違法レース系ウマ娘だって最強になりたい。(仮)   作:寒茜

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WiFiの故障により投稿が遅れました。スマソ。

Fernwehは
「ここではない遠方の地に焦がれる気持ち」
を表す言葉になります。
Wanderlustと似ていますね。



■Another pov:Fernweh

 

 

 

 

 

 

ヴァンダールスト。

 

放浪癖という名に似合った、というか。

アウトローな服を着て、フラフラとふらつきながら、滅茶苦茶な走法で走るウマ娘。

 

しかし、速い。

 

非効率な走り方をしているが、それで地方トレセンの有象無象のウマ娘は突き放せるレベルのスピード。

 

オープン特別、いや、下手したら重賞だって、全く夢じゃない。少なくとも彼女の走りにはそれくらいの力があるのだと。

 

 

俺は昔から、そう信じていた。

 

 

…もし、ここが、トレセン学園だったなら、良かったのだけれど、なあ。

 

 

 

 

□ □ □

 

 

 

俺は、新進気鋭の若手トレーナー。

 

 

 

…という程でも無く、サポートトレーナー歴5年もないくらいの半人前トレーナー。

 

色々なチームを掛け持ちしたり、転々としながらスタッフ的な役割を行なっている。

 

普通、サポートトレーナー職は、新人トレーナー志望が担当を受け持つ前に、半年ほどの研修的な目的のものだ。

 

しかし、俺は、あんまり担当だとか、専属だとか言うものに、熱意がなかった。

 

同期には、既に結果を出したトレーナー、辞めたトレーナー、担当契約前にウマ娘と事案を起こし謹慎中の女性トレーナー…と、それぞれの道を歩む中、俺は未だに手持ち無沙汰でいる。

 

まあ、やる気もないまま煩雑にウマ娘を扱って、その娘の未来を潰すなんてのは、御免だ。

 

だから、好きでサポートトレーナーをやってる、というていでやってる。

 

変わり者と笑われど、トレーナーとして働く理由は、レースをするウマ娘の隣で仕事をしたいから、と、今はもうそれだけだ。

そりゃ、夢の一つや二つはあったが…

それが潰えたのは、まあ、誰も悪くはない。

 

 

…それを誰かに重ねるつもりもない。

 

 

 

今日も今日とてサポートトレーナーとしてのんびりウマ娘を眺める日々を送ろうと思ったのだが。

 

ふと、携帯に知っているような知らないような名前からの着信があった。

 

確か、こいつは…

 

 

 

 

 

…ウマ娘に押し倒されてから謹慎中の同期だ。

 

割と高身長で、イケメンで、鈍い。

思春期のウマ娘たちを無自覚に篭絡する割には、押しに弱く、マイペース。

いくら能力が優秀でも、明らかにトレーナーに向いてないやつだった。

 

多分、女性トレーナーだから精神性のテストを通過出来たんだろうけど…関係なかったなあ。

 

しかも、なんで名前を覚えてるかって、専門校時代の同級生なのだ。

うちの母校出身の職員が軒並み風評被害を食らっていたのを覚えている。

 

ほんとに、なんてやつだ。と思い返した。

 

今更何の用だと思ったが、昔のよしみ的な情でメールを開いてみる。

 

 

久しぶりだとか何とかが書いてある中で、開いた瞬間目に飛び込んできた2行があった。

 

 

『おい 真面目

あのウマ娘 を 見つけた』

 

 

真面目は俺の専門校時代のあだ名だ。まだ使っているのか…。

 

なんて事が気に触ったのは一瞬で、”あのウマ娘”の意味を理解した途端、その文字に身体が吸い寄せられるような気がする程惹き付けられた。

 

『分かった。行く。場所は?』

 

いてもたっても居られなかった。

二つ返事で了承した。

 

『武蔵野の競バ場 地下の方 会場前の門で待ってる そこのレースに出るらしい 気をつけて来いよ』

 

返信はすぐ帰ってきた。

 

驚いた。競バか。

まあ、仕方が無いことなのかもしれないが。

 

行ったことが上にバレたら色々言われる気もするが、最早そんなことはどうでもいい。

 

『了解だ。返信不要。適宜連絡する。』

 

『目的の為なら法を犯すのが ”真面目” かあ

私の方がトレーナーに適任では?』

 

『返信不要つっただろうが。』

 

少なくともお前よりは真面目だ、

とも言いたかった。

 

 

…まあ、でも、それだけ大切なことなのだ。

 

 

 

□ □

 

 

 

そうして、今に至る。

 

「いや、良かったなあ真面目。私のおかげでさ。感謝してね?」

 

「まあ、こればかりは本当に感謝しているよ。」

 

 

”ヴァンダールスト”…か。

 

会えたという程でも無いが、一目見れただけでも俺は嬉しかった。

彼女が強いまま、走り続けていることは、もっと嬉しかった。

 

「アルちゃん。だったっけ?意味わかんねえ略し方だよな。これ。」

なんだそれは、と一瞬思ったが、思い出した、俺がつけた彼女あだ名をこいつは未だにいじっている。

 

ヴァンダーの伸ばし棒でア、ルストのルで、アルちゃんなのだ。確か。

 

意味わかんない名前だって、彼女に笑われたのを覚えているし、意外と気に入って、自分で『アルちゃんである』なんてことを言い出したのも覚えている。

 

…今思い返せばちょっと恥ずかしいな。

 

「やめろよ…。なに、何が言いたい。」

 

「いや、良かったなあ。ってだけ。幼馴染なんでしょ?」

 

俺が小学生の頃、彼女もまた、同じ小学校に通っていたし。彼女の家も、向かいのその隣くらいで近く、仲が良かった。

 

家の前の通りで一緒に遊んでいたことを思い出す。

 

彼女の夢は、「世界一のウマ娘になること」

 

よく、そんなことを言っていた。

 

子供らしい不相応な夢と片付けてしまえばそれだけだが、幼い頃の自分にはその意思がとても尊いものに見えた。

 

実際彼女は速かったし、なにより、当時の俺の視界の中では彼女が世界一のウマ娘だったから。

 

勿論、今もそうだ。

 

 

 

…俺の本当の夢は

ヴァンダールスト(世界一のウマ娘)のトレーナーになること」

”だった”のだ。

 

まあ、その、結局どちらの夢も叶わなかったという訳である。

 

「お前、トレーナー1年目とかの時、そいつが走るのをやめたとかなんとかで、一時期ずっと「アルちゃんが〜、アルちゃんが〜」しか言ってなくて、正直、引いたよ。」

 

「…うっせ。」

 

「マジでずっと言ってたからな、それは流石にこっちのセリフだわ。」

 

彼女は、トレセン学園に進学をしなかった。というか、どこの高校にも行かなかった。

 

学費が足りなかったから、らしい。

 

風の噂だ。

確かにまあ、彼女の家が豊かでなかったのは知っていたが。

 

トレセン学園に就いてから忙しくて、彼女も携帯を持っていないものだから、連絡も取れず。

久しぶりに家を訪ねたら、いつのまにか居なくなっていたのだ。

 

今でも思い返す度に、心の中がざわざわと揺れるような感情が湧き出てくる。どうしようもなくて、舌をかみ切りたくなる。

 

ひとつ、上京したという話だけ、彼女の祖母から聞けたとて、見つかる訳もなく。最早2年くらい前には、いよいよ諦めていたのだが。

 

 

「本当に…ありがとう。」

 

「あ、酒も飲んでないのに、真面目が泣いてる。珍しっ。」

 

違法競バとは言え、彼女がまだ走り続けて活躍していることが知れただけで、俺は満たされた。

 

…同じくらいのやるせなさもあるが。

 

今なら学費の援助も出来るが、トレセン学園への編入は、地方や海外などの、他の学園からしか受け付けていない。

 

受け入れなければいけない現実。

 

でもそんな中で、俺も、”ヴァンダールスト”も夢に縋って生きている。

 

…競バ界では、女王と言われているらしい。

 

世界一でなくても、

歪な形だとしても、彼女は最強なのだ。

 

俺はそれで、

”夢が叶った”と形容するつもりは無いが…

 

 

「よし、行こう。」

 

「え、裏口とか行けばワンチャン会えるけど、行かんの?」

 

また1つの道を選んで進む彼女の意思を、俺は、未だ、何よりも尊いと思う。

 

それに、トレーナーになって沢山のウマ娘見てきたが、やはり記憶の中の”ヴァンダールスト”は、俺の中での世界一なのだ。

 

だから、

 

 

「いい。」

 

 

俺も俺の道を全うしようと思った。

 

そういう覚悟を決めることにした。

 

「そ…わかった。」

 

彼女の姿を見て、俺も情熱を取り戻したのだ。

 

 

「じゃあ。また。」

 

「んじゃな、真面目。」

 

 

やっと、

”真面目”が似合うトレーナーになった気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから、また一ヶ月くらいが経ったか。

 

あれから俺は、心を入れ換えて、担当ウマ娘を探している真っ最中だ。

許可については、余裕で承諾どころか、寧ろ歓迎というか、理事長が扇子の表裏に、”狂気”と”乱舞”を書く位には喜んでくれた。

 

なんだか期待してくれていたようで、少し、今まで何もしていなかった自分が恥ずかしいような、でも、嬉しい限りである。

 

因みに、同期のアイツも復帰して、同じように探しているらしい。

評判が最悪すぎて、探してるというか、最早逆スカウトを待ってるとか言っていたけれど。

 

担当探しは、もちろん、サポートトレーナーとしての仕事も、こなしつつ、だ。

身体がなまると良くないから。

 

正直、去年の自分の2倍くらいは忙しいが、やりがいはその2倍、いや、そのさらに2倍はくらい。

これがトレーナーというものかと、この仕事の楽しさを、6年目になって初めて理解した気がする。

 

今、俺はとても幸せなのだ。

 

今日中の仕事と、明日中の仕事の半分を終えて、さて眠る準備をしよう、と思った時。

 

 

 

 

 

 

ーーーふと、インターホンが鳴った。

 

 

 

 

…まあ恐らく、宅配だろう。

昨日、確か備品を頼んでいたはずだ。

 

設備が古く、外を見れるモニターなんて言うものは無いのでわざわざ玄関まで行く必要がある。

 

軽く鏡で自分の姿を見直して、前髪だけ少し整えてから、今行きますと、返事をした。

 

 

 

 

歩を進める度に大きくなるドア。

 

 

 

 

 

サイン用のペンを持って開ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーヴァンダールスト、だよな…?」

 

 

「…”アルちゃん”って呼ばないの?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…なんで?







(男トレだと事案が洒落にならないから、文章据え置きで女トレに変えたら、やたら個性が強くなったなんて言えない…。)
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