違法レース系ウマ娘だって最強になりたい。(仮)   作:寒茜

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本当は、次の話と合わせて一話分として投稿する予定でしたが、文字数が多すぎてやむおえず分割。

(Nachtは、ドイツ語で”夜”という意味です。)


Nacht

 

 

「へえ、ヴァンダールストさん、って言うんですか!いい名前ですねえ。」

 

なんて、ショートヘアのウマ娘は言う。

意味もわかってないのに、お世辞を言えるのは、育ちの良さからだろう。

 

名前、学年、クラス、出身地なんかを聞かれたが、名前以外は全部適当だ。

が、彼女らは同じように信じていた。

 

良くもまあ、その辺の道端にいたウマ娘の言うことをスラスラと飲み込めるものだな、なんて思った。

 

「ヴァンダールスト…って名前は聞いたこと無かったわ。ごめんなさい。」

 

そりゃあ、私、トレセン学園の生徒じゃありませんから…。

寧ろこんなお嬢様達が、私の名前を知っていたらそれはそれで怖い。

 

 

 

「…おおっ!寮の門が見えてきましたね!」

 

「…ヴァンダールストさんは、栗東寮じゃないですよね?たぶん、見たことない。」

 

恐らくこれは彼女らの寮の名前なのだろう。

 

「うん、だから私はここでさよならかな。わざわざ一緒に来てくれて、ありがとうね。」

 

変に詮索をされるとボロが出るので、とりあえず首を縦に振ることにした。

 

「それじゃあ!また、会いましょうね!!」

 

ショートのウマ娘は大きく手を振った。

 

「…またね。」

 

ロングヘアのウマ娘は静かにこっちを見つめた。

 

私は、1度見たらもう振り返らず、黙って寮門を後にした。

どうせ、もう会わないから、変なことを言うのはやめておいた方が良いと思った。

 

…もし、私が学園に入れていたら、今ごろあの娘達と一緒に走っていたのだろうか。

 

レース、という単語を聞いて希望しか抱かないような。そんな、彼女達の瞳は澄んでいた。

 

私もあんな風でありたかった、と思う。

 

生きるためじゃなくって、

 

ああいう、”ウマ娘”として、走れたら。

走るために、走れたら。

 

…そして、共に走る相手も、願わくば、そういうウマ娘だったら。

 

私はライバルというものを私は知らなかった。

 

地下競馬場の狭苦しいパドックの中では、誰もこっちを見やしない。

私もそうだ、みんな余計な事に目が眩んでいる。

 

本当に、競バ界にはろくな人も、ウマ娘も…

 

 

 

 

 

 

…余計なことを考えるのはやめよう。

トレセン学園の生活に、少しだけ触れられただけでも、私は満足なハズだ。

 

本当はそのまま不法侵入をしようと思っていたのだけれども…まあ、流石にバ鹿だ。

 

叶わない夢に変に縋り付くよりも、先ず今日の野営地を探さなければならないのだ。

 

そうやってふらふらトレセン周りを歩き回っていると、ひとつ、目に付く建物があった。

 

大きな門の隙間から覗く姿は、寮とも校舎とも違う。

広い敷地内には、倉庫のような風貌の平屋がいくつも立ち並んでいる。

 

門前の蛍光灯は表札を照らしていた。

 

 

 

 

 

トレーニングセンター…トレーナー棟?

 

 

 

 

 

…ああ、そう言えば、今、中央でトレーナーをやってるんだっけ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーー門を飛び越える影が一つ。

 

月明かりに照らされ、宵闇を切り裂くように。

 

おもむろに。

いてもたっても居られなくなったから。

 

門の脇の壁に、所属トレーナーと、その個室の番号が書かれてあった。

 

…会ったって、何かが変わるかは知らない。

 

でも、行かないと、絶対、二度と会えない。

そんな気がした。

私は行かなくちゃいけないって。

 

そう、強く思った。

 

 

…何度も書いて、何度も口に出したことのある名前が、個室のドアにレリーフで刻まれている。

その窓からは、微かに光が漏れていた。

 

浅い呼吸を押し殺すように、息を飲んだ。

インターホンを押す指を、何度も見返す。

 

 

 

あの人はーーーーー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さっきまで夢の中にいたウマ娘が、今、俺の目の前でぐっすり眠って、夢を見ている。

…”女王”は、自分の城を失ったらしい。

 

ここに来るまでのことは話してもらった。

 

未成年のウマ娘を自室に泊めるというのは、正直、警察のお縄にかかっても文句は言えないような案件である。

でも、彼女の話を聞いた上で俺はこうするのが最適だと思ったのだ。

 

腰掛け椅子に、背中からもたれかかる。

 

 

『泊めてよ』

 

彼女は、二言目にはそう言った。

聞いた瞬間は驚いたものだが、話を聞けば納得できない話ではない。

 

例え幼馴染でなくとも、2年間も家無しの生活に耐えてきた少女を、ここで放り出すというのは、まともな人間のすることじゃない。

 

言い訳をするならそんな感じだろう。

 

 

彼女の方へ目をやる。

少し目がうるんで、ぼやけて見えた。

 

 

…まあ、正直に言うと、俺だって嬉しいのだ。

 

情を含んだ判断だったのも間違いない。

 

二度と会えないと思っていた幼馴染と、5年ぶりに言葉をかわせたのだから、嬉しいと思わない方がおかしい。

 

だからと言って、別に、何かが変わるものでも無いが。

 

 

 

…しかしまあ、泊めたはいいのだけれど、当然、また、処理に困るもので、うーん。

 

ヘタに動くと俺のトレーナー生が詰みかねないからな…。流石に謹慎野郎と同類になるのは嫌だし。

 

なんて、そんなことを考えていたら

 

 

 

 

 

 

 

ーーーまた、インターホンが鳴った。

 

渦巻いていた複雑な気持ちを掻き消すように。

 

 

今度は、ドア越しに声が聞こえる。

 

 

 

 

 

 

 

 

『駿川たづなです〜。』

 

 

 

 

 

 

 

 

…ああ、詰んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

□ □ □

 

 

 

 

 

 

「疑惑ッ!!これは、一体どういう事だ!」

 

 

 

鬼の形相、という言葉は似合わないが、その幼い顔でも、情は伝わってくる。

ただまあ、どちらかと言うと作ったような雰囲気の怒りっぽく、秋川理事長らしい。

 

一方、当の本人は、寝起きのボーッとした顔で突っ立っているまま、動じたようすもないというか、我関せず、というか…。

 

 

「あまり、余計なことは言わずに、正直に申し上げられた方が、早く終わると思いますよ。」

 

駿川たづなも、一見するといつも通りの笑顔だが、言葉の節々や、不自然に動かない表情筋が、彼女の怒りを物語っている。

理事長よりも、こっちの方が断然怖い。

 

「…君ほどのトレーナーが、理由もなしにこんなことをするはずが無いだろう。と、私はそう考えているが…何か弁明はあるか?」

 

突き刺すような鋭い視線は、矛先を変えない。

…情状酌量の余地があるだけ、良い方だと考えようか。

 

「ええと、先ずそちらが、今回の件をどう認識なさっているのかを、教えていただけますか?」

 

「どう認識なさっているか、と。いや、何も、見ての通りですね。」

 

とりあえず、適当にはぐらかしてみる。

 

「…少し形は違うかもしれませんが…御友人のことはもう忘れてしまったのでしょうか。印象深い出来事、でしたよね。」

 

駿川たづなは、ウマ娘の未来を守ることを信条にしているだけあって、こういった内容には厳しく、特に疑り深いらしい。

気に触って、余計機嫌を損ねるだけだった。

 

「あなたには、期待していたのですが。」

 

彼女は高圧的な態度で話を続ける。

 

まあ、少し遠回しな言い方ではあるが…

 

 

「…俺と、ヴァンダールストの関係について、ですか?」

 

 

その名前を発した時、ほんの少しの動揺が彼女らにみられた。

 

 

「…ヴァンダールスト。」

 

 

競バ界と、URAの繋がりに関しては、まあ、黒い噂が絶えないところがあった。

十数年前くらいの話にはなるが、競バ界を支配する団体と、URA理事の半数の癒着が判明して、大きな信用問題になったことがある。

 

前理事長の代からは、URA自体が競バ摘発へと動くようになって、レースゴシップ界隈も下火らしいが…それでもまだ、疑念を持つものも多い。

 

「…もしかして、競バをご存知で。」

 

URAとしては、あまり触れたくない目の上のたんこぶ、だから知っているのだろう。

当然、彼女のことも。

 

 

「ふむ、やはり、そんな単純な話では無いようだぞ、たづな。」

 

 

秋川理事長は”疑惑”と書かれた扇子をひらりと裏返す。

 

 

「理解ッ!…競バについては当然、知っておる!勿論、その、ヴァンダールストというウマ娘のこともな。」

 

 

「…しかし、何故そんなウマ娘を匿ったのですか?競バというのが、非公式、非合法、であって、間違ってもトレセン学園の生徒ではない、ということは、知っているはずですが。」

 

 

駿川たづなの表情が、より冷たくなる。

 

 

「かのご友人の時は、まだ教え子でしたから、世間からの批判もまあ、思っていたほどはありませんでしたよ。ですが、教え子でも、生徒でもなく、犯罪者と…」

 

 

 

 

 

「…よくもまあ、そんなに口が回るな?」

 

 

 

 

ーーーヴァンダールストだった。

 

さっきまで、ボーッと立ち尽くしていた彼女が、いつのまにか、駿川たづなの一歩前、と言ったところまで近づいてきていた。

 

暴力的な行動に出ようとする様子は無いが、明らかに口調が、キレた時の彼女だその仕草も、負けず嫌いな性格も昔から変わらない。

言われっぱなしなのが気に入らないのだろう。

 

まあ、俺も同じような気持ちではあるが。

 

 

「…静粛にッ!!どちらもだッ!たづなも、ウマ娘を守りたいという気持ちは分かるが、言い過ぎだ!」

 

 

秋川理事長が、パチンと、分かりやすく大きな音を立てて閉じる。

 

「…と言うか、気持ちが行き過ぎるあまり、ウマ娘まで傷つけるというのは、お前の信条に反するんじゃないのか?」

 

「…申し訳ございません。理事長。」

 

駿川たづなは1歩退き、帽子を深く被り直す。

 

「…。」

 

ヴァンダールストは少し清々とした様子ではあるが、依然として不機嫌なままだ。

 

…こういう器の大きさというか、芯の強さは、彼女が幼いながらも理事長になった理由を感じさせる。

 

「…事の詳細を教えてくださりますか?」

 

不機嫌さを覆い隠しながら、駿川たづなは言った。

 

俺は、声の調子を整える。

 

 

 

 

「ーーー彼女は、学園の入学希望者です。」

 

 

 

 

 

 

 

…少し、考えがあるのだ。

 

 

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