死亡遊戯で幼馴染を買う。   作:たたたった

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第13話

「命の恩人という話でしたが、どのような状況で助けられたのですか?」

 

 幽鬼は現状を打開するために、白士(はくし)という女性との会話を試みる。

 恋人に異常な執着を示しているので、そこをフックに仕掛ければ絶対に乗ってくるだろうという確信があった。案の定、敬虔な信者が信仰を語りだすような面持ちで、その瞳には狂信を宿して嬉々として彼との出会いを語りだしてくれる。

 

 その内容は、完全に常軌を逸していたものであった。

 

「お前は死後の世界を見たことあるか?」

「は?えっ、ありませんけど……」

 

 突拍子もない質問に面を食らう幽鬼。悪夢という形でならば、死後の世界を体験したことがあるが、この白士(はくし)という狂人はまるで本物の死後の世界を見てきたかのような口振りだ。

 

「この世界に生まれ落ちた人間が辿る最後の末路。死後の世界は、宗教家が謳うような理想の世界などではない。ただ底なしの暗闇に、私たちの魂は落ちていくのだ。そこに罪も罰もありはしない。虚無のような無意味な世界に、永遠に堕ち続ける。それが私たちの魂が迎える結末なのだ。理解できるか?無意味で、無価値な、救いなき世界を知った私の気持ちが?」

「理解……できるような気がします」

 

 死亡遊戯(デスゲーム)の後遺症で、悪夢に苛まれていた幽鬼には辛うじて理解できる内容だった。

 白士(はくし)という狂人は、臨死体験の際に幽鬼と同じような悪夢を見て、それが世界の真実であると思い込んでいるのだろう。暗闇の中に浮かぶだけの意識、存在に意味を為さない虚無の牢獄、恋人が居なければ幽鬼ですら発狂した死後のイメージ。つまり、目の前の狂人は彼女の未来として有り得たかもしれない形なのだ。

 

 幽鬼は同情の念のようなものを白士(はくし)に抱いていた。共感できる狂気、だが狂人はまるで分かっていない、という風に嗤う。

 

「私が話しているのは本物の死後の世界だ。この心臓が停止した時、確実にこの魂はあの世に存在していた。永遠の闇に堕ちる恐怖、叫び縋ろうと空を切る手、終わりのない永遠の闇を前にして、人間は覚悟しようと幼子のように最後は泣くのだ。30回目のゲーム、死を予感し覚悟した私に訪れた敗者の末路、大人しく死を受け入れた後に、どれだけの後悔と恐怖を味わったと思う?」

「30回目のゲーム……?」

 

 嫌な予感がした。だが、幽鬼に語る狂人の口は止まることを知らない。

 

「真っ暗な闇の中、足掻いて足掻いて、何度も手は空を切り、断末魔のように叫び続けた。ただ堕ちていく、底なしの闇へと。怖かった、恐ろしかった、死亡遊戯(デスゲーム)に参加しなければ良かったと、何千、何万回と後悔を続けた。それも無意味だった。結局は、私たちの魂など、底のない虚無の前では何も出来ない。その時――――絶望に沈み、声すら上げられない哀れな私の魂を救った存在が居た」

「それが、ユウ――――幽冥悠太(ゆうめい ゆうた)さんですか?」

 

 その名を聞いた白士(はくし)は、花開く乙女のように美しい笑みを浮かべた。

 狂気に囚われた女性には相応しくない、恋焦がれて止まない男性が現れた時のような、熱に浮かされて、心が華やかに明るくなった表情。まるで思い出を慈しみ、愛でるかのように、右手を胸に抱いて蕩けたような声音で話を続ける。

 

「そうだ!あの少年が堕ちていく私の手を掴んだのだ!無意味な死後の世界で!少年だけが抗えた!この手を握り、救い上げたのだ!その時、私の心臓が再び動き出し、息を吹き返したことを昨日のことのように覚えている!30回目のゲーム、その記録を見た時、確実に死んでいた私が蘇った姿が映っていた!奇跡だ!そして本物の奇跡を起こす存在を前にして、私は何を考えたか分かるか?」

「少年が欲しい……ですか?」

「あの少年を手に入れれば、私の魂は本当の意味で救われるのだ!死後の世界は虚無で終わらない!幽冥悠太(ゆうめい ゆうた)ならば、魂を救い上げ、私たちの知らない次へと導いてくれる!有史以来、人類の全てが堕ちていく虚無の闇ではなく、あの少年ならばその死の真実を<否定>してくれる!少年しか知らない死の先へと連れて行ってくれる!だから、どうしても私は欲しい!」

「狂ってますね……」

 

 徹頭徹尾、完全に正気を失くした白士(はくし)の言葉に、幽鬼は恐怖を覚えていた。

 死亡遊戯(デスゲーム)に熟練したプレイヤーが居ることは知っている。生死を賭けたゲームに繰り返し挑戦する狂人たち、そんな世界の住人の見せる本物の狂気を前にして、幽鬼は身を震わせることしかできない。なぜなら、ただ狂ってるのではなく、死亡遊戯(デスゲーム)で生き残る為の理性と知性を残して真っ当に狂っているのだ。

 

 殺人に対する忌避感もなく、その上で磨かれた技術。その矛先が幽鬼へと向けられたら、何の抵抗もできずに殺される自分の末路が脳裏に浮かび、死亡遊戯(デスゲーム)すらも上回る死の恐怖に怯える。だがそんな様子の彼女を見て、白士(はくし)は手をひらひらと振り。

 

「あぁ、安心しろ。私はお前のことを殺せない。残念なことに、運営は<観客>として幽冥悠太(ゆうめい ゆうた)を迎えることを望んでいる。だから、その恋人であるお前が<プレイヤー>に殺されれば、せっかくの勧誘も成功しなくなると思っているのだろう」

「そうですか……それ、は……ありがとうございます」

 

 何に対する感謝なのか、幽鬼は自分の言葉でありながら分からなかった。だが、目の前の死神が鎌を振り下ろさないことに安堵し、この狂人は律儀にも忠告のような言葉を伝えてくる。

 

「この話は狂人の戯言だと思っているだろう?まぁ、私も実際に体験するまでは信じていなかった口だからな。だから、ちゃんとお前にも色々と忠告しておくぞ」

「なにを、ですか……?」

幽冥悠太(ゆうめい ゆうた)に救われた<プレイヤー>は大勢いる。感謝、崇拝、信仰、または一方的な恋慕、感情は様々だが、あの少年のことを私のように狙っている<プレイヤー>には気を付けろ。運営が抑えているとはいえ、死亡遊戯(デスゲーム)に参加するような人間の頭のネジはどこか飛んでいるからな。後先考えず突っ走る馬鹿のせいで、本格的に運営が警告ではなく、物理的に近づけないように体内に爆弾でも仕込まれたら敵わん」

 

 狂人の戯言と受け流すべきか、本当にそんな事態になっているのか幽鬼は判断が付かなかった。

 

 死後の世界で、ユウタに救われた……?そんな馬鹿な話がある訳……。ただ、それを真実としている死亡遊戯(デスゲーム)の<プレイヤー>たちの話は無視できませんね。

 

 白士(はくし)の異常なまでの恋人に対する執着を見せておきながら、直接的な手出しをしないのを見ると、死亡遊戯(デスゲーム)の運営が<プレイヤー>たちに警告しているのは真実に思えた。実際に幽鬼も悪夢の中とは言え、死後の世界で救われる体験をしていたのだ。それを本物の死亡遊戯(デスゲーム)の臨死体験の中で味わえば、狂気に囚われる少女も出てくるだろう。

 

 だが、なぜ死後の世界で救う存在のイメージが、恋人であるのか理由は分からない。身近にいる人間や天使や悪魔のような超常の存在などが幻影に現れるのが通常なのに、知名度はあるとはいえただの少年である恋人が<プレイヤー>たちの臨死体験の中に出現するのか。

 

「伝えたいことは伝えた。あとはそれをどう消化するかはお前次第だ。ダメ元で幽冥悠太(ゆうめい ゆうた)を譲ってくれないかと期待してたんだがな」

「最後に1つだけ教えてください」

 

 背中を向ける白士(はくし)に対して、どうしても聞いておきたいことが幽鬼にはあった。死後の世界の話なんて信じてはいないが、その中で体験した狂人の後悔は本物のように感じた。それだけの恐怖と後悔を味わいながら何故、死亡遊戯(デスゲーム)に挑戦し続けるのか、そう彼女は問うと――――

 

「99回クリアを目指している。死亡遊戯(デスゲーム)の新記録、その樹立を目指してゲームに参加してるだけだ」

「は?そんなことのために……?」

「理解や共感なんて求めていないよ。私はあれだけの目に遭っても、ただ、懲りずに挑戦し続けている」

 

――――やはり完全に正気を失った狂人であった。登山家のように命懸けで山を登るのと訳が違う、死亡遊戯(デスゲーム)は時として他者の命すら奪ってでも勝ち残らなければならない。白士(はくし)の目指す99回のゲームクリア、その為に他の<プレイヤー>の死体をどれだけ積み上げればいいのか、やはり幽鬼には理解できない狂気の世界の住人。

 

「やっぱり、あなたたちは狂っていますね」

 

 死亡遊戯(デスゲーム)の<プレイヤー>とは根本的に相容れない、幽鬼にとって白士(はくし)は理外の存在であることを改めて思い知るのだった。

 

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