暗黒錬金術師伝説9 暗黒!ライザのアトリエ 作:dwwyakata@2024
そのライザ達の、始まりのお話です。
後に強大な侵略性外来生物の群れを仕留め
多くの業績を残し
千年の因縁を断ち割る偉大な錬金術師も、そのスタート地点はただの悪ガキ集団のリーダーだったのでした。
そんなライザ達の師匠となる錬金術師アンペル。異界オーリムの住人リラ。
その二人の戦いから、この物語は始まります。
プロローグ、絶対的侵略者
それは生物でありながら生物ではなく。
どのような生物とも違っていながら。どのような生物とも同時に相容れない存在だった。
悪魔と人間達は呼んでいたが。
その呼び方を聞く度に、オーレン族のリラは怒りに身が震える。
ともかく、駆逐するしかない。
「そっちにいったぞリラ!」
「分かっている!」
この者達に、全て滅ぼされた。
同族は皆殺しにされ、今はリラだけが生き延びている。
見えた。
あれは、斥候か。
だったら、なんとかなるだろう。将軍となると、正直今のリラではとても倒せない。せめて仲間達がいれば良かったのだが。
白牙の氏族は数十年前に敗れ、もう生き残りはリラだけだ。
リラを認識したそれが、即座に殺戮に体を切り替えた。
犬のような姿をしていた形が、一瞬にして棘だらけになる。
射出してくる棘を、全弾回避。
かなり傷ついてはいるが。
これに生物としての常識は通用しない。
蹴りを叩き込み、体を拉げさせる。
ぐらつくが。
体の芯を砕いてやったのに、「斥候」は怯む事もなく、周囲に殺戮の限りをまき散らし続け。
多数の動植物を見境なく殺傷する。
気迫とともに、「斥候」を蹴り上げると。
同じようにして此奴らと戦っているアンペルが、投擲していたものが見えた。
フラムと呼ばれる火焔爆弾だ。
それも、生半可な火力では無い。
音が消え。
そして、周囲を爆炎が蹂躙していた。
文字通り、粉々に消し飛んだ斥候。流石にこれなら、死ぬ。
これで、五匹か。
まだ斥候が出て来ている段階だったら、対処のしようがある。周囲の惨状には敢えて目をつぶる。
戦闘には優先順位が必要だ。
今は、この周囲に出て来ている斥候を全て潰す事。
それが優先順位。
アンペルは「真社会性」といったか。
リラが戦っている存在は、そういうものを持っている。
だが、生物とは決定的に違う。
リラも詳しく正体は知らない。或いは、氏族の頂点に立つ長老であれば知っているのかも知れないが。
息を切らしながら、相棒の人間が来る。
アンペル。
錬金術師の男だ。
古代クリント王国の錬金術師だったら、即座に息の根を止めていただろうが。これは違う。
最初は激しい戦闘になったが、今は利害も一致しているので一緒に戦っている。
もう何十年も。
「相変わらず頼りになる」
「それはいい。 奴らの残数は」
「今の時点では、「門」から此方に来ている個体は全て片付いた筈だ」
「そうか……」
すぐに門を直す。
そう言われて、リラは頷く。こうやって、幾つも門を封印してきた。
門は森の中にあり、朽ち果てている。幸い「聖堂」は無事だ。アンペルが解析する間、リラは門を見張る。
アンペルが、周囲の石を動かしている。
これらの石が、門を制御する仕組みらしい。
何の気もなく、森の生き物たちが動かしてしまったのだろう。その生き物たちには罪は無い。
罪があるのは。
この門と、聖堂を作った後。
管理方法も残さず、勝手にいなくなった連中だ。
門の操作が終わる。
後は幾つかの封印を施して、それで完全に此処での作業は終了。石にも、触ると弾かれるように魔術で仕掛けを施した。
獣はリスクがある行動は取らない。
だから、これで大丈夫の筈だろう。
「よし、これで状況も落ち着く筈だ」
「それでも、しばらくは警戒が必要、だったな」
「そうだ。 数日はこの辺りで野営になるんだな」
「そうか。 甘いものが食えないのはしんどいが……」
アンペルは無類の甘党で、近くの人間の集落に行くと甘いものばかり食べている。昔はその甘いものも自分で錬金術で作れたようだが。
残念ながら利き手を事故で潰した。
今は、ほとんど昔と同じ事はできないそうだ。
果実の類を喰えと薦めるのだが。どうも人間の甘い料理の方が好みのようで、特に「ドーナッツ」と呼ばれる甘い菓子ばかりを食べている。リラも嫌いではないのだが、この異常な甘党についてはいずれ体を壊さないか心配だった。ただでさえ、体を既に破損しているのに。
利き手が潰された結果。錬金術師としても、最低限の事しかできないのだアンペルは。
知識を生かすこともできない。
今では最低限の錬金術を使っての支援と。元々の能力を使っての戦闘が主体になっているが。
ただ、その能力を使った戦闘力が磨き抜かれているので。
リラでも侮り難い。
見た目は細くて、とても戦士には向かない若造なのに。
中身は、人間で言う年齢も含め全てが一致していない。
もっともリラも、人間から見た年齢と実年齢が全く一致していないので。この辺りは良いコンビなのかも知れなかったが。
アンペルに火を熾すように頼むと、リラは森の中に行き、被害状態を確認。
奴らが残した残骸は、一つ残らず回収して水に放り込む。
これで完全に殺す事が出来る。
水、か。
まあ水もあるから、斥候の出現もあの程度の規模で済んだのだと言える。そうでなければ、もっと大軍との戦闘を強いられていただろうし。季節次第では手遅れになっていただろう。
その後は、あちこちを見回って、残骸がないか確認する。
残骸を何かが食べでもしたら、大変な事になる。
幸い戦闘の経緯は全て覚えている。残骸が飛び散った辺りからは、既に獣も駆逐されていた。
人間が魔物と呼ぶ、人間を毒などの搦め手無しで殺傷できる獣ですら、此奴らには手も足もでない。
そして獣は、此奴らを本能的に怖れるようだ。
まあ当然だろう。色々あったのだから。
戻るとアンペルが既に火を熾していた。
丁度獣を仕留めてきたので、かついで持ってくる。
まだ若い羊だ。
リラが何の躊躇もなく食べるための獣を殺すのを見て、昔はアンペルは眉をひそめたものだったが。
今は吊して捌いているのを見ても、何も言わない。
てきぱきと捌いて、燻製を作る。一番美味しい部分は今のうちに食べてしまう。
リラは硬い肉が好みなので、肉がしっかり焼けるまでは骨を割って髄を出したり。或いは皮をなめして時間を無駄にしない。
その間、先にアンペルは肉を食べていた。
「やはり甘いものが食べたいな。 頭が回らん」
「そういうな。 しばらく野営した後は、近くの街に行く予定だろう。 其処で買えばいい」
「それはそうだが……そもそも追われる身であるしな」
リラとアンペルは、「問題行動」ばかり起こしている。
今やっている門の封印作業はそうではない。というか、これについては誰も認識すらしていない。
リラは最初、この世界のルールが分からなかった。
だから散々問題を起こしてしまった。
その度にアンペルに説明を受け、ややこしいルールの数々に辟易したものである。
アンペルはと言うと、そんなこの世界に満足しているかというと、とてもそうでもないらしい。
利き腕を潰された「事故」の経緯もあるのだろうが。
この世界の人間の集落は、腐っている事が珍しくもないのだ。
アンペルはそういった集落に対して辛辣だ。
搾取を繰り返す金持ちの金庫を爆破したり。
奴隷として使われている者達を解放して、陽動として街に火をつけたり。
そういう事をするから、一つの集落に長くいられない。
捕まることもあるが。
そういう場合も、今まではどうにか脱出してきた。
「リラ、一つ収穫があった」
「聞かせてくれ」
「古代クリント王国時代の図だ。 この辺り……かなり広域に渡る図で、門のありかを示しているとみて良い」
「それは良い収穫だな。 それで」
地図というか、石版だが。
食事の後に、案内される。
壁に書かれている図を見て、リラも即座にこの辺りの地図が刻まれていると理解した。
古代クリント王国の連中は、文明に驕ったどうしようもない奴らだらけだったのだけれども。
此処にある図は、石版に刻んだ原始的極まりないもの。
もはや、これを残すのが精一杯だったのだろう。
自業自得ではあるが。
それなら、もっとしっかり残せと言いたくなる。
「今まで封印してきた門の位置と一致している」
「そのようだな。 それで次は何処を潰す」
「この順番に確認していく。 門が開いているケースもある可能性が高い。 出来るだけ急がなければな」
頷くと、すぐに遺跡を後にする。
古代クリント王国の時代。
人間は、もっと巨大な国家を構築し。人間の数も現在の百倍を超えていたという話だ。
それが今では、城壁で覆った都市国家や、様々な防塁で魔物の侵入を防いだ集落しか維持できず。
その間を通す街道すらも、警備が怪しい有様である。
このため大規模な護衛をつけた隊商で物資を輸送しているのだが。
それすらも、魔物の襲撃を受けて壊滅する事が珍しくもない。
人間の最大拠点である「中央王都」とやらでも、周辺の街道を機能させるのがやっとであり。
南北はその街道すら機能していない有様だ。
それほど、門によって来る奴らの脅威が大きいという事である。
今回封じた門だって、少し来るのが遅れていたら。奴らの軍勢が此方に来ていたかもしれない。
それをさせないのには、幾つも理由がある。
此方でも奴らに繁殖されると、ただでさえ絶望的な戦況が、更に絶望的になること。
それに、別にリラは古代クリント王国は恨んでいるが、この世界の今の人間はどうでもいいこと。
門を防ぐにはアンペルの知識が必要で。
利害が一致していること。
それらが理由だ。
数日かけて、野営して。周囲を徹底的に探り。更に門の安定を、アンペルが強化していく。
その後、この場所を離れる。
街道に出ると、少しは安全になるが。それも、少しでしかない。
何度も何度も同じ事を繰り返して。その度に衰退していったこの世界の人間の自業自得とも言えるが。
今は、それがリラにもアンペルにも、向かい風になっていた。
数年を掛けて、別の門に辿りつく。
幸い奴らの姿はなかったが、非常に「聖堂」の破損が酷く。また盗掘されているようだった。
別に盗掘なんかどうでもいいが。
此処がどういう場所なのか理解せず。
此処にあるものが何の機能を持っているか理解もせず。
ましてや、盗賊となって巣くっている事については、もはや申し開きもしようがないのが事実だった。
皆殺しにするか。
そう思って、殺気立つ盗賊達に対して前に出るリラだが。
アンペルがとめる。
ただでさえ、人が少ない時代だ。
無駄に殺すな。
そういうのである。
今は、もはや人間の文明が崩壊寸前まで来ている。過去の遺産を食い潰しながら、この辺り……ロテスヴァッサだとかいう国家だそうだが。その国家はなんとか人間が生きている状態なのだ。
アンペルが、交渉を始める。
盗賊共はここがドラゴンを使っても駆逐出来ないようなとんでもない存在の出現地点である事を説明されると、最初笑っていたが。
アンペルが順番に説明していくと、徐々に青ざめていった。
「そ、そういえばお頭。 この辺りの誰も歌える童歌……」
「聖堂は悪魔の巣で、絶対に近付くなとかいう奴だろ。 だったらなんだってんだよ」
「ぜ、全部特徴が一致していると思わないすか?」
「……」
古代クリント王国は、理由はわからないが。奴らの存在を徹底的に隠蔽した。
結果として、「悪魔」の伝承だけが各地に残った。
此処も、それは同じだ。
乾期に来て、何もかもを踏みつぶし、貪り尽くしていった「乾きの悪魔」。
それが、空の星の数よりも多く来る。
破滅からどうにか生き残った人間は、古代クリント王国が隠蔽した事実を知らず。ただ、自分達に起きた出来事を歌にしたりして、子孫に警告したのだ。
何処何処には近付くな。
乾きの時期には気を付けろ。
そういって、各地にある門は、まだ状態がましな状況にある。
こういった、積極的に破壊されているもの以外はだ。
「し、しかしどうすれば」
「まだ手遅れになる前だ。 私がどうにかする」
「でも、此処を出たら住む場所なんかねえ!」
「此処に住み着いていたら、お前ら全員「悪魔」の餌だと言っているだろうが!」
アンペルが怒声を張り上げると、それで盗賊共はすくみ上がった。
後は、全員が聖堂を出て行く。
どこに行こうと知らない。
この周辺にある街の有力者はくだらない男で、富を奪って自分だけで独占している。あの盗賊共は、やっていけなくなって街を出た連中だ。
そういった連中は、遺跡を占領して独立勢力を気取っている程度の堕落で済んでいる内は良い方。
やがて街道に出ては旅人を襲い。
最初は身ぐるみ剥ぎ。
その内口封じに皆殺しにするようになり。
最後は殺した人間を喰らうようになる。
旅の最中に、そういうの、いわゆる「匪賊」と何度か交戦して、殲滅してきた。
さいわい、今の連中は、そこまで落ちる前のようだが。今後、どうなるかは分からない。
アンペルは咳払いすると、頭領に耳打ちする。
何か知恵を授けたのだろう。
頭領は礼をすると、急いでこの場から離れる。部下達も、少し迷ったが。すぐにその後を追っていった。
後は、門の封印をする作業だけだった。
「放っておけば最悪匪賊になるぞ。 始末してしまっても良かったのではないのか」
「あの街の領主のクソッタレぶりは俺も知っているからな。 街の警備については知っているから、それを教えてやった。 上手くやれるかは、彼奴ら次第だ」
「そうか……」
アンペルは気持ちが昂ぶると、口調が荒くなる。
まあ、それは誰でもそうなのだろうが。
リラと同じように、見た目の年齢と実年齢が一致していないぶん。
色々と精神の基本構造に齟齬をきたすのかも知れなかった。
後は協力して、聖堂を復旧する。
幸い、破壊は致命的ではなかったから、修復は数日で完了させることができた。
後はアンペルが手を尽くして結界を張り、それで終わり。
余程の事がない限り、この門を破壊される事はないだろう。
さて、次だ。
また時間を掛けて、別の門へいく。
次の門は場所が分かっているからまだいい。普通は、街などで聞き込みをして。伝承などから場所を割り出す。
酷い場合は、それに何年もかかることがあり。
街で生活するために、用心棒やら護衛やらで日銭を稼がなければならない事も多いのである。
アンペルが最初の頃は門の大まかな位置を知っていたが。
それは王宮錬金術師として、豊富な知識に自由に触れられた時代の名残であるらしい。
今では門を守る聖堂などで直接情報を集めたり。
伝承などを漁ったりしなければならず。
非常に時間が掛かる。
こうしている内に、奴らによる侵攻があるかも知れないし。
最悪の場合には、「大侵攻」になる。
そうなったら終わりだ。
自分に出来る事には限界があるとはいえ。それでも、このモタモタした調査と封印の繰り返しは、リラにも思うところがあった。
作業が全て終わって、聖堂を離れる。
街の方が燃えていた。
「いいのか」
「放っておけ。 子供を奴隷として売り飛ばしているような領主と、その状況に甘んじている連中だ。 ああやって破滅を経験すれば良いのさ」
「そうか」
あの盗賊達が、恨み重なる領主を殺す事が出来たかは知らない。
興味も無い。
今はただ。もっと大きな事のために。順番に、やれることをやるしかないのだった。
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