!」

 

 また殴られた。拳を握る手はどこか弱弱しく、震えるままに振られたので痛くはないけど、心には重く響く。

 

「俺はいつも幼馴染のお前を見てたはずなのに、それなのに今更になって気付くなんてな……いつから俺のことが好きになってたんだ?」

「――――ぁっ、え……それは……昨日からです……」

「えっ……昨日?いつ……?」

「夜中、ユウタが眠った後に……それで色々あって気付きました……」

 

 気勢が削がれたように、幼馴染の声は小さくなる。

 何を思い出したのか、ユウキは恥ずかしそうに頬を染めて俯いてしまう。どこかバツが悪そうで、俺はそんな姿を見て、可愛らしいなと思いながら、その銀の髪を宥めるように優しく撫でながら尋ねる。

 

「色々って、何があったか教えてくれるか?」

「あっ……怒らないで聞いてくれますか?」

 

 まるで親に叱られることを恐れる幼子のように、怯えるように尋ねるので俺は優しく頷く。

 すると、まるで大罪を告白するように、震える身体と声音で、自分が行ったことをぽつり、ぽつり、と語りだすユウキ。最初は、眠りが深いことを利用してヤバいことをしたんじゃないかと不安になったが、話を聞く限りだと、唇を触れ合わせるだけのキスしかしてないことに安心する。

 

 それでもユウキにとっては、寝込みを襲った事実には変わりなく、審判を言い渡される罪人のように不安な瞳で俺の沙汰を待つ。

 

「そうか、寝込みを襲ってキスしちゃったか……でも、反省しているんだろ?」

「はい……流石に寝ている隙に、ユウタの初めてを奪ってしまったことは後悔しています……」

「反省しているならいいよ。今度から、したくなったらちゃんと言うようにな」

「分かりました、次はちゃんと――――えっ……?」

 

 目を白黒とさせるユウキの姿が、どこかおかしくて俺はつい噴き出してしまう。それでもすぐに笑うの止めて、真剣な表情で驚いて固まっているユウキを見つめて。

 

「俺も好きだよ、ユウキ。付き合ってくれ」

「でも、あっ、ユウタは他に交際をしている女性が――――」

「――――あれは嘘だ。厳密には交際を申し込まれただけ、ただユウキの好きな人が知りたくて口実に利用させてもらった。んっ、そう考えると真実(まなみ)さんに悪いことしちゃったかな?」

「嘘ですか……ははっ、なら私の伝えるべき言葉は決まってますね――――喜んで」

 

 泣きながら笑うユウキの表情は、どこまでも愛おしくて可愛らしい。

 艶のある銀色の長髪と碧眼の瞳を持つ女の子、それだけ聞くとまるで物語に出てくる御姫様のようであるが、この世界では()()()()()()()個性であるのだ。赤、青、黄、緑、紫、金、銀とカラフルな髪色を持つ異世界の日本の住人。容姿以外は点でダメ人間な幼馴染であるが、それでも俺が好きになったのだから仕方ない。

 

 馬乗りになった、俺の可愛い彼女はまるで秘め事を話すように顔を近づけて小さく囁く。

 

「キス……したくなりました。お付き合いの記念に、私として――――――――ッ?!」

 

 碧眼の瞳がおどろきで見開いている。啄むような、触れるだけのキス。それでも、中学生の身の上である俺たちには十分すぎるほどの愛情表現。放心して高鳴る胸を抑えるように、ギュッと胸元を握り締めるユウキは、ふと俺の胸板に手を置いてから不服そうな顔をする。

 

「心臓……私よりも全然、早く動いてないですよ。もっとドキドキするまで……私とのキスは続けてもらいます」

「どこまでも心臓が高鳴ればいいんだ?」

「破裂するくらいです。こんな鼓動じゃ、私のキスで満足してないみたいじゃないですか」

「流石にそれは……っん――――――――――――――ッ!?」

 

 ただ憑いているだけの幽霊は、この日から人間へと生まれ変わった。

 

 

 

 

「そういえば、その真実(まなみ)って人とはどういった経緯で出会ったのですか?」

 

 新たなシステムのアップデートの最中、ベッドでいつものように漫画を読んでいるユウキに尋ねられた。俺は引き出しの中に仕舞ってあった、1枚の()()の名刺を取り出して、彼女に手渡すと不思議そうな顔で名刺を見つめている。

 

「何も書かれていませんが?」

「中にチップが埋め込まれているんだ。超富裕層だとか、特権階級だけが参加できる催しのパーティーの券だとさ。その真実(まなみ)さんは、運営から頼まれて俺に声を掛けてきた人。<観客>になる資格が君にはありますよって」

「怪しすぎますね。それに真実(まなみ)って人は、ただの営業のスタッフか何かじゃないですか……」

「自分は<プレイヤー>だとか言ってたぞ。ゲームの勝者に与えられる服なのか、良く出来た軍服のコスプレをした面白いお姉さんだった。話してみたら意気投合して、プライベートでも会いましょうって――――どうしたユウキ?」

 

 ユウキの顔が久しく幽霊のように顔を青くするので、慌てて近づくと凍えるような表情のまま。

 

「ユウタは……そのパーティーに参加しないですよね?」

「あぁ、もちろん俺はしないよ。そのパーティーに関することの機密性が、異常なほどに高すぎる。このご時世に、コネを使って調べても内容が露見しない催しなんて、絶対に危険で非合法なものだからな」

真実(まなみ)って人とも二度と会わないでください。そんなパーティーに参加する人は間違いなく危険です」

「分かった……だから、落ち着いてくれユウキ。ほら、震えてるから……腕を広げて……」

 

 ここまでユウキが酷く震えているのは初めてだった。

 この数か月、ずっと発作も起こらずに過ごしてきたのに、非合法なパーティーの話題になった途端に、あの日のように全身の震えが止まらなくなっている。思い出すのは握られた300万円の大金、そして手提げ袋に入っていた荷物。答えは、簡単に導き出されたが、俺はそのことは彼女には決して伝えなかった。

 

 巷で噂の死亡遊戯(デスゲーム)、もし本当にそれに恋人が巻き込まれていたなら、無用に暴き立てることはない。だが、向こう側から俺に接触してきた以上、あの真実(まなみ)さんだけで終わりである訳がない。

 

「俺は絶対にそんなものに参加しないからな、ユウキ」

 

 幼馴染の震えが完全に止まるまでの3時間。抱きしめ続ける俺の心中には、この白紙の招待状を寄越した主催者が、こちら側へ引き摺り込もうとしたら逃げ切れるか、という不安が渦巻いていた。

 




中学生編、終わり!
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