「命の恩人という話でしたが、どのような状況で助けられたのですか?」
幽鬼は現状を打開するために、
恋人に異常な執着を示しているので、そこをフックに仕掛ければ絶対に乗ってくるだろうという確信があった。案の定、敬虔な信者が信仰を語りだすような面持ちで、その瞳には狂信を宿して嬉々として彼との出会いを語りだしてくれる。
その内容は、完全に常軌を逸していたものであった。
「お前は死後の世界を見たことあるか?」
「は?えっ、ありませんけど……」
突拍子もない質問に面を食らう幽鬼。悪夢という形でならば、死後の世界を体験したことがあるが、この
「この世界に生まれ落ちた人間が辿る最後の末路。死後の世界は、宗教家が謳うような理想の世界などではない。ただ底なしの暗闇に、私たちの魂は落ちていくのだ。そこに罪も罰もありはしない。虚無のような無意味な世界に、永遠に堕ち続ける。それが私たちの魂が迎える結末なのだ。理解できるか?無意味で、無価値な、救いなき世界を知った私の気持ちが?」
「理解……できるような気がします」
幽鬼は同情の念のようなものを
「私が話しているのは本物の死後の世界だ。この心臓が停止した時、確実にこの魂はあの世に存在していた。永遠の闇に堕ちる恐怖、叫び縋ろうと空を切る手、終わりのない永遠の闇を前にして、人間は覚悟しようと幼子のように最後は泣くのだ。30回目のゲーム、死を予感し覚悟した私に訪れた敗者の末路、大人しく死を受け入れた後に、どれだけの後悔と恐怖を味わったと思う?」
「30回目のゲーム……?」
嫌な予感がした。だが、幽鬼に語る狂人の口は止まることを知らない。
「真っ暗な闇の中、足掻いて足掻いて、何度も手は空を切り、断末魔のように叫び続けた。ただ堕ちていく、底なしの闇へと。怖かった、恐ろしかった、
「それが、ユウ――――
その名を聞いた
狂気に囚われた女性には相応しくない、恋焦がれて止まない男性が現れた時のような、熱に浮かされて、心が華やかに明るくなった表情。まるで思い出を慈しみ、愛でるかのように、右手を胸に抱いて蕩けたような声音で話を続ける。
「そうだ!あの少年が堕ちていく私の手を掴んだのだ!無意味な死後の世界で!少年だけが抗えた!この手を握り、救い上げたのだ!その時、私の心臓が再び動き出し、息を吹き返したことを昨日のことのように覚えている!30回目のゲーム、その記録を見た時、確実に死んでいた私が蘇った姿が映っていた!奇跡だ!そして本物の奇跡を起こす存在を前にして、私は何を考えたか分かるか?」
「少年が欲しい……ですか?」
「あの少年を手に入れれば、私の魂は本当の意味で救われるのだ!死後の世界は虚無で終わらない!
「狂ってますね……」
徹頭徹尾、完全に正気を失くした
殺人に対する忌避感もなく、その上で磨かれた技術。その矛先が幽鬼へと向けられたら、何の抵抗もできずに殺される自分の末路が脳裏に浮かび、
「あぁ、安心しろ。私はお前のことを殺せない。残念なことに、運営は<観客>として
「そうですか……それ、は……ありがとうございます」
何に対する感謝なのか、幽鬼は自分の言葉でありながら分からなかった。だが、目の前の死神が鎌を振り下ろさないことに安堵し、この狂人は律儀にも忠告のような言葉を伝えてくる。
「この話は狂人の戯言だと思っているだろう?まぁ、私も実際に体験するまでは信じていなかった口だからな。だから、ちゃんとお前にも色々と忠告しておくぞ」
「なにを、ですか……?」
「
狂人の戯言と受け流すべきか、本当にそんな事態になっているのか幽鬼は判断が付かなかった。
死後の世界で、ユウタに救われた……?そんな馬鹿な話がある訳……。ただ、それを真実としている
だが、なぜ死後の世界で救う存在のイメージが、恋人であるのか理由は分からない。身近にいる人間や天使や悪魔のような超常の存在などが幻影に現れるのが通常なのに、知名度はあるとはいえただの少年である恋人が<プレイヤー>たちの臨死体験の中に出現するのか。
「伝えたいことは伝えた。あとはそれをどう消化するかはお前次第だ。ダメ元で
「最後に1つだけ教えてください」
背中を向ける
「99回クリアを目指している。
「は?そんなことのために……?」
「理解や共感なんて求めていないよ。私はあれだけの目に遭っても、ただ、懲りずに挑戦し続けている」
――――やはり完全に正気を失った狂人であった。登山家のように命懸けで山を登るのと訳が違う、
「やっぱり、あなたたちは狂っていますね」