名門の学校となれば、生徒たちの出自は誰もが華々しい。
皇族に名を連ねる者、名家の跡取り、大企業の重役のご子息、いわゆる上流階級に所属する両親を持つ子供たちばかりである。そこに平凡な家庭の子供である俺が編入するとなると、やはり窮屈な思いをせざるを得ない。
「ごきげんよう、幽冥さん」
「おはよう、
金髪縦ロールの長髪という、冗談みたいな髪型をしている
外見は完全に悪役令嬢だが、陰湿ないじめはしない上に、そういう品性を貶める行為する輩は絶対に見逃さない。見つけ次第に正面から相手を叩き潰していく、ある種の高潔さが、学校内での人気の高さと地位を盤石にしているのだろう。
そんな
「壮行会の予定は今夜でよろしくて?」
「今夜って言っても、6時半までにはお開きにするがな。早く帰らないと、ユウキに怒られる」
「あぁ……友樹は、幽冥さんのご自宅に居候していますものね」
「俺の体質の関係上、傍に居て1番信頼できる相手だからな」
苦虫を嚙み潰したかのような表情をする
恋人として必死にユウキのフォローをするのだが、それが余計に
「幽冥さんの体質は理解していますわ。ですが、やはり……未成年の男女の共同生活は不健全。よろしければ、友樹の就労支援をわたくしの方から推し進めても良くてよ」
「お互いの両親とも話は付いているから大丈夫だよ。18歳になったら籍を入れるつもりだし、それまで
「やはり、ご結婚……なさる、つもりですのね……ちょっと、気分がよろしくなくて、わたくしはこれで失礼させてもらいますわ」
足元が覚束ないようにふらつく
それを知っても尚、隙さえあれば正面から奪い取ろうとする彼女を、俺は好ましいとすら感じていた。
「今日の壮行会は中止にするか?」
「それは絶対に開催しますわ!それまでに、わたしくの方のコンディションを絶対に整えておきますわ!ですから、約束の時間には必ず出席なさるように……ッ!」
「分かった。体調に気を付けろよ」
廊下全体に響き渡る声量で返事をするので、体調はそこまで心配要らないだろう。
刺々した口調の割には、お互いに妙に馬が合っているんだよなぁ……。
社会性が皆無な恋人が、年頃の女の子らしく会話に花を咲かせている姿。これで電話や、メッセージも頻繁にするのだから、俺以外の対人関係を築けていることが嬉しくなる程だ。口は悪くとも、本気で嫌い合う訳でもなく、お嬢様としての教育を受けてきた
東京に来て良かったことの1つ。少しずつであるが、恋人が人間として成長していく姿が楽しみで仕方がない。
「恋人は友達を作っているのに、なんで俺はぼっちのままなのだろうか……」
自分のクラスに辿り着いて、椅子に座ると話しかけてくれるクラスメイトたちは大勢いる。だが、ここが上流階級が通う名門校であるが故に、高校生らしからぬ打算や計算が見え隠れしているのが、どうしても気になって友人関係が築けない。
俺の保有する資産、運営する会社、それによって得られるコネが欲しいと、まだ子供である彼ら彼女たちは隠し通すのが下手だった。
「あの……私と付き合ってください!」
――――明らかに個人の意思ではなく、家の意向が見え透いている
貴族ドラマのようなドロドロの人間関係が渦巻く名門の学校。
箔付けに入学を進められ、出席日数と成績不問で卒業させてくれることを条件に入った高校は、控えめに言っても大人の社会を子供の邪悪さで煮込んだような地獄のような環境であった。こんな場所を平然と歩み、生き抜く
「ごめんなさい!恋人がいるので無理です!」
この花梨という少女も悪い子ではないのだ。
親の傀儡であり、没落寸前の家名を守るために、わが身を捧げる覚悟で告白している。だが、そんなものに律儀に付き合ってたら、こっちの身が持たない。俺は速攻で告白を断り、ショックを受ける少女に僅かに罪悪感を感じながらも、置き去りにして走り去る。
こういう日は気分転換に学校を抜け出して、一服をしようと東京の街へと俺は繰り出した。
「色々と大変ですね。学校生活というものは」
「名門なんて選ぶんじゃなかったと後悔してるよ。でも、もうマンションも借りちゃったし転校するのも気が引けるしな」
近くのブックカフェで本を読み、コーヒーを飲みながら対面に座る少女と話していた。
最近になって息抜きに通い出したブックカフェの常連であり、奇しくも俺と同時期に通い出した永世という少女。薄い群青色の綿菓子のようにふわりとした髪、文豪のように気難しそうな顔で小説を読みながら、適当に相槌を打ってくれる。
関係としては、たまに会うから挨拶と少しの会話をする知り合い。薄い人間関係であるが、濃厚すぎる学校の世界を見た後だと、彼女の態度は清涼剤のように俺の心を洗ってくれる。
「そういえば、今度、ここで読書会をやるそうですよ。私も参加したいのですが、初めての体験で1人だと心細いので一緒にどうですか?」
「読書会か……俺も初めてだけど、試しに参加してみようかな」
「是非、それでは時間を決めましょう――――」
素っ気ない態度の永世さんと約束を交わした後、こういう学校も仕事も関係ない時間にのびのびするのも悪くないと思いながら、小説の内容が面白かったのか、うっすらと笑う彼女を傍目に、俺たちは本の世界へと沈んでいく。