暗黒錬金術師伝説9 暗黒!ライザのアトリエ 作:dwwyakata@2024
最終決戦です。
しかしその強さは、明らかに間違ったものでした。
序、女王猛攻
残像を作りながら、蝕みの女王が仕掛けて来る。
必死に割り込んだレントがブレードの一撃をパリィするが、背中に虫の羽のようなものを作った女王は。高速でそれを振動させながら、滑るように地面を走り。そして、次々に乱打を叩き込んでくる。
ブレードの切れ味は、先まで使っていた鎌と同等、或いはそれ以上か。
レントの剣が、酷い軋みを、一撃ごとにあげる。
「畜生っ!」
レントが呻いた。
恐らくは、敵の攻撃の苛烈さに対する悪態じゃない。腕が伴っていない自分への嘆きだ。
レントはこの一季節でぐっと成長したが、多分誰もが分かっている。
殆ど素人同然から、この面子に混じって戦えるようになったクラウディアや。
頭脳活動が本領のタオとは基本的に違っている。
そもそもとして、レントはガタイが武器。
それは才能にはかえられない武器ではあるのだが。
しかし、こういった相手が敵になってくると、逆に鈍さにつながってしまうものなのである。
リラさんが今度は割り込むと、ブレードを跳ね上げる。
技量の差を見せつけるように。リラさんのクローは、傷一つついていない。根本的な戦闘技術にまだまだ差があるのだ。
錬金術の装備で、とんでもない領域まで力が跳ね上がっているから、それで差が縮まっているようにみえるだけ。
そもそも本来は、リラさんとレントでは、一閃で首が飛ぶくらいの力の差があるのだ。
それはあたしもレントも分かっている。
激しい攻防の中、汗が飛ぶ。
血も。
速すぎて、爆弾を投擲する暇がない。投擲したところで、当てる自信がない。あたしもさっきから、肉弾戦に加わっているが。
抑え込むので精一杯だ。
いや、抑え込めている。それだけで、満足すべきなのか。
針の穴を通す一撃を、アンペルさんが放つ。
得意の空間切断だ。
だが、その一撃は、確かに人型になっている蝕みの女王を貫いたが。ダメージを与えた様子はない。
やっぱり此奴も核を潰さないと駄目か。
だが、それだけでは多分駄目。
砕かないと、恐らく殺しきる事は不可能だろう。
「畜生、タフな奴だ……!」
アンペルさんが呻く。口調が荒くなっている。余裕がなくなっているという事だ。
クラウディアはずっと全力で音魔術を展開。
それによって、全員の動きが良くなっている。
だが、良くなっていてこれだ。
拮抗が何処かで崩れたら、一瞬で負けになるだろう。
ただ、あたしは分かる。
気合いと共に蹴りを叩き込んだ瞬間、女王が明らかにさがる。これは、あたしを警戒している。
ならば、あたしがどんどん前に出るしかない。
それに、タオがさっきから動くのを気にしている。
あの創世の鎚の破壊力を身で味わって、どうしてもそれを警戒せざるをえないのだろう。まあ、それも分かる。
だったら、この二つを主軸に攻める。
敢えて飛び退くと、タオにハンドサインを出す。
頷くと、タオは反時計回りに、乱戦するレントとリラさん、蝕みの女王の背後に回り込もうとする。
あたしは、それに対して、真っ正面から歩いて行く。
のっぺらの顔だが。
それでも、視界はあるのだろう。
蝕みの女王は、タオとあたしを確認したのだろう。一瞬動きを止めると。あたしに向けてブレードを放つ。
何回かやってきた攻撃だ。
あたしはブレードを蹴り上げる。
ゴルドテリオンで強化している靴だからできる事である。そうでなければ、足が真っ二つだっただろう。
蹴り上げたブレードが、回転しながら後方に飛んでいく。
大丈夫、あれならクラウディアにもアンペルさんにも当たらない。
さがりながら、ブレードを再構築する蝕みの女王だが、リラさんが立て続けにクローでの攻撃を叩き込む。
それを装甲で受けきろうとする女王。
だが、やはりまだ雨が降っている。
雲間が見えているとはいえ、である。
それで装甲が、普段より弱まっているのはあるのだろう。ついに、火花を散らしながら、装甲にリラさんのクローが食い込んでいた。
あたしは態勢を低くすると、そのまま突貫する。
それを見て、リラさんを強引にけり跳ばして距離を取る蝕みの女王。続けて、大ぶりに一撃を叩き込んだレントの剣も、ブレードで受けてみせる。
だが、この瞬間を待っていたのである。
アンペルさんが、完璧に狙い澄ました空間切断を叩き込む。今度は頭をそれが直撃していた。
だが、それすらも致命打にはならないか。
しかも、貫通したようには見えなかった。
あたしはそのまま突貫すると、熱槍を連射。それが視界封じだと理解したのだろう。蝕みの女王は、顔に当たる部分を展開し。
風圧を作り出して、熱槍を吹き飛ばす。
だが、その瞬間。
タオが、頭上に躍り出ていた。
「もう一発、叩き込んでやる!」
大慌てで、蝕みの女王が逃れる。なるほど、やっぱりな。
タオが着地した時には、蝕みの女王は大きく飛び退いて、距離を取っていた。タオは普通のハンマーしか持っていない。
そして、これで分かった。
此奴、人間の言葉を理解出来ている。
あたしは、ふっと笑うと。ハンドサインを出しつつ、真逆の指示を言葉で口にする。
どういうつもりだ。
そう困惑するように、蝕みの女王が動くか。
次の瞬間には、気合いの雄叫びとともに、レントが奴に斬りかかっていた。
火花が散る。
激しい剣撃を受け流す蝕みの女王。
腕のブレードの強度は、やはり先の形態で振り回していた鎌以上だ。だが、強度と鋭さが勝っても。
重さがどうしても伴っていない。
ものというのは、重さと速度で破壊力が決まってくる。
切れ味がどれだけ凄まじくても、どうしようもない強度のものとぶつかるととめられてしまう。
これはゴルドテリオンで装備を作って見て良く理解出来た。
更に言えば、恐らくどんな敵でも斬り伏せて来ただろう蝕みの女王の鎌も。ゴルドテリオンの武器ごと、此方を真っ二つとはいけていない。
勿論これは、レントやリラさんの技量もあるのだろうが。
それでも、なんでもスパスパ切り刻むような武器なんて、存在しないのだ。
リラさんによる苛烈なラッシュを受け流し、滑るようにさがる蝕みの女王。背中の翼が小刻みに振動して、その動きを可能にしている。
クラウディアが矢を放つ。
一瞥だけすると、手でその矢を弾く蝕みの女王。
人間やオーレン族の手のように、指がついているが。破損しても気にしないのだろう。
アンペルさんが、また空間切断の魔術を叩き込むが。
しかし、それをすっと避けてみせる。
殆どノータイムで着弾する凶悪な魔術なのに。
動きを見切って、それで避けていると見て良いだろう。
だが、その時に。
どうしても、動き得ない体勢を、蝕みの女王は取っていた。
あたしが投擲した爆弾が、真上にさしかかった。
それに反応しようとした蝕みの女王よりも、あたしの起爆が早い。
文字通り天雷が、蝕みの女王を貫く。
竿立ちになった蝕みの女王。
やっぱり、錬金術の爆弾は通用する。
全身から煙を上げている。
これは、核も無事だとは思えない。
それでも、大剣で突きかかったレントに。一瞬遅れながらも対応。大剣をはたき落としつつ、体を旋回させて突貫してくるタオをけり跳ばすのは流石だ。
だが、リラさんが、直後に蝕みの女王にフルパワーでの蹴りを叩き込む。
流石にこれには、吹っ飛ばされ。空中で体勢を立て直す蝕みの女王。
口から、何か音が漏れ始める。
これは、詠唱か。
詠唱しつつも、当然動きを止めない。
それに対して、クラウディアが即応。詠唱阻害の音魔術を展開。勿論、完全に防げる訳では無い。
僅かに時間を稼げる程度のものでしかない。
だが、クラウディアの技量は確実に上がっていて、蝕みの女王の詠唱を相当に阻害している。
蝕みの女王が、ブレードをクラウディアに向けて飛ばす。クラウディアも、即座に矢を放ってそれを迎撃。
僅かに急所を逸らしたものの、ブレードはクラウディアの肩を抉っていた。
鮮血が飛び散る。
「クラウディア!」
「大丈夫っ!」
汗を飛ばしながら、音魔術を展開し続けるクラウディア。
蝕みの女王がブレードを殆ど瞬時に再生させるが。
その時、アンペルさんの空間切断が、蝕みの女王の足を抉る。
体勢を崩す蝕みの女王。
その隙を。
レントが、完璧に捕らえていた。
「くらいやがれっ!」
踏み込み。
更には、抉りあげるようにして、大剣が斜め下から轟音と共に蝕みの女王を襲う。流石の蝕みの女王も、これはまずいと判断したのか、詠唱を停止して即座に上空に逃れる。
だが、その時には。
タオのハンマーを足場に。
あたしが飛んでいた。
蝕みの女王が、至近にいつの間にかいるあたしを見て、明らかに引こうとする。
その瞬間。
あたしの前蹴りが。
蝕みの女王に炸裂していた。
始めてこの形態に入った完全なクリーンヒットだ。
上空から床に蝕みの女王をたたきつけ、爆発が巻き起こる。
リラさんが、詠唱を開始。
全身に、力がみなぎっていくのが分かる。
あたし達の世界にいるエレメンタルと、オーリムで言う精霊は違うとリラさんは言っていた。
今、リラさんが全身に集めているのは。
オーリムでいう精霊だ。
爆発を吹き飛ばし、凄まじい軋み音を立てながら立ち上がる蝕みの女王。間髪入れず。タオとレントが右左から躍りかかる。
ブレードでレントの一撃を受け止めると、タオにはカウンターを入れようとする蝕みの女王だが。
あたしが地面に着地して。
水平にすっ飛んでくるのを見て、距離を取ろうとし。
そこで、クラウディアが。
ハンドサインで出していた狙い澄ました一撃を放っていた。
蝕みの女王の背中に、直撃。
一番面倒な、機動力を更に補助している翼を粉砕する。
女王だろうが何だろうが、あんな薄くて繊細そうな身体器官、現状のあたし達の必殺の一撃に耐えられるものか。
足を完全に止める蝕みの女王。
そこに、顔面を狙ったアンペルさんの空間切断魔術が炸裂。
蝕みの女王の顔面を貫くアンペルさんの黒い魔術。それも複数着弾。
だが、それでも蝕みの女王が倒れる様子はない。やはり、核はそこにはないということなのだろう。
だったら。
全身くまなく打ち砕いてやるだけのことだ。
跳躍して上に逃れる蝕みの女王。
そして、間髪入れずに、周囲に鎌鼬を巻き起こしていた。
全員が吹っ飛ばされる。
不完全とはいえ、さっきの詠唱魔術を無理矢理に発動した、というところだろう。
あたしも吹っ飛ばされる。
全身が切り裂かれた。
戦闘用に作った服を着ていなければ、多分今のでバラバラだったはずだ。
大量の血が流れていくのを感じる。
背中から、地面に叩き付けられるが。
無理矢理意識を引き戻すと、あたしは雄叫びと共に跳ね起きる。そして、再び蝕みの女王に迫る。
あたしを見て、更に詠唱を開始しようとした蝕みの女王だが。
だが、それは悪手だった。
至近に迫っていたリラさんが、血だらけになりながらも。詠唱を終えていたのである。
流石にまずいと判断したのだろうか。
蝕みの女王がさがろうとして。
リラさんがさせなかった。
「天地風海全ての精霊よ。 私に一と終の力を。 切り裂け……!」
普段から竜巻のように戦うリラさんだが。
文字通り、敵を。蝕みの女王を巻き込みながら、あらゆる角度から斬撃と蹴り技を叩き込み。
激しい衝撃で浮き上がった蝕みの女王を。
上空から、踵落としで叩き落とす。
装甲のかなりの部分を剥落させた蝕みの女王が、地面に叩き付けられる。
周囲確認。
全員、生きてる。
だけれども、みんなそろそろ限界だ。
蝕みの女王が立ち上がると、今までとは決定的に違う凄まじい音を立てる。この感触、怒り。
がらんどうの。ただ辺りを破壊するだけの空虚な存在なのに。
やはり、怒りが感じ取れる。
少し前に戦った将軍と同じだ。完全にこいつ、感情らしいものを持っている。だが、だから何だ。
絶対に破壊し尽くしてやる。
詠唱無しで魔術を発動する蝕みの女王。
巨大な火の玉が、周囲に連続して炸裂する。これは、もうみんな逃れていることを祈るしかない。
あたしも、必死に回避する。
至近。
蝕みの女王が。
ぼろぼろの装甲のまま、あたしに突貫してくる。
ブレードが首を狩りに来るが。
間一髪、一線をかわす。
首から鮮血が飛ぶが。大丈夫、傷は動脈には届いていない。
あたしはそのままのけぞりつつ。
勢いを生かして、地面に手を突き。
相手の顎を蹴り上げるようにして、蹴りを叩き込んでいた。
わずかに浮く蝕みの女王。
更に次の魔術を展開するつもりだ。
上空に、とんでもない魔力の塊が出来ている。あれは、フィルフサ将軍が使っていた魔力砲。
多分。この辺り一帯を、まとめて全部消し飛ばすつもりだ。こいつくらいの実力になると、体内に内蔵しなくとも。
そのまんま、魔術として撃ち出せるということなのだろう。
雄叫びとともに、レントが斬り込む。
あたしの蹴りを食らった直後と言う事もあるのだろう。流石に捌ききれず、蝕みの女王がもろに大剣の刃をくらう。
リラさんの奥義で半壊していたブレードがへし折れ、肩にレントの大剣が食い込みながらも、蝕みの女王はなおも蹴りを放ってレントを吹っ飛ばす。
だが、体当たり同然に反対側から突っ込んできたタオが、蝕みの女王の脇腹に完全なクリーンヒットを入れる。
これには流石に蝕みの女王も、防ぎきれず体を浮かせる。
「タオ、避けてっ!」
「っ!」
タオが必死にわたわたと逃げる。
タオの背中を撃とうとして、気付いたのだろう。
蝕みの女王が作っている魔力塊の更に上。
傷だらけで。血だらけで。綺麗な肌も髪もぼろぼろで。あたしが作った服もずたずたになっていて。
それでもなお。
美しい白い魔力の光を放ち、背中から翼のようにに魔力を放出しながら。
クラウディアが、詠唱をしていることに。
その詠唱が、とんでもなく巨大な矢を作っている事に。
「貴方に対する、最後の歌。 アンコールは受けつけないよ……!」
「シャアアアッ!」
見苦しいわめき声を上げる蝕みの女王。
あんたが。
あの命まで張って。自分の体も全て擲って時間を作った将軍に、少しでも報いようとしていれば。
偉そうにふんぞり返って、自分の力を過信していなければ。
あたしたちは、今頃全員死体になっていただろうにな。
そう、あたしは心中で呟く。
此奴は、傲慢故に身を滅ぼす。
今までは無敗だったのかも知れない。それで、人間のように傲慢になったのかも知れない。
古代クリント王国の錬金術師のように、驕り高ぶったのかもしれない。
だが、それが命取りだ。
たくさんの人達を奴隷として使い潰して来た一族は、みんな滅んだ。
それが当然の結末だった。
そして今度滅びるのはあんた。
生物として、環境を破壊し尽くしたからでも。無意味な殺戮をしたからでもない。
部下達の全ての努力を嘲笑い。
自分だけが強いと思ったから。
自業自得で、あんたは滅びるんだ。
あたしは、全身から血が流れるのもかまわず、詠唱。蝕みの女王は、あたしとクラウディアを見て。
そして、その体が崩れる。
足を、完全にアンペルさんの空間魔術が切り裂いたのだ。
「今だ、やれっ! ライザ、クラウディアっ!」
アンペルさんが叫ぶ。
クラウディアが、まずは仕掛けていた。