死亡遊戯で幼馴染を買う。   作:たたたった

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第8話

「あなたは幽冥さんに相応しくありませんわ。身の程を弁えなさい」

「お前に言われる義理はない。部外者が私たちの関係に口を出すな」

 

 幽鬼と御城(みしろ)という少女は、互いに一歩も引くことなく相対している。

 幼馴染との関係に土足で踏み込んでくる御城(みしろ)に、幽鬼の心中は荒れ狂う大海のように穏やかではなかった。顔から表情は幽霊のように抜け落ち、だが瞳に宿す憎悪という感情だけは煌々と燃えている。死亡遊戯(デスゲーム)という死線を乗り越えて彼女の視線は、普通の中学生ならば震えあがらせる程の本物の圧力を与えていた。

 

 御城(みしろ)は僅かにたじろぐが、すぐさまに態勢を整えて平静を装い睨み返す。

 

「幽冥さんの価値を貶めている自覚がありまして?本来ならば、あの方は東京に来ているはずでしたのよ」

「は?何を言っているんですか?」

「あら、あなたは幽冥さんから、何も聞かされていないのですわね」

 

 無知を嘲笑うかのような御城(みしろ)の表情に、幽鬼の噛み締める歯はギリッと鳴る。

 付かず離れず関わらずの関係を幼馴染と築いている幽鬼にとって、必要以上に相手の私生活に干渉をすることはなかった。互いの居心地の良い距離感を保ち、共に過ごすだけで十分に満たされていたのだ。だから、幼馴染の仕事に関しても、パソコンでゲームを作っている程度の認識でしかなかった。

 

 そこを御城(みしろ)という少女に突かれた。幼馴染と言っても、()()()()()()()()()()()、言葉はなくとも態度が雄弁に語っている。そして獲物を嬲る猫のような好奇心を覗かせる少女は更に質問を続ける。

 

「あの方のお仕事について、どれだけのことを知っているのかしら?」

「さぁ?私はユウタの仕事になんて興味ないし、お互いが居れば満たされる、私たちの関係は()()()()()()()()()()

「――――ッ!あぁ……あなたの()()()()()()()()()()()()()()。これは失礼しましたわ」

「あっ?私の代わりなんて、ユウタに居る訳ないだろ?」

 

 醜いマウントの取り合いだと、幽鬼は自覚していた。愚かだと知りながらも、御城(みしろ)に優越感を与えたくなくて挑発するような言葉が自然と出てくる。幼馴染との心地の良い場所を奪おうとする敵、そんな認識で少女と向き合っていると、今にもお互いに掴みかかり合いになりそうな、一触即発の雰囲気となる。

 

「幽冥さんは天才では片づけられない、まさに稀代の怪物と言っても良いお方なのですわ。それなのに、こんな田舎で……あなたさえ居なければ、わたくしの居場所は……ッ!幽冥さんに相応しい女は、このわたくしなのです!なんで、学校にも通わないような社会不適合者が、その居場所に居座っているんですの!」

「知らねぇよ!それを決めるのはユウタ自身だろ!勝手に割り込んでくるお前が間違っている!」

「相応しい存在が、相応しい場所を求めて何が悪いんですの!わたくしは間違っていませんわ!そもそもの間違いは、あなたがあのお方の傍に居ることです!さっさと身を引いて、その居場所を寄越しなさい!5歳の頃より、テレビで観た時からずっとお慕いしていたのです!あの日からわたくしは勉学に励み、容姿だって誰にも負けないほどの――――あらっ?震えていますの?」

「ちがっ――――ッ!これは私の発作だから……ッ!」

 

 怯えるような全身の震えが幽鬼を満たしていた。

 これは死亡遊戯(デスゲーム)の後遺症。あの日を境に、発作のように身体が震えはじめることが起こり始めたのだ。本来ならば心療内科のような適切な医療機関での受診と治療が不可欠であるが、肉体改造された幽鬼にとって病院にかかることは非常に高いリスクが伴う行為なので、対症療法的に幼馴染に抱きしめてもらうことで解決していた。

 

 だが、それが引き起こるタイミングは最悪としかいえない。御城(みしろ)との口論の際に、身体を震えはじめるなど、まるで彼女のことを恐れているように見えるではないか。他者からどう思われようと平気である幽鬼でも、幼馴染に関することで他の少女に引けを取ることは絶対に許せなかった。愉悦と憐憫の瞳で見つめる、御城(みしろ)が憎たらしい。

 格付けが済んだ、と言いたげに満足したように幼馴染の椅子に座りながら、震える幽鬼を愉し気に見物している。

 

「酷い震えですわね。無理に立つ必要はないのではなくて?床で楽になられたら?」

「うるさい。これは心の問題だ。お前が怖くて震えている訳ではない」

「そうなのですか?わたくしの調べでは、社会性に問題がある少女と出ているのですけれど、本当はまともに人と話すことも出来ないのではなくて?」

 

 興信所を使ってまで調査をしたのか、と幼馴染に対する異常な執着を見せる御城(みしろ)に幽鬼は呆れすら感じてしまう。

 自分たちは中学生である。それなのに大人を巻き込み大枚をはたいてまで、幽鬼のことを調べ上げる行動力。そこまでしてユウタが欲しいのか、とこんな少女に付き纏われる幼馴染が不憫であると幽鬼は思った。棚上げする自分のことは意図して無視した。

 

 明らかに御城(みしろ)の中の幼馴染は誇大化されている。確かに幽鬼たちからすれば、幼稚園児の頃から自力でアプリを開発して発売することは突出した才能である。だが、年齢という要素を抜けばその程度のことは他の人間でも当たり前にできるのだ。幽鬼が知る幼馴染は等身大の15歳の少年、幼少期から付き合いのある関係だからこそ彼を正しく認識していた。

 御城(みしろ)の心酔とも言える幼馴染に対する態度は、どう考えても異常だ。

 

 最初はユウタのことを取られるかもと心配した私が馬鹿みたいだ。こんな異常者に惹かれる要素なんてない。

 

 行き過ぎた行為をする御城(みしろ)のおかげで、幽鬼の頭の中は冷えていた。

 震える幽鬼を見つめて、笑っている御城(みしろ)などどうでもいい。完全に他人であると割り切り、そして幼馴染との関係を脅かす脅威にすらならないと判断した。勝手に悪役令嬢らしく振る舞ってろ、と内心で舌を出してベッドの上に転がる。

 

「何をやっているのですの?!殿方のベッドに入るなど、はしたないですわ!」

 

 そこんとこの倫理観はしっかりしてるんだな、と声を荒げる御城(みしろ)を見て幽鬼は思った。気にする相手でもなくなったので、返事をすることなくベッドの上で仰向けになり天井を見つめる。相変わらず、身体の震えは止まらないが、こうやって幼馴染のベッドで横になると彼女は幾分か気持ちが楽になるのだ。

 

「ただいま。お待たせしたね、御城(みしろ)さん――――っと、ユウキも自由にやってるなぁ……」

「おかえり、ユウタ。それと震えているので、身体を抱きしめてください」

「分かった。ほら、ベッドから起き上がって……んっ――――」

「なっ――――ぁっ、幽冥さん……?」

 

 ベッドの上で両腕を広げる幽鬼の身体を幼馴染が強く抱きしめる。震えが収まるようにと、気持ちの強く籠められた抱擁。ほぅっ、とあまりの心地よさに息が零れるのを止められない彼女は、幼馴染に胸板に埋まるように頭を預ける。

 全てがどうでも良くなる感覚、心を蝕む死亡遊戯(デスゲーム)への恐怖も解けていき、全身が安堵によって弛緩していくのを幽鬼は感じた。この腕の中は堪らなく気持ちよく、愛おしい。身体の震えが鎮まっていくのを感じて、もう少しだけ震え続けて欲しいと願う程に、幼馴染に抱きしめられるのは至上の喜びであった。

 

 もうすぐ震えが止まることを察して、幼子の駄々のように身体を無理して震わせる幽鬼であるが、幼馴染にそんなことが通用するはずもなく、完璧な頃合いをみて腕が離れていく。

 

「最近、震えも落ち着いてきたんじゃないか?前だったら、30分以上は抱きしめてないと止まらなかっただろ」

「そうですね。どうやら、心が落ち着いてきてしまったようです……今は、たった5分もせずに止まるなんて」

「発作も収まってきたし、あと一か月以内には完全に止まりそうだな」

 

 幼馴染の言葉に、震えなくなる自分の身体が恨めしく思った。

 あの抱きしめられる感覚を味わえなくなる。この世でありながら、極楽にいるような幼馴染の抱擁。それを失うことが幽鬼にとって堪らなく嫌であった。何とかして死亡遊戯(デスゲーム)の恐怖と心の傷を深めようと、そういう系統の映画を鑑賞してトラウマの育成に精を出していたが、やはり体験に勝るほどの恐怖は感じない。

 

 死亡遊戯(デスゲーム)にもう1度参加すれば……この震えの発作は悪化するかな?

 

 最低の考えが幽鬼の頭の中に浮かぶ。それは同情を買うためだけに自傷するよりも質が悪い。場合によっては他のプレイヤーを犠牲にしてまで生き残る必要がある死亡遊戯(デスゲーム)に、幼馴染の慰め欲しさに参加するなど論外であると、彼女自身も強く自覚していた。

 

 流石にこれはないな。幼馴染を理由に死亡遊戯(デスゲーム)に参加するなんて……バレたら縁を切られる。

 

「幽冥さん。この方が心の病気であるのでしたら、心療内科で専門的な治療をする方が適切ではないかしら?」

 

 悪役令嬢のような嗜虐的な振る舞いはどこに行ったのか、猫を被った御城(みしろ)はこちらを心配そうな瞳で見た後に、幼馴染に余計なことを吹き込む。幽鬼の心の中で、やっぱりこいつは邪魔者だという認識に改め、この件に関しては既に話は付いているので余計な口出しはしなかった。

 

「俺が出来る範囲で何とかなるなら、望むようにさせてるんだ。これで症状が悪化したら、もちろん病院には無理してでも連れて行くが」

「そうなのですね。幽冥さんの貴重なお時間を使って……この方を癒しているなんて……わたくしは感動しましたわ!」

 

 憎悪と妬みを極限まで混ぜ込んだような瞳で幽鬼を見つめる御城(みしろ)が、そんなことなんて欠片も思ってないことが明白であった。そして誇大化どころか神格化までしてるとしか思えない、崇拝のような表情で幼馴染と話す少女に、幽鬼はどこにそんなカリスマが幼馴染にあるんだと疑問が湧き上がる。

 

「変なのに好かれますね……東京に行ったら余計に面倒なことが増えそうです」

「なんか言ったか?ユウキ」

「いえ、私はお邪魔ですのでベッドで少し眠らせてもらいます。話が終わったら起こしてください」

 

 幽鬼にとって御城(みしろ)は脅威でもなんでもない。ただ、幼馴染の価値を貶めているという言葉が、喉の奥につかえる小骨のように、眠りに付く彼女の心に残り続けるのだった。

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