暗黒錬金術師伝説9 暗黒!ライザのアトリエ 作:dwwyakata@2024
アガーテは、険しい表情をいつも問題にされる女性剣士だ。
クーケン島での自衛組織、「護り手」の長を務めており。剣腕については残念ながら並ぶ者がいない。
ザムエルが現役時代だったらかなり良い勝負だっただろうが。
現在の酒に堕落しきったザムエルなんて、アガーテの敵ではなかった。
十代半ばで、王都行きを経験し。
その腐敗も見て来た。
王都の人口は二十万程度。その周辺の街道も、必ずしも人が通れるわけではない。要するに、王都を守るので精一杯程度の力しか、王都の人間にはない。早い話が、王都はそのままロテスヴァッサ王国なのだ。
それなのに派閥は無数に絡み、貴族は威張り散らかしている。貧富の格差もあり、騎士も訳が分からない作法がなんだのでがんじがらめ。
それでいながら、戦力がほしいと騎士のなり手を応募している。
矛盾も甚だしい。
まだ年若いアガーテは、試験を受けて受かったが。
早速貴族共の暗闘や、騎士の間での値踏みしている視線を見て、何もかも嫌になって。すぐにクーケン島にもどった。
王都はくだらない場所だ。
そう言って、それだけで済ませた。
ただ、それでも王都のことを聞きたがる更に若年の世代は多くて。それに対して、アガーテは現実を毎度教えなければならなかったが。
それから10年。
二十四になったアガーテは、この年で島の重鎮だ。七つ下のライザが率いる悪童集団にはいつも困らされてきたし。
クーケン島で敵無しとなり、早々に護り手のリーダーに赴任してからは。
年齢以上に、隙を見せないように振る舞わないといけなくなっている。
お洒落やら着飾る事やらにまるで興味が湧かない性格もあって、恐らくはそもそもアガーテ自身が生粋の戦士だったのだろう。
それは、アガーテの立場的には幸運だったかも知れない。
昼の見回りを終えて、軽く護り手達と話をする。
街道には、魔物がまた出て来ている。片付けにいかなければならないだろう。
ただし、当然狩っても狩ってもきりが無い。
それにだ。
乾期がもうすぐ来る。
乾期になると、川の周辺に魔物が集中するから、街道の一部は極めて危険になる。今のうちに、怪我人を出すわけにはいかないのだ。
なお、結婚してはどうかという話も来るようになった。
アガーテの剣腕を引き継いだ子供がほしいのだろう。島としても。
だが、今はそれどころではない。
ただ、このままいくと婚期を逃す可能性もある。
アガーテは男には殆ど興味が無かったが。
それでも、子供の世話をしている時は表情が緩むこともある。それは自覚していたし。しかしながら、自分の後継になってくれそうなライザが未だにその気が無さそうな事もあって。
後継者には、苦労しそうだとも考えていた。
ミーティングを終えて、護り手を解散する。そうすると、くだんのライザが詰め所に来る。
旧市街においている詰め所は、ライザは昔は嫌がったものだ。
それはそうだろう。
説教一晩コースは、ライザの母上であるミオと一緒に、ここで行ったのだから。
だいたいレントとタオもセットで。
もっと古くは、もう一人セットでやっていたっけ。
あんな事件がなければ、四人とももっと仲良くやれていただろうに。そう思うと、色々とアガーテも思うところがある。
いずれにしても、ライザが詰め所に来るのは珍しい。
入って貰うと。ライザは一礼して。そして、剣を差し出してきた。
「アガーテ姉さん。 これ、あたしが作ってきました」
「? どういうことだ」
「今、あたし錬金術ってものを勉強しています。 あたしのこの杖も、同じように作ったんですよ」
一目で分かる。
相当な業物の杖を手にしている。
アガーテも、この島で手に入る最高の武具を優先的に回して貰っているのだが。それでは到底及ばない品だ。
他の護り手が怪訝そうにしている中。アガーテは剣をとり、鞘から抜いてみた。
おもわず、むっと声が漏れる。
これは、良い剣だ。
勿論重心とかの問題もある。外に出て、数回振るってみる。陽光を反射して、刃が輝く。それ以上に、この軽さでこの鋭さ。
まさに業物である。
ライザは重心を用意していたので、すぐに調整して貰う。調整は一度で済む。
うむと、アガーテは頷いていた。
最近は険しい顔ばかり作っていたが。久々に少しだけ笑みが零れたかも知れない。
「良い剣だ。 本当に貰って良いのだな」
「はい。 錬金術で作った剣です。 もっと腕が上がったら、また持ってきますね」
「そうか……」
その錬金術と言うのは良く分からないが。
この剣が良いと言うのは事実だ。
不安そうにしている他の護り手を、叱咤して仕事に行かせる。
ライザもそうすると首をすくめるのは、反射行動か。
まあ、可愛いものだ。
まだライザは子供だ。
結婚して子供を産むと大人になるとか言う話を聞くが、そんなものは大嘘である。アガーテもたくさん島の人間を見てきているが、祖母になろうが祖父になろうが子供以下の精神の者だってたくさんいる。
この島だけではなく、王都でもそうだ。
子供が出来れば精神的に成長するとか。
性行為を経験すれば精神的に大人になるとか。
そういう妄想は、今の時代でも、何処の場所でも健在。
ライザだって、それは同じだろう。
所帯なんて持たせたって、変わるわけがない。
ただ。ライザは。
錬金術だかなんだか知らないが。それを得て、何か確実に変わり始めている。それを、アガーテは察していた。
「錬金術と言うのは分からないが、それは容易く剣や鎧を作り出せるものなのか?」
「それなりに時間は掛かりますが、この剣くらいだったら一晩で」
「そうか。 いずれ、護り手の装備を頼むかも知れない」
「分かりました。 準備をしておきます」
ぺこりと頭を下げると、詰め所を出て行くライザ。
多分、アガーテに認めて貰う事で、その錬金術とやらの立場をよくしようと目論んでいるのは分かる。
それはそれとして。
この錬金術とやらの産物の剣が優れているのも、また事実だった。
(続)
まだまだ課題だらけですが、少しずつ四人の冒険が始まろうとしています。
アンペルさんとリラさんは、本来の目的があるのですが……それでもこの弟子達が凄い素質を持っていることを見抜いて、協力を惜しみません。
そしてその判断は、間違っていないのでした。