死亡遊戯で幼馴染を買う。   作:たたたった

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第9話

 御城(みしろ)さんを見送った後、部屋に戻った俺はベッドを占領する幼馴染に苦笑した。

 

「起きろ。俺の用事は済んだぞ」

「んっ……あぁ、あの女は帰ったんですね……ふわぁ、短い眠りでしたので寝覚めが悪いです」

 

 胎児のように丸まって、枕を胸に抱きしめるユウキは、瞼を開いたあとにゆっくり身体を起こす。

 お洒落に無関心を示すかのような機能性重視のジャージ上下、その小さな身体は大きく背伸びをして、どこか遠くを見るような視線で胡坐をかく。本人の申告通りに、眠そうで気怠い雰囲気を放っているので、寝覚めの一杯としてペットボトルの水を差しだした。

 

「ありがとうございます。結局、あの女は何をしに来たのですか?」

「あの女じゃなくて、御城(みしろ)さんだ。高校の進学をきっかけに、会社を起業しようって考えてるらしくてな、それで前々から相談に乗っていたこともあって、地元に呼んで事業の詳細についてアドバイスをしてたんだ」

「前々から……?」

「ん、あぁ……初めて会った時は小学生だから、7年近くの付き合いがあるな」

 

 初耳です、と予想外の関係の長さにユウキは驚きの表情を浮かべるが、実際に会って話をした経験なんて数えるほどしかないので、友達というよりも知り合い程度の関係でしかない。

 

 強迫的なまでの1番になることに対する拘り、幼子でありながら高い権力志向という出会った当初の御城(みしろ)さんは、小学生の子供にしては抱え込み過ぎていて、しばらくは心配から連絡を頻繁にやり取りをする仲だった。電話越し、メッセージ越しではあるが、俺は落ち着くまでは根気よく毎日のように話し合って、少女の心の中に巣食う感情と向き合い続けた。

 

 一美(かずみ)か、親からしたら悪意のない、何かの分野で1番になって欲しいという願いからの名付けが、皮肉にも子供を苦しめるハメになるとはなぁ……。

 

 それは第三者からするとたわいのない話。

 親が付けた名前が、自分の在り方を縛り付け。親の願いが、子供の呪いとなる。1番になって欲しいという親心から、あそこまで大きく拗れて御城一美(みしろ かずみ)という少女の心を苛んでいるとは思わなかった。だが、理解して共感さえすれば解消することは難しくない。

 言い方は悪いが、所詮は小学生の低学年女児。大人の汚い口八丁で言い包めて丸め込み、御城(みしろ)が求めているものを与えるとすぐに落ち着いてくれた。具体的には、8歳の俺が作った仮想通貨という『金』と製作したゲームの『権利』。

 そして困った時は君の傍にいて支えると言って、幼い自尊心を満たしたのだ。

 

 未熟な精神だから成立した荒療治、少女の心を誑かしたようなものだが、それでも拗れて歪むより遥かにマシだと信じたい。

 

「部屋に知らない人が居たので驚きましたよ」

「時間的に夕方で、仕事部屋に興味があるって家にあげたんだが……まぁ、問題はなかっただろ?」

「………………えぇ、ただ部屋の居心地がとても悪くなりましたが」

「そりゃ向こうも同じ気持ちだからお互い様さ」

 

 顔も知らない者同士が部屋でかち合えば、さぞ居心地は悪いだろうと、俺は笑って答えた。

 その言葉に凄く嫌そうな表情をしているユウキ。そんなに他人と会うことが不快だったのか、不貞寝をするようにベッドで再び横になって布団に包まってしまう。まるで蓑虫のように頭だけを出して、碧眼の瞳がこちらをジッと見つめて。

 

「次から部屋に人は入れないでください。ユウタの部屋で他人と出会うのは、最悪の気分になるので」

「分かった。今度からは近くの店で会うことにするよ。御城(みしろ)さんも、まだ話し足りない様子だったしな」

「そうですか……やはり他人と居ると心が疲れますね。もう少し眠ることにします」

 

 そう言って、ユウキは背中を向けてしまう。

 銀の長髪が零れる蓑虫。もぞもぞとしばらく動き続けたが、やがて動くことを止めて静かな寝息が聞こえてくる。ベッドから落ちた飲みかけのペットボトルを片付けながら、俺は相変わらず自由人のユウキの背中を見つめて、やはり漂うべき体臭がしないことを不思議に思っていた。

 

 風呂にすらロクに入らないダメ人間の幼馴染が、いつものように漂わせていた柑橘系の腐った臭いがしない。だが、冷静に考えればユウキだってもう15歳の女の子。最低限の身嗜みに目覚めてもいい年齢だ。

 

「お前も成長してるんだな……大きくなったな、ユウキ」

「うっ……んっ、ユウタ……」

 

 手入れもしない癖に艶やかな銀髪。頭を撫でると心地よさそうな声音で、応えるように俺の名前を呼んでくれる。

 幼稚園児の頃からずっと一緒で、中学三年生になっても続いた幼馴染との10年間。これから大人になっていけば、お互いに徐々に疎遠になりやがて連絡すらしない仲になるのだろうか。

 

 俺は東京の高校に進学し、ユウキは地元でニート。噛み合う訳のない両者の生活、俺たちの居心地の良い場所もいずれなくなる。それが堪らなく寂しくなる時もあるが、こういう経験は既に前世で通過済み。どれだけ仲が良く、心地の良い関係であっても、終わりは必ずやってくるのだ。

 ミニ冷蔵からジュースを取り出して、その冷気に晒された時に不意に思っていたことを言葉にしてしまう。

 

「俺たちの関係も、あと1年で終わりか……」

 

――――視界の端で、幼馴染の背中が大きく震えたような気がした。

 

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