「おや、こりゃぁなんだぁ?」
トレーナーの私物が入った箱に、トランセンドが手を伸ばす。
「ああ、それは俺の高校の時の卒業アルバムだな」
「ふむふむ。ある意味では情報の宝石箱・・・どれどれ。おーおー。流石に今よりは若いですなぁ」
「そりゃあもう卒業して10年近く経ってるしな」
トランセンドが食い入るように見ているのは、トレーナーのクラスの写真だった。
「で、どの子がお好きだったんで?」
「ん?」
「トレちゃん前、高校の時の友人とはそこそこ気が合ったみたいなこと言ってなかった?」
「気が合ったというか、まあそれなりにうまくやってただけだよ。そんな、誰かと特別仲が良かったなんてことは」
「ほーん」
トレーナーはそう言いながら、嫌な直感を感じた。
もう10年近く前の事だからこそ、あの時何が起こっていたかを正確には思い出せない。
「もう、いいんじゃないか?そこにそんな重要な情報は」
「いんやぁ。随分と人気があったんですねえ・・・寄せ書きコーナー。こんなにたくさんの人から。しかも女子からのが多い事で」
「・・・恥ずかしいな」
ふふ、とほほ笑むトランセンドに、「トイレ行ってくる」とトレーナーが部屋を去った。
トランセンドは何かを思いついたように机の方へ行き、ペンをとって元の位置に戻った。
「さて」
トイレから戻ったトレーナーだが、何を隠そうここはトレーナーの自宅である。
卒業アルバムをトレセン学園に持ち込む道理はない。
トランセンドは「お互いを知ることは大切」と言い張り、トレーナーもトレーナーで「一理ある」として自分の家に来ることをよく許諾していた。
「“最新”がお好きなトランさんが、紙媒体なんて古いものにそんなに関心があるとは」
「いやいや。私が興味があるのはトレちゃんに関する情報だよ。だって、危ない情報が浮かび上がってきたら、契約解消も視野に入れなきゃいけない」
「やめてくれよ。せっかくここまで一緒に頑張ってきたのに」
「冗談だって。天地がひっくり返ってもそんなことしませんよ」
「お、それは結構思い切ったな」
トランセンドは自分で言って少し恥ずかしくなった。
確かにトレーナーへの信頼も、思いも強い。だが、何より無意識が語らせる言葉は恐ろしい。
「でも確かに、人気があったというだけで特に誰かと・・・みたいなのはなさそうですねえ。残念」
もちろん、彼女は内心少しほっとしているところがある。
「この中に今でも付き合ってる恋人がいると言ったら?」
一瞬、トランセンドの動きが止まる。
「別に驚かないよん。トレちゃんはトレちゃんの人生が」
「必殺、冗談返し~」
「むむむ。やりますねえ。卒業アルバムのわずかなページだけで、小さな情報戦が展開できるとは」
トランセンドとトレーナーの何気ない日常。
しかし、トレーナーはかなり後になって気づく。
卒業アルバムの寄せ書きコーナー、やけに新しいインクで書かれた文字に、一言だけ。
「一生忘れられないあなたへ 未来の担当ウマ娘より」